人狼物語 三日月国


45 【R18】雲を泳ぐラッコ

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視点:


 
[見えぬものを
 慮る能力は著しく劣るが
 目に映るものを観察する能力は低くない。

 脳裏に焼き付けるように見つめていると
 哀しげに顰められた眉が
 俺の返答に解けていくように感じられ

 けど、それもすぐに
 気怠そうな雰囲気に飲み込まれていく。



   … ああ  勿論、

           …………おやすみ



[眠りに就く許しを求める声に
 こくりと頷いて
 不慣れな挨拶を付け足すと
 伸ばした手で、軽く頭を撫ぜた。]
 

 
[胸中には大きな波紋が広がっていた。

 眠気に抗いながら
 念を押すように残された呟きが、
 凝り固まった懐疑心を
 さざなみのように洗い侵食して
 じわりじわり…と崩していく。



   (まさか…  全て、本心だった…?)



 無防備な姿をさらけ出し
 寝息を立てる様子は
 俺に身を委ねているように思えて、
 見えぬ気持ちを代わりに伝えてくれているようだ。]
 

  
[信じてしまって良いのか
 揺り起こして問い質してしまいたい、が

 ぐっ、と我慢した。


 無性に守ってやりたくなる
 庇護欲を掻き立てられる様子の彼の
 その両胸には
 自身が打ち込んだ針が鈍く光る。

 紅色の繊細な文様に彩られた
 ふたつの突起は
 腫れ上がっていて
 まだ相当に痛むに違いない。

 その痛みでも引き止められぬほどに
 いや、むしろ痛みのせいで
 疲労が増して

 休息を欲しているのだ。

 自然に目覚めるまで待つことくらい
 俺もすべきだろう。]
 

 
[そうは思うのに
 胸中のざわめきは強くなるばかり。]



   
…… 本当に、 いいのか?




[留めて置けなくて
 溢れてしまった小さな呟きに
 返るのは寝息だけ。

 長椅子の前に両膝を着き
 起こさぬように
 そっと髪を漉きながら、
 これまでの彼の言動を思い返して
 その中に答えを探そうとする。]
 

【人】 二年生 小林 友



  太郎は、少年と友だちになって、
  自分は少年から金の輪を一つ分けてもらって、
  往来の上を二人でどこまでも
  走ってゆく夢を見ました。
  そして、いつしか二人は、
  赤い夕焼け空の中に
  入ってしまった夢を見ました。

  明くる日から、太郎はまた熱が出しました。
  そして、二、三日めに七つで亡くなりました。

  ─────『金の輪』
          小川 未明
 
(0) 2020/10/05(Mon) 14:26:00

【人】 二年生 小林 友


  「ともちゃん、本当に大丈夫?」


[そう青柳が尋ねてきたのは
 また図書館に行こうとした矢先のこと。
 いつもみたいに話しかけるだけじゃなく
 後ろから俺の肩を強く引いて、
 青柳は真っ直ぐ俺を見つめている。

 今更なんだと言うのだろう。
 そんな嫌そうな感情が表に出ていたのか
 青柳の手に力が篭もる。]


  「何かあるなら、話して欲しい。
   クラスメイトとして、友達として」

  ……何も無いって。
  俺は、青柳がどうしてそんなふうに思うのか
  全然分かんないよ。

  「だってともちゃん、前なら俺に
   そんな風に言い返したりしなかった」


[なるほど。さすが周りに目を配れる男。]
(1) 2020/10/05(Mon) 14:26:28

【人】 二年生 小林 友


[強硬な青柳に促されるように
 人気のない教室の空いた席へ腰を下ろすと、
 青柳も俺の隣の席を引く。
 じっと覗き込むような目線から逃げるように
 机からはみ出たプリントの切れ端に
 視線を落として、俺は息をついた。

 何から話せばいい?
 目に見えない女の子と、放課後の図書館で
 便箋越しにメッセージやり取りしてます、
 俺はその子のところに行きます邪魔しないで?
 信じるわけない。こんなこと。

 時間をただ沈黙のために費やしていると
 青柳がそっと口を開いた。]
(2) 2020/10/05(Mon) 14:26:49

【人】 二年生 小林 友



  「俺のね、中学の時のクラスメイト。
   ひとり自殺した子がいるんだ。

   ひとりでいてもなんとも思わなかったし
   そいつが昼休みとかに逃げるように
   図書館とか保健室とか、行くの
   仲間と笑いながら見てた。」


[時々声を上ずらせ、静かに語る。]
(3) 2020/10/05(Mon) 14:27:38

【人】 二年生 小林 友



  「その子が死んだ理由、
   はっきりしないまま終わったんだけど
   ……もし学校で何かあったら
   力になれたかもしれない。
   逃げる道があげられたかもしれない。
   そう思うと、やりきれなくて。

   世の中には、その子だけじゃない、
   悲しいこと辛いことが山ほどあって
   覚えていられないくらいだけど
   もう辛いことが起きないように
   少しでも行動するのは、
   無駄な事じゃないのかな、って。」



[青柳の言葉も、心もひどく真っ直ぐで
 俺はまた何も言えずに口を噤む。

 また長い沈黙の後、俺は考えながら
 唇の隙間から言葉を絞り出した。]
(4) 2020/10/05(Mon) 14:28:16

【人】 二年生 小林 友



  ─────俺には、そんな勇気、ないよ。
  今傍目に死にたそうに見えてたとしても。


[それ以上、何も言えない。
 気まずい沈黙が教室の中に、
 澱のように溜まっていく。
 「そうか」と短く切って、
 青柳は足を組みかえた。

 俺は何か言わなくては、と
 頭の中を必死にフル回転させて……]


  青柳はさ、もし好きな女の子がいて
  その子が、手も届かない遠くにいたら
  ─────どうする?


[つい、そう、尋ねてしまった。]*
(5) 2020/10/05(Mon) 14:34:58
[もしかしたら馬車で連れ去られたなんて見当違いもいいところだったかもしれないのに、無我夢中で足掛かりを追った。
物語として聞けば運が良かった出来事かもしれないが、
傍観者だったなら血の気が引いていたところだ。
無事見付けられたけれども、
尊厳を取り払われて、彼女はずぶ濡れだったし、怯え切っていたから。

腕っぷしが弱くとも、荒事は何度か越えて来た。
己が唯一彼女を守れる存在だと理解していたからこそ、冷静であれたんだ。
常であれば宥めたくなるだろう彼女の泣き顔に気を取られない様にして、誘拐犯たちと対峙した]

[彼女が怖がっているのに、
気遣ってやれたのはジャケットを掛ける迄だった。
義手に刃が入り込み、彼女が叫んでも、何かを思う余裕がない。彼女が教えてくれる敵の数も、情報としてしか考えられない。

背中に泣き声が聞こえたけれど、
返事をする事は出来なかった。
「後で」とも考えられなかった。
余裕もなかったけれど、
現世で伝えたい事は済んだと思ったし、

彼女を守って死ねるなら本望だったから]

[嫌な音を聞き、声を聞き、
忘れたくなる肉を切る感触は、再びナイフを振るう事ですぐに上書きされる。手と同時に脳にもこびりつく様な感触に、叫び出したくなる代わり、言霊を繰り返した。
間違ってシャーリエを襲わなかっただけ、正常だったろう。

けれど、
もうきっと大丈夫だというところ迄その場を血濡れにして、
無事を確認した彼女の行動に首を傾げる。

何でそんな大声を、はしたないですよなんて思って、
ちらっと見えた靴、あれはやっぱりお嬢様のだったんだなんて、
おぞましい記憶の刻まれた脳みそでぼんやりと思う]


  なに……


[泣いているのは怖がらせたからだと思ったけれど、
何を謝られているのかわからない。

深く斬られた右手が痺れて、めちゃくちゃに振り回した腕が重くて、頭が痛くて気持ち悪くて寒くて眠ってしまいたかった。彼女の方が濡れていて、寒いだろうに。

ここで眠ってしまおうと思って、目を閉じる。
……眠るならあの庭がよかったな、と思って、
いや、今回はオレはこれ死なないわ、と、ふっと笑う。
右手にリボンを巻かれた時の事だったけれど、
質の良いそのリボンの感覚は、わからなかった]

[「痛いよね」と、聞こえた彼女の声が最後で、
何も答えられないまま、意識を手放してしまっていた。

後は時折痛みに呻いたり、処置中に何度か目は開いたが、会話や応答といった事は出来ずにまた眠った。
小さな切り傷や打撲等はいくつかあったが、
一番深い傷は右手の手首から肘にかけての裂傷で、
見た目に酷く見えるのは義手の損傷だった。
右手は何とも言えないと医者は言ったろうが、
義手はギリギリ繋がっている箇所を保持する以上の事はできなかっただろうか。
小指と薬指は完全に取れていたので、
別に保管する事になるだろう。

その日は部屋で目覚める事はなかった]

[──唐突に、現世に引き戻された。
部屋はそう明るくはされていなかっただろうが、
目覚めた己には眩し過ぎた。

押し上げた睫毛の下の萌黄に、
彼女の寝転がった頭が映った]


  ………
  ……、………


[おじょうさま、と呟いたつもりの声は、
静かな寝息の様なか細さ。


あぁ……よかった……


彼女の銀の髪が、白い肌が変わりない様で。
安心し切った脳がまだ眠れと強制的に瞼を下ろす。
最初に目覚めたこの時は、彼女にも気付かれなかっただろう]



  ──ッ う………


[次に目覚めた時、瞼を開く前に感じたのは痛み。
右手に走る激痛に顔を歪めながら、ばちっと目を開く。
何日も眠っていた様な気怠さがあったが、
実際には今は翌日だっただろう。
彼女の姿はそこにあっただろうか]


  お嬢様…… 無事か……?


