人狼物語 三日月国


221 Pledge ~sugar days~

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視点:


――とある日――

[3週間ほど出張することになった。
支店の視察で西日本各所を回る日程だ。

関東ならば多少遠くても無理矢理帰るのだが
流石に西日本では、それも数日置きに別の県に移動するのでは、
強行軍は使えない。

志麻が専務付秘書ならば帯同できたのに、と
思わず考えるが現実は甘くないし、
その個人的感情だけで志麻にその役職を与えるのは
本来その職務で日々真面目に働いている秘書に対しても
転職活動を頑張る志麻に対しても失礼だ。]



 実家に帰るか?
 勿論、こっちにいてくれても実家でも
 夜には電話するよ。

 残業で食事に困りそうならハザマさんを
 呼んで作ってもらえば良い。


[勿論、掃除も普段通り頼んである。
3週間を過ごすにはこの家は広すぎるかもしれない、
とも思うが志麻の意向に合わせるつもりだ。]

[もうこの家は「志麻の家」でもある。
自宅部分はどこでも行き来できるし、
客間部分に友人を泊めることも可能だ。

暇つぶしになるかわからないが、
最近受けたインタビュー記事が載った雑誌や
学生時代に頼まれてモデルのようなことをした時の
コンポジットや写真集を引っ張り出して
ベッドの近くに置いておいた。

最近のものはともかく
学生時代の少し青臭さの残る己の写真は
気恥ずかしいものがある。
とはいえ、卒業アルバムも見たがった志麻には
新鮮に映るかもしれないと思って。]

[出張先から顔を見ながら通話できるなら――

邪なことを考えていることは、
まだ内緒だ。*]

── とある日 ──

[威優と出会ったのは夏の最中、
 それから一緒に暮らし始めたのは秋に差し掛かった頃。
 番になった後からは然程時間を置かず、
 隙間を縫うようにして逢う時間を作っていた為に、
 その出張報告には驚いたものだった。]


  三週間……?


[それほど長い間、威優と離れるのは初めてで。
 互いに共に過ごす時間を大事にしていたのだと知る。
 プライベートならともかく、
 仕事での都合ならば口を挟めることもないから。]


  ふぅん……、

  そうだな、週末は久しぶりに顔出すか。
  ……夜には戻ってくるけど。


[威優が見たがっていたアルバムを
 取りに戻るのも良いだろうと帰省の案に頷いた。]

[両親も莉久も、威優と暮らし始めて以降、
 心配しなくてもいいと志麻が実家に戻ることを
 気遣うようになり、以降、実家に顔を出す機会は
 少しずつ減ってきている。

 それでも、威優が仕事で遅くなる日や、
 数日間の出張の時などは戻ったりもしているが、
 通える距離でもあるから夜にはこのマンションに
 戻ってくることが殆どだった。

 ────というのも。

 最初はこの広さに落ち着かなかった志麻も、
 今ではベッドやタオル、威優の衣服に残る
 彼の香りがないと恋しくなってしまうから
 と、いうのが理由だ。

 実家に泊まる時もこっそりと、
 威優のシャツを拝借してしまう時も稀にある。]

[威優が居ないというのなら掃除は最低限に済ませて、
 ハザマさんに暇を与えることも提案しつつ、
 一人で集中して試験勉強に精を出すのもいいだろう。]


  三週間なんてあっという間だけど、
  威優が寂しがらないように
  オレが声を聞かせてあげるよ。


[見送るときにはエレベーターを待ちながら、
 頬にキスを送り、それだけじゃ物足りず
 人目がないことを理由に、口付けを交わす。

 もちろん出かける前の日の晩には、
 いつもより長く抱き合って
 こっそりと威優に変な虫がつかないように
 肩口に噛み跡をたっぷりつけておいた。]




[────そんなことを言っていた口がぼやく。]



 

 
 

  まだ一週間しか経ってないのかよ……。


[スマホのカレンダーを見て威優が発った日を数える。
 どう数えてもまだ7日しか経っていない。
 あれから毎日通話はしているが、声を聞くと
 顔も見たくなるし直接触れたくもなる。

 一人でやる勉強にも少しずつ飽き始め、
 暇潰しに威優が掘り出してきた学生時代の写真集や
 (なんとあの男、写真集があるのだ!)
 インタビュー雑誌をキングサイズのベッドに
 存分に広げながら、ばふんとクッションに沈んでいた。*]

―― 一週間後 ――

[旅立つ前に齧歯類の本気を見せられた肩は
いまや内出血の点が少し見えるだけ。
歯型は消えてしまったので、たとえ着替えを誰かに見られても
それが番によるマーキングだとは気づかれないだろう。

彼の頸には一生消えない痕があるのに
どうして己には残らないのか。
触るだけではどの位置かも特定できないことが悔しい。]


 ふーーーー……


[逢えない時間はまだあと2週間ある。
だが仕事は一週間でもかなりハードで、
その疲れは最高級のホテルの寝具や食事でも取れない。

志麻が足りない。]



 ――もしもし志麻?


[電話を掛けて空振りになるのが嫌で、
いつも先にメッセージで都合を確認してから掛けるようにしている。]


 夕飯はもう食べたか?
 
