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![]() | 【人】 XI『正義』 マドカ── 7年前『力』 ── [売店がある、と僕に教えたのは、 多分『世界』だった。 もしかしたら違うかも。 そうだとしても、誰かから聞いた。 その頃僕はまだ、洋館に招かれたばかりだった。 例えば、僕が故郷を失う前だったなら、 例えば、もう少し時間が経っていたなら。 僕はあの時、 もう少し違う反応ができたのだろうか。 魂が覚えている感情というものを知っていたなら、 もう少し……もう少し。 自らの手で何かを買う、と言う発想が、 元々あまりない僕だったけれど、 教えられたからには一眼見ておこうと。 思ってしまったのが、 そもそもの間違いだったかもしれない。] (594) だいち 2022/12/13(Tue) 20:09:28 |
![]() | 【人】 XI『正義』 マドカ[えずきながら廊下にうずくまった僕の頭に、 氷よりも冷たい二音が突き刺さる。 心臓を、 鋭い刃が貫いたような痛みが走り抜けた。 何故だかその痛みに、安堵する。 ]か……は、 [息が止まりそうな錯覚を覚えて、 喉奥に溜まりかけた、 苦味を帯びた酸味を吐き出す。 頭がクラクラする。 通り過ぎて行く気配に身を強張らせ、 けれど何も言われないのに、ほっとして。 なのに彼は、その青年は、 何を思ったか、 踵を返して隣にしゃがみ込むものだから。] (595) だいち 2022/12/13(Tue) 20:09:54 |
![]() | 【人】 XI『正義』 マドカぁ……ぅ、 [ありがとうとか、なんとか言えんのかと。 自分で自分を殴りたい気分だ。 それでも僕の口からは、 ありがとう、も、 ごめん、も こぼれ落ちることなく。 言いたかった、伝えたかった。 なのにどうしても、言葉が喉から出てこない。 汚物は垂れ流すくせして、 本当に必要な言葉ひとつ、生み出せない。 僕は結局何も言わず、 ただ、示された扉を見やり、 ふらりと立ち上がった。] (596) だいち 2022/12/13(Tue) 20:10:23 |
![]() | 【人】 XI『正義』 マドカ[ちらりと振り返った先、 彼は僕の吐き出した汚物を片付けているようで、 初対面の相手に、後始末をさせることを、 ひどく申し訳なく思ったものだった。*] (597) だいち 2022/12/13(Tue) 20:10:39 |
![]() | 【人】 XI『正義』 マドカ── 面白くもない過去の話 ── [今世の僕は、大陸よりも東の海の上、 浮かぶ島の一つに生まれ落ちた。 幸か不幸か、会場に並ぶ島々の中でも さらに小さな島に生まれたものだから、 『証』を持って生まれた僕に対しても、 普通の『人間』の子供のように、 両親はもちろん、島民も接した。 そもそも、大陸で信じられている件の『宗教』 そのものに興味があまりなかったのかもしれない。 僕は、『証』を持っていたくせに、 『証』がない者のように扱われた。 それが非常に稀有なことであったと、 幼い頃僕は知らずに呑気に笑っていたのだ。] (598) だいち 2022/12/13(Tue) 20:10:53 |
![]() | 【人】 XI『正義』 マドカ[僕が平和な日常を過ごしていた時、 『証』を持つ誰かはその存在を否定され、 あるいは石を投げられて、 親にすらその生を否定され、 けれど殺すこともできない、 ……と腫物のように扱われ、 もしかしたら厄介払いされ。 書物でそのことを知った、8つの頃、 僕は両親に尋ねたことがある。 僕は、ここにいて良いの?と。 両親は驚き、それから悲しみ、僕を叱った。 たった一つの痣があったからと言って、 そんなものは、何の理由にもならない。 持って生まれた痣でなくとも、 生涯消えることのない印など、いくらでもあるのだと。 僕はその時………… 妙な心持がした。] (599) だいち 2022/12/13(Tue) 20:11:09 |
![]() | 【人】 XI『正義』 マドカ[両親の言葉は、世の中一般の親としてみれば、 どこまでも善良で、親として正しい反応だ。 けれど、僕の胸の内はざわめいた。 だってこれは、『平等』じゃない。 他の『証』を持つ子供たちが苦しんでいる傍らで、 僕だけが、そうじゃない。 不安が心を占めるのに、そう時間はかからなかった。 それでも時間だけは、平穏に過ぎていく。 僕の生まれた家は、これまた幸運なことに、 はっきり言って裕福な方で、生活上の心配は まるで存在しなかった。 衣食住に困ることはなかったし、 多分欲しいといえば大概のものは 手に入っただろう。 僕が両親に何かを強請ったのは、 幼い時分だけだったけど。] (600) だいち 2022/12/13(Tue) 20:11:23 |
![]() | 【人】 XI『正義』 マドカ[15の夜、目が覚めると、 辺りは紅蓮に包まれていた。 島ひとつを燃やし尽くした炎は、 僕以外の全ての命を奪った。 僕と違ってただの『人間』だった、 幼い弟の命をも、容赦無く奪い去った。 僕はきちんと教育を受けていたけれど、 自身が『人間』より丈夫なことを知らなかったから、 炎からさえ守れば、 自身より低い位置に庇った子供は 助かると思い込んでいた。 彼は僕より少しの煙を吸い込んで、 そのまま息を止めた。 血の繋がりのない子供達も、 親を含む親戚も、隣人も、 ずっと僕にもよくしてくれた使用人の彼らも、 小さな島だ、 顔を知らぬものなど一人もいなかった。 皆みんな、死んでしまった。] (601) だいち 2022/12/13(Tue) 20:11:37 |
![]() | 【人】 XI『正義』 マドカ[手の中からこぼれ落ちていったものを、 惜しんで泣いた。 それが僕に与えられた罰だと知って、 首を垂れた。 僕は悲しかった。 けれど、同時に安堵した。 嗚呼、これで漸く…… 漸く僕も、他の『証』持つ者たちと、 並ぶことができる。] (602) だいち 2022/12/13(Tue) 20:11:49 |
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![]() | 【人】 XI『正義』 マドカ── いつか、故郷の唄を ── [彼女が、僕の故郷の唄を歌えるらしいことに 気づいたのはいつだったろうか。 きっと、僕か彼女が口ずさんでいたのを、 どちらかが気づいたのに違いない。 年下の子供たちに、 子守唄を歌っていたのかもしれない。 僕の故郷の唄は、 どこか独特の節を持っていた。 もしかして、僕たちの故郷は近いのか、と、 期待したのも束の間。 僕の淡い期待が砕けるまで、 そう間は置かなかったろう。 僕は彼女に笑って問うた。] ねぇ。 君の故郷はどこ? 君はどこからきたの? 良かったら、教えてよ。** (605) だいち 2022/12/13(Tue) 20:12:51 |
(a89) だいち 2022/12/13(Tue) 20:15:05 |
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