「……ああ、あのさあ。
これは、



俺は死という貴重な経験をしてそこから何かを学びたい。皆はどうにも死にたくないらしい。
それなら、皆から命令してくれれば俺は喜んで死を受け入れよう。

なんてったって俺は皆に仕え、尽くす使用人だからね！命令は絶対だ。主人に死ねと言われれば、喜んでる死んでみせるとも！」

使用人は、さも当然だとばかりに呟いた。
けれど、今議論に参加して熱く意見を交わす者たちがそんな愚かな理由で愚かな選択肢を取るわけはないと知っている。そんな者達であったなら、初めから意見を戦わせていないだろう。

それでも、使用人は提示してみせる。それも心からの善意で。
自分は使われる人間だから。

「……他人の死から学べるものって何？
胃の中のものをひっくり返して、意識を飛ばして、散々辛い思いをして。
そこから君たちは何を学んだ？」

笑顔は浮かべている。いつものように。
ただその声色だけは、無機質さが剥き出しになっている。

「生き抜く為の力を学んだかい？命の尊さ、よく分かった？本当に？
人を疑い、人を殺し、人の言う罪を重ねるようなことをして。
死にたくないと思う人間を踏み台にして、そこからどうやって『生きていたい』と思えるようになるんだい？」

淀みなく言葉は続く。

「確かに君を友だと言ったさ、テレベルム殿。でもさあ、思考することを止めずに考えてもなお疑問が残るんだよ。
それなら死を望む人間が死んだ方がまだ有意義じゃないか？ゲームは成り立たなくなるだろうがね。だから言っただろう、この提案をする時に初めに『全員がゲームを放棄するなら』って」

──それが君の願いだと言うのなら、検討しよう。

いつも通りの声で、いつも通りの笑顔で、いつも通りの様子でそう答えるつもりだった。
口に出しかけて、やめて、代わりの言葉を探して。それでも見つからず。
無言のまま磁気嵐を見送ってから使用人もまた踵を返してその場を後にした。