74 五月うさぎのカーテンコール
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ぁ、……んんっ
[ほとんど抵抗なく指を受け入れ、
奥から溢れだしては指に絡む淫猥な水音に、頬が染まり。
はずみで、きゅうっと指を締めつけてしまう。
顔を見られるのが恥ずかしくて、首に腕を回し
重なる互いの胸の鼓動の速さに、少しだけ驚きながら
深くキスを交わす、その合間。]
あっ、ぁ……わたしも、すき……
れんじ、が……好き、だいすき。
[増えていく骨ばったやさしい指に
ゆっくり内側から撫でられるのが気持ちよくて。
繰り返されるキスと囁かれる声に頭がふわふわして
だんだんと水音が気にならなくなっていく。]
[指の動きは、ほぐすためなのはわかっているけれど。
次第に蜜を溢れさせるもっと深くまで誘うように、
腰が揺れてしまい。]
は、ぁ もっと……おく、 が……
[たりないです、と切なげに呟いた。*]
あー、炭酸。
用意しときゃよかったね。あんま考えてなかった。
じっくり飲むのが好きなら、僥倖。
[酒、水、氷。あとはアテ。それだけで充分な飲兵衛だ。
相手への配慮がすっかり欠けていた。]
あ、ほんと?
じゃあそれから開けよ。
有村の勧めなら外れないし。
[あれも若いが、知識が深い。
俺はあれくらいの歳の頃は酒なんてたいして差がわかってなかったのに
安ワインでもうまいものはうまい。それを知ってるのは強いなと思う。]
ハムチーズいーねぇ。
生ハムも入れる?
[火が通れば本当に普通のハムになるけど。]
乾杯しよしよ。
チーズに蜂蜜ならすぐ出せる。
[カマンベール、シュロプシャーブルー、クリーミーウォッシュ、パルミジャーノ。
並べるのは完全に個人の趣味で選ばれたチーズたち。
小皿にやや結晶化した、花の蜜。]
フィコ・デ・インディアっていって、サボテンの花の蜂蜜。
クセがなくってさっぱりした甘さだから、どのチーズにも合うよ。
アカシアとかの蜂蜜ってちょっと引っかかるみたいな甘さない?
これ、そういうのないから好き。
[あとはチェイサーを入れるのにカラフェとクリスタルグラスをふたつ。ワイングラスもふたつ。
せっかくのチーズだから赤を開けたいなと、いそいそと手を伸ばす*]
[首に腕を回されて、重なる肌と肌。
お互いの鼓動が速くて、可笑しくなる。
どんどんと嵐に溺れて行く。自分を自覚してる。
彼女が俺を名前で呼んで、頭の芯がくらりとした。
表面に張り付けてた余裕が、根こそぎ剥がれそうになって。
寸での所で踏みとどまる。
大事にしたい。優しくしたい。
ああでも、彼女を貪って、俺を刻み付けたい。]
嵐
[囁き声は掠れて重くて、熱を孕んで。
余裕なんて何処にも無かった。]
[それでも何とか、彼女を傷つけないようにと。
指先は丁寧に動かしていたのに……]
…………っ。
[嵐の切ない呟きに、言葉が詰まって。
サイドテーブルを叩くように手をやって、引き出しを漁る。
ゴムの袋を嚙み千切るように開けると身に着けて。
荒い息で喉を鳴らすと、彼女の上に覆いかぶさった。]
もう……
[コツンと額を合わせて。少し息を落ち着ける。
乱暴にはしたくないのに。酷く彼女が欲しい。]
入れるよ。
[掠れた声で囁くと、ゆっくりと彼女の中に身を沈めた。
彼女の強請った奥に届くまで。身を進めて。
全て繋がって一つになった後。
ああ、このまま彼女を酷く揺すってしまいたいと。
足を持ち上げて口付けた自分は、彼女の言う通り意地悪なのかもしれないと、ふと、思った。*]
生ハムのパイ!
