201 【身内】甲斐なき星の夜明け前
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世界はまだ、続く 誰かを傷つけながら、救いながら (0) 2023/02/18(Sat) 21:00:00 |
子供だった時はこの世界の事情も知らなかった。
あの時はなす術がなかったけど、
今の自分には出来ることがあって、
ちゃんと君を引き留めることが出来て良かった。
[オレの手が温もりに包まれて、強く"生"を感じた。]
……うん。
アルカ君が確かに、私を繋いでくれたよ
[そうじゃなかったら、私は自分を許せないまま
自分の命を捨てていたと思うんだ。
それ位、自分が許せないんだよ。]
うん。分かった。
[へへへ、と頬をそめて表情が幸せで溶ける。]
[私にはお気に入りの花畑がある。
光るのが幻想的でさ すっごい綺麗! って
それだけの理由でとってもお気に入りなんだ。
その日もコレクションのぬいぐるみと一緒に
その場にいたんだ。]
[私は家族が好き。
私はお友達が好き
私はそんな好きな人たちがいる世界が好き
作ってきたクッキーとお茶を手に
たまには一人で、ってゆっくりと
この世界の綺麗さを眺めていたんだ。]
[
世界にはね、希望があるんだよ
でも、誰かが傷ついたりするのもまた事実。
私は少しでもなくなればいいのに。
皆が皆、自分に、人に優しくなって
そうして笑顔が一杯になればいいのに。
誰も傷つかない世界がほしいな
夢想家?
本気だよ。
強い願いとして胸にあったんだ。]**
[なす術なく失ってばかりの人生だったから、
こんなに必死にしがみ付いたのは初めてだ。
どんなに手を伸ばしても、
星
には届かないってずっと思ってた。
それでもオレは、これからもずっと手を伸ばし続けよう。]
―
回想
―
[空を見上げていれば、
悲しいことを見ないでいられるような気がした。
近くに空を遮るような、背の高い建物は無かった。
光輝く花に、眩い星。
息苦しさを堪えて、視線に蓋をする。]
[自分の運命はもうどうしようもないと思っていた。
でも誰かが"誰も傷つかない世界"の存在を願い、
実現させることが出来たなら……
オレのような悲しみに満ちた人間は生まれない?
本当はこうなってしまう前に、
叶えてくれる人がいたら良かったんだけどな。
過去は変えることが出来ないから、
せめて未来の絶望の芽を潰そうと思ったんだ。**]
[お互いに手と手を伸ばすならさ
星
に手が届いて、つかめると思うんだ。
私も、手を伸ばすよ。忘れないよ。]
- 回想 -
[雨上がりの虹が出る日
私たちは出会った。]
おっ、お客さんだ
ここを見つけるとはやりますね
なーんて。改めまして初めまして
良ければご一緒にどうです?
[人目のない場所で出会った
初対面の年上の男性に対してはなった第一声。]
[警戒心ゼロの満面の笑みでどうぞどうぞと
お茶やお菓子を勧めようとした。
そして、私たちの運命は始まった────── ]
[神様から言葉を聞いた。
色々な知識が頭に入った。
世界の為に戦う。見返りに願いが叶う。
戦うのは二人一組。つまり目の前の人と。]
……そっか
そんな事がこの世界であったんだね。
全然気付いてなかったな……
[ひとまずは吃驚したよ。
でもすぐ前を向いたんだ。]
私はやるよっ!
世界の為に戦えて、お願い事が叶うなんて
すっごい素敵な事だよねっ!!!
[私は心の底からそれを信じて
本気でそう思って、言葉にしていたんだ。]**
―
回想
―
[こんな辺鄙な所に足繁く通う人間が、
自分以外にいるとは思わなかった。
警戒心、距離感……
色んなものがバグっていると、最初はそう思った。
同じ願いを持っていると、だからペアを組んで戦うのだと、
女神に囁かれたその時には頭痛がした。
脳内の人種が異なっている目の前の彼女と、
同じ物なんてある訳ないだろうと。
世界に破滅をもたらす存在と戦えば、願いを叶えて貰える。
それだって、まず先に疑った。
]
[彼女の余りにも早すぎる決意に、
今度は眩暈がしたよ。
]
世界のために戦わなきゃいけない事の、何が素敵なんだ?
怪我はおろか、死ぬ可能性だってあるんじゃないか?