 ……俺は今日は少し胃の調子が悪くて、
 部屋でとらせて貰うことにしたんだ。

 流石にね、各支店それぞれ気合を入れてくれてるのは
 わかるけど、毎日続くと重くて……ごめん、愚痴。


[ルームサービスで頼んだ中華粥の器はもう下げてもらった。
基本的にはもう誰とも会わないので、
シャワーを浴びて寝る体制を整えてから
電話をすべきだったかもしれないが、
一刻も早く志麻の声が聞きたくて焦ってしまった。

ネクタイを抜いてドレッサーに置く。
鏡に映るのは疲れてクマのある顔。

こんな顔、志麻には見せられないなと思う癖して
志麻の顔は見たいのだから我儘なものだ。*]


[先程メッセージが届いていたから
 そろそろ電話が掛かってくる頃だろう。
 ベッドで手持ち無沙汰にごろごろと寝返りを続ければ、
 広げたままのインタビュー雑誌が手の甲に当たり、
 横向きに体勢を変えてパラパラとページを捲る。

 インタビューの内容は殆どが仕事の内容に関しての
 ことばかりだったが、中にはプライベートなことまで
 踏み込んでいるものもあった。

 『──大守家は番を大事にすることで有名ですが、
  威優さんには心に決まった方は、
  いらっしゃるのでしょうか?』

 まだ自身とのことは対外的には発表もしていない。
 発表したところで、βの一般家庭に生まれた
 志麻のことなど名前が上がるはずもない。
 でも、番が出来た報告くらいはしているだろうか。

 質問の続きに目を通そうとしたところで、
 スマホが小刻みに震えた。]

 
  威優だ。


[着信画面を確かめれば件の人物の名前が表示されている。
 名前を見ただけでも心が弾む。
 思わず表情を綻ばせ、通話ボタンを押した。]


  もしもし? 威優?

  うん、食べたよ。
  今日は牛肉のフォーと生春巻き。


[第一声が夕飯の心配であることにくすりと笑う。
 出会った当初から食べ盛りであることは知られている。
 一緒に暮らして以降は冷蔵庫の貯蓄も増えた。]

[出張に出かけてからは会食も多いのか、
 電話が来るのは遅い時間になってからだったが、
 今日はいつもより少し時間が早い。
 だが、それも理由を聞けば納得した。]


  あー……、メインディッシュも続くとたまに
  さっぱりしたものが食べたくなるよな。

  ……大丈夫?

  愚痴ぐらいいくらでも聞くから、
  話していいよ。
  

[声の覇気の無さにスピーカーに耳を近づけてしまう。
 音声だけでは顔色も伺えないから、
 せめて呼気でその様子を図ろうと。]


 
  ……こういう時に、顔が見れれば良いんだけど。
  声だけだと、顔色も見えないな。


[ビデオ通話を殆ど使わないせいで、
 その機能があること自体も、
 すっかり頭から抜け落ちてしまっている。*]

[インタビュー記事が載っている雑誌は
政財界向けの情報誌の側面が強く、基本的には事業の話題で
構成されている。
だが「大守の次期社長が最近夜遅くに見かけない」という噂が
あるからか、今回は珍しく踏み込んだ質問をされた。

事前に打診があったものではない。
恐らくインタビュアーの独断だ。

だから、己としては回答自体を拒否する権利があった。]


 『そうですね。他の親族同様に、これまでの慣習通り
  番の発表の場は設けたいと思っています』


[シンプルに答えて。
後は微笑んで口を噤んでいた。

「そうですね」は単なる相槌にも使われる「肯定」の言葉。
日本語は便利だ。

発表の場を設ける、と明言することで、
その前に「飛ばし記事」でも上がろうものなら潰す、という
牽制の意味も込められている。

もし番の存在を掴んでいたとしても
(そもそも取引先の「もう一軒」を「家で番が待っていますので」と
断っているのだから、そこから知られていても不思議はない)
発表までは明かさないという意思表示でもあった。]

[守りたい。
――志麻との平穏な蜜月を。]


 ああベトナム料理も良いな。
 そっちに帰ったら二人で色んな具を入れた生春巻きを
 作りたい。


[食べたい、よりも作りたい。という気持ちが出て来たのは
志麻と一緒に暮らすようになってから。

二人でした手巻き寿司もトルティーヤも楽しかったし、
オリジナル生春巻きを作るのもきっと楽しいだろう。]

[つい弱音が零れれば、心配の声が返る。
ふう、と溜息を吐いて、ハンズフリーにしながら
衣服を脱いでいく。
電話の向こうには衣擦れの音が届くか。]


 志麻の顔を見たら元気になるけど、
 ちょっと今の俺の顔は見せられないな。

 好きな子にはいつだって「かっこいい」って思われたいから。


[カチャリとベルトの音が鳴る。]



 志麻。
 ……この一週間、一人でシた?


[唐突に声が低くなる。]


 志麻の……感じてる声が恋しい。


[切なく訴える声は何時になく弱く響いた。
瞳に慾が灯り口元が弧を描いているのは、
ビデオ通話ではないので見えていないだろう。*]



  そう、パクチーとか酸味好きなんだよね。


[食べたものを挙げれば作りたいと返答が返る。
 食べたい、ではなく作りたい、というのが威優らしい。
 彼の根本には「喜ばせたい」があるのだろう。
 それとも「一緒に」のほうに重きがあるのか。
 くすりと笑い、いいよ、と応じる。]


  エビとアボガドが一番好きだけど、
  スモークサーモンときゅうりとか、紫蘇とか、
  チーズにささみ、豚しゃぶもいいかもな。

  威優は辛いのも大丈夫でしょ?


[好き嫌いがないと作る幅も広がって楽しい。
 手巻き寿司の時も、自分で巻く行為を物珍しそうに
 楽しんでいたから、きっと作る工程は好きなのだろう。]

[声に耳を傾けつつ、インタビューの先へと目を落とした。
 是とも否とも取れるような絶妙な回答。
 さすが、こういった手合いには慣れているのか、
 躱し方が上手い。
 出会った頃の腹の探り合いを思い出してまた笑う。

 答えを明確に示していないのは、
 会社に伏せている自身を慮ってのことだろう。
 
 感応のいいマイクが衣擦れの音を拾っている。
 着替えている最中なのか、少し声が遠い。]


  ……なに?
  そんなに頼りない顔してるんだ。
  それは返って見たくなるけど?

