【人】 封じ手 鬼一 百継■エピソードA 令和にて 千と八年の後。 元号はついに、令和へと変わった。 一葉はスマホを持ち、LINE連絡で徽子に「スカイツリーに何時」と連絡をいれる……そんな時代が来た。 かつてあやかしの災難に幾度となく見舞われたこの東の田舎の都が、「東京」と呼ばれるようになるとは、まったく想像もしていなかった。 一葉は、細身のパンツとゆったりした麻のニットで待ち合わせ場所にいた。 「お兄さん、ひとりですか?」と、若い女性に声をけられる。 長身で、大きな黒目に肌もなめらかな、しかしどこか浮世離れした一葉は、よく目立った。 一葉が声をかけてきた女性に戸惑いながら首を振ると、去り際に、「何よ、わかめ頭」と憎まれ口をたたかれる。 10世紀経っても、わかめ。 そう考えていたら、物陰からこちらを見て、くすくす笑っている徽子が目に入った。 千年たってもその、少女らしくもどこかいたずらであやうげな雰囲気は変わらない。 白いカットソーと若葉色の膝丈スカートが、初夏らしく、髪色にも合っている。 スカイツリーのエレベーターに乗る。 ヒールを履く徽子のために、一葉は、必ず手で道をあける。 徽子は気づいているが、何も言わない。 一葉も、何も言わない。 展望台からふたり、愛しい都を見下ろす。 色のある話題にはならない。 ここに百鬼夜行を起こすのか否か。いつもそんな話題だ。 そして、いつもあやふやに終わる。 (18) TSO 2021/04/26(Mon) 23:29:11 |