願いと言っても人によって難易度の高さが違うと思うが、
その辺の設定はどうなるってるんだ?
どの程度戦えば、願いが叶うのかも聞いてない。
君はもう少し契約書を
ちゃんと読むようにした方が良いぞ。
[耳障りのよい言葉だけで構成された、
氷山の一角な説明だけ聞いて、まともに契約書を読まずに、
後で隅っこに小さく書かれた注意書きに
足元を掬われるタイプに違いない。]
[とは言え、放っておいて不幸のどん底に
叩き落されてたら寝覚めが悪いし、
……オレはオレで、
普通に生きていたらきっとたどり着けなかった、
真相に辿り着けるような気がしたから、
結局戦うことを決めたんだ。**]
- 回想 -
……お兄さんってさ
後ろ向きって言われない?
[言われた言葉に目を丸くして返した一声がこれだった。]
だって、ここには大好きな人たちがいるもん
その世界を守れるのってとっても素敵だよっ!
[反論は認めませんっ! って笑顔で圧をかけた。]
うん、そうだね。
命をかけるようなものかもしれないし
とーっても長い道のりかもね。
だったらなおの事
人に任せるだけじゃ私は嫌だなっ!
辛い事ならなおの事、自分の力で頑張りたいよ
[契約書はそうかもね、って苦笑いで返した。
何を言っても私が前向きに返して意見は交わらない。
それが私たちのいつも通りだったね。]
[命がかかってるって話に笑う私は
現実が見えてないよう見えてたかもね。
実際命をかけた事なんてないし、そうだったかも
それでも私はちゃんと、この身をかけて戦ったよ
だから嘘じゃなかったって証明したつもりだよ。]
[その後結局戦うのを決めた時にはビックリしたよ。
乗り気に見えてなかったしさ。
一緒に戦う相手になってくれる。
それを私は素直に喜んで、握手を求めて手を差し出した。]
ありがとうっ! 決めてくれて。
私はね、シオン=ステッレって言うんだ。
これからよろしくねっ
―
回想
―
[態々後ろ向きだと指摘する人間はいなかったが。
]
後ろを向いて生きているのは、いけない事か?
石橋を全力で叩き割った末に、
迂回をするのは愚かな事か?
[今にして思えば大人気がなさ過ぎるが、
当時のオレがそれだけ捻くれていても
おかしくはないと思えるくらい、
今の自分も大概であることは自覚している。]
(大切な人なんて、誰一人いない。
勿論それには、自分も含まれている)
[お幸せそうで何よりだ。反論はしなかった。]
自分が頑張ってしまった結果、
大好きな人達が生きる世界が滅ぶかも知れなくても?
[既に呼吸するより簡単に、
絶望を思い描けるようになっていた。]
(君が考えているよりもずっと、
命が軽い事を知っているか?)
[滅ばないように、負けないように、
頑張るつもりかもしれないが。
頑張るなんて根性論が通用するのは、
ごく限られた範囲の事象だけ。
でも色々思惑はありつつも、結局戦うと決めたからには、
オレも精々頑張るとしよう。]
アルカ=ポラリス。
どうやら戦う役割を担ったのは君の方らしい。
危なっかしくて見ていられないが、助力はする。
[差し出された小さな掌を、緩く握り返した。]
(想定はしていたことだけど、
とんだパンドラボックスだったな**)
- 回想 -
別にいけなくないよ
石橋叩き割るのは他の渡りたい人が困ると思うっ
回り道するのは色々な景色見えていいよねっ!
[石橋の下りは諺の例えって分かってて言ってるよ。
にーっこりと笑いながら返してみせた。
それくらいじゃへこたれないもんだっ、ふふん。]
私が頑張った結果で? あ、負けちゃうって事?
成程それは考えなかったなぁ。
ん〜、でもでもやる前から負けるかもって
そんな怖がって逃げる方が嫌だなっ
それは可能性の話だからそうならないようするよっ
出来るなんて断言はしないけど
簡単に負けてあげたりはしないつもりだよ、私
やってみなければ結果は分からないよね?
[絶望より、希望を描くのが当然なのが私だった。]
うんっ! アルカ君って呼ぶね
同じ願いを持つ者同士
貴方の願いも叶うよう精一杯戦うから!