  疲れてるときほど、
  愛しい恋人の顔見たくならない?


[くすくすと笑いながら、雑誌を閉じると。
 表紙には穏やかに笑う威優の顔が映っている。
 傍らにある写真集と見比べると学生時代の頃から、
 大人びた顔つきではあるものの、
 随分と精悍な顔つきになったものだ。]

[不意にスピーカーの向こうの声が低くなった。]


  ……ぅん?


[シた?という問いかけに首を傾げた。
 続いた欲求にぞくんと腰に響くような感覚を覚える。]


  ……ッ、……、
  さぁ、……どっちだと思う?
  
  感じてる声って、どんな?


[表紙の端正な顔立ちを指でなぞる。
 写真の威優は同じ表情のまま動かないことが口惜しい。
 機械音で濁りつつも威優の声は一瞬で、
 自身の脳髄を蕩けさせるみたいに甘く響く。

 無意識に舌が覗いて、渇いた唇を舐めた。*]

[刺激があるものが好きなのは何とも志麻らしい。
情事の際に少し痛くしても、寧ろより感じているように
見えるのも関係しているのかもしれない。]


 巻くものによってはサンドウィッチみたいになったり
 クレープみたいになったりするんだよな。
 流行ってると聞いたことがあるよ。

 ギリシャヨーグルトとバナナとか。
 ハムとチーズのブリトー風とか。

 辛いのも普段は平気だよ。
 コチュジャンでトッポギ風になるっていうのも見た。


[手を出してみたら料理はかなり楽しいものだった。
志麻が美味しそうに食べている姿を見るのが好きだから
余計頑張れるというのもあるかもしれない。]

[今は少し胃が疲れているが、
食事の話題で気分が悪くなる程体調は悪くない。
特に今日は夕食を外で食べなかった分、
体力を温存出来ている。]


 恰好つけさせてくれよ。
 まだまだ惚れて貰ってからじゃないと見せられないな。

 うん。疲れてて愛しい恋人の顔が見たい。
 後で写真送ってくれるか?


[本当は動画が欲しいが贅沢は言わない。

己の写真は残してきたものの、志麻の卒業アルバムは
タイミングが悪いのもあって出張の荷物に潜りこませられず、
新規の供給に飢えている。]

[――そう、例えば電話越しに聞く志麻の善がり声とか。]


 シてて欲しいなって思ってる。

 俺はシたよ。
 志麻のちいさな口をこじ開けて、全体を舐め回す時に
 鼻から声が抜けて膝がすぐガクガクする志麻の姿とか、
 乳首が出てくるまで爪でカリカリして引っ張る時
 声が上擦って尻が揺れちゃう志麻の姿とか
 俺のを咥え込んで幸せそうに甘く喘ぐ志麻の姿とか

 思い出したら、すぐ、


[ハンズフリーは続けている。
声が熱っぽくなり呼吸が荒くなっているのが
電話の向こうにも聞こえているだろう。]



 聞きたい。
 志麻が自分で胸やペニスや尻の孔を弄って
 気持ち悦くなってる声。


[今は触ってやれないから。
自分で慰めて啼いてほしいと請う。**]


[例えば、高麗人参や唐辛子のような刺激物は、
 実際に性的興奮を煽る効果があるだとか。
 はちみつやチョコレートには媚薬効果があるだとか。
 食べ物で性欲を高めることは起こり得ることだ。

 だけど。

 食べ物よりも性的興奮や幸福感を満たしてくれる
 ものを、知ってしまったから今はそれが足りない。]


  へえ、そうなんだ?
  ああ、でもガレットみたいには出来るかな。
  春巻の皮は使い勝手が良さそうだし。

  ブリトー風が気になる。
  デザートみたいになるのも面白そうだし、
  確かに色々調べたら出てきそう。

  オレも辛いの好き。


[キッチンに立つことはないと言っていた威優が、
 好んで料理をするようになったことは
 志麻にとっても喜ばしいことの一つだった。
 作る過程も一緒に経て、食事を楽しむ。
 まるで、一粒で二度美味しいような気分を味わえる。]


[話し始めの電話口の声は少し萎れていたけれど、
 格好つけていたいぐらいには余力があることに
 小さく安堵の息を漏らした。

 いつかも言っていたもっと惚れて欲しいという
 威優の向上心は今も続いているようで。]


  弱いところ見たって嫌いにならないよ。
  寧ろそういうところ見せられる相手じゃないと、
  一緒になれないだろ?


[顔が見えない分、いつものようにつっかえずに
 そんな言葉もすらすらと言えた。
 一週間離れている分だけ、甘くなってしまう。]

 
  ……オレだって見たいよ。
  どんな顔だって
  オレの、
すきになったひと
だから……。


[すき、の部分だけはやっぱりどうしても。
 素面のままじゃ口籠ってしまうけれど。]


  ……そんなに見たいなら、
  かわいーいキス顔でも送ってあげるよ。


[自身の言葉に可笑しそうに肩を揺らして笑い、
 雑誌に威優にリップノイズ付きのキスを送った。]

[笑い声を含ませつつも、耳は彼の声を拾おうと
 意識がスピーカーに向かっていたままだったから。
 直截なリクエストに僅かに心臓が跳ねた。

 それだけでなく、自慰の自己申告まで告げられる。
 自分で尋ねておきながら、
 具体的に自身の痴態を生々しく説明されて
 思わず言葉に詰まってしまった。]


  ッ、……よく見てるじゃん……、


[話し声に微かに熱が籠もっている。
 電話じゃ温度なんて伝わらないはずなのに、
 零れた溜息は電話口から感染ってしまったように、熱い。]