[いなければいないでも、一番の気掛かりを部屋に独り言として呟く。
あの後どうなったかわかっていなかったものだから、
無事な姿がそこにあったって、
心に傷を負ってやしないかと心配で]



  ……あぁ、オレのが駄目か、これ……

  何で、右手………


[包帯の巻かれた腕は焼ける様に痛むのに、
手首から先が動かない事に眉を歪める。

医師を呼んで痛み止めを打ってもらったり調子を伝えてから、「右手は動かないかもしれない」と告げられれば、「そっか」と力なく笑った。
心配はその事実故のこれからの事より、
シャーリエが気に病まないか、だった。
医師の話はシャーリエも聞く事を許されただろうが、
彼女はその場にいてくれただろうか。

痛み止めで落ち着いたのちに、
自分の話より、彼女の話を聞きたがった]


  怪我ってしてませんか?
  あれから、怖い事はなんもないですか?


[多分一番聞きたい事はこれだっただろう]

[それから、
勲章を頂ける事になった事も聞けるだろうか。

お嬢様はオレの事怖くはなかったかなとか、
領主様はオレが人を惨殺したのは知ってるのかなとか、
それでも「よくやった」って思ってくれてるのかなとか、
後ろめたい気持ちでもって、人を殺した感触に蓋をしたが、
辞退をする事はなかった。

寧ろ、]


  光栄です。


[と、はにかんで受け取った。
己がした事というより、彼女が生存している事をこの世が肯定した証の様に思えたから]

[それからしばらくは療養で日を潰しただろうか。
右手に関しても義手に関しても、
特に自分から何か要望を訴える事はなかった。

痛みとおぞましい記憶に唇を噛みながら、
聞こえていた訳でもないのに、
彼女が寝床で呟いた事を
窓の外を眺め、考えていた。*]

【人】 二年生 小林 友

[少しの沈黙の後、]


  「遠距離、的な?」


[青柳はううん、と唸って腕を組んだ。
 もし、俺が「いや、異世界の子」って言ったら
 今度こそ可哀想な奴扱いにされるんだろうか。
 それとも、青柳はそれでも俺を
 見捨てずそばに居てくれるのか。]


  「俺なら、ちゃんとメッセージ送って
   「逢えなくても好きだよ」って
   相手がちゃんと分かるように伝える。
   それでも会いたかったら……
   俺も会いに行っちゃうかなぁ。」


[少し照れくさそうに笑って。]
(6) 2020/10/05(Mon) 19:01:03

【人】 二年生 小林 友




  「てか、遠距離の話とかだったら
   恋バナ、全然聞くからさ。
   ……あっ俺すごい深刻な話しちゃった?
   だとしたらともちゃんめっちゃゴメン!」


[謝り出す青柳を宥めて
 俺は内心、今の言葉を噛み締める。

 例えば、今図書館に向かっても
 いるのは菜月の影で、俺は手を繋ぐどころか
 声も、顔も知らないんだ。
 他のカップルが当たり前みたいに到達してる、
 その出発点にすらいない。

 会いに行くにはどうしたらいいんだろう。
 俺はもう、そればっかり考えていて。]
(7) 2020/10/05(Mon) 19:01:32

【人】 二年生 小林 友




  青柳、聞いてくれてありがとう。
  ごめん、俺なんかの恋、バナ……?
なのかな

  つまんない話だったと思うけど、ホント。


[にっこり、出来る限りで微笑んでみせて
 俺はカバンを手に図書館へ向かう。

 今度は、青柳は咎めなかった。]
(8) 2020/10/05(Mon) 19:02:00

【人】 二年生 小林 友



[そうして、図書館の宵闇の中
 俺は菜月と逢瀬を交わす。]*

 
(9) 2020/10/05(Mon) 19:02:25
──鈍色の球体5──

[ランドセルを背負った子供が屋敷に帰ると、
部屋の扉の前に箱が置いてあった。
毎年同じメーカーの同じ箱。
この箱を見て、子供は今日という日を思い出す。

開けば中には、栗のケーキが入っている。
メッセージは何も添えられていない。
子供は一旦箱を閉じると、電話を取り、覚えてる番号にかけ始めた。]

……今年も……誕生日ケーキ…ありがとう……ございます…。
……冬の…お母さんの誕生日には……帰って来て貰えたら…嬉しいです…。

[会社を切り盛りする立場として多忙を極める人。
物心ついた時には、もう会社の近くに部屋を借りて、
毎日屋敷に戻ってくることは無くなっていて。
用が無ければ掛けてはいけないと言い聞かされ、
今日は母の事をお願い出来る日。
生憎と、叶ったことはなくとも。


着替えて身なりを整えてから、
箱を抱えると、日課の離れへと足を向けた。
ケーキは栄養の必要なその人に箱ごと渡してしまっている。]*

 
[最も印象に残っているのは
 思い浮かべるだけで
 心揺さぶられて仕方ない、あの微笑だ。

 綺麗だと心からの賛辞を送り
 両手で頬に触れた後のことだった、と思う。

 確か、この手で
 貴方の美しさをもっと際立たせたいと
 素直に伝えてしまった時も
 柔らかい表情で頷いてくれていた。


   (俺に触れられるのは、嫌じゃ…ない?)


 そういえば、
 怒りに我を忘れて
 聞く耳を持っていなかったが
 俺の腕や技術も買ってくれていた気がする。

 自宅を訪れてくれた、あの日も。
 そして、今日も。]
 

 


   (期待して良いのだろうか?)


 甘い未来に気持ちが傾けば、
 バランスを取るように
 今度は、泪を溜めた表情と震え声が
 脳裏を過った。

 何故あんなにも辛そうで
 怯えた様子だったのだろう?]



   …………



[分からないと言えば、もうひとつ。]
 

 
[内蔵を傷つけられたり
 下手をしたら死に至る針の混入よりも
 肌を傷つけられることの方を
 恐れているようだった。

 針で貫いた時も痛みより
 醜くなった、壊したと
 見目の変化に酷くショックを受けていて

 あれほどまでに返さないと
 言い張っていた標本すら
 相応しくない、と
 あっさり手放そうとしていた。


 確かに、彼の美しさは
 比類なき素晴らしいものだから
 大事にしたい気持ちは、よく分かるけれど……


 ──命よりも?


 じっと寝顔を見つめる。]
 

 
[命と美しさ。

 どちらも尊いものだけれど
 優先順位をつけろと言われるなら
 命に決まっている、と
 自分は思う。


 けれど、貴方は違うようだ。

 どうしてなのか
 何故なのか
 理由があったりするのだろうか?]


   …………


[あの時も疑問は過ぎった。

 けれど、
 我儘な怒りに任せて
 尋ねる機会を逸してしまっていて

 俺は貴方のことを
 何も知ろうとしていなかったのだと
 思い知る。]
 

 
[この青く美しい瞳が
       再び開いたら────…


 本当に、ずっと
 俺の手の届くところに
 居てくれるのかどうか?も含め

 貴方のことを
 色々と教えてもらおう。]
 

──鈍色の球体5───

[子供は元より冷めていた。
笑いもせず、泣きもせず、子供らしい子供ではなかった。

可愛がられないのも慣れていて、
親戚達の対応も当然の事だと思った。
彼らは自分達の家を守ろうとした。

誰にでも拙い敬語を使いながらも、
同い年の子供のからかいには強く静かな視線を向ける。
気にならなかったのが真相、
子供達はつまらないと他の面白いものを探す。


守ると早くに決めた心が子供を強くした。
空洞を含む強さであっても、他の強さは知らず、歩み続けた。]*

―― 事件の翌日 ――
[まだ暗いうちに目を覚ませば、
今までと同じように自分の部屋の天井が見えた]

[事件が起きたのは昨日のこと。
その日はリフルの眠るベッドの隣で夜を明かした。

今日はご飯だって執務だって、
全部、けが人の部屋に持ち込もうとするものだから
メイド長直々に引き剥がされた。

仕事もご飯も終わらせて、枕を持ち込んでいたところを
今度は侍女に見つかり、
医者に任せてくださいって閉め出された]


 ……みんな、いじわるね

[夢の中で誰かにされたように、両手で私を抱きしめた。
私がいたって役に立たないのだから、
彼に負担かけないように。
……そんなの解っています]

[事件の日は「私のせいでリフルが死んだらどうしよう」
そればかり口にしていたせいか、
お父様が勲章を贈ることを決めてくれた。
『彼はよくやってくれた』と言ってくれたけれど、
目を覚まさない彼を誇る気持ちにはなれなくて、
ベッドのそばから離れられなかっただけです。]

[今日は見張りをつけられながら1人で寝たもの。
窓から脱出するのは思いとどまったもの]


[今日は仕事の合間に仕事を増やした。
カードックの義手技師にリフルの義手の状況を送って、
指示を願って駿馬を飛ばしたのだ。
きっと、こちらに向かっている王子とお連れさまに
文を持ち帰っていただくのがいいのだろうけど、
王子様を待つ気はもうなかった。]

[こんこん]

 『遅くに失礼します、お嬢様。
  リフルが目を覚ましましたよ』

 ほんとう!

