【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → 家族愛 サルヴァトーレ「あら、私は優しいほうだと思うけど――……?」 笑顔が揃い、並ぶ。 本心をさらけ出したり、心から触れ合ったりしなくても、笑い合うことはできるし、できた。 「私みたいなのに似ないでほしいんだけどね。 はーあ、変なのひろっちゃったなほんと」 大きくのびをするように、そう語る彼女は、母親のようで。 「ふふ、ふ。でしょう? あなたは私を裏切らないし、裏切れない。 そう思っておくから、よろしくね」 あなたに対して遠慮なく笑いかける姿は、恋人のようで。 どの顔がほんとうだったのか、もうわからない。 (-46) gt 2022/08/20(Sat) 21:56:49 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタきっと、おんなじものを感じていたのだろう。 肩が触れない程度に、けれども隣に座って、二人で酒を片手に持った。 話すことがあっても無くても、そうしていたら寂しくなかった。 似ていたから。 ビアンカはあなたの"好き"を知っていて、だから誰が嫌い、とは言わなかったけれど。 ……それでも甘えるように、たびたび繰り返した。 ――早く辞めたいな。無理だけど。 けれど、「もういい」なんてことは口にはしなかった。 意地っ張りで、負けず嫌いな彼女にとって、そんな足を止めるような言葉は唾棄すべきものですらあるはずだった。 …どういうつもりでその言葉を言ったのかは、きっと本人にも分かっていない。 ただ、彼女はそれまで、それなりに慎重な行動が求められる立場にいながらも四年間、大したトラブルも起こさずに暮らしてきた。 それは、彼女が臆病で、そして生きていたいと思っていたからだ。 死にたくなんてなかったし、 余計なことをする勇気もなかった。 だから、彼女は今日まで生き延びてきた。 ↓[1/3] (-59) gt 2022/08/20(Sat) 22:24:09 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ↓ 「……私も、寂しい」 薄らと微笑うその顔は、まるで死化粧を施したかのように美しかった。 色々と諦めてしまって、夢が叶わないと思い知ったとしても、 生きていくうえで目的は必要だ。 どれだけくだらないものでも、どれだけ本人が嫌だ嫌だと愚痴っていたとしても。 ――拾った子供を育てている、なんて。 ビアンカの口からは、もうずっと愚痴の種でしか出てこなかったような事柄であっても。 それを失ってしまった彼女は、ただ、危うかった。 罅の入ったグラスのように、手に持って持ち上げるだけで砕けて、赤い液体をぶちまけてしまいそうなほどに。 「寂しいよ、ヴィー」 "愛称で呼ぶなんてほど、なれなれしくするつもりはないの"。 そういったはずなのに、そう呼んでくる彼女は今、あなたに甘えている。 ――きっとこれが、最後だから。 彼女はもうじき、自分が命を落とすのだろうと思っている。 そうなるかもしれない行動を、とっているのだ。 ↓[2/3] (-60) gt 2022/08/20(Sat) 22:24:42 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ↓ 「ね、ヴィー。 私が… … 」「 いな くなったらさぁ、一度でいいから」「『Pollo Nero』でさ、お酒を飲んでよ」 「ずっと言いたかったジョークがあるけど、なかなか言えなくて」 グラスを持ったまま、ぺたんと机に肘をつく。 顔色はきっと、ずっと悪い。 まるでそのままつっぷして目をつぶって。そのまま冷たくなっていってしまいそうなほど。 ――けれど彼女は、まだ生きている。卵が焼ける心地よい匂いに、うっとりと目を潤ませて。 「BiancaVignaのロゼがさあ、店においてあるの。 『そんなのより、私を飲みたくない?』って。 目の前で飲んだ客に言いたいんだけど、なかなかうまくいかなくてさ。 こういうの、偶然頼んだ人にやるから面白いのであって──……」 些細で、くだらない夢をあなたに託す。 ただの、じゃれあいだ。そんなことすら、ずっとできなかったのだから。 [3/3] (-61) gt 2022/08/20(Sat) 22:25:29 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → 暗殺屋 レヴィア従業員たちは、アンティークランプをどうするか話し合って―― "姉さんならそうする"と頷いて、ありがたく天井に設置した。 そうして、自動拳銃とヒヤシンスの花を、部屋に飾った。 もう誰も使うことのなくなった、けれど物だけはたくさんある部屋に。 それを知るものなんて、そう何人もいないのだけど。 (-64) gt 2022/08/20(Sat) 22:29:53 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「2年〜?」 すこし、顔をしかめる。 「……もうそんななるか。 そうかあ」 その言葉はどこか、確認するよう。 これまで歩いてきた足跡を、一歩一歩踏んで確かめるようにゆっくり、頷く。 「……2年か」 はは、と。笑い声が、少し乾く。 「私の、前一緒に暮らしてた人は、2年でいなくなっちゃってさあ」 「そんくらいがちょうどいいのかもね」 「あんたもさっさとでていってくれると、肩の荷が下りるわけよ──……」 ぎゅうと握った手は、離すことなんて考えていないほどに強く、しっかりと握っていて。 「……」 「旅行。鞄かなんかあったほうがいいよね」 大真面目な顔で、そう言った。 (-69) gt 2022/08/20(Sat) 22:38:56 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 花で語るは ソニー/* ありがとうございます。 想定だと、ヴェルデが殺られたので下手人探しであちこちに首を突っ込む⇒裏社会で目立ったせいで、他国のマフィアがファミリー同士の抗争を煽る目的で拉致って(いろいろしたあと)殺す⇒娼婦とアルバを侮辱するメッセージを体に書いてゴミ捨て場に遺棄 なのですが、死体の状況や過程ふくめ 自由に描写してくださってかまいません。 死化粧はお任せいたします。 (-96) gt 2022/08/21(Sun) 0:45:45 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 家族愛 サルヴァトーレ「でしょう?」 ふふん。 そんな声が聞こえそうな笑顔とともに、あなたの降参を認める、とばかりに頷く。 くるくると変る立場。組織としての立ち位置、男女としてのまぼろし。 自然なような、不自然なふるまい。 けれどその幻想が、あやふやな真実としてふたりの間でかたちをつくる。 「どうだか。ガキは嫌いなの。 はーあ、どうやって放り出せばいいんだろうか」 4年前。ファミリーの傘下に娼館に身を寄せた彼女は、身を売ることになれた様子だった。 ――いや、それしか知らないかのようだった。 彼女は何かを失って、この街へと追い立てられるように逃げてきたのだ。 その何かを、ゴミ捨て場で拾った少年との日々で取り戻していた。 そんなことは、一言も言わないけれど。……あなたが見る限りは。 「いらない。 そういうのはもうこりごりなの」 横を見上げて、べ、と舌を出して。 「男との約束なんて、誓たってしょうがない。 ──守れるかぎり、守ってくれたら、それでいい」 かつ、かつかつ。 ほんの少し足を速めて、鳥籠を背に振り返る。 「ありがとう、トトー。……エスコートはもうおしまい」 (-149) gt 2022/08/21(Sun) 18:05:26 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ出会うのはいつも、太陽のすっかりと沈んだ夜のことだった。 ふたりとも、そういう仕事だ。 だからその夢は、なんとも奇妙な光景だったろう。 けれど、もし。 ――もし、その夢が叶うなら。 波濤のさんざめく水平線に、蜃気楼が浮かぶよう。 ゆらゆらと、夢か現か曖昧な笑みが、浮かんでは、消えて。 「……約束だよ、ヴィー。 ………まもってね、…」 オムレツと、約束と。 心地よく優しい香りと、酒精がもたらすふわふわとした高揚。 すべてがまるで、夢のようで。 夢は泡沫のように、ただの空想に消えて行く。 「うん。……ぜったいに」 ↓[1/3] (-150) gt 2022/08/21(Sun) 18:21:06 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ今日の彼女は、とても素直だ。 