【人】 ??? 工藤美郷──回想・廊下にて── [名づけの提案に、女は首を振った。] いらない。 あなたが何と言おうと、私も工藤美郷です。 [彼女の理想と、現実の彼女。それがどれほど乖離していようとも、もとは同じ一つのもの。 ならば違う名前などいらない。たとえ誰に認められなくても、偽物と呼ばれようとも、同じ魂の表と裏だと、彼女は信じているから。] そう……本当に、タチが悪い。 [気持ちを汲んで、その心に沿って行動することができるならば。 感情の癖の近しい相手であればあるほど、汲み取る精度は高まるのだろう。 多数派 けれど、工藤の心の傾向は、あまりにも“普通”からはかけ離れている。 やるせなかった。根底にあるのが善意であるが故に。] (97) 2022/09/08(Thu) 21:04:04 |
【人】 ??? 工藤美郷──回想・特別展の前に移動後>>258~── [特別展の前に行くと、小泉先輩は息を飲んだ>>2:257。 陰惨な風景に、それでも気を取り直したのか、やがて小泉先輩が問いかけてきた>>2:258。 女は不敵に笑う。] 随分とムシのいい相談ですね。 ……良いですよ。この子が望むなら、いつでも替わってあげる。 [もし小泉先輩が、絵の女を溶かしていたのなら、これ以上の交代は叶わなかっただろう。 つまり、例え怪異を相手にしても不必要に傷つけない、彼の心の在り様>>2:213が招いた善果だ。 悔しいので言葉にはしてやらないが。] (98) 2022/09/08(Thu) 21:05:17 |
【人】 1年生 工藤美郷[そうして。 不器用な工藤美郷は、絵の中から引きずり出されると、勢い余って小泉先輩に倒れこんだ。] ……………………。 [何度か瞬きをすると、状況を把握するようにあたりを見渡す。 後ろを振り返れば、何事も無かったかのように、工藤の絵が収まっていた。 絵は先程までとほとんど変わらない。変わったことと言えば、脛に一つの傷もついていないことだけ。 それから工藤は身を起こすと、自らの足でしっかりと立ち、じっと小泉先輩を見上げた。>>2:260] 私と小泉先輩は分かり合えない。 [抑揚無く、事実を確認するように繰り返した。 彼の言う「思い込み」はまさしく真実で、ぴたりと分かり合えることはきっと無いのだろう。 だが、すれ違いながらでも、関わることはできる。 今、先輩が話しかけてくれているように。] (100) 2022/09/08(Thu) 21:06:58 |
【人】 1年生 工藤美郷……………………。 [工藤は、先輩の話を、言葉にしてもらわねば決して察することのできない胸の内を、じっと聞いていた>>2:260>>2:261>>2:262。 頷くことも無く。目を逸らすことも無く。 その二つの丸い瞳の中には、小泉先輩が映っていた。] ……小泉先輩が何と言おうと、私にとっては魔法でした。 私のことは分からなくても、小泉先輩は、店長やその他の人とはうまくやっていたから。 私は忖度しないのではなく、できないのです。 他の人たちがそれを高い精度で行って、滞りなく人と関わっているのが、どこかでずっと羨ましかった。 (101) 2022/09/08(Thu) 21:07:42 |
【人】 1年生 工藤美郷彼女の中に私の心が溶けている間、おそらくは私にも皆さんと同じように世界が見えていました。 全く同じではなくても、かなり近しく。 小泉先輩の顔を見れば、私を疑っているのが分かりました。 声を聴くだけで、怒っていることも分かりました。 その怒りの後ろに、私や、他の人たちの身を案じる心を見ました。 それらの先輩の心に気づくたびに、私の中に先輩を評価する心が溢れ、合わせて反応するたびに苦しくなりました。 [「彼は私を疑う人」と評価して、だからごまかさなければいけないと思った。 「彼は私に怒っている」と評価して、だから逃れなければいけないと思った。 評価に応じた、「だからこうしなければいけない」という思い。] あれは、精度の高い妄想だったのでしょう…… [その能力は、人間社会を円滑に回すためには欠かせないものだけれど、自分の心を潰す圧力も伴っていた。 この心を他の人たちが持っているのならば、なるほど、工藤とはまた別種の生きづらさを抱えているのだろう。] (105) 2022/09/08(Thu) 21:14:45 |
【人】 1年生 工藤美郷同時に、その心の揺らぎに振り回されるあまりに、普段感じられるものが膜を貼ったように鈍くなりました。 時折流れる風の向きや、空間に当たる音や、肌に触れる感触が、どうでも良くなりました。人に気を取られるあまりに、私を取り巻く環境に鈍感になっていた。 小泉先輩に使えて私には使えない魔法があるように、私に使えて小泉先輩には使えない魔法がある。そのことに気づきました。 [誰だって欠点がある。お互いに補い合えるように。>>2:262 完璧であれば、完璧であるがゆえに人を苦しめてしまう。 同時に、誰にでも突出した能力がある。ただ、あまりにも自然にこなせてしまうから、長所は短所よりも見えにくいだけで。 その能力で誰かを補うことができるのならば。] (106) 2022/09/08(Thu) 21:15:34 |