[繋がった手と手が暖かかったのをよく覚えてる。
]
(アルカ君に希望が勝つ未来を
私、あげたかったな────…… )**
―
回想
―
[願いさえ一致すれば、
性格の不一致はガン無視なんだろうか……。
願いを叶えるために戦う事を選んだオレたちは、
何故か寮の部屋が変わることになり、しかもお隣になった。
どう考えても作為的で、
女神なんてファンタジックな存在だけが
これらに携わっている訳ではないことを悟った。]
(もうこんなもの、取っておくこともないか)
[白いゴミ袋に、布製のクマが収まる。]
[願いを同じくしているのだから、
改めて「貴方の願いも叶うよう精一杯戦うから!」
と宣言することに意味はあるのか。
無意味なことを考えながら迎えたオレたちの初戦。
これを運命の悪戯の一言で片付けられたら、
堪ったものではない。
そんな悲劇の舞台が洗礼だった。]
(母さん……?)
[聞こえるのは彼女だけ、声にならない呟きが漏れた。
生きているかどうかも分からなかった存在が、目の前に。**]
- 回想 -
[私の方は真逆なら足りないとこ補いあえていいねって
のーてんきに笑っていたな。
全然違う考え方、でも願いは同じ。
それが面白いなって思っていたよ。
なお、宣言は大事だと思うんだ。
気合いというかさ、言葉にするのに意味があるんだよっ
初戦はでも、そんな甘ったるい思考を吹き飛ばす
そんなものだった。]
えっ……!?
[その言葉を聞いて流石に強く動揺したんだ。
初めてなんだから勿論戦いは不慣れ。
仲間はいたけど、私は場所が悪く敵の攻撃を受けて
一回動けなくなるくらいの状態になったんだ。]
[情けなかった。
私の心はこんな、弱かったのかって。]
…‥ほん、とに アルカ君のお母さんなんだ?
[ぐっと力を入れ直した。
戦う仲間に下がっていていいって言われたけど
それを聞き入れずに、無理をした。
してしまった。
]
だったら、なおのこと……負けたりしないっ!
世界を壊させたりしないから、
絶対にっ!
[私がそのくまさんを見たのは戦いの後だったかな。
処分するくらいなら私が貰うっ!
と保護したんだったよね。
ぬいぐるみコレクターとしても放置出来なかったし。
それがお母さんの手作りだって、教えて貰えたかな。
アルカ君みたいな性格の人が持つには違和感あったし
アルカ君のなの? って聞くくらいはしたよ。]**
―
回想
―
[一度零れ落ちた水は、二度と盆に返ることはない。
動揺を出さないようにはしたものの、
そんなもの無意味に決まっている。
初戦で不慣れな上に、敵に対する困惑、
更に輪をかけてシオンが無理を通すものだから、
あの時共闘した人たちには、迷惑をかけてしまった。
オレの所為だと思ったが、
自責以上に戸惑いの気持ちが強かった。]
[もう少し落ち着いて戦えていたら、
オレは自分の身の上を話さなかっただろう。
でも、その所為で色々な人に迷惑をかけたのも、
シオンに無茶をさせてしまったのも事実。
オレの母親は父親の自死を受け入れられずに、
幼いオレを置いて何処かへ行ってしまったこと。
父親も嘗て同じように敵の支配を受けて、
それを苦に死を選んだこと。
心への負荷が重くなりすぎないよう、ざっくりと説明した。
だから、ゴミ袋の中のクマが
誰の手によって生み出されたのかも、
君が見つけたその時に話していた。**]
- 回想 -
[私は迷惑とは思っていないけど
周りに心配かけちゃったのは事実だったよね。
そこは反省したよ。
そして、聞いたのはアルカ君の身の上。
それは……家族に恵まれて、愛されてきた
そんな優しい世界にいた私には想像もつかないもの
話を聞いただけで涙をぼたぼた零した。]
……そうだったん だ……
[それはどれだけの絶望なんだろう
どれだけの悲しさや、孤独なんだろう
理解出来る気が全くしなかった。
ただただ、そんな重く、哀しい世界が悲しかった。
流石の私でもうまく言葉を出せなかったよ。
ただ泣いて、ごめんって繰り返した。]
[分かってあげられなくてごめんね
悲しい思いをさせてごめんね
負けなかったから最悪だけは回避した。
でも、それだけだ。]
[─────
お節介をしよう
そう決めたのはすぐだった。
理解から遠くて、違う世界に生きてきた私でも
アルカ君の隣にいることは出来るんだから。]
あ〜るかくんっ!