[スマホの画面を弄って、ハンズフリーに切り替えた。 
 寝転がった顔の横にスマホを投げ出して、
 威優の声だけを聞く。]


  ……シたら、顔が見たくなるから、シてない。
   

[少し拗ねたような声で呟いて。]



  けど、
……今のでシたくなった……




[ぽそり、と音を繋いで、自身の指を口元へ運んで
 人差し指の爪先をかり、と喰む。]




  ね、威優が、教えて……?
  オレの……好きなとこ。



[甘く、ベッドでねだるような声で囁いて指示を乞う。**]

[日常的に刺激物を摂取している人は
耐性が出来てその内その刺激を感じなくなると言う。

薬でも常用していると効かなくなってくると聞く。

味覚や免疫と同じように、セックスで感じる快感も
その内鈍ってしまうのだろうか。

志麻が感じなくなる日が来るのが怖いから
隙あらば様々な方法で彼の性感を引き出したいと
思っているのだけれど。]


 ガレット風にするのはライスペーパーよりも
 ふつうの春巻きの皮の方が厚みもあるし曲げやすい
 気がする。
 試すのが楽しみだな。


[性生活だけではなく、
普段の生活を共にするパートナーとしても
「一緒にできる」ことを増やして飽きられないようにしたい。]



 「志麻になら弱ってる自分を曝け出せる」のと同時
 「志麻だけにはかっこいいところだけ見ててほしい」って
 思うんだよ。
 矛盾してるってわかってるんだけど。


[フォローの言葉が柔らかく届く。
電話の向こうの志麻の表情を想った。

何せ最初に無茶をして自ら怪我を負ってまで執着し
必死に追いかけた姿を晒しているのだ。
疲れてクマが出来た顔を見たところで幻滅するような
人ではないと確信している。

だからこれは単なる見栄だ。]

[志麻の言葉に瞬時に霧散してしまう程の、見栄。]


 
っ……

 待って、もう一回言って?!

 キス顔も勿論見たいけど、
 俺のこと「好き」って思いながら
 「すき」って単語口に出してる志麻が見たい。


[口籠る志麻に対して思わず早口になる。
電話越しに聞くリップノイズだけで震える程興奮する。]


 〜〜〜〜〜どうしてそんな可愛いかなぁ。

 一人でシたら顔が見たくなるって……
 俺のことすごい好きじゃないか……


[もしかして己の造形は彼の好みに合致しているのか。
それとも好きになった相手の顔だから恋しいのか。

どちらでも構わない。
志麻が求めてくれるなら。]



 志麻、カメラをオンに出来る?
 下の方にあるの押したらインカメラで志麻の顔が映るから。

 弄ってるところも映して。

 志麻は「自分の状態を言葉にされる」のが好きだからね。


[教えて、と言われたから、指示は送る。
その通りに動くところが、動く時の志麻の反応が見たい。

ビデオ通話を開始したら、疲れが色濃く残るものの、
興奮に瞳をギラつかせた己の顔がワイプで画面上に表示されるだろう。*]

[刺激に慣れてくると感覚が慣れてくるというのは、
 味覚の話でもよくある話。
 免疫ができてしまえば鈍くなるのは
 もちろん志麻にも現れる現象ではあるけれど。

 威優との触れ合いは何度味わっても
 新鮮な気分で居られるし、逆に慣れてきたからこそ
 出来るようになったこともある。
 
 「すき」と言葉にするようになったのも、
 威優の影響があってこその成長だ。

 身体の方は寧ろ快感に鈍くなるどころか、
 余計に敏感になった気がする。
 触れられたことのない場所を威優が見つける度に、
 志麻の方が驚かされている。]


  そうなんだ?
  家でガレットって作ったことないな。
  
  威優が戻ってきてから調べよっか。


[威優がよく触れる自身の指を掲げてみる。
 指の間の水掻きも性感帯だと覚えされられたのは、
 彼が出張に旅立つ前のこと。

 先に調べておくことも考えたけれど、
 「一緒に」というなら互いに歩幅を合わせて。]

[弱いところよりも格好いいところを見てて欲しい。
 その気持ちは理解らなくもないから、
 威優の反応には、くすりと微笑って頷いた。]


  うん、じゃあ格好いいところ見せて。

  
[格好良くても、そうじゃなくても。
 愛おしく思う気持ちは変わらないけれど。
 自身のために格好良くありたいと、
 思っていてくれる気持ちは尊重したい。

 既にそういうところが格好いいと思っていることは、
 戻ってきてから直接伝えることにして。]

[そうしたら、裏返ったような声が届いたから、
 思わず吹き出してしまった。]


  っはは、だぁめ。
  一度しか言わなーい。

  それに「すき」って言ってる口も、
  キス顔と同じ口してるよ。


[格好いいより先に可愛い素振りを見せられて、
 目尻が下がった。
 手元の雑誌の表紙を飾っている表情は
 隙のない大人の顔をしているのに。
 今は電話の向こうで、口早になっているのが可笑しくて。

 まだレンズを向けた訳でもないのに、
 雑誌に向かって、「んー」と唇を尖らせる。]

[声を聞きながら写真を見ていると、
 今にも写真が動き出しそうなのに、止まったまま。
 ころんと、寝返りを打つ。
 
 貰った浴衣は今でも活躍中だ。
 だけど、着ているのは自分のものではなく、
 少しサイズの大きい威優のもの。
 寝返りを打てば、浴衣がスリットのように捲れる。]


  ふふっ、どっちが。

  オレのこと考えながらシてる威優のほうが、
  オレのことよっぽど好きじゃん?


[妙なところで張り合ってしまう対抗心。
 先程の素直さがすぐにひっくり返ってしまう。]

[素直さで言うなら威優の方がよっぽど素直だろう。
 こうして、慾をぶつけてくるところも。]

 
  カメラ?
  どれだ、……これ、あ、こっち?


