【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>109 ゆっくりとカーブを曲がり、建物の間から遠くに海が見える。夕暮れの色に照らされた美しい海。 いつもだったらそれを楽しむ余裕があったかもしれないし、 その向こうにあるのだろう本土の岸辺を想像することもあるのかもしれない。 街の景色が遠ざかっていき、見えるものの色数ばかりが少なくなっていく。 そう遠くもないうちに、この車は港へと着くのだろう。 「俺の部下に引き継ぎなんざ必要ないさ。普段からなんでも教えてやっている。 お前と違って上に立つものも一人きりてなわけじゃない……うまくやるだろうさ」 果たして当人らにとって適切な引き継ぎがあったかなんて想像はしない。 少なくとも今から間に合わせることなんてのはお互いに出来やしないのだから、 彼らの身になって考えるなんてことに意味があるわけではない。 痛んでいない右腕を動かす。ポケットから抜き取られたのは一本の葉巻だ。 湿気の管理もされていなければ剥き身のままほっとかれてラッパーに皺が寄っている。 あの日、餞別として貴方から強奪したものだ。 それが見えるように片手で掲げてから口に咥える。 「……火貸してくれ。シガーライターくらいあるだろ、この車」 #BlackAndWhiteMovie (110) 2023/10/01(Sun) 1:29:23 |