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【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 隻眼の冷たい色合いと搗ち合えば、 少しばかり背を伸ばして薄い微笑みを投げ掛けた。 ] ( 餞別など必要でない。 我々は同じ場所へ至るのだから。 ) [ 糸が切れた様に王座へと深く座り込み、項垂れる。 肘置きから零れ落ちた片腕がだらりと垂れては 二度、復元力に引かれる儘に力なく揺れた。 ] (25) 2020/12/11(Fri) 23:03:49 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ ────雲間から顕れた月光が、鉄の玉座を照らす。 冠は真白く煌めき、 傍らの剣は炎を発し、 大地は俄に震え出す。 裸の氷輪と、其れに呼応して姿を変え行く怪物に 共鳴するかの様に、階段の頂点に黒い霧が掛かる。 ] [ 誰も来る事は無い、冷たく孤独な二人だけの世界。 女の眼前で其れは冒涜的な存在へと姿を変え、 立ち込めた霧は衝撃波を伴って四方八方へ飛散した。 ] (27) 2020/12/11(Fri) 23:04:34 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム獅子の頭に、不確かな影、然して巨大な剣。 魔力を纏う体躯は到底王座に収まらず。 数倍に嵩んだ人ならざる姿は憤怒に 燃 遥か下方の怪物を見下した。 永く肉体を持てず彷徨い続け、 漸く再臨の叶った悪魔は未だ不完全であった。 故に、滅ぼすべきは今この刻のみ。 砕けた硝子が降り注ぐのをものともせず、 『其れ』は剣の柄から離した片腕を振るった。 (28) 2020/12/11(Fri) 23:05:09 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム雨 頂上から階下へ、命脅かすモノを撃ち落とす為に。 この瞬間、彼女は救うべき獲物ではなく 退けるべき怨敵でしかなかった。 そう、現界を果たした悪魔にとっては。 血 火 天 球 り の 星 火 風を唸らせて飛来する無数の焔は、 逃げ場を無くすかの様に降り注いだ。 鱗を灼き、尾を焦がし、瞳を煙と変え、 何れはこの城ごと焼き落とす事さえ厭わなくなる。 (29) 2020/12/11(Fri) 23:05:30 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム今こそ一度限りの舞台へ駆け上がり、 呪われし運命に終止符を打つ時。* 月光だけが微笑みながら、其の終幕を見詰めている。 (30) 2020/12/11(Fri) 23:05:47 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[────静寂だけが二人の繋がりを証明する手段のようだ。 投げかけられた微笑みとは対照的に、見上げる夜色の女は唇を噛みしめ顔を歪ませる。 (同じ場所へ至れるとまでは思っていない。 微かな願いは届くわけがないとさえ思っている。 今まで通り送り出すのみの略奪者の仮面を被り、 血に塗れた腕を伸ばすだけの未来を見ていた。) ────力尽きたようなさまを見開いて認めると同時、 この世の終わりのような痛みが脳を襲って頽れた。] (31) 2020/12/12(Sat) 1:07:05 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[噫! 頂点に聳え立つのは月をも喰らいつくさんとする百獣の王を模した幻影の如き虚な姿と (影と混ざり合う、まるでキメラのようなそれは、月光病さえも彷彿とさせるような…) そこに至る迄の試練の如く降り注ぐのは 灼熱地獄にも似て非なる───冷酷非道な怪物の命をかき消さんとする 随分と”洒落た”カーテンコール!!] (33) 2020/12/12(Sat) 1:10:36 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ────────……… ッ !! [温度が上がる。 裁きの炎が堕ちてくる。 ばらばらと崩れ落ちる硝子片たちを避けながら、 ステップを踏めば、遥か頂上の仇を睨み上げるのだ。 そうして口の中に仕舞い込んだ短剣を砕かぬように感触を確かめ──────、] (34) 2020/12/12(Sat) 1:10:42 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[────苦痛と共に硬い表皮に覆われた巨大な身体を大きく振るわせる。 燃え盛る火炎に呼応するように、ひとたび大きな咆哮を上げた。 鱗を舐める高音をものともせず、嘗て諸国を超えて彼の元へ辿り着いた四足歩行が空間ごと揺らす勢いで何段かもしれぬ階段を登り始める。 目指すは頂上一点のみ。その先に臨む宿敵を───神を欺く憎き悪魔から大切なものを奪い取るために。 数多の武器を跳ね返す鋼の如き身体でも、 あの日の銃弾が脇腹を抉ったように、弱点はある。 女が完璧な怪物になりきれぬ証のように。 ちりちりと焦げる熱が臓器まで浸そうとも、 この自我だけは……生命だけは、燃やさせない。 大昔の聖人が海を割った逸話を繰り返すわけではないが───目には目を。歯には歯を。炎には炎を。 ご お ぉ───…… と、鋭い牙の生え揃った顎を大きく開け、蒼く燃え盛る焔 (35) 2020/12/12(Sat) 1:11:52 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[怪物の吐息にも似たそれは、見た目に似合わず凍えそうな死の温度を纏っている。 