【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>111 「っ、はははは。 物知らずが店一つ任されるくらいだ、それくらい教えられてりゃ問題ないだろうよ」 空笑いが返る。くるくると葉巻を回してポケットへとしまいこんだ。 張り合って上げる大げさな声も、突き放すような物言いも、やけに満足そうに耳を傾ける。 背中の向こう、振り返らなければわからない街の様子などわからない。 残された彼らがどうしているかなど知る術もなく、知らせる者もいない。 それでよかった。 スピードを上げる車とは裏腹に、悠揚と構えて眼の前を見ていた。 話す相手に目を向けるのでもなく、ただ紫色を帯びていくオレンジを見ていた。 たかだかの干渉に集約してしまうには、男のほうは、今にすっかり満足していた。 車が停まれば扉を開けて助手席から外へ逃れ出る。 景色を見に来た、だなんて。そんなことは欠片も思っちゃいない。 それでも求めるものを提示されるまでは、開け放った扉に手を掛けて、 沈みゆく夕日が海を照らしているのばかりを見ていた。 体重を他に預けて構える、その片目は失われていた。 全身打撲の状態であちこちに殴打の痕があり、片足は半ば引きずっていた。 外套の内側からは血が流れ出す。左肩は粉砕され、脇腹はじんわりと血を吹いていた。 一番顕著であるのは右胸の傷で、すっかり黒くなった血の跡を染めるように新たな血が流れる。 今は空にされた助手席のシートが、凄惨さを物語っていた。 #BlackAndWhiteMovie (112) 2023/10/01(Sun) 2:16:30 |