だけど、それでも嘘をつく。 「ぜったいに、もう一度、あなたとデートしにくるよ」 ゆっくりとあげた顔は、メイクでも隠し切れないくらいに青ざめていて。 目許にはアマルフィの海面のような、美しい涙がにじんでいて。 ――それなのに、童女のように笑っていて。 アンバランスで、こっけいで、美しくて、覆い隠されて。 彼女の生きざまそのものを刻んだ貌が、あなたとのひと時を楽しむように綻んだ。 ↓[2/3] (-151) gt 2022/08/21(Sun) 18:21:33 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ ↓[3/3] 「……ん。おいしそ〜。 いただきまぁす」 皿にそっと手を添えながら、口を開く。 ちろりとのぞく赤い舌。充血した瞳。 血の気はすっかりと引いているのに。 彼女の身体のそこかしこが、流れる血を想起させるように赤らんでいるよう。 「……真面目な話、さっさと逃げる準備はしたいんだよね。 旅行券の手配はしたけど、うちの子たちの分まで用意できるかどうか──……」 うちの子、と彼女がいうのなら、それはPollo Neroの娼婦たちのことだ。 彼女はいつだって、いらない責任を背負い込む。 そういう性分なのだ。 本当はそんなに、強くなんてないのに。 結局、彼女が今日ここにきたのは、甘えるためだ。 怒りと不安と、寂しさと、絶望と。 なにもかも足りないなかでひといきに溺れてしまわないように、ばたばたと足掻いている。 ――ほんとうは、あなたにだって縋りたくはなかった。 本当は助けてほしくても、それをかたちに出すことはいやだった。 それが、彼女の意地だった。 それすらも、そのかたちすら保てなくなったから、 彼 女 は死 んだ のだ。 (-152) gt 2022/08/21(Sun) 18:26:45 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「そう見える?」 ふ、と。 気取ったように笑う姿は、いつもの顔だ。 ――いつものとおりに、作ったような、澄ましたような顔。 「大したことじゃあ、ないよ。 他に行く当てがなくて、どうすることもできなくて―― 好きになるしか、なくて。 男の元にいた」 過去のことなんて、女はめったに話さなかった。 だからそれはきっと、気まぐれ。 あなたの手の暖かさにぽたりと溶けた、 かたちのなく静かな結露にすぎなかっただろう。 本当のことを言っているかどうかも、わからない。 それでもその表情は、 懐かしげで。 ――そして、もう失った何かが、そこにあったのだ。 ↓[1/2] (-373) gt 2022/08/23(Tue) 3:34:31 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「当然でしょ、借りたら返す。 ……まーそうね。 けど、うん」 瞬く瞳に、僅かに笑みをたたえた口許が映る。 「急ぎ。 ……急ぎだよ、ヴェルデ。 やっておけばよかったなんて後悔、私はもうしたくない。 どこかに行くのはね、早い方がいいんだよ」 その日のビアンカは、あなたの手を離さなかった。 もういいと言ったって、なんだかんだと言い訳をして握ったままで。 [2/2] (-374) gt 2022/08/23(Tue) 3:34:51 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ一夜の夢を見せる。 そんなロマンチックな言葉を、女はめったに口にしなかった。 娼婦という職業にある種の誇りをもち、 春を鬻ぐことで生きて、 そして自らを嫌悪する。 矛盾だらけの夢は、そんな彼女の――あるいはあなたの――生き様のようであった。 「……ん」 あなたの微笑と頷きに、吐息のような声が漏れて。 ビアンカは、唇をゆがめた。 ゆがめたようにしか、見えなかった。 ――なんと下手くそな笑顔だろう。 曲がりなりにも男を蠱惑することを生業とするものが浮かべていい顔ではなかった。 けれど、あなたの前で、ビアンカはそのようにして微笑うのだ。 今日の彼女は素直だ。 ぞろりとした布を幾程纏っても、メイクを肌に塗り重ねたても、隠せないものがある。 あなたの胸中を、夢のような計画を知ってか知らずか。 笑顔めいたできそこないの表情を浮かべながら、ビアンカは目の前で掌を開いたり、閉じたりしている。 