45 【R18】雲を泳ぐラッコ
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
[それから、一人では成し得なかった事をいくつか成し遂げた。
年月はかかったけれど、盗賊団を結果的に根絶やしにした。
両親は数年前に事故で亡くなっていたらしい事も知った。
涙も出なかったけれど、
存在しなかった墓をひっそりと立てた。
時に荒事に巻き込まれた。
ナイフを人に向けた時はあの記憶が蘇ったけれど、
今度は殺さずにおさめられた。
これもあの経験と、仲間のおかげだろう。
右目に傷を負って死にそうになった時、]
オレは、こんなところで死ねねぇんだよ!
[そんな事を言っていたらしい。
後で仲間から聞いて驚いた。
心臓に同化した彼女の言葉が、
今も己を騎士にしてくれていた]
[行く先々で、その街の絵葉書を買って屋敷に送った。
こちらは住所を転々とし始めていたから、送り主はリフルとしか書けなかったけれど。
近況も書かなかった。
忘れてくれと言ったのは己だし、
生きていると知ってくれれば十分過ぎた。
ナントカ王国のクロードという人物にも会う事ができたか。
また随分年月が経ってしまっていたけれど、
あの曲が今でも好きだ、でもそろそろ忘れてしまいそうで怖い、と話せば、弾いて聴かせてくれただろうか。
あぁ、ああそうだった、と唇を噛み締めて、
彼女の音色のかけらを取り戻した。
その日の夜の月は、一際明るかった]
[その次に向かったのは、昔盗賊団のアジトがあった国で、
いわゆる極寒の地だった。
ここは物資の運搬で精一杯で、
私的な手紙を送る余裕のない国だったものだから、この国に入ってから、屋敷へ手紙を送る事が出来なくなってしまった。
距離だって随分あって、
あの国の噂だって近況だってなかなか知る事が叶わなくなる。
それでもきっと、
無事に、元気に過ごしています様に。
教会で働く内、祈りを覚える様になっていた]
お嬢様もこんなの飲むのかな……
[ここはあたたかいココアが美味しい。
彼女には紅茶のイメージがあったから、
マシュマロの浮かんだこの黒い飲み物に首を傾げつつ、
ヒュボッ!と吸い込んでしまってむせた]
[アジトの残骸の整理と、
周辺で被害に遭った人への支援を行った。
この地でも小さいながら、支援団体も出来た。
己はツテでまた教会で働くのち、
役職を与えられる様になった。
この教会では、およそ三年ほど勤める事になる──]
― 町の入り口 ―
[そこはすっかり様変わりしていただろうか、
それとも殆ど変わっていなかっただろうか。
どちらにせよ、懐かしさと、帰って来た、と静かに高揚する気持ちが身の内を震わせる。
道中にサーカスの一行を見る機会があり、同行者も機嫌が良い]
(……でも、思ったより早く帰って来たな……)
[屋敷を出てから色んな事があって、
もう十年か二十年くらい経っている様な気分だけれど、
実際は六年くらいだった。
それでも流石にどこ行ったかわからなくて三年も音沙汰なければ死んだと思われている様な──]
「リフル!? お前生きてたのか!」
ユージーン……!
[随分久し振りなのに、聞けば誰の声か瞬時に思い出した。
顔は……ちょっと老けたか?
しかし、「うわあ誰かと思った」とか言ってるけれど、
すぐにわかってくれた事にこっちは今驚いている。
小綺麗な祭服を着ているし、髪はリボンでまとめているのは昔と同じでも大分短いし、右目にはモノクルもしているってのに]
[ユージーンが顔を覗き込んで来る。
モノクルをしている方の目の色がおかしい事に気付いたらしい。
「また無茶をしたのか?」と睨んで来るから、
トン、と相変わらず具合の良い左手の義手で彼の肩を押した。
近ぇんだよ]
生きてるんだから良いだろ。
[ふふんと笑ってやると、彼も笑った。
それから、己の後ろに隠れている人物に気付いたらしい]
「あれ?!子供?!!!」
[声がデカい。
歩きながら、人見知りをしている六歳の少女を紹介した。
名前はルミ。茶色がかっているけれど金の髪が己に少し近い。
あの北の国の孤児院で引き取った子だった。
別の盗賊団で生まれ捨てられた子の様で、
自分と重なるところがあったのだった。
まぁそのへんは彼には伏せたが]