[スピーカーから聞こえたキーワードに瞬き、
 仰向けに寝転がりながら、スマホを手に取った。
 インカメラの機能があることをすっかり忘れていた。
 画面をタップすれば、液晶が切り替わる。

 一瞬操作方法を間違え、
 外角カメラになったレンズが天井を移し、
 言われたボタンを押してインカメラに切り替えたら、
 ベッドに寝転がっている自身と、
 傍らに広がっている雑誌と写真集が映り込むだろう。]


  ……オレ映ってる?
  こっちは、えっちな顔したクマさんが映ってる。

 
[こんな便利な機能があれば早々に使っていればよかった。
 冗談交じりに顔色の様子を指摘しながらも、
 その瞳が慾を称えているのが分かれば、こくんと喉が鳴って。]

 
 
  ン……、
  威優にえっちなこと言われるの、すき。


[一週間ぶりに見た威優の顔に表情が緩んで。

 片手でスマホの角度を調整しながら、
 空いた片手で浴衣の襟元をするりと広げ、
 日に焼けていない胸元と、凹みを晒して。**]

[志麻と番になってからこんなに長く離れるのは初めてで、
実際思った以上に精神疲労を感じているけれど、
離れてみないとわからなかったこともある。

例えば、スマホひとつで調べられる料理のことを
2週間も取り置いてくれる志麻の懐の大きさだとか、

電話口で己の言動に対して柔らかく笑ってくれる声色が
慈愛に満ちているところとか、

「すきになったひと」と声を小さくしたのも束の間、
あしらう時の「すき」は臆面もなく言える小悪魔ぶりとか、

物理的距離が離れていて、肌を感じられない分、
他の要素から好意の気配を読み取りたい己の必死さも。]

[電話の向こうの気配に、志麻が体勢を変えたのだと察する。
見えないところを想像する力も培われた気がする。
その内本当にエスパーになれるかもしれない。]


 好きだよ。
 志麻の気持ちより小さく思えてたなら
 俺の伝達不足だな。

 いつも志麻との電話を切ったら
 その声を思い出して抜くし、
 
 朝起きてキス出来ないのが恋しくて
 朝から抱き合った日のことを思い出して抜くし。

 ずっと志麻のことを考えてる。


[志麻は意趣返しの心算だったのかもしれないが
己は彼への恋心に関しては素直なので
肯定どころか想定の倍以上の言葉を尽くして愛を謳う。

志麻、と呼ぶ度に熱が籠る。

彼の名を呼ぶ度に己はずっと「すき」を重ねている。]

[カメラが映したのは自宅の天井。

長期の留守だから、この機会に実家や住民票がまだ残る
マンションで寝ても良いのに、広い家で己の気配を感じながら
眠りたいのだろうかと思えば嬉しさで胸がくすぐったい。

切り替わった映像では、リラックスした表情の志麻の背景に
己が渡した写真集などが映り込んでいる。]


 映ってる。
 さっきキスしたみたいな声してたの、
 写真の俺宛だった?


[狼ではなく「クマさん」と言われる程に
己の目の下は窪んでいるのか。
揶揄に変えてくれる明るさにホッとする。

己だけ昂って、返ってくるのが本気の心配だと
どうにも居た堪れないから。]



 うん、やっぱり顔が見えるのは良いな。
 声も好きだけど、顔も好きだからね。

 ……胸、まだ隠れてるか。
 指入れてみて。
 窪みの中で乳首がどうなってるか教えて?


[触るなら、彼が好きな胸から。
浴衣からチラリと覗く肌が眩しくて喉を鳴らした。*]

大守 威優は、メモを貼った。
(a1) 2023/08/25(Fri) 20:49:42

[普段近くに居ることが多いから、
 近くに居れば居るほど触れたくなって、
 いつも隙間を埋めるように抱き合っていた。

 もちろん、互いに疲れ果てたときは、
 ただくっつきあって眠るだけのときもあったけれど。

 ベッドの上でも愛を情熱的に語る威優は、
 電話の向こうだと少し覇気がなくて可愛らしい。

 それでも離れている距離など感じないくらいに
 好意を、愛情を注いでくれる。

 遠距離恋愛なんてしたこともないけれど、
 威優とならそれすらも乗り越えられそうだ。

 ……なんて。
 一週間で愚痴っていたとは思えないぐらいに
 電話一つで浮かれてしまう程、溺れている。]

[ほら、また一つ。
 好きという告白が耳に心地よく響く。

 拗ねるのではなく、更に想いを膨らませて
 伝えられる想いの数に面映ゆくなる。

 今電話している上で、そんなことを言われたら
 ついその姿を想像してしまうのは仕方がないのでは。
 あけすけな告白に頬を朱に染めて
 大げさな咳払いをしつつ、狼狽えている様子を隠そうと。]


  ……絶倫め。

  
      
そんな声で呼ばれたら、伝染る。



[音声は繋がっていても温度は繋がらない。
 だけど、確かに頬に、下腹に、火照りが浮かぶ。
 まるで見えない糸で、威優と繋がっているみたいに。]

[広い部屋を一人で使うのは寂しいけれど、
 威優の匂いがしない場所のほうが切なくなるから。
 少しでも威優の存在を感じていたくて、
 居ない間は彼のものを傍に置きたがった。

 写真の話になれば、そう。と微笑って頷いて。
 雑誌の横に並んで映り。]


  でも、写真じゃ反応してくれないから、
  寂しくて泣いちゃう。

  舌も入れられないし。


[くすくすと笑いながらもう一度、雑誌の威優にキスを送る。
 寂しいと言いながらもリアルな表情が見えている分、
 声は先程よりはしゃいでしまって。]

[だから、威優も同じ感想を漏らしたことが嬉しい。]