[彼が気がついたら何時でも知らせてと
お願いしたとおりにドアが鳴った。
ネグリジェにガウンを羽織ってドアを開け、
ノックしてくれた侍女の横を抜けようとしたら捕まった]

 『今は医者が看ております。
  お嬢様はせめて着替えてからにしてくださいませ』
 

[こんこん]

 リフル、シャーリエです。
 入りますね。

[早く着替えられる街着でまたこの部屋に戻ってきた。
起きたその場に居ることはできなかったけれど、
リフルのおかげで無事です、ありがとうって伝えるのが一番。

お医者様に痛み止めを打たれるときのしかめた顔には、
私の方が唇を噛んだ。
右腕の話を聞いたときには、ああって手を組んだ。
顔だけ笑ったリフルの隣に椅子を置き、
お医者様の注意を一緒に聞いている。

侍女がお医者様を見送りに出て行く。
お嬢様、今日はお部屋で寝てくださいって念を押されたけど
何にもいえずに2人を見送った]


 ……リフル……
 ごめんね、酷いことさせて、
 痛い思いさせて、ごめん

 助けてくれて ありがとう
 私はどこも平気。

 ……リフルが目を覚まさないんじゃないかって……
 怖かった、こわかったの

[怪我はしてないって頭を振ったのに、
怖いことはと聞かれて、右目をこすった。
捜査が進んでいる間、警備は厳重で、
私は外出禁止を命じられてるから大丈夫。
簡単に現状を説明する。
三人組を雇った奴は捕まって、
黒幕を吐かされている最中だから、
すぐにも解決すると思う。]

 だから、私は大丈夫。
 リフルが心配だった……

[今度は左目を拭った。
リフルは泣いてるのを隠すことも出来ないんだ、
私が泣いてどうするの]

[勲章を渡す話もしなくちゃ
リフルが堅苦しいのいやがるのは知ってるから、
誓いの議はやらないことになるだろうと伝える]


 よく頑張ってくれました、騎士さま。
 あなたに不自由がないよう尽くすのが
 あなたの働きへの感謝のしるしです。

 ……義手の先生も呼んだからね。
 休んで元気になってね

[血生臭い悪夢はまだ彼を捕らえているのだろうか。

花瓶ごと持ってきていた中庭のバラを、
サイドテーブルに飾る。
私の部屋にあったのをそのまま持ってきた]


 また、明日来ます

[窓の外を見る横顔を見る。
生きていてくれて良かった、話してくれて良かった。
今はそれだけでいいって思って、後ろ手にドアを閉めた]

[私を見るでもなく、お医者様を見るでもなく、
どこかに向けられた顔を見ているとなにも言えなくなる。

それから抱きついて泣きたいのを我慢する数日が過ぎた*]

 
[そんなことを考えながら
 乱れていた金髪に指を通していけば
 手入れが行き届いているのだろう
 するりと簡単に整って、艷やな流れを取り戻す。

 ひとつ美しくなれば
 そうではない箇所
 膝下で蟠ったスラックスが気に掛かり

 眠りを妨げぬよう気を付けつつ
 反対の足首からも鎖を外して
 レースの下着と、拘束具以外を取り除いていく。]


   ん…?


[先程よりも、脚が重く感じるのは
 眠っているからだけじゃない。
 脱がしやすいように
 手伝ってくれていたからなのだろう。
 

―― 数日後・怪我人の部屋 ――
[彼と買いに行ったピアノ譜をなぞって
頭の中で鍵盤を鳴らす。
リフルに聞いて欲しい気持ちと、
私も曲を作りたい言う気持ちが混ざって、
何度も同じフレーズを弾いている。]

[今日も当たり前のようにお見舞いに居座っている。
お医者様でもない私が役に立つことはなくても、
人を呼んで助けを求めることくらいはできる。
あのときみたいに、リフルの側に居たがった。
そのくらいには気持ちを持ち直したとも言える]

 騎士さま、お加減はいかが?

[そういって花瓶の水を換えるのだ。
バラの向きを気にする振りをして、彼の顔を伺うのだ]

[話しかけるには塞ぎ込んでいるようなら、
話さずに出て行こうとしたけれど、
今日はどうしても言っておきたい事があった。]


 リフル、あのね。
 ……私、王子様のお話、お断りすることにした。

 かわりに頑張って国を支えようって思ったの。

 


 へんな話してごめん、
 ……また仕事終わってからくるから

[きびすを返した顔は
傍目からも赤くなっているのがわかるだろう。
そのまま出て行こうとして、
ドアの押し引きを間違えて顔をぶつけてた**]

 
[言葉どおり
 全部見せてくれようとしていたのだと
 期待してしまう自分も居る。

 けれども、油断させるためという線を
 どうしても消せないのは


   (………きっと、これのせいだ、)


 チャリ、…

 外したチェーンを持ち上げる。


 こんなモノでは
 貴方の体は繋げても
 心まで縛ることは出来ない。]
 

 
[椅子の上にまっすぐ伸ばした
 白さと長さが際立つ脚を
 ぬくもりが移るくらいのゆっくりとした速度で
 惜しむように撫で上げて

 それから、レースの上を
 へその窪みを
 紅の模様を崩してしまわないように
 避けながら胸を遡り

 俺にはある喉の突起を
 探るように首を滑らせてから

 最後にまた、頬をふたつの掌で包み込んだ。]
 

 
[眠り姫に口づけて起こす絵本など
 見たことも読んだことも
 まるで無いまま、虫に狂って育った男は]




   ずっと…、居て、 俺と




[不器用に望んでから
 下着とお揃いのレースの手袋を切なく見つめつつ
 残った2本の鎖も外して

 ただ、静かに
 その目が開いて
 また自分を見つめてくれるまで、待った。]
 

【人】 二年生 小林 友



  天使でありますから、たとえ破られても、
  焼かれても、また轢かれても、
  血の出るわけではなし、
  また痛たいということもなかったのです。
  ただ、この地上にいる間は、
  おもしろいことと、
  悲しいこととがあるばかりで、
  しまいには、魂は、みんな青い空へと
  飛んでいってしまうのでありました。

     ─────『飴チョコの天使』
            小川 未明
(19) 2020/10/06(Tue) 9:44:54

【人】 二年生 小林 友

[その日の逢瀬で、菜月と一体何が話せたろう。
 けれど、夕方の束の間の時間なんて
 俺達にはちっとも足りなくて、
 俺は家に本を持ち帰って、
 話し足りない続きを書こうとした。

 何でも菜月は打ち明けてくれて、
 柔らかくて繊細な心をひた隠しに
 仲間や家族に笑ってみせた、その裏まで。]
(20) 2020/10/06(Tue) 9:45:53

【人】 二年生 小林 友

[出来るだけ近くで彼女の気持ちを聞きたくて
 影に寄り添い、声に出す。

 ─────ああ、悔しい。悔しいなあ。
 もっと触れたい、近くにいたいのに。

 便箋を書いては消して、書いては消して。
 今までのやり取りは頭の中。]
(21) 2020/10/06(Tue) 9:47:24

【人】 二年生 小林 友

[そんな扱われ方をした便箋が……
 もう、裏なんかセロテープが無いとこの方が
 珍しいくらいになっているそれが、
 こうなる事なんて、分かっていたはずなのに。]


  ─────……あっ!


[何となく書き添えた、赤いハート。
 恥ずかしくなって消そうとしたら、
 びり、と音を立てて便箋が裂けてしまった。

 慌てて学習机の上に手を伸ばして
 セロテープを取ろうとしたら、
 手も触れていない便箋が、びり、びり、
 もう耐え切れないのだ、と言わんばかりに
 ひとりでに千々に切れていく。]
(22) 2020/10/06(Tue) 9:49:07

【人】 二年生 小林 友



  
ちょっ、えっ、待ってよ!



[慌てて便箋を手で押えても、手の下で
 容赦なく紙は裂けていく。

 たとえ破られても、
 焼かれても、また轢かれても、
 血の出るわけではなし、
 また痛たいということもなかったのです。


 この紙が無くなったら、菜月に逢えない。
 いやだ、いやだ、嫌だ!
 焦る俺を他所に、
 シャーペンと消えるインクの跡を刻んだ便箋は
 もう飛ばす寸前の紙吹雪みたいになっていて。

 ただ、この地上にいる間は、
 おもしろいことと、
 悲しいこととがあるばかりで、
 しまいには、魂は、みんな─────
(23) 2020/10/06(Tue) 9:55:46

【人】 二年生 小林 友

[ともかく、セロテープで繋いでしまえば……
 そう思って、紙から手を離した矢先。


 細かく千切れた便箋たちは、
 たちまち真っ青な
へと姿を変えて
 窓の外へと飛んでいくと、
 まんまるなお月様の方へと
 飛び立っていくのでした。]
(24) 2020/10/06(Tue) 9:59:36

【人】 二年生 小林 友

[行く手に美しい星の光る空を仰ぎ
 窓から身を乗り出すようにして
 俺は一人、大きな声を上げて泣いた。

 「さびくて、しかたがない!」


 真っ青な蝶の昇った空には
 ただ青ざめた顔をした月が
 黙って地上を見下ろしていた。]*
(25) 2020/10/06(Tue) 10:05:32
 


   ――……、……
はぁ



[目蓋を持ち上げ、真っ先にしたことは
 まだそこに居てくれた彼を二つの瞳で捕まえて
 安堵の吐息を漏らすこと。

 それから、穏やかに微笑いかけ]
 

 

   ……!


