人狼物語 三日月国


167 【R18G】海辺のフチラータ【身内】

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【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ

「あんたはよくたって、」

見上げた瞳に翳りを見たのは、逆光のせいだろうか。
……きっと、違うだろう。
翠の目ヴェルデはあなたを見ている。
学はなくとも、そう鈍くもないのだ。

「――アイだってタダじゃない」

頬へ口付けが降り落ちるそのとき。
少年もまた、あなたへ囁いた。
愛してる、などと。そんなことを言うのはあなたぐらいのものだ。
それは本当であるならあんまりにも過ぎたことだし、そんな価値はこれにはない。
だからすこし、眉を下げた。
促されて、「ん」と短く応える。
受け取った焼きたての串焼きへふうと息を吹き、冷ましながら歩き出す。

「少なくともおれは、何か選べるほど上等じゃない」
(-7) beni 2022/08/20(Sat) 21:07:52

【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 小夜啼鳥 ビアンカ

「そ」

短く返す。
こんなガキのたった一言に変えられるものなどないとわかっている。
それでもあなたが笑ってくれるなら、言わないよりはよかったかもしれないと思うのだ。
例えば、何の意味もないとしても。
べつに、そうしたっていいだろう。
かつての道理の通らぬ行動にこそ、意味のない行動にこそ。
埋められた欠落が、確かにあるのだから。

「……まあ、何だかんだそろそろ二年ぐらい経つしな」

これからもまだ、大きくなってゆくはずだった。
(-25) beni 2022/08/20(Sat) 21:27:12
ヴェルデは、それでも、幸せだった。
(c5) beni 2022/08/20(Sat) 21:27:25

【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 墓場鳥 ビアンカ

二年、と。
やけにあなたが繰り返すから、少年は首を傾ぎ、あなたへ視線を向けた。
その整った相貌が歪んで、かたちのよい唇から乾いた声が零れ落ちる。
そんな様子を見て、聞いていれば、あまりいい話ではないのだろうと想像もつく。

「……あんた案外オヒトヨシってやつなの」
「それとも、あんたもおれみたいに拾われた?」

前、というのがどれほど以前なのかは窺い知れない。
ならば、あなたも若いのだし、子供の頃の話だろうかと考える。
続く言葉のわりに強く握られた手を、少年もすこし、握り返していた。

「金はそろそろちゃんと返せたらって思ってるよ」
「ま、でも、旅行いかされたらまた嵩むのか――」
「……そんな急ぎの話?」

きょとんと瞳を瞬く。
(-170) beni 2022/08/21(Sun) 20:40:34

【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ

うそつき。
子供だと思って、すぐにはぐらかす。
少年はウインナーを齧り、咀嚼し、飲み下す。

「そういう話じゃないって、わかってるだろ」
「金は使えばなくなるし、気持ちだって他人に向けりゃ目減りする」
「余計なもんまで拾わなくていいって言ってんだ」

なんて、そんなことをいくら言ったって。

「それでも結局、あんたはおれみたいなのも構うんだろうけどな」

歩幅が違うように、住む世界だって違うのだ。
それなのにあなたは少年を置いていくことはないし。
無視することもないのだろう。

「素敵なものに囲まれるって言うならさ、」
「おれは結構、もう十分だと思ってるよ」
「何でもかんでも施されなくったって、あんたと話ぐらいはできるし」
「選り好みできるような立場じゃないけど、」
「選ぶのはあんまり得意じゃないけど、」

背が低い分、ずっと短い脚で。
歩幅を広げて、大きく一歩。

「今こうやってあんたと歩いてるのは、ちゃんと、おれが選んだことだ」
(-173) beni 2022/08/21(Sun) 21:09:50
ヴェルデは、だから、やっぱり、幸せだった。
(c22) beni 2022/08/21(Sun) 21:10:06

【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ

少年は懸命に、あなたの隣を遅れないよう歩く。
それでも結局、守られていることも、わかって。
だから。
たとえ共にした時間が短かろうと。
生みの親よりずっと、あなたの方が家族だった。

「……なんだよ、それ」

くすぐったそうに少し、肩眉を上げる。
あなたを見上げて、吐息をひとつ。

「サルヴァトーレ」
「あんたホント、そんなことばっか言ってさ」
「人のことばっか見てて、自分のこともちゃんと見てんのか、……心配なんだよ」

それは、そうと自覚してのことではなかったけれど。
少年は確かに、あなたに『愛』を返そうとしていた。
(-450) beni 2022/08/23(Tue) 20:13:51

【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 墓場鳥 ビアンカ

美しく繕われた澄まし顔。
いつも通りの表情。
ほかに知っているのは、機嫌を損ねた顔。結構口が悪いところ。
少年が知っていることは、多くない。

「……ふぅん」
「ほかにどうしようもない、か」

これまで、あなたの過去を尋ねることはなかったし、あなたも話さなかった。
同様に、あなたが少年の過去を尋ねることはなかったし、少年も話すことはなかった。
けれど、ふと。こぼれるのは。

「どうしようもなくて、それしかできなくて」
「嫌なことでもそうするしかないの、おれを生んだヒトあの女とおんなじだ」

翠の瞳が瞬く。
すこしだけ、遠くを見るように。
どこかへ行くなら早い方がいいと言うなら、多分、クローゼットから出るのが遅かった。
遅かったけれど、だからここに、今があって。
それでもあんたは行かないんだろ、とよぎった言葉は胸に仕舞う。
少年は今この瞬間、すこしだけ、いい男であろうとした。

「……ん」

だからそう、短く頷いて。
あなたの手を離さないまま、家路を辿る。
(-456) beni 2022/08/23(Tue) 20:38:19