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![]() | 【秘】 歌い、歌わせた カンターミネ → 幕の中で イレネオ「ぎ」 真っ先に出た音は、それだった。 或いは、揺さぶられた脳と、やられるままでたまるかという、 微かな意地が見せた歯を食いしばる抵抗の音だった。 ことここに至って、女の口元は未だ形だけは笑んでいた。 それでも、例えこの女がマフィアであったとしても、 手足のように扱う機械ではないから。 鼻の奥から流れ込む血が喉に落ちていき、 踏み躙られる肩からの悲鳴はそのまま口から出ようとする。 女は拷問も担当していたから、今何をされたら不味いか、 手に取るようにわかっていた。だから、靴底から "緩急"が与えられた瞬間があったなら、 「あ、終わった」と。そう思う事だろう。 それでも、ほんの僅か。 「ぐ、あ、ぎぃ、ああ……」 その程度で済ませたのは、きっと意地と張り合いのおかげで。 しかし同時に"その程度"こそが、分の悪い根競べの敗北を、 即ち、天秤の傾きを意味していた。 (-621) shell_memoria 2023/09/23(Sat) 13:58:38 |
![]() | 【秘】 歌い、歌わせた カンターミネ → 幕の中で イレネオその表情に「煽り所」を見つけはしたものの。 口元を覆う手のひらが相手では、声もほとんど出せず。 どうせ一度開いたならもう変わらないから 喚きでもしてやろうかと思ったのに。 現状を考えれば。男が肩を踏み砕くような姿勢でなければ、 女に覆いかぶさって口を塞ぐ男という図式は、 強姦魔に等しいもので。或いはそこを突けば、多少なれど 男の動揺か、怒りか、その辺りを引き出せるかもしれないが。 今は煽りより、「何」を入れられたかだ。 普通は、薬は目で確認するのだから、色と形で薬を判断する。 だが手のひらに覆われた状態ではそれを判別は出来ず。 しかしケースに入っていたのだから、数種類までは絞れる。 処分しそこなったものなら、数世代前の物か。 味は知らん、飲んだことなど一度もないから。 どれにしろ、致死の薬はなかった。ならば――。 カンターミネは、考えをシフトした。 即ち、いずれ朽ちる『正義』と遊んでやる、と。だから、 ぴちゃり。 嫌がらせの念を多分に込めて、手のひらをぬるりと舐めた。 目元にまた、張り付かせる。痛みを越えて、にやついた顔。 目尻を下げて、掌の向こうで口角をあげる。 もごご、と口の中で僅かに溶けた錠剤と共になすりつける。 『雑魚が』。たった3文字、ただの笑み。 即効性のある薬なのか。痛みは少しずつ、和らぐ。 分泌されたアドレナリンが、恐れを削いで笑みを返した。 (-635) shell_memoria 2023/09/23(Sat) 15:14:51 |
![]() | 【秘】 歌い、歌わせた カンターミネ → 幕の中で イレネオプッ、とそれは男の平手と同じく反射だったに違いない。 吹き、転がった錠剤に首が向き、きっと眼鏡も飛んでいる。 しかして目だけは男に戻る。途端、破裂したように笑った。 「アッハッハッハッハッハ!!!クク、フ、フフッ、は、話にならない!平手!?抑えてた手でか!?そ、それで、薬を吐き出させた!?自分で!!?ばーーーーーーっかじゃねえの!?」 舌打ちに、視線の逸らしに。また笑い、歌う。 肩の痛みなんてもう気にならない。 だってこいつは「失敗」したから。 「尋問だのをする時に必須の事を教えてやるよ。相手の前でイラつかない事。ミスしない事。それでムキになって暴力を振るわない事。お前はひとつも出来てないな?ん?しかも使った薬は相手がご用意したって?そ、それを吐き出させ……ふっ、フフッ、一生笑えるぜ、『へたくそ』。その様子じゃおまわりさんとしても碌な仕事は出来てなさそうだな?錆びきった前時代の正義モドキを抱いて、まともに相手からの情報も引き出せない、パパの庇護がなけりゃ尋問のおぜん立ても出来ない、出来るのは乱暴な真似とイライラしぐさか?一生一人でシコシコやってろ、自分の牢屋ン中でな」 捲し立てる。もう怖くない。痛いだけ。 尋問相手に失敗した人間は、どうやったってもう、 道化か下っ端のチンピラ以外になれはしない。 朦朧としていたはずの瞳に強い光と、 歪んでいたはずの顔ににやけた笑みが帰ってきた以上、 きっとまともな方法ではもう何も出ないだろう。 諦めて捨てるか、或いは――ケースの中にあった、 他の薬を試すか?申し訳程度に、あなたの脳に そんな選択肢が示されるだろうか。 (-643) shell_memoria 2023/09/23(Sat) 16:08:19 |