[手が自然に彼に伸びて気づく。
 枷はそのままだが、鎖が外されている。

 彼が外してくれたのだ。
 ……、信用してくれたのだろうか。

 手袋を外し、引き締めた腹の上に置くと
 改めて彼へと生身の手を伸ばす。]
 

 
[拒まれなければ片手を頬に添え
 親指が輪郭を撫ぜるだろう。

 生きたひとは温かい……、なんて
 当たり前なことを識りながら。]



   ……ずっと一緒、だよ
   治人が手放さない限り、ね



[聴いたのは果たして夢か現か。
 判らないけれど、何度口にしても良いと思う。
 信じて貰えるその日が来るまで――、
 来た後も、貴方の隣で命在る限り、何度でも。]
 

 
[それから、
 話すことが許される雰囲気なら
 ひとつ願い出るだろう。]



   仕上げて貰う前に
   逢わせたいひとがいるんだ

   ここを出られたら……

     僕の家に、来てくれる?



[勿論、海外である。
 明日にも……、という訳にはいかない。
 都合を訊き、数日の後に招待することになるが
 貴方はそれを許してくれるかな。**]
 

[眠っている間に施された処置は目覚めた時に説明されただろうが、傍で寄り添ってくれていた彼女の事をわざわざ教えてくれる様な人は居なかったか。
侍女の意味ありげな言葉も聞こえてはいたが、
そこから思い至れる迄はいかなかった。
それより、彼女が生きてそこにいる事に感謝したものだし。

扉を開けて入って来た彼女の顔は
嬉しそうというより、心配そうだった。
手の痛みから、己はただ疲れて眠った訳ではないと理解していたし、そりゃそんな顔になるんだろうけれど。
豪華なドレス姿でない事にはちょっと疑問が浮かんだが、口にする事はなく。
医者の話を一緒に聞けば、彼女の方が怪我人の様な顔になった。
それでも椅子に座って、隣にいてくれた]


  そっか。
  よかった。


[謝られたけど小さく首を振って、
彼女が大事なくて、今も安全を守られているとわかれば、医者に言った「そっか」とは違い、ほっとした様に笑う。
ほぅ、と強張っていた身体がひとつ、解ける気持ちだった。

「怖かった」「心配だった」とも言われたし、
涙を拭う様な仕草も見られたけど、
「ごめん」と返すとまた彼女を気に病ませそうだったから、微笑んだままでいた]



  ぁはは、
  ご配慮痛み入ります。


[勲章の話では、
そもそも誓いの儀なんてあるのかと苦笑もした。
「騎士さま」と呼ばれれば、はにかみからもう少し頬が染まる様な笑みになった。
色んな感情に振り回されるが、
日常の匂いに近付いて、悪くない]


  騎士、ね……
  くすぐったいですね。


[「義手の先生」と言われて、ちらりと義手を見遣る。
ちょっとくっつけるだけの前回と違って、直るんだろうかと疑問に思うが、ひとまず彼女の前で考え過ぎるのは止めようと思った。

彼女の持って来てくれたバラに礼を言って、
「また明日」と言ってくれる彼女に、
いつも通りのリフルの顔で頷いた。

彼女が静かに扉を閉めた後、
しばらく扉を見つめて、それから花瓶のバラを見つめた]

[この花の様に、ただ人の心を和ませられる存在であればどんなに楽であるだろう。

義手の繋ぎ目がかゆくなる迄眺めてから、
ゆっくりと枕へ頭を預けた。
掻けない、辛い。唇や舌をぎゅ〜〜と噛んで耐えた。

痒みを押さえ付ける痛みに、
バラにも棘があんじゃん、傷付ける事もあるじゃん、と気付いて目を伏せた。
思い出したくない事を思い出しそうで、
無理矢理眠った。

己がなるのは花でも駄目だ]

[それから何も変わらないまま数日が過ぎた。
否、変わらないのは両手の状況だけで、
他の痛いところは目に見えて回復していった。
うなされる様な悪夢だって、時間が少しずつ薄れさせてくれた。

傷跡が薄くなるとシャーリエも気付いて喜んでくれたろうし、
暗い表情を隠せない事が少なくなれば、
それも彼女の心を軽く出来ただろうか。

彼女の方も、
自分自身の問題を超えていった様な、
少しさっぱりとした様な、穏やかな顔をしていた。]


  あぁ……
  まぁ、気分は良くなったよ、大分。


[両手は未だ動かせないものだから元気とは言い難かったが、気持ちは日差しがさしてきたものだから、正直にそう答えた。
花の水を取り替えるなんて侍女がやる様な事をする彼女は何度見ても慣れないが、居心地の悪い光景ではない。
彼女がこっちを窺ったなんて気付かず、
目が合ったと思ったから、「ありがとう」と笑った]

[日常会話もこなせる様になって、
徐々に自分から会話も振る様になっていた。
「ユージーンって元気?全然顔見せに来ねぇ」とか、
(彼は血とか痛そうな事が苦手らしい)
最近出されたデザートが美味しかったとか、
そんな当たり障りのない話題だったけれど。

そうやって徐々に日常を取り戻していたからか、
彼女の話を落ち着いて聞けた]


  そっか。
  まぁ、お嬢様なりの、
  お嬢様が考えた支え方で
  良いんじゃないか?


[応援する、と見つめたまなざしで頷いた。
王子と婚姻を結ぶ以上に効率的な方法があるのだろうかとか、
難しい事はわからないが、
彼女は心優しく、又賢い人だ。
きっと国をよい方向に導くだろうと信じられるから、
彼女の味方であろうと思った]



  ……いいや。
  待ってます。


  ……気を付けて。


[謝る彼女に首を振って、
顔が赤いのも気付いて、
移りそうになって、

顔を伏せようとしたけれど、
出て行こうとした彼女が扉にゴツンしていたから
思わずそんな言葉を投げた。

彼女がいなくなって一人の部屋で、
これ迄考えていた事を、また一人考えた。

ちょっと深みにはまって、
彼女が数時間後訪れた時は、うっかり寝てしまっていた。
ノックの音で起きるだろう]


  お疲れさん、お嬢様。


[そう迎える顔は、いつも通り。
お疲れだろうから、と、すぐに先程の続きへ話を持って行った]


  ありがとう、お嬢様。

  オレもあんたの事を大事に思ってる。
  いつ死んでも良いって思ってたけど、
  あんたを守って死ぬなら
  それってスゲェいいなと思ったし。

  あんたの為なら人も殺せた。
  これからもきっと、
  同じ様に身を投げ出せると思う。

  でも、きっと
  あんたが言う「大事な1人」は
  オレの言ってるのとは違うんだろ?


[先ほど口付けを受けた右手は布団の上に出していて、
彼女から視線を逸らせばすぐに目に入った。

そこへしばらく縫い留められてから、
もう一度彼女へ視線を戻す。小さく息を吸った]



  オレは旅人なんかじゃない。
  貴族も平民も屠ってきた 盗賊なんだ。


[生まれながらにそうだった事、
犯罪に役立てる為に義手をつけられた事、
沢山の人を苦しめた事、
仲間内で揉めてあの庭に辿り着いた事を話した。

シャーリエという女性は本当に見た事がない事と、
本当は盗賊業は嫌だった事、
この屋敷で真っ当に働けて嬉しかった事も話した]


  ……盗賊だからあんたの気持ちを
  受け入れられないって話じゃねぇ。

  オレは あんたを想っているし、
  もう役には立てないかもしれねぇけど、
  騎士でありたいと思うよ。

  オレにはこれが最上の気持ちなんだが、


  ……あんたには「そこどまり?」
  ってなるのかもしんねぇな……

 



  ……なぁ。

  オレが盗賊だったから、なんだが、
  やっぱりオレがこの国から出たいって言ったら、
  あんたは止めるか?