  ん、声だけでも安心したけど、
  顔が見えると、距離が近く感じる。


[見えているのに触れられなくて、
 思わず、指先で画面を撫でてしまう。

 画面の向こうの威優がベッドに居る時みたいに
 妖艶な笑みを浮かべて、舌なめずりしているみたいで
 ぞくりと、背筋が伸びた。]


  ……ン、まだ触れたばっかり、だから。
  中に埋まってる……、



[片手でアングルを調整しながら、
 胸元が映り込むように手を伸ばして。
 反対の手で、凹みの中を探るように爪で押し潰し。]

  

  
ぁ、……んッ、

  ちょっとだけ、なかで、ぷくってした……、


[は、と零れ落ちる吐息に色がつく。
 伏せた瞼が微かに震えるのも、威優に視られている。*]

[志麻以外とはもう恋にならないから
志麻と離れ離れになるのならそれは遠距離恋愛という
ことになるのだろうが、遠距離恋愛そのものに
己は耐えきれる気がしない。

ありとあらゆる手段を使ってでも
傍に居る方法を掴み取るだろう。

今回だって、3週間だからまだ耐えられたが
もう少し長ければ志麻に会社を辞めて貰って
付いてきてほしいと懇願していたかもしれない。]

[元々性欲は強く、一回では収まらないことが多かったが
絶倫だと思ったことはなく言われたこともない。]


 志麻限定だよ。
 伝染ってほしいって思ってるのが通じたかな。

 だって俺だけ欲しくて熱を持て余してるなんて
 寂しいじゃないか。


[自ら熱が上がらないのなら、無理矢理にでも
同じ景色を見せたい。
傲慢な自覚はある。
その傲慢な男の番になってしまったのだ。
諦めてほしい。]



 流石に大守の技術と財力をもってしても
 写真にそんな機能はつけられないな。

 口の中が寂しいなら、前に俺がしたように
 指を入れて掻き混ぜてみたらどうだ?
 上顎の窪んだところとか、舌の横のあたりとか、
 志麻の悦い場所を、

     ……本当は俺が気持ち悦くしてやりたい、けど。


[画面の向こうに向かって舌を伸ばす。
届かないのが悔しくて、思わず溜息を吐いた。

顔を見られて嬉しい反面、
すぐそこにいるかのように解像度の高い映像に触れても
「本人」の感触には程遠いことが寂しい。]

[だからせめて届く情報だけは余すところなく堪能したい。
胸を弄る実況に鼻息を荒くして、手を己の下肢に伸ばした。]


 続けて。
 両方一度にしたかったらスマホを置いて
 上から覗き込むみたいな格好で。

 ……っ、志麻を見ながら俺も、
 オナニーしてる。


[志麻の感じている顔を見ているだけでも
充分興奮する。
育てた剛直を彼の中にぶち込めないのが
物足りなくて仕方がない。]


 ちゃんと志麻のピンクの乳首が
 ぴんって顔を出すまで弄って。
 ぎゅって引っ張るのでも良いよ。


[志麻の方は己の感じている顔で興奮してくれるだろうか。
扱いている下肢とどちらを映すべきかまだ決めかねている。*]

[威優と恋をして、結ばれて。
 一緒に過ごす日々は切なくて、甘くて、狂おしい。

 これから離れるつもりはないし、
 きっと威優が離すつもりもないだろう。

 それでも二度目も、三度目もあるなら。
 また恋をするなら威優がいい。]


  そういえば、……来月受けるよ、試験。


[傍に居たい気持ちは、同じ。
 だから予定していたよりも早くのチャンスを掴んだ。
 少し気持ちが逸ってしまった分、
 この二週間は勉強詰めになるだろう。
 就職試験が通った後は、秘書検定も受けるつもりだ。]

[威優の性欲が全部自身に向いていると聞いて、
 また、言葉に詰まってしまった。
 揶揄うつもりがストレートパンチを浴びせられて、
 簡単にノックアウトしそうになる。]


  ……ッ、……それなら、いい、けど。


[……いいのか?
 返答を間違ってはいないだろうか。

 画面が切り替わった今では赤らんだ顔も映ってしまう。
 持て余すほどに熱を持っているのは、既に志麻も同じで。
 柔らかな口調の中に垣間見える威優の強引さに、
 惹かれている。]

 
  オレだって、寂しいよ。
  威優に、────触って、欲しい。


[口に出してしまえば一層距離を感じて切なくなる。
 喉から出かけた言葉をぐっと堪えた。
 まだ、たった一週間なのに、溢れそうだ。]

 
  ……本物の威優と、キスしたい。
  

[小さな呟きに変えて、はぁ、と吐息を漏らす。
 電波の中で溜息が交ざり合った。

 キスの代替え案を説明され、
 以前に抱き合った休日の朝のことを思い出した。
 痴態どころか醜態まで晒してしまった朝。
 射精する以上に気持ち悦かった悦楽を思い出して、
 ふる、と小さく身体を震わせた。

 胸の凹みを弄っていた手を一度離して、口元に運ぶ。
 画面の向こうと威優と絡め合うように
 舌を突き出し、指を見せつけるように舐めて、
 そのまま口腔へと招き入れていく。]


  
ッ、ン……、っ、ふ……ぅ、


 
[威優が探っていた場所を擽り、指で舌を押し返し、
 掻き混ぜていく、上顎をなぞると鼻から声が抜けて。
 舌の横へ伸ばせば、唾液が溢れていく。]

[近くで声が響くから、
 威優にされているみたいで気持ちいい。
 瞼がゆっくりと伏せられていく。

 続きを促す声に、ン、と小さく頷いて。
 スマホをベッドに落とした。
 雑誌の嵩がある分だけ、少し斜めに画面が傾く。
 その上に覆い被さるように身体を傾げ、

 濡らした指で再び凹みをカリカリと穿つ。]


