【秘】 ユス → 共犯者 ツルギ 殴打音。殴打音。殴打音。 うららかな春の陽気。昼下がりの穏やかな時間帯。 日常が、一回ずつ丁寧に殴られ壊され崩れていく。 弟が呼吸すら止めるのに時間はたいしてあまりかからなかった。殴られて意識を手放す瞬間か細い声で「兄ちゃ、」と自分を呼びながら助けを求めていたのを熱も何もない瞳で見下ろしていた。 弟だったものがじわじわと床を赤く濡らしていく。日常がじわじわと非日常に侵されていく。 「ああ」 ……それでも、弟に関して何か思うことはなかった。 「何度も振り下ろすのは意外にも疲れそうだとは思ったが」 バットを受け取る。 持ち手から伝わる貴方の温もり。歪んだ先に残された弟の痕跡。 人が人らしく生きた、生きていた名残に一度触れて、 「何も問題ない」 それきり、弟の名残に興味を持つことはなかった。 ▼ (-118) もちぱい 2022/03/12(Sat) 8:33:16 |
彼女の兄だった ユスは、メモを貼った。 (a28) もちぱい 2022/03/12(Sat) 8:35:10 |
【秘】 共犯者 ユス → 共犯者 ツルギ 女の頭へ振り下ろす。 女の頭へ振り下ろす。 女の頭へ振り下ろす。 誰にだってできる、簡単な単調作業。お手本の通りに、妹を壊していく。 自分や弟と出かけられると、浮かれて無防備に背を向けていたところを襲った。最後に聞いた妹の声は甲高い悲鳴だった。事態を把握できないまま苦痛に満ちた声がこぼれ落ちた。 それも直ぐに金属が肉と骨を叩く音で塗り潰されていく。 人を殺すのは初めてだったから、何度やればいいのか分からなくて。 ぴくりとも動かなくなってからも、ツルギが念入りに叩いた回数よりも多く金属バットを妹だったものに振り下ろした。 「……」 どれくらい殴っただろうか。 気付けば手も額も汗にまみれていた。慣れない作業でやたらと息が乱れてしまって、呼吸を整えようと何度も肩が上下に揺れた。 妹の様子を確認する。息をしていないことを確認してから、更に歪んでしまったバットを握ったまま共犯者へ向き直る。 「人ひとりを殺すのも楽ではないな」 妹を殺して出た感想はそれだけだった。 妹に関する感想は、特に何も無かった。 (-119) もちぱい 2022/03/12(Sat) 8:37:05 |
【秘】 規律 ユス → 奇形 メイサイ>>-77 >>-78 「そうか。それは残念だ」 見れたらいいなと思うくらいなので、残念とは口にするけどそこまで残念がってはいない。 「ここで気楽にいられる奴は、恐らく世間というマジョリティや現実が齎す事実やしがらみに押し潰されてしまいそうな者たちだろうな。俺という個人の経験則からしか言えないが。 ここは咎める人も法もない。己の命を顧みないことが出来るなら、絶好の逃避場所だ」 「ナツメは……あいつは合議、意見するのに相当苦労していたように見えるな。リスでもまだ動けるだろう。リスのほうがマシかもしれない」 あまりにもあんまりな言い草。だからこそ、薬局の騒ぎなどで動くことを選んだ事実は彼女が一生懸命頑張った証であると青年は素直に評価している。 「……はあ。内情を晒すのに見学も参加者も関係ない気がするがな」 そう呟いて耳を傾ける。 ▼ (-123) もちぱい 2022/03/12(Sat) 10:21:48 |
