人狼物語 三日月国

55 (R18)竜宮城


【人】 ははうさぎ 理恵

[お腹の上に赤ん坊が乗せられた。
 生まれたばかりの子供は、兎にしても亀にしても大きすぎた。そのくせ人間にしては小さかった。
 自分の力で動いていて、柔らかく、ぐにゃっとしていた。
 最初は青かったが、少しずつ赤みがさしていった。
 自分とフウタから血と肉を受け継ぎ、離れていった、一つの命だ。]


 本当に、腹の中に子供がいたんじゃな……


[少しずつ大きく育っていく腹を持ちながら、元気に暴れまわる胎動を感じながら、一方でどこか冗談じゃないかと思う自分もいた。

 赤ん坊は、芋虫のような腕と足を動かしていた。
 虫眼鏡がないと見えないくらいの小さな爪が、指の一本一本の先に、確実についていた。
 こんな細かいところまで気を抜かずに作られている。
 何か、自分たちの認識できない大いなる存在を、我が子の小さな爪の中に見た。

 腕の中の赤ん坊が、理恵の胸に頭をくっつけた。
 倒れ込んだと言った方がいいかもしれない。
 この頼りない命は、まだ自分の力で頭を支えることもできなかった。
 心臓の音を聞いているのか、やがて泣き止んだ。

 母乳をあげるために乳首を吸わせた。
 赤ん坊の小さな口が、必死に吸い付いてきた。
 何一つこの世界のことが分からなくても、生きようとしているのだ。
 愛おしさがこみあげてきた。]
(54) 2021/01/10(Sun) 9:20:22