【秘】 宵闇 → ただいま 御山洗>>-36 「そうか」 どうしてか遠ざけきれなかった男は、眉を下げて笑う。 見上げた先の涙を見れば、どうしても、あの時の表情が浮かぶ。 苦痛を堪えるように目を伏せる姿──同情だろうか。 過ぎ去ってしまった日のことはもうどうにもできないけれど。 「ごめんな」 お前はひどいやつだ、と言われたのを思い出して自嘲する。 彼の気持ちを知りたかった、手を取って振り回すのではなく 隣で歩いてみたかったのだ。もう、あの頃の自分のままではない。 「お前がそんな想いずっと抱えてたなんて知らなかった」 昔。10年もだろうか。忘れられてもおかしくない長い月。 男はそんなに想われるような価値のある人間だっただろうか。 「俺、いつもお前を振り回してばっかだな。大人になってもさ」 こうして手を引いて歩いていても、伝わらないことだらけだ。 男の手は体温が低くて、すこしひやりとしている。 (-37) 2021/08/20(Fri) 16:23:15 |