[ 「戻って来る」
そう萌黄の瞳には意志を湛えるが、口にはしないまま。

これ迄の話で軽蔑されようと、
彼女へ向ける顔は、いつも通りだった。*]

[彼が起きて、話をして
部屋に帰って、ベッドに戻って。
安心したのと悔しいので
顔がぐちゃぐちゃになるまで泣いた。

この部屋から居なくなったバラのように、
ただ見守ることなんてできそうにない。
恐ろしいいばらになって、
リフルを傷つけて絡め取ってしまいたい。

そんなことを思った自分にまた泣いた。

だめだ、しっかりしないと。
お姉さまがいない今、私が姉なんだから。
枕をきつく抱いて腕が痛くなるまで、私を励ました。

いつの間にか泣き疲れて眠りに落ちた。]

[リフルの部屋になってしまった病室では、
友人の話やデザートの話、
白いリコリスが咲いた話、昨晩は寒かった話……と
庭のお茶会が戻ってきたようで、小さな勇気をもらえた。

バラ越しに彼の笑顔を見て、
やっぱり綺麗な人だなって胸がおかしくなった。
不快なものではなかったので、照れくさく笑い返した。
――その翌日、お父様に縁談をお断りすると告げたんだ。]

[笑ってくれるから手を取った。

胸の高鳴りは1人ではどうしようも無かったんだもの。
また庭であなたとお茶したかった。
王子様よりも私の心に入り込んできたのはリフルだったんだもの]


[仕事終わりに帰ってきた部屋で、
まだベッドから降りないリフルに迎えられた

このまま動けなくなるなら、いっそ都合がいい。
私のために傷を負ったのだもの、私が看てなにがおかしいの。
彼に守られた私と彼の世話を焼く私で、お似合いじゃない……。


笑顔の下に何もかも隠して、お断りを甘んじて受け入れた。

私のために死んで欲しくない。
そう口にしようとして、爆弾をねじ込まれた。]

[リフルが賊だったことも、罪を犯したことも、
義手の役割も大人しく聞いた。
きっと消化し切れてなんかいない。
彼が帰るところを持っていないことだけ理解して頷いた。

庭に倒れていた理由も、お姉さまを知らないことも聞いて、
ここの暮らしが嬉しかったと言われて目頭を拭った。

「あんたを想っている」「騎士でありたいと思う」
荒っぽい2人のときの言葉で綴ってくれるのが嬉しいのに、
喉に詰まった声は涙になって出てこようとする。

……だって、私たち釣り合わないって言われてるんでしょう?
だから出て行くって言うんでしょう?

他の可能性なんて考えられないくらいに、
楽天的な私を打ち砕かれた。

行かないでってすがりたかった。
私もいくって全部捨ててしまいたかったけど、
それには私の負ったものは重すぎた。
領民もお父様も臣下も捨てた私は、
彼に並び立つこともない大罪人になる。

……結局、リフルと同じにはなれないんだ]


 ……私を守って死ぬような騎士ならいりません。
 騎士なら私の居ないところで死なないでください。
 必要なら手の修理してからにしてください。


[鼻声にならないように、背筋を伸ばして彼を見る。
まっすぐにこちらを射抜く萌黄色に、
ちゃんとしなくちゃと碧の視線を向けた。]


 ショックはショックですよ、
 私も盗賊だったらリフルに付いていけたのかしら
 なんて考えるくらいには。

 …………。

 お姉さまにはあなたが望むようにって言われるんです。
 お父様にも、お前が決めなさいって言われたんです。
 私もそうなりたかったから務めを果たします。

 あなたがどこに居ようと、私たちの感謝は変わりません。
 お気をつけて。私の騎士さま。
 助けてくれてありがとう。
 ここに来てくれてありがとう……
 


 お元気で、になるのかな

 ……また、ね


[また明日もふつうの顔で現れたいし、
見送りの場にもなんとか出て行くつもりだけど、
今は1人になりたい。
彼にだけは泣いてるところを見せないようにしたいって、
ピアノの部屋に逃げ込んだ**]

[暫く球体の手入れをしていた少年は、
思う所があったのか、また顔を上げる。
手元に自ら球体を作りながら、彼に視線を向けた。]

本来は、貴方の意思を尊重するのが、
俺の意志でもあるのですが。
ここは俺の夢の様な世界ですし、
好きな夢を作り出してもいいでしょうかね。

[独りごちるように言って、一度更に上を見上げ。
僅かに微笑んでから、
柔らかそうな球体を先程と同じように押す。]

月明かりのもとで気付くのは随分と時間がかかりそうですから。

…起きた時に忘れるかは、貴方の自由です。

[1つ対処法を告げて。
作られた球体が当たると、選択肢は浮かばずに、
彼の視界を染めていく。]

[そうして気付けば砂埃の舞った地に戻っていただろう。

彼の様子がどうであれ、何処か満足気に、
少年は手入れを再開していた。]*

──鈍色の球体6──

[乳児を少し抜け出したくらいの小さな子供が、
黒髪の男の前でこてんと頭を傾けた。]

あきらは、あきらっていうです?

[なんで?どうして?と目につくもの全部に興味を持つ頃。
そんな子供が今日気になったのはよく言われる名前。]

“ああ、秋生まれの良い子で、秋良だ。”

あき?よいこ?

“何時も食べてる黄色いのが美味しい時期だよ。”

あれがあきです?

“あれは栗だな。”

あきらはくりら?

“秋良は秋良だ。
良い子はこの本に出てくるような子だな。
人々の色んなお手伝いをしてるんだ。ん…”

[男はポケットからの電子音に気付くと、
動物達や家族の手伝いをする絵本を指差し幼児に読ませ。
自分は携帯を取り出しメッセージを読み始めた。]


[男はほんの少しの空いた時間を幼児に当てたものの、
継いだばかりの会社は多忙を極めていた。
何時呼び出されてもおかしくはない。
すぐに仕事場にとんぼ返りする事になれば、
家に戻ってきたのは失敗だったかと男は息を吐き。]


“良い子にしてるんだぞ、秋良。”

はーい


[絵本の真似をした幼児の返事を受けながら、
男は家の者に教育を受けている妻に会う事もなく、
屋敷を後にした。

誰も覚えていない、
まだ物心がつく前の話。]*

[彼女が一人泣いた日がある事も知らず、己の思う淑女からは想像できない様な気持ちを持った事も知らず、
彼女が見舞いに来てくれる事を、
ただ毎日喜んだ己は浅はかだっただろうか。
彼女が生きて過ごしている事に、小さな幸せを見ていたんだ。

同じ気持ちならよかったと、
思うのはお互い様だろうか]


  ──………


[生に執着しない己に、
彼女の言葉は生きる理由をくれた。

普段ならハイハイと聞き流していたかもしれない。
けれど、いじらしくも凛とした姿で告げる言葉にこの身は内で反応を示した。
静かで穏やかでありながら己の胸を深く刺して、溶けて、時間をかけて同化していく言葉だった]



  ……うん。


[その言葉には頷かなかったのに、
続く言葉には微笑んで頷いた。

もしもオレが彼女と同じ気持ちで、
盗賊であった事への負い目も小さければ、
一緒に行こうって攫ったのかもしれない。

けれど同じ気持ちだったとしても、
きっとオレはそうしなかった。
姉妹二人共攫われる事になるこの屋敷の事を考えてしまうから。

彼女が自分で自分の道を決められるのが良かったと思う。
縛られている部分もあるかもしれない。
以前、「こういうの向いてない」とヒールを投げていた事を思い出す。けれど、彼女の心の奥底迄はわからない。
彼女が目指すものがあって、そうすると言うのだから、
応援する以外の選択肢はないだろう。
彼女がオレにそうしてくれるのと同じで。

オレには 彼女の「ありがとう」で
十分過ぎるくらいに十分だ……]



  ……はい……。


[何も言えないまま頷いた。
両手の怪我を言い訳に、彼女の後を追う事もなかった。
追ってどうする、とも思う。
彼女に掛ける言葉も持っていないのに]

[彼女が去ってしばらくして、ぽっぽと顔が熱くなった気がした。
照れているからではない、と思う。
知恵熱でも出ている様な気分。

そんな己が、外の空気にあたりたくなったのは当然と言えば当然か。のろのろと起き上がって肘を使ってドアノブと格闘して
扉を開ける。開けられんじゃん、と己を詰る。
ガチャン!と思わぬ大きな音がしたが、廊下を見渡しても誰もいなさそうだ。寝てろと咎められるのが面倒だったから、都合が良かった。

足は無事だから歩けたけれど、
鈍っている事を痛感する足取りで、
無意識に向かったのはあの庭だった]


  ………


[庭に出て、ちょっと歩いたり寝転がったりしたかったけれど、
もう出て行くと告げたんだから、
ここにいるのは相応しくないと、
少し空気を吸っただけで退散した。

そこは夜の澄んだ空気がおいしくて、
火照りも一瞬で静まった気がした]

[流石に治療が済まないまま出て行く気はなかった。
我が儘を言って申し訳ないと領主様達には頭を下げたが。

右手は動かないままでも、
左手の指はなんとかくっつけてもらったか。まだぎこちない動きになるのは、ここで出来る事が限られていたからだろう。

この屋敷を出て、
行先は、盗賊団が次に向かう予定だった国、それから、
今迄荒らして来た町や道や家だった。
そこ迄は、出自を明らかにしたシャーリエにしか教えず、
表向きは「義手を完全に直す。できれば右手も治療法を探す。ついでに慈善事業をします。戻って来るかはわかりません」と言って屋敷を出ようとした。
資金は今迄の給料では足りないだろうけれど、
まぁ考えはあるので何とかするつもり。
それより、最初は一人で生活は難しいと思ったので、
誰か人手を貸してほしいとは願い出ただろう。

それから、]


  お嬢様、
  オレが旅立つ日には
  お嬢様のピアノを聴かせてくれませんか?