今日一緒に寝よう!
[そうやって、私の突撃は始まった。
却下は聞かなかった。
]
私はアルカ君のパートナーなんだから
一緒にいるのが当然なんだよっ!
[手元にやってきたクマのぬいぐるみ
これもいつか、アルカ君に必要となる日が来る
私はそう信じて大事にしてきた。
家族ならきっと、また会える
根拠なんてないけどそう信じていた。
そして、誰も傷つかない世界を目指す理由
それがまた増えた。]
[
アルカ君が、傷つかない世界がほしい
それは今でも抱えたままの 願いなんだよ。
]**
―
回想
―
[どうしたって、こんな反応は避けられない。
説明する度にこうなるのは、
こちらも見ていてしんどいものがあり、
だからこそ身の上話をすることはもう殆どなかった。]
いや、泣くようなことじゃない。
幸い伯父さんが引き取ってくれて、
普通の生活は送ってきたから。
[父がしっかり遺産も残してくれたからな……は
別に不要な情報だと思うので、言わなかった。]
は???
[何がどうなってそうなった?
何一つ理解できる要素がなかった。
性別が逆だったら通報一つで終わる話なのに……。
オレは初めて男に生まれてきたことを呪った。
そして男性だけ圧倒的不利に立たされている法律を呪った。]
[勿論全力で却下した。
だが、どれだけ説教しても引かないので、
こちらが折れざるを得なかった。
誰か助けてください。
何度かそういうことになっても、
オレは根気強く止めてほしい旨は伝えた。
根負けしただけで、合意したことは一度もない。]
プライバシーという概念をご存じないのか?
親しき中にも礼儀あり。
パートナーだからこそ、弁えて適切な距離でいるべき。
もう率直に言おう。
迷惑だ!
[これでも引かなかったんだから、オレは悪くないよな?]
[オレのことに親身になってくれたし、
寄添おうとしてくれた。
温かい思い出はいっぱいある……。
だからこそ、あくまでただの人間として、
2人が傷つくことのない世界を作りたいと思えたんだ。
とは言え、オレの部屋に無暗に泊まりに来ることに関しては、
未だにどうかと思っている……
それは分かって欲しい。
**]
- 回想 -
[だって、だって、
アルカ君が泣かないから。
それが余計に私の涙を止めなかったんだよ。
そんな事があって、お母さんにこんな形で会って
何も感じない訳がないのに。]
泣くことだもんっ!
ばかっ!!
[貴方がそうやって傷を当たり前のように受け止める
それが悲しいんだよ。
だから私がその分泣いた。泣き続けたんだ。]
***
そこまでいやがる事ないじゃん、ぶーぶー
[そう言いつつ笑みで距離をつめていく。
話なんて聞かないよ?
知ってるよ。夜中聞いちゃった。うなされていたの。
だから私はやめなかった。
そうやって怒ってる内は、私の事だけ考えるでしょ?]
私達は一心同体運命共同体!
だから問題ないないっ!
ははは、やだなー、アルカ君ってば照れちゃってー
[嫌われるかな? とは思ったけど
その時はその時考えよう
精神だった。]
[そこまで嫌がるから手出しうんぬんは
危険性全然感じなかったよ。
何もないなら問題なしっ!
でも、でもね。仮に何かされたとしても……
それでも良かったんだよ。
アルカ君が感情を吐き出してくれるなら
それを私にぶつけてくれるのなら
私は全部を受けとめるつもりだったんだ。
結果はちゃんと、負う覚悟はあるんだよ。これでも。]**
―
回想
―
[何も感じていない訳じゃないから動揺したのだが。
というのは兎も角、中々泣き止まないものだから困った。
寝つきが悪いことはあったけど、
だからと言って余計な人間が部屋にいたら気疲れする。]
そこまで嫌がる程の
迷惑行為であることを理解して欲しい。
性別が逆だったら、立派な犯罪だ。
[いや、性別で犯罪か否かが変わるのはおかしいか。
まぁ結局、
本当に嫌だったら力づくでどうにかできるだろって
話なのかもしれないが、
それはそれで別の法律に抵触する。]
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