[ないし、普通のハムになってしまうのパイ]
黄色いブルーチーズだ。美味しそ。
ああ、確かにアカシアの蜂蜜って流通多いけどクセありますね。
俺はでも蕎麦の蜂蜜も好きです。すごい臭い。すごい臭いチーズと合うやつ。
[サボテンの蜂蜜は初めて見た。
クセがなく何にでも合うと言うことは、製菓業界では難しい。センスが問われる。]
じゃあ白ワインは冷やしておきましょうか。
やった、ジンさんと昼間っから飲み会!乾杯。
[二つずつ並んだグラスに頬が緩む。
目の前にあるのはたこ焼き機だけども]
[赤ワイン。ベリー系の果実味に、チョコの香り。口当たりが軽くて飲みやすい滑らかな味わい。
つまんだチーズに甘さを足す、さらりとした蜜の風味。
ふあああー美味しい!となるけど次々口に入れないように気を逸らして、パイ生地を焼き始める。]
この辺でアヒージョも出来ます。
エビとマッシュルームどっちが──あ、ニンニク買ってない。
[あります?チューブ?
オリーブオイルをたこ焼きのための丸い窪みに注いで、赤ワインをもう一口。*]
シュロプシャーうまいよ。
ブルーっぽいピリッとする感じは弱いけど、香りと旨味と塩気って感じ。
そーなんだよねー。
あのクセのある感じ、主張が強くてなあ。
蕎麦の。一回舐めたことあるけど味忘れたな……アカシアとは別の意味で、クセ強かったって覚えだけある。
クセ系チーズか……ウォッシュのしっかりしたやつとかかね。
[ウォッシュチーズの並びにも、洗いの浅いものを並べたくらいには、あまりクセの強いチーズにも馴染みがない。
どちらかといえばフレッシュな方が好きなくらい。]
このウォッシュはほとんど白カビと変わんないくらいだけど、中とろっとろになってて酒と合う。
[ナイフを入れれば、ゆるい中身が崩れて見える。]
昼酒は大人の味。
かんぱーい。
[グラス合わせた勢いで、赤を一口。
とろけたウォッシュチーズをナイフの先端ですくって、それを銘々皿についと擦り付けてから、箸でつまんでワインをもう一口。
軽い口当たりと果実味、チーズのクリーミーな塩気、それを包み込む渋みのあるカカオの香り。]
あー、うま。
これいいね。
ん? あるある。
ちょい待ってて。
[大蒜は常備している。
冷蔵庫の影に吊るしてあるのをひとつ出して、ひと欠け皮を剥いた。]
潰す? 薄く切る? 刻む?
[ついでにペティナイフと小さめのカッティングボード一つ、テーブルに持っていってしまおう。
なにかに使うかもしれないし*]
ブルーチーズと蜂蜜のパイも作りましょう。この穴で。
とろっとろいいですね。チーズは溶けてなんぼってイメージありマスし。
[ハード系にもお世話になっているけれど。
ナイフの入っていくクリーミーウォッシュの断面を見つめ、見た目だけでご飯が食べられるなって思った。
もとい、断面見るだけでお酒が飲めるな。
お皿につけられたウォッシュチーズのとろとろを箸先で舐める。再度もとい、食べるととってもお酒が進むな。]
んー、刻みます。
[ニンニクを潰してる匂いでご飯が食べられる、違った、酒が飲める。
オリーブオイルにニンニクを入れて、塩、それとマッシュルームも窪みに入る大きさにころんと切って。]
楽しいですね、こうやって自分でアテを作りながら自分で飲むの。
いつも一人でしてたんですか?
[くーっと赤ワインが進む。グラスが空になってお代わり*]
あ、それ最高。
絶対うまいやつだ。
[ブルーチーズと蜂蜜のパイ。その響きだけで味が約束されているのに、目の前にあるのは気に入りの、自分が選んだチーズと蜜。
期待にグラスの傾きも深くなる。]
そーねぇ。こないだのオムレツも結構チーズ入れたしね。
糸引くとろけるチーズっていいよね。
あれさ、加熱して糸引くか引かないかって、油分の量で決まるらしいね。
だから溶けないチーズもバターとか絡めると溶ける。
[言いつつ、大蒜刻む役は請け負おう。
はじめはスライス、重ねて細切り、みじん切り。]
[オイルと大蒜が加熱されてくれば、蠱惑的な香り。]
そーよ。いつもひとりで――っても、こんなパーティっぽいことはしないけど。
チーズ並べて生ハム切るか、あとはスパイス擦り込んで肉焼いたり? あとカレー作ったり。
[キッチンドランカーは思い立ったものを作って食べる。昨今のスパイスカレーブームにも乗った。]
[おかわりを要求されれば、瓶の底を持ってグラスに注ぐ。]
ちゃんとチェイサーで薄めなよ?