[彼女がピアノの部屋で泣いていた日から二、三日後にそう乞うた。
だって聴かせてくれると言っていたもの。
厚かましくても、おこがましくても、
彼女の好きなピアノの音を、貰って行きたかった。**]

[キス、してしまった。好きだと全部明かしてしまった。
これから離れる人になにをしているんだろう。

しばらくピアノ部屋からメロディーを響かせて、
音色に慰められてからの帰り道。
怪我人の部屋を足早に通り過ぎる。

庭に差し込む月光に呼ばれて、
リフルと出逢った芝に座った。
入れ違いで同じ場所にいたとは知らない
花壇に咲いたリコリスを1本千切って、
ごめんね、と割れた茎に葉を巻いた。]

[1人で眠るそばに居てくれるかな。
仲間と離してごめんね。

枕元の一輪挿しで1人になった白いリコリスは、
その後二週間枕元に咲いていた]

―― 見送りの日 ――
[リフルの義手は完全に治せなかったらしい
王国から呼んだ先生も、カードック製の義手ではないので微調整が出来ないと仰った。
慣れるか、製造国で直すか、と彼の旅立ちを応援して、
よくわからないメンテナンス用の小包を渡していた。

彼が望んだ人手には、少し審議がなされた。
目的地までの護衛ならいくらでも付けるのだが、
帰るかわからないとなると国から人員を割くのが難しい。
希望者を募ったところ、
騎士隊のユーディトが「休暇中なら」と申し出てくれた。
事件を解決したばかりの彼女は長い休暇の最中だ。
きっとリフルの旅が軌道に乗るまで付いてくれるだろう。

付いていけない私の代わりに、彼を守って欲しい。]

[ユージーン氏は広くなった部屋を満喫するらしい]


 さあどうぞ、好きなところにお座りになって?

[ピアノの部屋のドアを大きく広げ、
二つしかない椅子に案内する。
一つはピアノの前だけど、
そこに座られたらどうしようかしら。

窓は開けて中庭の空気を取り込んだ。
お茶会の続きだと言うように、
窓から風が吹き込んでおめかししたドレスの裾を揺らした]


 誰もいないからあなたに捧げる曲かなぁ
 ……付け焼き刃だけど聞いていってね。
 感想とかあったら、
 王国のクロードって音楽家に言ってあげて。
 サティの……サティの知り合いだって言えば解るはずだから。

[始まった小さな音楽祭はピアノの音で始まった。
低いファ・ラ♭から高いファ・ラ♭へ、
伸び上がるように始まる曲を祈りを込めて弾く。

いつの間にか月の光《Clair de Lune》
と呼ばれるようになった曲は、
あなたの夜を安らかな色で満たしてくれることでしょう。
今も外からのぞいている人たちの声も混ざれば
お屋敷であった事を思い出すきっかけになるかもしれません。
月の光の中で唇を奪った娘のことを
思い出すこともあるでしょうか。


ただ、貴方の旅に訪れる闇が穏やかなものであって欲しい。
そう祈りを込めて鍵盤を優しく押して、
リフルの背中を押すことに集中した。]


 ご静聴ありがとうございました、リフル。
 どこへ行っても、元気でいてね


[ピアノの音が途切れてペダルから足先を離して、
ひとときの音楽祭は夢のように終わってしまう。

ペダルを踏むため
踵を床の上3センチで固定していたヒールに立ち、
ドレスの裾を持ち上げてお辞儀をした。
あなたのためにピアノを弾けたことを光栄に思う*]

―― それから ――
[王国のクロードからか、戻ってきたユーディトからか
ときどき彼の足跡を聴きながら、
私の仕事に追われる日々が過ぎた。
その便りもだんだんと少なくなっていって、
離れてしまったんだと今更に実感する。

庭の花々は相変わらず手入れをしているけれど、
お茶会がなくなって花瓶に生けられる方が多くなった。

遠くで起きた戦争の被害者を受け入れたことで
義手の需要が高まり、技師も増えていった。

ピアノに向き合うことは減っていって、
楽譜を書く手は止まってしまっていた。]

[私をさらった首謀者は、元貴族の男だと判明したものの
すんでのところで逃亡したらしい。
番犬《スパイ》を放って追ってはいるものの、
国から出られてしまえば追いかけるほどの予算はない。

右腕だけが捕まって不安そうに牢屋で暮らしていたが、
彼の情報はすでに首謀者を見失っていて、
死刑にすることになった]

 …………

[執行の場を射者の近くから見ている。
これから殺される人は何を思うんだろう。
私を殺そうと企んだ人は遅過ぎる命乞いをして事切れた。

命が終わる瞬間を見届けて、
私が行使した秩序を守る刃の重みを受け止める。

私はリフルにこの刃を使わせてしまった。
それだけ刻んで生きていこうと思う]

[ある日は久しぶりに中庭でお茶を飲んでいた。
あまいココアにマシュマロを浮かべて、糖分補記。

日差しの差す庭は暖かくてはまどろんでしまう。
夢の中で庭の住人が手招きしている。

あのときは楽しかったな。
領民の楽しみを守りながら、過ぎた日々を思いだして]

 ふふ ふ、

[芝の上にころんと転がった**]

  
[そうして、どのくらい経った頃だったか。

 瞼がぴくりと動いて、
 いつの間にか
 祈るように組み合わせてしまっていた両手を
 慌てて解いて身を乗り出した。

 覗き込む俺の前で
 モルフォ蝶なんかより
 もっと美しい青い宝石が輝きを取り戻す。

 かかる吐息は
 
あたたかい
だけじゃなくて
 どうしてだか、
感じられて

 こく…と喉を鳴らしてしまっていた。]
 

 
[さらに表情が綻び
 惹かれて止まない微笑が浮かんだ。

 疲れの陰が薄れたからだろうか?
 輪をかけて増した魅力に
 囚われて
 身じろぎひとつ出来ずに固まった。]



   …… っ、



[再び動きを取り戻せたのは
 ほっそりとした指先が、頬に届いた時だ。

 妬ましいけれど
 貴方が選び抜いただろう揃いのレース素材の品は
 美しさを確かに引き立たせていたから
 外さず、そのままにしていたのだが
 自ら脱ぎ去って、直に触れてくれた。
 

 
[そこに、届く言葉。

 
幸せの洪水だ、──────溺れる。


 けど濁流ではなくて、清らかで、温かくて、
 つま先から頭のてっぺんまで
 とぷんと包み込まれて。

 嬉しすぎて、まるで言葉が出てこないから
 空気を求めるみたいに
 はくはくと唇を動かしてから漸く]



   … ほんとう、に?

         ああ、……絶対に離さない、



[ぎこちないながらも
 喜びが色濃く滲んだ声を響かせた。]
 

 
[撫でてくれる親指も
 堪らなく気持ちよくて
 眼鏡の奥の目を細めて享受していると、
 今度は自宅に誘われた。



   勿論 行く!

    …
じゃ、なくて、
 お邪魔させてもらうよ  



[ほぼ即答に近い形で応えてから
 己のあまりの食いつきっぷりに
 少しはにかんだ。]
 

 
[今朝、ネットで必死に調べて
 ドイツにある会社の代表だということは
 もう知っている。
 きっと、家もそっちの方に在るのだろう。

 確実に2日以上
 自宅を開けることになるだろうから
 綺麗な子たちとはまた別の
 飼育中のカッコいい奴らを
 どうするか、考えなければいけない。

 昨日まで、あの家は
 俺の世界の全てだったが、

 でも、もう、
 それは些細なことになっていた。

 貴方の城に伺うということは
 いっしょに居られる上に
 貴方のことを
 もっと、もっと、知れるということだから。]
 

 
[なんだか、ものすごく
 気持ちが急いて仕方なくなって]



   なら、帰り支度をしないとな



[輪郭に添わされた掌に
 名残りを惜しむように頬を擦り付けてから 
 立ち上がる。

 傷を消毒できるエタノールなどを
 鞄の中から取り出すと、
 貴方の許可を得て
 針を抜き、手当てを済ませ
 衣服を身につける手伝いを積極的にした。]
 

 
[まだ、扉が開かないと知れば
 張り詰めていた気が
 ぷつんと切れて
 今度は俺の方が眠り込んでしまっただろう。

 なにしろ、7週間もの間
 浅い眠りの中で
 貴方を捕まえようとして出来なくて
 飛び起きてばかりだったから

 やっと、手に入れた存在を
 離すまいと指を絡め、ぎゅっと握ったまま────…。]**
 

【人】 二年生 小林 友




  「どうしたの?!もう夜も遅いのよ?!」


[驚いた様子の母さんを押し退けるように
 俺は家の外へと飛び出した。

 青い蝶は一匹残らず、
 大きな月へと旅立ってしまった。
 泣いても、叫んでも、
 ただ慣れた顔のご近所さんが
 窓からひょっこり顔を出すだけ。

 頬を伝う涙が口へと流れ込んで
 まるで、海に溺れたみたいに塩辛い。]


  
なつきィィィィーっ!!!