【人】 1年生 工藤美郷そうであれば、私は私だけの魔法を使って、もう少し生きていたい。そう、願っています……。 [たとえ、砕けた命が自分のものでも。迎えが来るまでの間だったとしても。] (107) 2022/09/08(Thu) 21:15:57 |
【人】 1年生 工藤美郷[それから工藤は、迷いなく言った。己の望みを、忖度することなく。] 私には小泉先輩の力が必要です。 私の行いで傷ついた時には、どの行いで傷ついたのか言ってください。 私が誰かを傷つけていたら、そのことを教えてください。 私には分からない人の心を、先輩の言葉で説明してください。 [そのための時間が、あと僅かしか残されていなくとも。決して無駄にはならないから。]* (108) 2022/09/08(Thu) 21:16:22 |
1年生 工藤美郷は、メモを貼った。 (a39) 2022/09/08(Thu) 21:23:15 |
1年生 工藤美郷は、メモを貼った。 (a40) 2022/09/08(Thu) 22:19:30 |
【人】 1年生 工藤美郷──特別展前>>3:123── 先輩は最初からはうまくやれなくても、失敗から学んだ。>>125 いちいち聞かなくても、人の反応から察した。 [工藤は失敗だけでは学べない。だからいちいち質問して、一つずつ丁寧に躓かなければいけない。 その代わり、指摘されても傷つかない無頓着さを持っていた。 それは人によっては強さと見えるのかもしれなかった。 工藤の長い話を、小泉先輩は時折相槌を打ちながら聞いた。 その苦しみを現実のものと肯定されれば、>>3:126] ……………………。 [工藤はしばらくの間沈黙した。 あの時のような、評価が産む苦しみは、もう胸の中には宿らないけれど。] (191) 2022/09/09(Fri) 7:06:38 |
【人】 1年生 工藤美郷そうですね。例えば…… [と、工藤の面倒な魔法のことを話しただろう。>>3:127 肌に当たる服の感触が気になって、同じ素材しか着れないこと。 天井の低い場所では、音が逃げなくて耳が痛くなること。だからよくイヤフォンをつけていること。 同じ食材を食べても毎回違う味に感じてしまうこと。 林檎一つ食べるにしても。品種が違えば果肉の歯触りが変わる。 口に入れて、咀嚼するうちに温度が上がれば、酸とえぐみの香りが解けて、舌がひきつれる感覚が起こる。 皮にわずかに残る農薬の香り。洗った水道水の塩素の匂い。そういったものにえずいてしまう。 切れにくい包丁で切れば、繊維のもつれが気になる。かといって、ステンレスより鋭い切れ味の鉄包丁を使えば、今度は鉄の味がする。 鋭すぎる五感の上、多くの人が当たり前に行っている、不要な情報を捨てる能力が低い。 そういった特性を持つ工藤にとって、世の中はうるさかった。 だから工藤は同じ事ばかりを繰り返す。同じ音楽を聴き、同じ時間に動き、同じ食べ物を選ぶ。情報が多くて混乱しても、同じ事を繰り返していけば秩序が生まれるから。] (192) 2022/09/09(Fri) 7:08:28 |
【人】 1年生 工藤美郷こういったことは、当たり前のものだと思い込んでいました。 自分の体しか使ったことが無いので。 私に皆さんの思考の癖の説明が必要なように、皆さんにも私の説明が必要なのですね。 [何を説明し、何を省くか。 その取捨選択能力は、おそらくこれから小泉先輩のサポートで身に着けていくものなのだろうけれど。] (193) 2022/09/09(Fri) 7:09:40 |
【人】 1年生 工藤美郷……………………。 先輩がどう思っていたか>>3:131>>3:132は伝わりました。きちんと、とは断定できませんが。 ですが、行いの疑問視を否定的に捉えるのは、私にとっては厄介な思考の癖です。 [きっと、そう思わせないように柔らかく伝えるのは、工藤の最も不得手とするところ。 だから結局、疑問に思ったことは、遠慮なく言ってしまう。] 先輩が良かれと思ってやっている方法は、小泉先輩が抜ければ成り立ちません。 先輩は四年生、就職と共に居なくなる人です。 調整は、現場を円滑に回すために必要なものでしょう。ですがその方法を、先輩が一番うまくできるからとやってしまえば、やがて困るのはあの店です。今は上手くいっていても。 それとも先輩はあのパン屋に就職するのですか。 [もしかしたら、来年を待たずしてその「困るとき」はやって来てしまうのかもしれないけれど。 あの時できなかった話の続きを、ここで、した。]* (196) 2022/09/09(Fri) 7:13:49 |
