【人】 未だピンボケ ライカ>>+12 「ここに来る前からの、知り合いですから」 ただ、それだけを。 だから、貴方のその声色が気になる事はなかった。 どう思われていても、貴方がすることも 自分がするべきことも、変わらない。 前に進むために手を貸してくれるのなら、その手を借りるだけだ。 生きなければならない。生きたい。生かしたい。 こんなところで死んでたまるか。 「麻酔があればよかったんですけど……そうもいきませんから。 起きた時の痛みは、我慢してもらうしかないですね……」 「布……貴方の荷物にあった、職員の制服も使えますかね。首回り以外は汚れていなかったと思いますし。 それに伊縫さんもきっとまだ持っているでしょうから。僕が会議室に取りに行ってきますよ」 他に必要なものはありますか、と尋ねながら。 汚れや血を洗うための水もストックから持ってくるべきかと頭を回す。 「……僕だって。 生きているなら、生きてもらいたいです。生きていたいです。 そうでなければ、ここに放り込まれた誰もが 報われない」 決して強い人間じゃないけれど、決意だけは。 (33) 2022/06/07(Tue) 23:57:10 |
【人】 西へ行く カナイ斯くして人と異形の間と化した者はその動きを止めた。 臆病者はそれを見て取って暫くの後、 漸く殆ど硬直したように掴み掛かったままの手を脱力させ、 ────ぱきり、 罅の入るような微かな音がして、 その後に透明な凶器が一斉に砕け、 両者は束の間この現に創られた地獄から解放された。 「い"、ぁ う"ぇ ぇっ、」 砕けた拍子に破片が再び肉や臓腑や神経を傷付けて、 倒れ込んだ事によってそれがまた深くへ潜り込んで、 言葉にならない悲鳴を上げ、血反吐を吐いて嘔吐いた。 これも、あの人にした事が自分に返って来ただけの事。 怖い。 怖い。 怖い。 死ぬのは怖い。 逃げたい。 けれど死からなんて、逃れられるわけがない。 (34) 2022/06/08(Wed) 0:20:03 |
【人】 西へ行く カナイ「──、……深和さん…」 焦点が定まらなくて、前がよく見えない。 血がどんどん流れ出ていって、寒気がする。 全身から力が抜けていって、指先一本動かすのも億劫だ。 ああ、怖くて仕方がない。 「ぶじ、ですか そこにいますか……?」 それでも余計な思考を追い出して、 理性を掻き集めて、唯一正常な思考に意識を集中する。 まだ、伝えなければならない事がある。 (35) 2022/06/08(Wed) 0:20:50 |
【人】 西へ行く カナイ「…仮眠室、に、……弓日向さんが、います」 迎えに行くと行って会議室を後にしたけれど、 その後にこうして駆け付けた叶は少女を伴っていなかった。 そのわけを、自らの罪を、話しておかなければならなかった。 あなた達に無用な不安を与えてしまわないように。 「奈尾さんと、…おなじ、ようになってて」 「どうすることも でき、なくて おれが、やりました」 「……あの子が使ってた端末、 あの部屋に おきっぱなしに、しちゃって」 抱えていた願望、そして呪詛。 叶わなかった望み。 それを与り知らない所で他者に知られるのは嫌だろうから、 大半のテキストファイルにはロックを掛けたけれど。 それでも、唯一の遺品と呼べるものだから。 生きて行く人に託したかった。 (36) 2022/06/08(Wed) 0:22:00 |
【人】 西へ行く カナイ「…あはは……」 「頼まれたこと 全然、できなかっ た」 無事で、と言われたのにこのざまだ。 頼んだと言われたのに、迎えに行った少女の事も救えなかった。 生きてという最後の望みさえ叶えられなかった。 当たり前に頼まれた事を、 当たり前にやってのける事すらできなかった。 ああやっぱり、自分はどうしようもなく不甲斐ない人間だ。 「おこられ、るか なあ……」 それなら、怒られても、仕方ないかな。 (37) 2022/06/08(Wed) 0:23:14 |
カナイは、罪の重さは自身が計るものではなくて。 (a52) 2022/06/08(Wed) 0:28:47 |
カナイは、与えられる罰も自身が決めるものではないと思っている。 (a53) 2022/06/08(Wed) 0:28:58 |
カナイは、それは、罪悪感の有無に関わらず。 (a54) 2022/06/08(Wed) 0:29:19 |
カナイは、だからこれは、なるべくしてそうなっただけの事。 (a55) 2022/06/08(Wed) 0:30:29 |
【人】 トラジコメディ フカワ「叶、さん……」 頭痛と吐き気が身体を苛みつつも、 どうにか貴方を救う手立てを考え続けて。 しかしぽろぽろと涙が流れ落ちるばかりで、 それ以外には何も出てこない。 手遅れだということを認めたくないのに、 悪癖となった諦観が身を包んで離してはくれない。 「なんで……オレで、よかったの、に…… 全部……持って行かないでくれよ……! ひ、二人の……二人で抱えるもの、だったでしょうが」 這う這うで近づいて行って、 投げ出された掌を両の手で握ると、 急速に失われていく体温が痛いほどに伝わってきた。 (38) 2022/06/08(Wed) 0:44:30 |
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