酒だけ飲んでるとすぐ酔う。
[カラフェに注いだ水は、ポケットに氷を入れて冷やしている。
チェイサー用のクリスタルグラスも満たしておこう*]
バターとチーズ。悪魔の誘惑です。
あーあのオムレツ最高だった。
[テーブルからはいい香りが立ち込めている。
薄めに重ねたパイ生地は火が通りやすい。そろそろいい色に変わった生ハムとチーズのパイは、可愛らしい丸い形の、たこ焼きサイズ一口おつまみ。ジンさんの皿に乗せた。]
かレーをおつまみに酒ですか?
画面を想像しちゃう。
いつもは一人なら、本当にプライベートな時間を俺にも分けてくれてるんですね。
[口がむずむず。笑みの形になる。]
悪魔だねえ。
だからなるべく食べる量とかは控えるようにしてるんだけど、こう揃うと、無理。
[なんたって今日は酒もあるのだ。最高。
ひとりよりふたり、話相手もいると酒も進む。]
スパイスカレーで酒、いいよ。
カレーって言っても実質ほら、スパイス煮込みだし。
クミンとコリアンダー効かせて、ほうれん草のペースト作って水分飛ばしながら豚肉煮込んで。
[黄金色の丸いパイに、フォークを突き刺す。
サクリと小気味良い音がした。
歯を立てて閉じ込められた旨味を味わおうとし]
あっつ。
[ちょっと性急だった。
けれど断面からは、よくとろけたチーズが覗く。
口の中では、もう生じゃないハムの塩気がパイ生地のほの甘い味わいと合わさって。]
うん、うま。
[言葉は少なくとも、追いかけて減るワインの量が雄弁に語る。]
うん? 俺の料理食ってる時点で、相当プライベートよ。
店じゃやらないからね。
[ふ、とこちらの口元も弓なった。
アルコールは表情筋を勝手に柔らかくする。
店で料理しないのは、ほぼこだわりに近い。
雇っているスタッフに全幅の信頼を置いているから、実質自分が作ったようなものだとか御託は並べられるが。
結局の所、自分に作れない味を出してほしいから、彼らを雇っている。それは目の前の麦も同じ*]
酔うほど飲んだこと、ないんです。
自分の中にモノサシが欲しいから酔ってみたいけど、すぐ、はやだな。
[注がれた水をちょっと舐め。
パイを食べてくれる様子をふんわり笑いながら見た。]
カレー、ああ…
そんなこと言われたら食べたくなっちゃう、デス。
[水分の飛んだ、ほうれん草の旨味たっぷりの豚肉のスパイス煮込み。ご飯がたくさん食べられそう。
プチトマトのパイを引き上げて、熱そうなのでお皿で休んでもらう。]
ふ、嬉しい。
手料理だ。
[切ったチーズを皿に擦り付けるのだって、そう。
店ではやらない提供の仕方。嬉しいんだ。]
マッシュルームのアヒージョも熱そうです。
パン浸して食べ、マス。
[ガサガサとバゲットを出してくる。自分で焼いたものじゃない、買ったやつ。
今日手間をかけたのはパイ生地だけ。冷凍のシートを買ってきてもよかったけど、それだけは。
パイが好きだって彼が言ったから。]
[チェイサーを挟みながらも、ワインは進む。
今度白も出してきましょうか、それとも日本酒?]
はあ、おいし…パイ上手にできてよかった。
加熱したトマトどうして美味しいの……
生でも美味しいのにずるい。
[トマトのパイを食べ。
たこ焼き機ではエビのパイと、ベーコンのアヒージョがゆっくり出番を待つ。
その横には、丸い形のおにぎりが焼かれていた。
焦げ目が付いたら醤油垂らして食べるやつ!**]
はは、かっこいー。
言ってみたいね、酔ったことないって。
ちょい、一回立ってみて。
[平然として見えるけれど、立ったらぐらりなんてことはよくある話。
まあ、麦のこの様子なら心配はなさそうだが。
何事もなさそうなら、ありがと座って、と着席を促す。]
今の時点で何でもないなら、まあ充分強いよ。
飲んだことがないから基準がわからない、ってだけだったら、赤一杯も空けられない子はたくさんいるからね。
[おかわりを要求した上チェイサーも舐める程度なら、下手をすれば覚悟を決めるのはこちらかもしれない。
明日に響かないようにしないとなあ、なんてのは、日が高いうちは考えないようにするけど。]
今日は準備がないからなあ。
『次』かね。
そんときは米でもいいか。
[そうは言うものの、きっと酒も開く。
米だけでは耐えられない身体になっちゃったのよ、俺は。
次の約束は、連綿と続く。]
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