![]() | 【秘】 朧げな遮光 守屋陽菜 → 風雪 世良健人他に人が居なかったから、女は静かにしていて。 道具をとりに来た拍子に、あなたを見つけておぉと目を開く。 薬を薦められたことも、それを口にしたのも知っていた。 ただそれだけの事実。 どうしての理由も、どうしたの結果も知らない。 ……きっとそういうものだろう。 トントンと、音がしてもう一度。 振り返れば声がかけられて。それなのに煮え切らない態度。 どうしたのかと、唇を歪ませて。 「……うん」 余った間を埋めるように、小さく相槌を打つ。 静寂の中、これくらいでも届くだろう。 柔らかく笑って、次の言葉を待ち。 「わからないよ、…………だけど こんな私を、守屋陽菜を見つけてくれる人はいたみたいだ ……ひとまずはそれでいいかな、なんてね?」 どうやら、彼らには何者かではあるらしいと。 だったら無理に、なりたい自分を取り繕わなくてもいい。 そんな気付きを得たのだった。 (-55) 2021/11/07(Sun) 8:03:31 |