188 【身内P村】箱庭世界とリバースデイ【R18RP村】
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[ 神が私に与えた “贈り物” は
間違っていなかったのでしょう。
間違えたのは、私の方。
]
[ かつて死神が師のように慕った“慈愛の聖者”の仮面は
狂気を孕んだ声と共に崩れ落ちました。
死神はどのような表情をしていたでしょうか。
どのような表情でも、態度が変わる訳ではありませんが。
やがて『死神』の首筋に向けたままの杖先から
顔色一つ変えず、爆発を発生させました。
しかし、僅か数秒後に知ってしまいます。
この爆発だけでは、終わりが訪れないことを。
『死神』の再生の力の賜物でしょうか。
それとも、肉体のみならず
魂まで消滅させたかったのでしょうか。
『教皇』はそれはもう念入りに
ぴくりとも動かなくなるまで
幾度となく攻撃を続け、殺害しました。
その時の形相といえば
悪鬼羅刹の類のそれと言えたでしょう。
後世、なかなか『死神』の証を持つ者が
生まれ落ちなかったのは、通説の
「22人揃わないようにと考えた人に殺された」他に
この悲しい出来事の影響もあるのでは、と
唱える説もあります。*]
[ 『節制』は、箱庭を愛していました。
世界を生み出した神様を愛していました。
自分と同じように箱庭に生み出された子らを、
それぞれに大切に想っていました。
相反する性質を持つ者たちの集う箱庭では
諍いが度々起こりました。
彼らが諍いで互いを傷付けすぎてしまうことのないよう、
一たび争いごとが起きたなら駆け付け
仲介役を進んで買っていました。
神様が『節制』へ贈った贈り物は「虹」
相反する二つの性質の間に立ち、
それらを結び付けることの出来る贈り物でした。
特別安らげるのは、親友である『隠者』の傍。
『隠者』は思慮深く、慎重で、思い遣りに満ち
誰よりも『節制』の性質を理解してくれます。
『節制』もまた『隠者』を誰よりも大切に想っていました。
晴れた空の下、よく二人だけのお茶会を開きました。
湖畔で涼やかな水音を聴きながら
アイリスの花を眺めるのがいっとう好きでした。]
[『節制』は規律を重んじ、節度を弁え
慈愛を尽くすためならば自己犠牲をも厭いません。
東に呼ぶ声あれば飛び、西に呼ぶ声あれば駆け
求められれば求められるがままに献身し、
皆の幸せを心から願っていました。
最初はきっと興味本位で始められたのでしょう
『運命の輪』の手による幸運と不運の流転。
やがてどちらをも楽しむようになってしまった
『運命の輪』のことを、その勝気な奔放さを
『節制』はどうしても理解できません。
初めこそ純粋に心配をしていましたが、
徐々に苛立ちを覚えるようになってしまいました。
『節制』が戒律し、己を戒めていましめて
とても出来ずにいるようなことをも
無邪気に成し遂げてしまうから。
羨望の色を孕んだ、醜く身勝手な苛立ちでした。
『節制』は自分が『運命の輪』を嗜められる気がしません。
『正義』に任せて、距離を置くことにしました。]
[ わたしは神様を愛しているのに
神様の創りたもうた子に苛立つなんて!
『節制』は自分の中に生まれた矛盾に苦しみました。
こんな自分は『隠者』にだけは知られたくない。
ひとり苦しむうちに、ぽきり、と何かが折れました。
どんなに仲介役を続けても
ただその場では丸く収まるというだけ。
争いの火種がそれぞれの個性に在る限り
諍いが完全に絶えることはありません。
……つかれたな。
ふとそう思いました。
仲人役を務めることが虚しくなってきましたし
自分の存在は箱庭に必要がないような気もしてきました。]
[ やがて思いました。
わたしが間に立とうと、立つまいと
さして結果は変わらないのではないか?