  ……ぁ、  
ンッ、ぅッ……、



[空いた手はまた唇を撫でて、爪を食み。
 指を深く咥え込んで、喉奥を柔く押した。
 威優のものを咥えているとき程苦しさはない。
 カリの太い部分で突かれるのが好きなのに、
 指じゃ足りなくて、差し込む指を増やす。]

[画面に視線を落とせば、興奮を声に滲ませ
 双眸を細める威優と視線が絡んで、きゅんと後孔が疼いた。]


  
……ふ、ッ、……ン、んんッ、

  ん、ンッ、……ふーッ、 ぁッ、……ぁ、


[穿つだけじゃ足りなくなって乳輪を両脇から摘み、
 ぎゅうっと押し出せば、少し尖りの先端が見え始める。
 色づいた先端と二本の指を咥え込んで
 興奮した自分が映り込んでいる。

 覗いた先端を指先できゅ、と摘んで引き出せば。
 じんと痺れが駆け抜けて、ぴくんっと背が撓って
 とろ、と口端から零れた唾液が、画面に落ちた。*]

[運命の番、という都市伝説がある。

「αとΩの間に限り、発情していなくても強く惹かれ合う相手がいる」
というものだ。

己は志麻と最初に会った時から目が離せなかったが、
志麻の方は一度己から離れようとした。
そしてヒートが訪れて――

科学的には証明されていないこの事象が事実存在するとして、
たとえこの先他に惹かれ合う相手が現れたとしても、

己ならば志麻以外をもう見ないようにその相手から遠ざかるし
志麻ならば、無理矢理引き離して閉じ込める。

彼以外の運命などいらないし
彼の運命は己に向くよう全力で捻じ曲げる。

その位、愛している。]

[出張前も準備でバタバタしていて
じっくり進捗を聞けていなかった転職の為の試験勉強だが
どうやら志麻の方の準備が整ったらしい。

来月ということは既に書類は会社に提出済だろう。
面接は各部署に任せているしΩの面接官だから
己が直接関わることはない。
きちんとした審査が行われるだろう。]


 気合入れて勉強していたからな。
 費やした時間と努力をちゃんと見てくれる社員ばかりだ、
 面接が成功することを信じてるよ。


[一度取った資格はこの先志麻自身を護る盾にもなるだろう。
己との結婚を発表すれば、少なからずやっかみの視線を
受けてしまうだろうし、謂れなき中傷に晒されないとも
限らない。
そんな時、正規の手段で試験に合格し資格を得た実績があれば、
「コネ入社」や「番に媚びた」なんて声を押さえつけることが
出来る。

武器は多い方が良い。]

[勿論、己は常に目を光らせて、志麻を傷つけるものを
全力で排除する心算だ。

愛も慾も、ただ一人の為だけにある。]


 ……クソ、どうにか明日の仕事無しにならないものか……。
 そんなこと言われたら、今すぐタクシーに飛び乗りたくなる。


[タクシーでは朝までに着かないが
新幹線はもう動いていないし、
このホテルにはヘリポートもない。
冷静に考えたら、とんでもないことを言っている自覚はある。

それでも、志麻が寂しがっているのに、
その身体を抱き寄せてキスの雨を降らせることができないのが
もどかしい。]

[切なく歪ませた視界に、志麻が指を舐める様が映る。
とろりと零れる唾液が照明に照らされて光る。
漏れるくぐもった声が艶めかしい。
見ているだけで咥内に生唾が溜まり、
何度も嚥下した。]


 よく見える。
 映すのが上手だな。


[はあ、と熱っぽい息を吐いた。
スマホは置かれてしまったから、
耳元に吹きかけるようにはならなかったが、
彼の痴態に興奮していることが伝われば良い。

増やされた指が己の陰茎であるような錯覚。
舐められていることを想像し、手筒で熱源を包む。]



 ……乳首、出て来たな。
 隠れないようにしっかり摘まんで引っ張って……

 はは、涎が落ちて来た。
 舐められないのが悔しいな。


[思わず舌で受け止めるような動作をしてしまう。
距離があるのだと思い知って苦笑した。]


 乳首だけでイきたい?
 それとも、いま口を犯してる指で、
 尻を穿りたい?

 欲しくて濡れてるだろ?もう。


[志麻の視線を意識しながら己のスマホの位置を下げた。

ずっと顔を映していた画面に、
赤黒く膨れ上がった剛直が映る。
手淫に合わせて先端にぷくりと先走りの玉が現れた。*]

[発情していなくとも強く惹かれ合う相手は運命の番。
 
 その都市伝説を信じるのならば、
 威優と自身は運命の番というものに
 当てはまらないのかもしれない。

 初めて出会ったときにはヒートを迎えていたし、
 ヒートですら抑制剤にも勝てなかった。

 それでも互いに威優を、自身を選び取った。
 「運命の番」ではなくとも、
 互いで互いを「運命にする」為に。

 それは、きっと。
 惹かれ合って結ばれた運命の番よりも強い。

 自らの意志で相手を「欲しい」と思うのだから。

 威優の仄暗いまでの独占欲には未だ気づいていない。
 だけど、その手を離すつもりはない。

 愛を誰とも育むつもりのなかった志麻の中に、
 一人分の大切なスペースを開けるようになったこと。

        ──それを、愛と呼ばずに何と呼ぼうか。]

[誰かのために頑張る、なんて。
 家族ぐらいにしかしたことがなかった。

 正確には転職は自身のためであり、
 威優にとっては副産物のようなものでしかないが。
 これからの人生を彼と暮らしていくために必要なこと。
 その一歩はもうすぐ傍にある。

 試験にはもちろん面接も含まれている。
 外面が良いことだけは自慢できるから面接は
 それほど苦もなくパスするだろうという自負はある。]

 
  うん……、まだ追い上げが残ってるけど。
  面接で負けなしのところ、見せてあげるよ。


[少しおどけてみせる。
 これからは威優の番という肩書がついて回るようになる。
 彼が番として誇れる相手でありたい。
 そのプレッシャーがないこともないけれど。]

[ただそれよりも、]


  ……ところで、専務は……その、
  秘書を増やすつもりは……、あったり、する?


