「この刀……アンタなら手に入れる？」

[俺の関心が向く先を敏に感じたか、『未練を持つほども生きていない』という若い男はそう問うてきた。だが、]

……いらんな。

[一蹴する]

俺は俺自身に何も求めん。何も手にするものなどありはしないよ。

[虚うつろ。
その点で俺もまたこの者と何が違うか。
この者は、俺と何が違うか。
……違うのは]

だからその刀を持つ貴様が何を手に入れるのか……
欲するのはその中身だ…………。

[自らの声が力を帯びるのがわかる。
地上では気づかなかったこの力。嗚呼、だが今はわかる。
この力が俺に人を惹きつけ、俺を求め、俺に応じたのだと]

己に未練がないなら、己がないなら、
その刀は貴様の何を選んだ？
否、ないからなのではないか？
己の虚を満たすのは、その刀が吸った血か？

フッフフフフ………
世は斯くも若者に残酷かよ。
己を生かすはただ地に餓えた刀のみ。
己を顧みれば何もない。

ああ、そうだ。
だが貴様にその刀を手放す道はない。
それを手放せば貴様は虚。
手にすれば血塗られた傀儡。
だがよいではないか。
故に貴様は選ばれたのだ。

わかるのだ、俺はその刀には選ばれん。
故に欲する。
貴様の呪われた道の先にあるものを、垣間見たいとな。
クッククク、汝、妖刀使いたれ、よ。クククッククク……！

[戯れだ。ほんの余興に過ぎない。
だがその余興に、余興の主役たるまだ若き者に、一縷の何かを見ようとしている己を、俺は否定しきれない……]

──

本気で言ってんのか？って思ったけど、
頬に指先が触れて、それで。
ちょっと温いその手も外側から包むように握った。

「あのさ……、」

言いかけて、
サーリフの俺を覗き込むような視線を避けて
目を逸らす。

「それがサーリフの願いなのか？」

──なんでお前はナチュラルに俺もそうだって
　思ってんだ？
とか
──『サーリフの一番が俺』じゃなくて
　『俺の一番がサーリフ』なのはなんで？？
　ずるくねそれ？？
とか
──だいたい俺がサーリフを放っておいたんじゃなくて
　逆だよな？？？
とか
諸々言いたいことはあったが飲み込んだ。
　

「俺はお前に『導かれたい』と思ったことはないよ。
『導く』のも『導かれる』のも、もう要らない。」

……俺はそんなに変わったんだろうか。
少なくとも『サーリフに望むこと』は
あんまり変わってないと思うんだが。

サーリフはなんだか少し神妙な面持ちで
俺の言葉を待っている。

そうして黙っていれば、
ちゃんと天使らしいのに。

けれど天使らしく在ろうとする故に
懸命にもがいて滑って転ぶ、飛べない片翼の姿は
地上での俺の姿に重なった。



翼なんかラナーにあげてしまえばいい。
煉獄ここに居るなら要らないだろ。

誰の目を憚ることもないはずなのに
ごく密やかに頬を寄せて、
俺はサーリフの耳に囁いた。

ほやほやと熱に浮かされていましたら、ナディルはとんだことを言い出しました。

「堕天ですか」


ぱちぱちと瞬きをします。
それはアリなんですか……はい、そんなこと思いつきませんでした。
神に仕えることが当然でそんな自分を疑いもしませんでしたが、一歩引いて考えてみれば神もある意味なかなかの無茶ぶり傲慢野郎でしすね。


堕天……堕天。
困りましたね。
頭の中でいくら検討しても「それは無理、いけないことだ」と言う自分がいないんですよ。
正直に言うと、このナディルが言うならまあいっか。
色々なことは後から考えましょう。
……といったところです。


そして、ナディル。
私はこんな台詞を口にしてしまえるキミのことを大変好ましいと思っていますよ。
破天荒というか無邪気というか、天然です。
自由になったナディルの破壊力は凄まじいものです。