酒精を含んだにも関わらず、その指先は真っ白いままだった。 ↓[1/2] (-375) gt 2022/08/23(Tue) 4:13:38 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ↓ 「だあって、現実的に考えたらそれしかないでしょ? うちの会社は国外の伝手が弱いからさあ」 濡れた唇の前で匙を無作法に揺らしながら、非現実的な話を語る。 籠の鳥が空を望むのは、道理に合わないことだ。 誰しもが持っているありきたりの現実すらも 決して叶わない夢になる。 たとえこの食卓がどれほど和やかで温かくとも、 女たちが生きているのは、そういう場所だった。 「……お金は平気。 って、言いたいトコだけど、…… ………。 ……………ガキひとり、 大学にいれるのって、いくらかかるか、ってわかる? 」ああ、これは非現実的だ。 叶うはずのない話を、彼女はしたいのだ。 [2/2] (-376) gt 2022/08/23(Tue) 4:14:06 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 家族愛 サルヴァトーレ「ヤ」 一言だけ、微笑って。 赤い舌が、悪戯気にまた揺れて。 「ちゃんと送りだして、カタギに戻してやらないと気持ち悪いったら、ないでしょう」 ビアンカは、寂しい、なんてめったに言わなかった。 あなたが口にするならば、それを慰めるように抱擁するし。 ――商売中は、寂しい、会いたかった、と何度も言ったけれど。 本当の意味での寂しさを、口に出すことはなかった。 それが多分、彼女がここで生きていくために必要なことだったのだ。 ↓[1/2] (-377) gt 2022/08/23(Tue) 4:23:09 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 家族愛 サルヴァトーレ↓ 「そうして。 ……ん、……うん。 まあまあ楽しかったよ」 靴音が止まる。 彼女は微笑う。 楽しい時間は、早く過ぎる。 たとえそれがまぼろしでも、それを確かめるすべなどない。 ――だから、やっぱり。ビアンカは、そのくだらないまぼろしが、 「はあい、よろしく。 ──……愛してまあす」 わりと。自分自身ほどには、きらいじゃなかった。 わざとらしくそう言って、手を振った。 ――あなたが去るまでは、そうしている。ここは、店の前だから。 彼女は娼婦だ。 望まなくても、苦しくても、寂しくても辛くても──……そう生きてきたことを否定できるほど、器用な女ではなかった。 [2/2] (-378) gt 2022/08/23(Tue) 4:23:51 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 花で語るは ソニーいつも海辺を通るたびに耳にする海鳥の声が、空々しく埠頭に響く。 港に身を寄せ合うようにして停泊する小型の漁船の一艘。 その舟艇に引っかかるように、彼女だったものは漂っていた。 いつも外出する時は結っていたはずの髪はばらばらに解けて、波にさらわれた海藻のように髪の毛だけが水面に浮いている。 朝早く動く漁師たちが騒いでいないところを見れば、まだ放り込まれてそれほど時間もたっていないのだろう。 絶望の中に希望を見つけることにどれほどの意味があるかは分からないが、 幸い、死体の状態は水死体としてはそれほどひどいものではなかった。 衣類はない。両手首はダクトテープで何重にも締め上げられ、いつも気を使っていたネイルは根本から剥がれ落ちていた。 全身の肌は、悍ましい程に白い。そこかしこに痣や煙草を押し付けたような痕があり、右腕はあらぬ方向に曲がっている。 腹部から電動の工具かなにかで荒々しく寸断され、血や内臓はほとんどが流れ落ちてしまったようだ。 その顔だけが、まるで武装するかのように施された耐水性のメイクが意地をはるように残る。 歯のいくつかが折れ、左頬が醜くはれ上がってはいたものの、少しだけ、見慣れた顔色をしていた。 内蔵を損傷するような負傷を何度も負ったせいか、鼻や口元にはどろどろとした血のかたまりがこびり付いている。 血の気の失せた唇を、どす黒いルージュが彩っているようで。 そのありさまは、不器用な娼婦の死に様、そのものだった。 海鳥たちの声が、悍ましさすらもなく埠頭に響く。 