![]() | 【秘】 笑う カンターミネ → 幕の中で イレネオ肩が軋む。笑う。歌う。男の顔が歪む。笑う。歌う。 男が靴を持ち上げる。笑う。歌う。靴先が叩きこまれる。流石に、笑いと歌は止まった。 「ご……はッあ、」 一度、喉に落ちて来ていた血が吐き出され床を汚す。 押し出される呼気と共に鼻に蟠っていた鼻血が噴き出た。 「ひゅ、がぶふッ」 二度、逃げた空気を取り戻す為に身体が反射的に息を吸う。 そこにもう一度突きこまれれば自然、内から外へと、 外から内への空気同士の衝突で胸が苦しくなった。 それでもまだ歌おうと、口を開きかけた所で、 「おま゛ェっ、げぽ、ぉぇ」 もう一度。女は身体を鍛えている訳でもない。むしろどちらかと言えば華奢な方だった。 故に、その単純な暴力は酷く突き刺さる。もっとも、精神を屈服させるには遅いのだが。 何度も咳き込む。その度、汗と涙と鼻水、それから唾液に、 胃液。覗き込まない限りはわからないが、少しの愛液も。 いくつもの体液が女から吐き出された。 馬乗りになった頃には、顔の付近に混ざり物の汚水池。 かひゅ、と薄い息を繰り返す女の舌に錠剤を押し付ければ、 それを見逃す訳もなく。すぼめた口から べッ、とあなたに向けて唾を吐く。顔に届くか?わからない。 意味があるか?ない。無意味な行動にはお似合いだろ? 女はまた、鏡のようにあなたの無様を映す。また、笑う。 (-653) shell_memoria 2023/09/23(Sat) 17:08:40 |
カンターミネは、『お前じゃ無理だ』と笑う。吐いて、汚れて、まだ笑う。 (c28) shell_memoria 2023/09/23(Sat) 17:18:04 |
![]() | 【秘】 笑う カンターミネ → 幕の中で イレネオそうして冷静さを取り戻した男の顔には、 この女はきっと狂気を読み取った。それは爆発。 何かしら、追い詰められたものが為す行動。 振り切ったゲージの針が止まった状態。 こうなってくると、目が覚めるまではおかしなことをし続ける。 そら、来た。指に噛みついて千切ってやろうか。 いや、きっとそれは難しい。歯の根を抑えるならまだしも、 口の端に指を差し込んだだけなら、精々皮が一枚程度。 舌を抑えられちゃ喋るのは困難極まる、 精々間抜けな音を上げるだけ。 そう考える間に、男の影がゆらりと重なってくる。 それはきっと、先に過った強姦魔のそれとよく似ていた。 途端、これは『先生』でも『マフィア』でも 『罰されるだけの生き物』でもなくなった。 ほんの僅かに頭を逸らすと、あなたの指で 口内が切れ傷つく事を厭わず、思い切り頭突きを振るった。 無論、大した威力ではないだろう。 だが人体で振るわれる、凡そ非常に硬い部位の直撃は、 互いの脳を揺らすはずだ。男の唇が重なったとしても、 この女はただでは済まさなかっただろう。 それはお前の物じゃねえよ、と内心に激昂を宿して。 (1/2) (-669) shell_memoria 2023/09/23(Sat) 18:05:37 |
![]() | 【秘】 笑わない カンターミネ → 幕の中で イレネオそして、それがあなたの鼻柱に叩きこまれたのだとすれば、 これは侮蔑を持って高らかに歌う。 「最初の一撃の意趣返しだ」と。 机の代わりに骨を叩きこむ。負傷する箇所まで、鏡のように。 あなたの選んだ手段はきっと、最も正しかった。 拷問において重要な事は、相手の大事な物をけがす、 その素振りを見せる事。だから、きっと最初からあなたが 『正義』ではなく、下卑た生物として提案していたのなら。 或いは、この拷問、いや尋問は、実に正しく、 そして素早く、機能していたかもしれない。 それくらい、カンターミネにとって"それ"は大事な物で、 簒奪者には決して屈しない、その為の柱であった。 反撃が齎したものがどの程度の抑止になったかはわからない。 ただ、この『野獣』になった女は、アドレナリンの力を借りて より、一筋縄ではいかない生き物と化した。 再び唾を吐く。今度はあなたではなく、汚水の中へ。 暗に「お前の居場所はそこだ」と言うように。 手近、いや足近な机を蹴飛ばし、可能なら椅子も、壁も。 暴れて事が大きくなれば、署員が駆けつける可能性もある。 同じ手段を続けるか、否か。 拷問官でないあなたは、正義の下に見極める必要がある。 尋問をこのまま続行するか。 (2/2) (-672) shell_memoria 2023/09/23(Sat) 18:15:56 |
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