【人】 1年生 工藤美郷──会話の後── では私もレストランに向かいます。 オムライスとおにぎりは先輩が食べればいい。 [と言いながら足を向けようとしたとき、工藤はふと口を噤むと、] 津崎先輩がこちらに来ていますね。>>183 合流しますか。 [当たり前のように言った。 まだそれは、足音もまだ遠く、耳鳴りと勘違いしてしまうほどかすかな時。 だが工藤は耳に聞こえる足音の癖や、履いていた靴の素材からそう推察できた。 工藤には実体の無いものが分からない。 その代わり、実態のあるものを感じ取る能力は、人一倍優れていた。 やがて、「コイ先輩?」と呼びかける声も聞こえてきたか。]** (197) 2022/09/09(Fri) 7:14:26 |
1年生 工藤美郷は、メモを貼った。 (a65) 2022/09/09(Fri) 7:24:37 |
【人】 1年生 工藤美郷──回想・特別展前── 本当に? [褒め言葉>>3:217がよほど意外だったのか、工藤は数度目を瞬かせた。 それは、表情の無い工藤にとって、最大限の驚きの表現だった。] ……珍しい反応です。 [工藤は我儘な奴。みんな我慢しているのに、 少しは集団に合わせることを学ばないと、みんな離れていくよ。 そうやって言われ続けてきたから。 工藤にとって耐えがたい音や、味や、匂い。そういった不快なものを、他の人は皆我慢しているのだと思い込んでいた。まさか感じ方が弱いとは、想像もしていなかった。 自分にとっての当たり前を、言葉にして説明できれば>>3:218、我儘とは言わないでくれる人が増えるのだろうか。 相手と反応を合わせることができなくても、それもまた一つの彩りと見てもらえるのだろうか。] (何が可笑しいんだろう……) [自重めいた笑い>>3:220の意味も、理解できなくても。] (300) 2022/09/09(Fri) 19:17:35 |
【人】 1年生 工藤美郷『「私は」こう思ったけど、実際は違うのでしょうか』 [工藤は繰り返して練習した。自分の血肉とするように。 人の言葉を模倣して、会話の型にしてしまう。それは工藤がよくやる癖だった。 相手の言葉を真似ていれば、同じ言葉を繰り返していれば、不必要に不快な思いをさせずに済みそうだから。 相手の思考を汲み取って確認する方法も教えてもらえたけれど、] それは私には難しいです。 [できることから一歩ずつ進めることにした。 できないことはまだ多い。 小泉先輩のバイトの話>>3:221も、じっと聞いていたがやはり難しい部分はある。 引継ぎの事情までは納得できたが、比喩表現が理解できず、「何故突然蟻の話になったのですか? 今はパン屋の話をしているのですが」などと話の腰を折りながらも、根気強く説明してもらって、少しずつ理解していっただろう。] (303) 2022/09/09(Fri) 19:18:12 |
1年生 工藤美郷は、メモを貼った。 (a104) 2022/09/09(Fri) 19:20:56 |
【人】 1年生 工藤美郷──移動・特別展前→レストラン── [そうしてレストランに戻ると、食べ物の匂いがいきれのように工藤を包み込んだ。 その中に嗅ぎ覚えの無い臭いがして、工藤は一瞬立ちすくむ。 正確に言うならば、なじみのある香りではあった。だがあまりにも濃密すぎて、最早別種のように感じられた。 むせかえるような、林檎の匂い。 植物は、音ではなく香りで会話をする。 それは限界まで熟した、腐り落ちる寸前の林檎の悲鳴。獣を呼び寄せ、食わせることで、熟した林檎を間引くための。おまけに、並行するように鉄の味が空気に混じっている。 煮詰めたような濃厚な芳香が、粘度さえ伴って充満していた。 そのくせ、机の上に置かれた林檎は鮮度が良さそうで、とてもそんな香りを帯びるとは思えない。] くさい…… [ここで怪我をすると、血であって血じゃないものが流れる。 津崎先輩の言葉を思い出した。 なるほど林檎が怪我していると思えば、この香りも納得だ。] (330) 2022/09/09(Fri) 20:32:29 |
【人】 1年生 工藤美郷──魔法>>3:327── [それはどのタイミングだったか。 黒崎先輩の合図>>328で、窓を見る。 屋上から紙吹雪が振りまかれた。] ………………。 [工藤は身を起こすと、机やら椅子やらに体のあちこちをぶつけながら、ふらふらと窓際に寄る。 切り取られた色、が、空気に煽られて、くるくると回る。淡い裏面と濃い表面が、太陽の光を受けて、斜めに影の線を作る。 工藤はそれをじっと見つめていた。鋭敏な色彩感覚で。 届かないと知りながら、松本先輩の放った色とりどりの魔法に手を伸ばした。 結果として、窓に手を押し当てる形になった。]* (334) 2022/09/09(Fri) 20:44:08 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新