愛する神様からの贈り物を使いこなせない己に
『節制』は、失望しました。
必要がないのなら、わたしが生み出された理由は何だ。
「わたしは、神様から愛されていないのではないか?」
奇しくも『運命の輪』と真逆の発想に至りました。]
[ 神様を、箱庭を愛するがゆえに積み重ねてきた
丁寧な暮らしが荒れるようになりました。
箱庭の何処かで諍いが起こっても
知らぬ存ぜぬを貫きました。
昼夜は逆転し、好きなだけ酒を煽り、殻に閉じこもり
美しかった紅い翼はぼさぼさになってしまいました。
そんな情けない自分を誰にも見られたくなくて
『隠者』には特別見られたくなくて
もしも『隠者』が自分の元を訪ねてきてくれても
ひとりにしてほしい、と拒んでしまいました。
そんなある日のことでした。
『悪魔』が、『愚者』を殺しました。
どんなに諍いが続いても殺し合いに発展することはないと
『節制』は心の何処かで油断していました。
だからこそ見て見ぬふりをしていました。
──取り返しのつかないことが起きてしまった。
わたしが間に入ったとて
止められはしなかったかもしれない。
だが、『愚者』の死は防げたのではないか? ]
[ 自責の念に駆られた『節制』は我に返りました。
神様が愛した、穏やかな箱庭を取り戻すために。
混乱に陥った箱庭を鎮めようと
『節制』は、再び諍いを仲介し始めました。
そのうちに誰かが刃を持ち出しました。]
──いけません
わたしたちがわたしたち同士で
傷付け合ってはなりません……!!
[『節制』は仲立ちを試みながら
どうにかして刃を奪い取ろうとしました。
力任せに奪い取ろうとしたその弾みで
『節制』の身体は場外へと投げ出され、
掌の中の刃は──── ]**
[ ひとりきりの恋人たち。
胸の証はとある楽園の模倣。
蛇の奸計で林檎を口にし追放された者たちの烙印。
その意に破綻をも内包するそれは、
夢を見なければ生きられない程に、
最初から完璧ではなかった証。 ]
[ 知っていた。識っていた。
完璧な器に完璧な魂。
それでも足りないのです。
足りないと思ってしまうのです。
或る日神に問いました。
「どうしてわたしたちを完璧に作ってくれなかったの」
造物主は答えます。
「そのままのおまえを愛している」と ]
[ 『恋人』が何をしたとて何を思うとて、
永遠の不完全に絶望し身を投げたとて、
正気の果てに箱庭の全てと心中したとて、
何をしても愛しいのだとその瞳は告げるのでしょう。 ]
──── ああ、反吐が出る。
自分で作った可哀想な人形を愛でるその目が煩わしい。
わたしたちが欲しいのはそれじゃない。
[ 『悪魔』の愛は禁断の果実でした。
そこにあり、魅力的で、どうしても欲しいと思うのに、
手を伸ばせばその愛は終わってしまうのです。
わたしたち、ふたりでひとつの完璧な存在。
だのにこの身の外に抱いた愛に気付いた時、
『恋人』の『完璧』は永遠に失われてしまう。
だから見ないようにしました。
『完璧』であるならば、『悪魔』は愛してくれる。
何故、と思えば問うたことはありませんでした。
向かい合うことを避けていたようにも思います。
心で想うことだけは、この心だけは自由だ、などと、
そんな都合のよい夢を揺蕩っていたかったのです。 ]
[ だから、箱庭の黄昏を招いたのが『悪魔』だとしても
それは構いませんでした。
愛とは許しで、愛とは受容で、
愛とは存在を肯定するものだと信じていたからです。
彼がどれだけ血に染まろうと罪に塗れようと、
望むものを得る道なら何がどうなろうと構わない。
わたしたちの終わりですら──
きっと完璧なまま終わらせてくれると信じたから、
どうでもいいと思えたのです。
彼が真に求めるものが何であったかさえ、
知ろうとしないままに。 ]
[ けれど、狂気のままの精神は擦り切れる寸前でした。
生まれた時から『完璧』ではないと知りながら、
それでも『完璧』を偽り生き続けるのは地獄でした。
だから、それは確かに救いだったのです ]
── ねえ、『悪魔』。
こんな最期を少しくらいは惜しんでくれるかな?