【秘】 規律 ユス → 奇形 メイサイ>>-77 >>-78 「……」 貴方の言葉で全て繋がった。貴方の状況を察し、その上で貴方が取った選択を振り返る。 「……。どういたしまして、後輩。 俺の話を参考にするもしないもお前の自由だ。不要なら捨てるといい」 「ただ」 囁いてきた貴方に手を伸ばす。 触れようとしたのは左胸。けれどその指が貴方の体に当たることなどなく、そのまますり抜ける。 ──貴方の体の中まで。 さて、心臓はこの辺りだろうか。 「お前がどうしようとこれからも何処かで誰かが提供者として選ばれ続ける。明確にどこの臓器が誰に移植されるか決まっていなかったとしても。 俺たちがこれからも過ごす毎日は、たまたま選ばれてしまった誰かの血肉と臓器で舗装されている。 そういう規律が作られてしまったから」 「俺たち候補者は僅かに残された選択の余地で死ぬかもしれない人間を選ぶことができるが、最終的に誰を殺すか決めるのはこの国だ。 あらゆるものを奪っていくのはこの社会だ。 人が人であるかぎり、俺たちは社会に管理され続ける」 ──だから、お前がそこまで気負う必要はないと思うんだがな。 最後のは自分の意見だ。でも、それは言わなかった。 ▼ (-124) もちぱい 2022/03/12(Sat) 10:23:13 |
【秘】 規律 ユス → 奇形 メイサイ>>-77 >>-78 「……話が長くなってしまったな」 ぱ、と後輩の中から手を引き抜いた。 「それじゃあ俺はこの辺りで。お疲れ様」 そう言って踵を返す。 「メイサイ」 「賭けに勝ったお前にも、何か配当があるといいな」 心が欠けていたとしても。 似た境遇の後輩に何か思うところは、この青年にもあったのだ。 (-125) もちぱい 2022/03/12(Sat) 10:23:58 |
【秘】 規律 ユス → 普通 ナツメ>>-92 少女は好きなものを好きに飲むだろうと思って自分の分しか出さなかったのだが、まさか分けてと言われると思わなかった。 でも断る理由が無かったので飲む前にお裾分けする。だばだばだば。コップの9分目まで入れた。 「……言われてみると色々あったな」 つらつらと並べられたものを思い出して呑気にそう呟いた。 「俺もカミクズさんに投票したし、他の者もそうした。予備提供者になった原因はお前だけではないのにそれでも後悔するのか」 後悔する理由が分からなかった。 「怖い、か。この合議の期間中そう思ったことはなかったな。嫌悪だとか嫉妬だとか、よくない感情はいくつか出てきたことはあっても恐怖は無かった。大怪我をして死ぬ間際になれば、きっと本能的に死にたくないと怖がるかもしれないが」 どんぐりクッキーをさくさくつまみながら、やっぱり呑気そうに答えた。 (-126) もちぱい 2022/03/12(Sat) 10:51:13 |
ユスは、途中、後輩の返答を聞いて目を一瞬丸くしたことだろう。 (a29) もちぱい 2022/03/12(Sat) 11:46:58 |
ユスは、抵抗も、反抗期も、切り捨てて楽な道を選んでいたから。 (a30) もちぱい 2022/03/12(Sat) 11:47:23 |
ユスは、だから、目を丸くしたあとほんの少しだけ瞳を細めていた。 (a31) もちぱい 2022/03/12(Sat) 11:48:12 |
ユスは、笑い声を聞きながら立ち去った。自らの意思で「俺のようになってほしくない」とはっきり思いながら。 (a32) もちぱい 2022/03/12(Sat) 11:54:16 |
【秘】 規律 ユス → の名残 カミクズ『そうですね。おかしな話だ』 自分の知る限りでは、脳や心臓が動かなくなれば人なんてそこで物語の幕が下りるものだから。その先の蛇足なんて誰にも紡げないものであると思っていたから。 『でも、それでもいいと思います』 『カミクズさんが後悔しないのなら』 『ここにはおかしいからやめろなんて、意思を取り上げ押しつぶしてくるような法も人もありませんから』 死者にとっての都合のいい話があってもいいじゃないか。どうせ全てが水泡へ変わっていく夢なのだとしたら。 誰かだって言っていたでしょう? 『W最後に楽しかったなって思って死ねるなら、 それは幸せな事ですからW』 『消えてなくなり本当に死を迎えるまで、それを追い求めてもいいんじゃないでしょうか』 ▼ (-142) もちぱい 2022/03/12(Sat) 19:25:41 |