力の抜けきった顔の中で、瞳だけが力いっぱい閉じられている。 ――死の間際、彼女はどんな顔をしたのだろうか。 ↓[1/3] (-439) gt 2022/08/23(Tue) 19:28:06 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 花で語るは ソニー死体を引き上げるならば、まず目に入るのは乳房の間に書きなぐられたメッセージだろう。 『女の穴で金稼ぎする、名誉ある男たちへ。 下だけあれば続きができるだろ? 返しておくよ、チャオ。 ↑下も不良品だ、9mmを一発挿れたらもう壊れた!』 ビアンカ・ロッカの直接の死因は、下腹部に打ち込まれた弾丸による大量出血とショック死だったという。 下半身にも、同じメッセージが描かれていたらしい。 それは彼女とファミリーを、著しく侮辱するメッセージだった。 ――そんなものを生前書かれたなら、もっと怒りちらしていただろうから、 きっとそれは彼女が死んで、物になったあと描かれたのだ。 ↓[2/3] (-440) gt 2022/08/23(Tue) 19:29:59 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 花で語るは ソニー/* お疲れ様です、ご配慮ありがとうございます。 上半身はこのような状態です。 処分していただくのも問題ありません。店の娼婦たちはみな見つかったら教えてくださいとは言いますが、彼女たちには埋葬の伝手などもないので結局はファミリーに泣きつくことになるでしょう。 ほかは、ご自由に。 なにとぞよろしくおねがいいたします。 (-441) gt 2022/08/23(Tue) 19:31:43 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 天使の子供 ソニー死体は何もしゃべらない。 死体は何もうったえない。 寂しさも、哀しさも、 苦しさも、嬉しさも、 悔しさも、愉しさも、 怒りも、 幸せも。 彼女はいつも全てを内包して、あの店先に立っていた。 そんなすべては流れ出してしまって、 もうどこにも残っていない。あなたが最後に施した死化粧が、醜い死体を僅かに彩る。 もし、彼女が生きていたのなら。 ――なんだかやと喜び、けれど余計なことをするなと唇を尖らせたかもしれない。 もし、彼女が生きていたのなら。 ――綺麗でしょう、こんなになっても? なんて、冗句になっていない冗句を飛ばして、子供のように笑ったかもしれない。 もし、彼女が生きていたのなら。 ――ありがとう、ごめんね、最後まで迷惑かけて。 けっこう、あなたのことは嫌いじゃかったの、なんて、ほんとうかうそか最後までわからないことで微笑んだかもしれない。 もし、彼女が生きていたのなら。 もし、彼女が生きていたのなら。 ――君の前で、笑顔以外をうかべることはなかっただろう。 彼女は、意地っぱりだから。 だから、彼女はもう死んでいた。 くしゃくしゃになった髪がぺとりと肌に張り付いて、 がたごとと揺れて、眠っているように傾いた。 (-467) gt 2022/08/23(Tue) 20:56:20 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「……」 足が一度だけ、止まる。 あなたの、どこか大人ぶった態度に、ぱちぱちと瞬きをして。 「――誰が、あんたの母親なんかになってやるかっつうの」 そんなこと、言ってない。 あなたはそんなこと、言ってないのだ。 それなのにそんなことを言って、 ビアンカは手を揺らした。 家へ帰ろう。 あの狭苦しくて、不自由な籠の中に。 過去も未来も現在も、私たちをぎゅうぎゅうと押し込めてくるのだから、 せめてそこだけは心安らぎ、雨風をしのげるようにしよう。 「ん」 「ヴェルデ、あのね──」 ▼ (-468) gt 2022/08/23(Tue) 20:59:11 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「いっしょにかえってくれて、 ありがと、ね──……」 彼女は、さびしがりやだ。 (-469) gt 2022/08/23(Tue) 20:59:46 |
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