【人】 異国の道化師 マッド・リヒター[……確かに、その通りだ。 だが、魔法は"あの日以来使えなくなってしまっていた。"彼の瞳から宝石が逃げ出した、あの日を境に。開いていた本をパタリと閉じる。その上に乗っている左手、薬指には、ガーネットの宝石が輝く指輪が付いていた。同じ物が妻の指にも付いている。] そうか?今だって、君のお陰で相当楽さ。 [不思議と、魔法が使えなくなっても困った事は無かった。もっと、こう、『絶望感』とか『喪失感』とか、『悲壮感』があるものだと、勝手に思っていた。 しかし、今あるのは何にも勝る『幸福感』。ジゼル、そして娘に毎日が支えられている『充足感』。加えて、夫として、父親として、家族を守る『使命感』。それは、かつて騎士団の高官であった時にも味わった事の無い"存在理由"であった。] [今、マシューは仕事に疲弊しながらも"世界で一番の幸せ者"の気分を味わっている感覚がある。家族で送る平和な日常……これは奇跡で有り、永遠に解けない『最も偉大な魔法』なのだ。これ以外に、何の『魔法』を望む必要がある?] [窓から外を見上げると、10年前、20年前と全く変わらない満天の星空が夜を賑わせていた。タナバタ……今日もきっと、誰かが"星の飾り"を見つけ出し、彼と同じ『幸せ者』になっている事だろう。そんな何処かの誰かに、マシューは心からのエールを送った。*] 〜 マッド・リヒター &ジゼル after story END 〜 (46) 2020/05/19(Tue) 22:54:03 |