[蜜月期間中の番は、プレッシャーより
      蜜月の時間を増やすことに夢中らしい。]

[会える時間の捻出は、
 どうしても威優の方が時間を割くことが難しい。
 ただ、本人に無理をしないで欲しいとそのまま伝えても、
 彼は首を縦に振らないだろう。
 だったら、こちらから都合を合わせればいい。

 会社の都合も、捻出する時間も。]


  ははっ、仕事する為に行ってるんだろ?
  週末まで待っててよ。

  オレが会いに行くから。


[ホテルの場所は聞いてある。
 新幹線のチケットも既に準備済みだ。
 直接行って驚かせようかと思っていたが、
 威優なら本当にヘリを呼びかねそうだったから、
 先手を打ってすれ違いを防ぐ。

 たった三週間も待てなかったのはこちらも同じ。
 これだけアクティブに動くのは初めてかも知れない。]

 
  ……だから、今日は画面越しで我慢して?


[本当は会いたくて会いたくて仕方がない。
 切なさを残した声でさっき呼んだばかりなのに、
 今度は言い聞かせるみたいに囁いた。

 指を引き抜いた口元は唾液で濡れて艶が浮かび、
 近ければ今にも、手を伸ばしそうな威優が画面に映る。]


  ……ッ、ン……、威優も、
  エロい顔してる……、


[画面越しに視線を絡ませ、吐く息が温度を上げる。
 スピーカーから距離はあるのに、
 低くなった声が艶めいていて腰に響いた。

 一度抜いた指をまた咥え込む。
 画面の向こうの威優を愛撫するみたいに、]


  ……ふ、…ひ、ゆっ、ぅン……ッ、ン、


[名前を呼べば、熱い彼のものが欲しくなって
 下腹が切なくなる。]


[画角の広い液晶が胸元の尖りを拾う。
 威優に言われるままに、こくんと頷いて。
 浮き出た尖りを指先で摘んで隠れないように引っ張って。]


  ……ぁッ、ンン、
  ちくびっ、じんじん、するッ……、
  ……は、ぁッ、きもち、……ッ、


[滴り落ちた涎で画面が浮き出たように映り、
 舌を覗かせる動きが本当に届きそうで、
 無意識に胸を逸らして画面に身体を近づけた。

 言葉で嬲られる度にぞくぞくする。
 乳首も弱いけれど、さっきから腰の奥が疼いて仕方ない。
 画面が下に落ちていき、育った剛直が映る。
 カメラでも分かる大きさにこくん、と喉を鳴らしてしまう。]


 
  ……ッ、ん……欲しい、ッ……
  おしり、に、……威優の、挿れたい……ッ、


[たっぷりと涎を垂らした指を引き抜いて、脚を広げる。
 浴衣の裾がはだけて、太ももに手を滑らせて、
 手を上げていけば既に紐パンを押し上げる程に
 育った昂りが覗く。
 布地の色が既に前も後ろも湿っていて。

 指先でつぅ、とパンツの縁を辿れば
 ひくついた後孔が指にちゅうと吸い付いた。*]

[αは番に対し極端に過保護になる性質がある。
己にもその性質があることを日々痛感しているだけに、
それが単なる自己満足の手段にならないように
特に気を付けて行かなければならないと思っている。

志麻は己が一から十まで護らなければ生きられない程
弱くはない。
むしろ強いところに惹かれたのだから、その強さを
鈍らせることはしたくない。]


 筆記パスしたらもう後は楽勝だろうな。


[クスクスと笑い声を返す。
初対面から彼はビジネススマイルが完璧だった。]

[そんな、転職活動に真剣に取り組む姿勢を見せて来た
真面目な会社員が、おずおずと言い出した言葉には目を細める。]


 秘書室に定員は設けていないよ。
 人員を増やせば一人ひとりの負担が減るし
 働きやすくなるから歓迎されるんじゃないかな。


[そんな会社目線の答えと]


 仕事中、秘書室に顔を出したら志麻に逢えるなんて
 俺としては最高の展開だな。


[私情たっぷりの答えを。]

[会話をしながらヘリ移動の所要時間を計算していたから、
志麻が来てくれるという話に途端に背筋が伸びる。]


 本当に?
 移動だけで半日かかるだろうに……

 ああ週末が待ち遠しいな。
 
 日中は休みじゃないから逢えても少しの時間だけど。

 ……嬉しい。


[そわそわと口調が浮つく。
明かしてくれて良かった。
彼の予想通り、8割ぐらいの本気度で
明日の夜ヘリを飛ばすところだった。]

[調教上手な番が逸る気持ちを宥めてくれたおかげで
離れていないと愉しめないシチュエーションに
意識を持って行くことができた。]


 うん。


[指が入っていれば喋りにくいだろうに、
己の名前を呼ぶ。
嬉しくて何度も返事をして、呼び返す。

「志麻が好きだよ」
「可愛い」
「もっと見せて」

声をかける度に、興奮した志麻の口端からどんどん唾液が
零れて来て、巡り巡って己を興奮させた。

生唾を飲む音がやけに大きいと思ったら、
己の剥き出しの性器を見た彼の喉の音だった。

志麻もきっと想像したのだろう。
彼の口腔を奥まで犯して――
尻に入る感触を。]

 




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