人狼物語 三日月国

69 【R18RP】乾いた風の向こうへ


【人】 第11皇子 ハールーン


[アンタルの静止が聞こえたような気がしたが、お構いなしに咀嚼して飲み込んだ。差し出された中途半端な形のそれを。
こんなところでまさか自分を殺したりはしないだろうと読んだが、何かを冷静に考える余裕なんてない。]


 「──何を考えてる?」


[ゆるく笑ってこちらに問う声に気付いたときには、距離はゼロになる。イスハークの左腕が大蛇のように自分の半身に絡む。頭を支えられて動けない。

アンタルの静止が強く入る。それでも腕は外れない。外すわけないと思ってしまう。]


 「ははは、可笑しいな。兄弟の抱擁に何を
  そんなに動揺することがあるんだい?」


[朗らかに、低く良く通る声は、よく伸びて場を征す。
思えば初めて触れられている。幼い頃からこの兄だけは恐怖で、ずうっと逃げ回っていた記憶しかない。]


  ぁ、……


[あの頃と変わらない空気に、忘れていた記憶が引きずり出される。身体は強張って冷たくなった指先が震える。ふわりと漂う甘く独特な香りが目眩を起こしそうで、ぎゅっと目を瞑って息を止めた。

どれだけどんな禍根があっても『兄弟』という言葉がそれを片付けてしまう。
そこには『従者』など、割って入れるものではなく。]

                
.
(128) 2021/04/22(Thu) 23:24:15