わたしたちも少し残念だ。
最期だなんて言わず、
最初に殺してもらえばよかったかな、なんて。
ああ、でも。
きみに浮かぶ失望の色を見ることがなくてよかった。
きみの愛を失う前に、死ねてよかった。
[ そうして瞼を下ろします。
そこには音もなくただ優しく広がる夜がありました。
『恋人』はその不本意な死にも関わらず、
眠るように穏やかな顔をしていました。 ]
[ そうして『完璧』を守り通して死んだのです
それこそが彼への、彼/彼女の愛の体現なのでした ]
[ けれど神様、それでもわたしは
この世界の生きとし生けるものすべてを
あいしているのです
あなたのことも、
──あいしていたのです
]
[『正義』と『力』は
殺し合いの末、相討ちとなった。
一進一退の攻防
互いに満身創痍、そうして果ての、最期。
『力』の最期の一撃は、
『正義』の心臓を、静かに鋭く貫いた。
『正義』は『力』に抱きしめられた、
その事に気づいてはいたが、
それを振り払うことができなかった。
否……したくなかった。
『正義』の唇が戦慄いて、
何かを吐き出そうとした……が、
その何かは形にならず、代わりに鮮血が溢れる。
『正義』の手から、愛剣が滑り落ち、
からんと軽い音を立てた。
けれど『正義』が剣から手を話した時には、
やっぱり既に“ 手遅れ ”だったのだ。
『正義』は息絶えた………
『力』を道連れにして。]
[ 『ありがとう』
止めてくれて
『ごめん』
道連れにして
────鮮血が覆い隠した言葉たち]
| ―― *** ―― [プロセラの姿を探し回っている内に、 日は傾き、夜が訪れていた。 洋館にいる人が少し減ったように思う。 崩壊していく故郷を心配してのことか、 もしかしたら、此処も崩れると踏んで、 逃げていった人も居たかもしれない。 端末をもう一度見る。 チェレスタからの返事はまだなかった。 >>3:472 まだ気づいていないのかもしれない。 エーリクとの話が長引いているのかもしれない。 会ったら、話してくれるかな。 彼女が気にかけている一座のことも。 こんな時に限って、 別れ際の少し戸惑った彼女の姿ばかりを 思い出してしまうから。 ぶん、と大きく首を振って考えを散らした。] (128) 2022/12/20(Tue) 22:37:46 |
| [医務室も、中庭にも、部屋も探したけれど。 プロセラの姿は何処にもなくて。
洋館の外まで見て回って、 探し疲れた頃に、彼の世話人を見つけた。
もしかして――、と、思い当たる場所を聞いて。 最後の伝手を縋るように。
教えられた場所へと足を向けた。] (129) 2022/12/20(Tue) 22:38:04 |
| [あまり使われていない、埃っぽい場所。 >>11 教えてもらわなければ、知ることはなかった。 階段を上って、上って。高い上。 人も寄り付かないような物置のような場所の片隅に、 身体を丸めるようにして目を閉じている彼を見つけた。 見つけてほしくなかったのかもしれない。 見つけてはいけなかったのかもしれない。 それでも、彼の姿を見つけたら、 無意識に安堵の息が零れた。] (130) 2022/12/20(Tue) 22:38:44 |
| [起こさないように、驚かさないように。 ゆっくりと埃を立てないように歩み寄っていく。
傍らに寄り添うように、腰を下ろして。 そっと、緩やかに彼の髪を撫ぜた。
夜の間は、『太陽』は存在しない。 その姿を隠してしまうから。
夜闇に浮かび上がるのは『月』と『星』。
――『塔』は『星』の前で処刑されました。 ――『審判』は『月』を殺しました。
そんな、教典の一部を思い出す。
『塔』の痣を持つプロセラも。 『審判』の痣を持つチェレスタも。 彼も、彼女も、少なからずも。 誰かの死がまとわりつく。
誰かを手をかけるのも、誰かの手にかけられるのも。 『太陽』の痣を持つ私には分からない。] (131) 2022/12/20(Tue) 22:39:18 |
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