[どれだけ叫べば届くのだろう。
 世界を隔てて、君のところまで。]
(31) 2020/10/07(Wed) 19:21:09

【人】 二年生 小林 友

[この俺の有り様を見た人は聞くんだ。

  「ともちゃん、大丈夫?」
  「死のうとしてない?」
  「ダメだったらいつでもいいなさい」


 結局、誰も何も問題解決になってない。
 
 みんな、話して解決すると思ってる。
 話せば100%受け入れてくれる?
 気持ちを分かちあって「ひとりじゃないよ」?
 それはただの慰めで、解決じゃない。

 「陰キャだから、ひとりでいるから
  なんだか死にそうに見える」?
 問題はもっと奥深いぞ。
 俺は、ただ俺自身が嫌いなだけ。]
(32) 2020/10/07(Wed) 19:21:31

【人】 二年生 小林 友


[「俺」を受け入れてくれる
 菜月のところにいきたいだけ。]

 
(33) 2020/10/07(Wed) 19:21:52

【人】 二年生 小林 友

[俺は月を見上げて叫んだ。]


  途中で奪うくらいなら、
  なんで菜月にあわせたんだよ!!
  もううんざりだ、何もかも!!

  
さびしくて、しかたがない!



[青白い月が、まっすぐ俺を見ている気がして。
 その時、母さんや近所の人たちが
 何を言っていたかも、覚えていない。

 ただ、俺は声を限りに、願った。]
(34) 2020/10/07(Wed) 19:22:22

【人】 二年生 小林 友



  どうか、この俺を消してください。
  菜月がいないのなら、
  こんなところにいたくない!
  

[それを聞いた月は、何を思ったのだろう。

 ふわり、と掬うように俺の意識は途切れて
 闇の中へと堕ちていった。]*
(35) 2020/10/07(Wed) 19:23:42
──淡薄色の球体──

[これまでと違って辺りの景色はぼやけている。
夢の中の更に夢。
無愛想な男の見る空想の世界。

スポットライトの当たる綺羅びやかなステージ、
正面の客席に一人無愛想な男は腰掛けていると、
ステージ上にアオザイcosmを着た薄色の髪の男性が現れた。

彼はランウェイを歩いて先端まで来ればターン、
戻って裾に隠れては次はブーメランパンツcosmを着て現れる。
その繰り返し。
踊り子衣装cosmチアリーダー衣装cosmの姿で輝くライトを浴びる。

最後にセクシーランジェリーcosmを着た男性のウインクで、
ステージは幕を閉じ。]

……アジダル、色んな服着てたな。
あの姿は、可愛いのか?

[眉を顰めて唸り。
誰もいなくなったステージを見つめて、悩み続けた。]*

[露出の高い服装とアジダルが切り離せないようだ。
この中なら、アオザイが良かった様な気がするとは思っている。]*

 
[器用な手先とは裏腹に
 不器用な口が動くのをじっと見ていた。

 今度こそきっと、心からの言葉。
 想いはひとつだと思って良い筈だ。

 考えるより先に飛び出たみたいな台詞は
 まるで子供のようだった。


   ……ふふっ
   治人は、とっても可愛い人だったんだね



[また貴方のこと、ひとつ識れた。
 それが嬉しくて……、肩が揺れるほど笑っていた。]
 

 
[はにかむ様も、なんて愛らしいのだろう。

 貴方を中心に廻る世界は
 キラキラと輝いて、こんなにも美しい。]
 

 
[掌に温もりを残して
 愛おしい顔が離れていく。]



   都合の良い日に飛行機を手配するね
        ……、ありがとう



[スッと立ち上がった彼が
 傷の処置をしてくれるつもりだと気づけば
 身体を起こし、シャツを捲って、彼に任せた。
 

 
[針を抜いて貰うのも
 消毒液を掛けて貰うのも
 どうしたって痛みを感じて、息が詰まった。]


   ……っ、…………
はぁ



[だけど、苦しいだけじゃなくて――、
 身体に出来たごく小さな傷
 ほんの少し歪になった胸粒が、無性に愛おしかった。

        貴方が、刻んでくれた痕。]
 

 
[服まで着せて貰うのは
 ちょっと気恥ずかしかったけど
 やっぱり彼に任せた。

 大切に扱って貰えるのが、嬉しかったから。

 防火扉が開くまでには
 まだまだ時間が在るようだった。

 ベンチの上に並んで座り、手を繋ぎ
 ゆったりとした時間が流れる。

 ふと肩に重みを感じれば、彼の方を見た。
 

 
[無垢な寝顔が目の前に在って
 胸がきゅんとした。

 ……でも、じっと見ていれば
 目の下には隈が在ることに気づく。

 余り眠れていなかっただろうことが窺えて

 自分の罪を思い出した。]
 

 
[彼の頭にそっと自分のを載せて
 彼の体温、匂いを憶える。

 過去をなかったことには出来ない。

 だけどこの先は、極力、
 彼を傷つけることのないように。

 眠りに落ちても握られたままの手を
 少しだけ力を込めて握り返しながら

 胸中でだけ誓った。*]
 

[いつからか、落ち着いていると言われるようになった。
大人っぽくなりましたねと舞踏会に誘われることもあった。

曖昧に微笑んで、そうね、って答えるだけで、
世間からの反応が変わってしまった。
心を動かされることが少なくなっただけなのにね。
世間に慣れるのが大人っぽいことなのかしら。]


[心が動かないからピアノ譜はさっぱり進まない。
王国の友人にどうやって曲を書くのか訊いてみたら、
「他の国の音楽を聴いたり、旅行に行ったり。
 恋人と破局したり、ピアニストを諦めたり」だそうで。
そっか、音楽家も大変ねって
心ばかりのクッキー詰め合わせを贈った。
チョコチップおいしいのよって多めに詰めてもらったやつを。

久しぶりに楽譜をだし、曲のタイトルのところに
 Je te veux とだけ書いた]

[眠る前に窓から月の光が差し込んでいるのに気が付いた。
小さく音を立てて鍵を外せば、
吹き込む風にリコリスが揺れた。

あなたは今どこでこの月を見ているのだろう。
それとも月よりお酒って飲んでるだろうか。

胸の痛みは時間と共に
じんわりとしたものに変わっていた。
でも、結婚をと言われると困った顔で笑う。
誓えないわ、って繰り返し断っていれば、
そんな話も聞こえてこなくなった。

次期当主として私が指名されてからは
さらになくなった。
私と結婚しても、当主にはなれずに夫止まりになる。
それ狙いの人居たんだなあって、
困り顔で笑うしかなかった。
苦労の方が多いと思うんだけどねって、
側近護衛になったユーディトと顔を見合わせた。

今は安らかな夜を眠れている。
大国の陰で平和な夜を過ごせているのだから、
いつかの王子の話を断って縁を切るような国じゃなくて
本当にありがたいことです。]

[窓を閉めて天蓋のクイーンベッドに沈む]

 おやすみなさい。
 いい夢を。

[ここにいない人の眠りが幸せでありますように。
祈る時間は少しずつ短くなっている。
私はいつか祈る相手を忘れてしまうんだろうか。

お姉さまの顔が思い出せなくなったみたいに、
彼の顔の代わりに誰かを想うんだろうか]

[そうして日々を過ごして、年が積もっていった。

芝生に寝ているといろいろ思い出していけない。
まぶたの向こうでは、日差しで遊ぶ小鳥が
木漏れ日みたいに太陽を遮っている。

お昼寝日和ね。
お姉さまが笑うようなお天気は、
不安をゆっくり溶かしてくれる。

すこしだけここで休憩しようって、
なにも知らない頃の私に戻って横向に寝返りをうった。

母なる大地は1人で庭に来た私も包んでくれる。
あったかい……**]

──淡薄色の球体──

[淡い光の水面に浮かぶ屋形船が1隻。
中では冷酒を酌み交わしながら、
紺地に白の親子縞の浴衣を唐草帯で締めた男が
藍色網代柄の浴衣に灰茶の羽織を羽織った男に話しかける。]

寝る練習も悪くないが、今度、祭りにも行ってみたい。
射的とか型抜き…が面白そうに見えてな。
あんたは、祭り嫌いか?