そしてナディルはとびきりの欲しがりです。
天使に羽根を捨てろと言いますか。
そんなに私が欲しいですか。




堪えきれない笑いが漏れると、もう止まらなくなって。



自分がこんな風に声をあげて笑うなんて、知りませんでした。

「ええ、いいですよ、ナディル。
　それによってどうなるかは解りませんが
　キミが望むなら私は神を見限りキミに殉じますよ。
　ええ、喜んで。

　だから……勝ってください」

身を乗り出して、額に口づけて。
それから、ぎゅうと抱きしめました。

流星はジンへの罰だと言われている。
空に星が流れるとき、地上の何処かでジンが死ぬ。
多くのジンはそれを恐れ、星の降る日は鳴りを潜める。

──けれどあの日、
天から放たれた光がこの身を貫くまで
自分には無関係だと思っていた。
　

煉獄で目を覚まし、堕とされたと理解したとき
去来したのは軽い諦めと───安堵だった。

もうこれ以上、
、、、、、、、、、、、、、、
人間の不毛さと自らの無力さに
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
落胆と苛立ちを繰り返す必要はないのだと。

父と母の期待という枷も
神に与えられた使命の軛も
なにもかも外されたのだと。

煉獄ここに堕ちて、
俺は初めて『自由』を手にしたのだ。

今更、それを手放して
地上に戻る道理などあるものか。
　

『我々にはこの獄が相応しいか、ナディルよ。』

『不信の罪』を背負い、
、、、、、、、、、、、、、、
煉獄に堕ちて殺されることで初めて愛を知った男は皮肉に嗤う。

けれどもその声は何処か嬉しそうに響いた。


「───ああ…どうやら、そのようだ。」

>>3:67 サービスシーン
2:何故か自ら服を脱いだ。
6:不思議なアイテムでどうにかした。
アイテム：自分の魅力

退屈だ……ああ退屈だ、退屈だ………！！




謎の声に導かれ、俺は脱いだ。




シャフリヤールが裸体であるだけで、
万の人がそこに神をすら見る。


フッ、どうにかもこうにかもない。
これが答えだったのだな、よい、すべてが満たされた……。

「なんでついてくんの？」
「私のことは気にしないでください」
「無理があるだろ」

ずんずん歩くアルバリの背中を追いかけて歩きます。

……アルバリの腰から愛刀が消えています。
ラナーの仕業ですね。
悲しいです。
ラナーは善意の存在ではありますが、残念ながら愚かです。



とでも言ったのでしょう。
相方のことは解りますよ。


何故ですか。
死から逃げまどうアルバリを救ったのが、アルバリを選び支えたのが、意志を持った妖刀フォーマルハウトだと。
彼らを引き離すことは見ている側のエゴでしかないと、何故、解らないのですか、ラナー。

従ってしまったアルバリは可哀想です。
涙がにじんで、今にもこぼれそうです。

アルバリは立ち止まって、こちらを見ました。

「言いたいことがあるんだろ。言えば」

待ってくださいね。
言いたいことだらけでパンクしそうなんですよ。

「結論から……。
　アルバリ、地上に戻ってはいけません。

　キミは優しい。
　いずれその優しさがキミの身を焼くでしょう。
　生きるために多くの命を犠牲にしてきた事実は……

　ああ、こんなことを言いたくはありませんが
　キミの心情は変わっても、キミの根底は変わらないのです。
　キミは多くの犠牲者アルバリを背負っている」

地上へ戻れば、アルバリは更に傷つく。
――見えている破滅をどうして見過ごせましょうか。

フォーマルハウト……アルバリに生きるすべを示した妖刀を捨てたアルバリが、両の足で立てるとでも？


「アルバリ……煉獄にいましょう。
　、、、、、、、、、、、、、、、
　キミの地上での生はもう終わった。
　地上に還ってもやることはありません。
　どうか、解ってください」

それがアルバリの希望ではないことは知っていて。
でも、私はこう懇願するしかありません。
地上は苦痛であり、希望ではないと、言わねばなりません。
堪えていた涙がひとつ、落ちてしまいました。

『堕天ですか』
目をぱちくりさせて、
サーリフは俺の言葉を繰り返した。

そう、堕天。

神の子ラグヴァ・シトゥラが『ただのナディル』として
生まれて初めて自分の為に望んだものが
親父のもの神の使いだなんてお笑い種だろ。

だから──お前も『ただのサーリフ』になってよ。
　

……まぁどうせ断られるんだろ、と思っていたら
『ふ、ふふ……あははははは！』
サーリフは急に声をあげて笑い出した。

『いいですよ、ナディル。喜んで。』
ぽかんとした俺の額に口づけて、抱きついて。

『──だから、勝ってください。』

えっ…何が起きた？？？

両腕の中にサーリフを収めてしまって、
尚まだ理解が追いつかないんだが。

片翼が微かに揺れて
勿忘草の匂いがふわりと立ち上る。
鼻先を擽る金髪に口づけて、その存在を確かめた。