[嫌じゃなければ一緒に行きたいと素直に語る。
視界の端には黄色地のツツジ模様や
白地に青と緑の差す撫子柄の浴衣が揺れ動き。
それは1つの幸福な願望夢。]*

[離れる事になって、己にとっても少し特別な場所になった彼女の庭。ピアノの音が聴こえなかったのは防音のされている部屋だからか。
そこに居たのはたった数瞬だったから、
彼女とすれ違う事もなく。


──そして旅立ちの日、
朝早くに一人庭を眺めた。
あれから時間が経っていたし、あの夜と同じ様に立ち入りは控えたから、一人彼女に連れられたリコリスの花の跡など見付けられる筈もなく。

ユージーンのいる部屋に一度戻って最後の荷物をまとめると、「餞別」と言ってクッキーやら飴やらを渡してくれた。
ぎこちないながらも動かせる左手で受け取ったら
「本当に大丈夫なのか」と心配されたから、
「ユーディト様が途中迄一緒に居てくれるからな」「そりゃ安心だ。手出すなよ」「まだ死にたくないわ」「お前も騎士だろへなちょこだけどなハッハッハ」などと少々悪ふざけをしながら、
彼の淹れてくれる最後のコーヒーを飲み干した]

[それから諸々の挨拶を済ませた後、
最後にピアノの部屋を訪れた。

己の願い…というより強請りを、彼女は叶えてくれた。

好きなところに座ってと促されたが、
えーとえーとと勝手がわからずもたもたして、
彼女に座る場所を決めてもらっただろう。

席に着くと、演奏する側でもないのに少し緊張した。
風が優しく部屋と庭を混ぜて、
いつもより一段と綺麗な彼女のドレスを揺らして、
もう音楽が始まっている様な錯覚に陥る。

「あなたに捧げる曲」なんて言われて、
まだ聴いてもないのに目頭が熱くなりそうだ。

嬉しそうにうん、と頷いてからは、
これから聴こえる音を聴き漏らさない様、
身動きひとつせずに大人しく座っていた]

[何度か聴いていた、彼女のピアノ。
今日はすごく、すごく優しい。
いつだって可憐で品のある音だったけれど、今日はもっと自分に寄り添って、包み込んでくれる様な音楽だった。

この屋敷に来てからの出来事が思い出される。
この曲と共に在りたいと思った。
この曲の事を覚えていて、
聴く度にこれ迄の事と、今日この時間を思い出したいと思った。

彼女の音を一つたりとも邪魔したくなかったのに、
終わるとわかる、わかってしまう音が奏でられると、あぁ……と思わず声が漏れた。

鍵盤が沈黙しても、まだ曲が流れている様でぼうっとする。彼女の声で我に返る。
正気なのに、どこか恍惚とした表情で呟いた]


  あぁ…… きれいだ。


[それは、拍手も出来ない代わりだったかもしれない。
彼女に訝しまれる前に、すくっと立ち上がって、]


  こちらこそ、ありがとう、お嬢様。

  あんたも、どうか元気で。


[お辞儀をした彼女に相対して頭を下げた後、
振り切る様に背を向けたが……ちらと肩越しに振り返った]


  
  オレの事は……忘れてくれ。

  でも、
  あんたの事をいつでも想ってる、
  そんな奴がいるって事だけ、

  ……覚えててやってくれ。


[言うだけ言って、「じゃあ」と
左手で少しもたつきながら扉を開ける。

頭の中をさっきの音色でいっぱいにしながら、
堂々とした足取りで屋敷を後にした]

[療養中に、義手を扱っている国を徹底的に調べた。
己の義手を作った国を特定したが、
それよりも進んだ技術を持っている国もあり、又、医療も発達していたのでまずはそこへ向かった。
ユーディトをなるべく早く解放してやらないといけないと思ったから、両手の回復が最優先だった。

貯めていた給料や、受勲からの援助も多少あったかもしれないが、義手を直すのには金が足りなかった。
足しにしようと髪を切った。
お屋敷の高品質な洗髪剤のおかげか髪質が良かったらしく、高く売れた。それでも流石最新技術。全然足りなかったから夜の街から朝帰りすると、ユーディトに不審がられたか]


  お嬢様には内緒にしてて……


[今手段は選べないんだ、と真剣なまなざしで訴えれば、
己を置いて帰る事はなかったか。
辛い時には、あのピアノ曲を思い出した。

何とか積んだ金でこしらえてもらった義手は、
以前よりずっと使い勝手が良かった。
けれど右手は結局完治には程遠く、
何か埋め込んだり外に色々着けたりで様子を見る事になった。
それでも一向に良くはならなかったが、
その分左手がうまく使える様になった]

[雇ってもらった教会で何とか生きていけそうだと思った時、
ユーディトに感謝を告げて、屋敷に戻ってもらった。
お嬢様への贈り物に押し花でも持たせようとしたが、
忘れろって言ったくせ何やってんだ、と自戒して、
ユーディトに一枚贈った。
彼女はそれを見せびらかしたりしないタイプだと思う。
それでよかった。
この国に咲く美しい花が、こっそりとあの人のいる屋敷に咲いているなんて、ちょっと風情がある。
……何だかロマンチックな事を考えてしまった。

一枚作ったら何となく勝手がわかって、教会でも作った。
教会のみんなで作って、街の人に配って……
街にも馴染んで来た。
街の人達ともたくさん話す様になった。
情報を集める様になった。
あの盗賊団の情報を]

[この街にも寄っていただろうと予想した通り、
被害者が居た。
その頃には教会の人間として信用されていたのもあって、
正直に己があの盗賊団の一味だったと話した。
彼らは己を見た記憶がないから咎めないと言った。
それでも罪滅ぼしがしたいと食い下がれば、
雑用を任せてくれた。

本当にこんな事で彼らの傷が癒えるのだろうかとか、
こんなの己の自己満足なのではないかとか、
もやもやとした気持ちを抱えながら、
献身的に働いた。

やがて他にも被害者がこの近辺に大勢いる事を知って、
自分のしようとしている事の無謀さを知る。
生きている内に被害者全員に会って、
全員に毎日尽くすなんて物理的に不可能だ。

やるせない。
それでも何とかしたいと唸る己に、
色んな人が知恵を貸してくれた。

盗賊団の向かった先や構成等の情報が己のもとに集まり、
又、盗賊団の被害者を救う為の団体の様なものが発足された]

[それから、一人では成し得なかった事をいくつか成し遂げた。
年月はかかったけれど、盗賊団を結果的に根絶やしにした。
両親は数年前に事故で亡くなっていたらしい事も知った。
涙も出なかったけれど、
存在しなかった墓をひっそりと立てた。

時に荒事に巻き込まれた。
ナイフを人に向けた時はあの記憶が蘇ったけれど、
今度は殺さずにおさめられた。
これもあの経験と、仲間のおかげだろう。
右目に傷を負って死にそうになった時、]


  オレは、こんなところで死ねねぇんだよ!


[そんな事を言っていたらしい。
後で仲間から聞いて驚いた。
心臓に同化した彼女の言葉が、
今も己を騎士にしてくれていた]

[行く先々で、その街の絵葉書を買って屋敷に送った。
こちらは住所を転々とし始めていたから、送り主はリフルとしか書けなかったけれど。
近況も書かなかった。
忘れてくれと言ったのは己だし、
生きていると知ってくれれば十分過ぎた。

ナントカ王国のクロードという人物にも会う事ができたか。
また随分年月が経ってしまっていたけれど、
あの曲が今でも好きだ、でもそろそろ忘れてしまいそうで怖い、と話せば、弾いて聴かせてくれただろうか。
あぁ、ああそうだった、と唇を噛み締めて、
彼女の音色のかけらを取り戻した。

その日の夜の月は、一際明るかった]

[その次に向かったのは、昔盗賊団のアジトがあった国で、
いわゆる極寒の地だった。
ここは物資の運搬で精一杯で、
私的な手紙を送る余裕のない国だったものだから、この国に入ってから、屋敷へ手紙を送る事が出来なくなってしまった。

距離だって随分あって、
あの国の噂だって近況だってなかなか知る事が叶わなくなる。
それでもきっと、
無事に、元気に過ごしています様に。
教会で働く内、祈りを覚える様になっていた]


  お嬢様もこんなの飲むのかな……


[ここはあたたかいココアが美味しい。
彼女には紅茶のイメージがあったから、
マシュマロの浮かんだこの黒い飲み物に首を傾げつつ、
ヒュボッ!と吸い込んでしまってむせた]

[アジトの残骸の整理と、
周辺で被害に遭った人への支援を行った。
この地でも小さいながら、支援団体も出来た。

己はツテでまた教会で働くのち、
役職を与えられる様になった。

この教会では、およそ三年ほど勤める事になる──]

― 町の入り口 ―

[そこはすっかり様変わりしていただろうか、
それとも殆ど変わっていなかっただろうか。
どちらにせよ、懐かしさと、帰って来た、と静かに高揚する気持ちが身の内を震わせる。
道中にサーカスの一行を見る機会があり、同行者も機嫌が良い]


 (……でも、思ったより早く帰って来たな……)


[屋敷を出てから色んな事があって、
もう十年か二十年くらい経っている様な気分だけれど、
実際は六年くらいだった。
それでも流石にどこ行ったかわからなくて三年も音沙汰なければ死んだと思われている様な──]


 「リフル!? お前生きてたのか!」


  ユージーン……!


[随分久し振りなのに、聞けば誰の声か瞬時に思い出した。
顔は……ちょっと老けたか?
しかし、「うわあ誰かと思った」とか言ってるけれど、
すぐにわかってくれた事にこっちは今驚いている。

小綺麗な祭服を着ているし、髪はリボンでまとめているのは昔と同じでも大分短いし、右目にはモノクルもしているってのに]

[ユージーンが顔を覗き込んで来る。
モノクルをしている方の目の色がおかしい事に気付いたらしい。
「また無茶をしたのか?」と睨んで来るから、
トン、と相変わらず具合の良い左手の義手で彼の肩を押した。
近ぇんだよ]


  生きてるんだから良いだろ。


[ふふんと笑ってやると、彼も笑った。
それから、己の後ろに隠れている人物に気付いたらしい]


 「あれ?!子供?!!!」


[声がデカい。
歩きながら、人見知りをしている六歳の少女を紹介した。
名前はルミ。茶色がかっているけれど金の髪が己に少し近い。
あの北の国の孤児院で引き取った子だった。
別の盗賊団で生まれ捨てられた子の様で、
自分と重なるところがあったのだった。
まぁそのへんは彼には伏せたが]