試練に立ちふさがる灼熱の壁を溶かし、一本道の活路を切り開けたのかどうか。] [否、作れなくとも構わない。その壁を突破し、彼奴に届けばそれでいいのだ。 どこまでも彼に温もりを与え続けた怪物が最後に届けるのは終焉を知らせる冬の到来。 左手には闇を、左手には約束を。誰よりも憎み■したかった者たちを壊すために目覚めたのだから。 凍てつく波動じみた炎を、遥か上の相手へと叩きつけるように吐いた後、 切り開いた活路を───開かれないのであれば、腹を焦がしながら。重い身体を引きずらせ、只管に玉座を目指し続ける。 口内にしまい込んだ短剣を振りかぶる時を待ちわびながら、燃え盛る瞳は真っすぐに相手を打ち付けながら。]* (36) 2020/12/12(Sat) 1:14:16 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム互いにヒトとしての自我を無くしたならば、 同様に言葉さえも不要。 燃え落ちよ、この足許へ至る前に灰と化すべしと 降り頻る焔が幾千と連なる山脈の如き鱗を灼く。 不確かな体躯はたった一撃、 魔除の加護を受けた刃で貫けば跡形もなく消えるだろう。 故にこそ近付けさせてはならない。 玉座に至る前に滅しなければならない。 火球の一つが怪物の顎門に直撃しようかという寸前で 其れは吐き出された絶対零度の前に掻き消える。 覆う空気が凍て付けば、焔とは影も形も無くすもの。 (37) 2020/12/12(Sat) 1:56:12 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム────獅子は瞳を再び見開く。 その牙の内側に隠した品の何たるかを識っている。 忌々しい 約束 だけはこの身に触れさせる事を良しとしない。深紅の爪を抱く掌を開けば、 一際大きい 焔 質量を持つそれは、躱せば自ずと石段を砕く。 即ち、退路が完全に失われるのと同義。 然し────この期に及んで背を向ける者など居ない。 隕石にも似たその影の裏から躍り出る姿が在るならば、 いよいよ魔剣と化した獲物の柄を握り直す。 (38) 2020/12/12(Sat) 1:56:26 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム浴びた冷気は纏う熱に触れれば一瞬にして蒸気と変わる。 視界が歪むのはそのせいだ。 返礼の如き 咆 哮と共に、半月を画く様にして禍々しい刀身を振り落ろす。 刃の煌めきも、尾を引く残像も其処にはなく。 まるで光を喰らった様な漆黒だけが、空を裂く。 蝿でも叩き落とすかの様でありながら、 確実に身体の正面を捉えようとした一撃を 擦り抜ければ、その心臓にだって手は届く。 ────約束を果たすことだって。* (39) 2020/12/12(Sat) 1:56:57 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[修羅を貫く真っ赤な旅路の道中で、数多のものを投げ捨ててきた。 最後まで使うことの無かった、約束だけをこの手に残して。 必死につなぎ留めた意識を代償に、この身に降りかかる災厄を全て受け止める。罅割れかけた精神がこれ以上は限界であると叫ぼうと───この夜だけ保ってくれたらそれでよかった。 (その後は、どこへなりとでも燃え尽きればいいのだ。 理性を失い、数多の人を喰らい、正真正銘の野生へ変われ。 だが───今は。今だけは。 略奪者ではなく、救済者としてあってくれ。 この場で朽ち果てるわけにはいかないから。) 掻き消えた絶対零度が示す道を辿るように一直線に百段を駆け上がろうとすれば、大気圏に触れて温度を上げる小惑星じみた火炎が眼前に迫る。 咄嗟に吐き出した吹雪は勢いを弱めていたものの、石段を砕け落とす前に威力を弱めることはできた筈。 何層にも分かれた炎が頭蓋骨にぶつかれば、元来の頭痛が更に速度を上げて、鱗の隙間から血が垂れ流された。 苦痛を振り切るように轟く咆哮が空気を震わせれば、焦げ付く身体をくねらせて、数多の命を喰らった巨大な口を大きく開き───絶え間なく涎を垂れ流す。] (40) 2020/12/12(Sat) 2:52:31 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[断頭台の如き刃の一撃を、身を捩って躱しきる。 四肢の骨が焦げる音がしたが、知ったことではない。 床に勢いよくついた前足にスナップを効かせれば、尾が大きく上へと踊る。そのまま勢いよく振り下ろせば────空間を大きく揺らし、砂埃のような瓦礫の屑が一帯を覆うだろう。 目くらましのようなそれに目を奪われていれば、 きっと獣の行方も、変わった姿も、認める早さは遅くなる。 衝撃を利用して一瞬のうちに宙へと躍り出た──── 大口を開けた獣と言うよりは、鱗に覆われた女の姿。 たったひとつの約束を抱えて、悪魔に襲い掛かろうとする、運命でさえも抗うちっぽけな存在。 赤から戻ったアイスブルーと、錆びることなく澄み切った刃の輝きだけが、これから起こる未来のことを物語るように。] (41) 2020/12/12(Sat) 2:52:34 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[刹那────月が翳る。] ッ 、 う゛ あぁぁあぁぁ!!!!!!!![咆哮と叫びが混じりあっていく。 飛び掛かった獣の姿が剥がれていく。 雲間に隠れた月明かりがわずかに照らすのは、高く跳躍した人外の一部を残した女が空気に躍らせる、漆黒に輝く黒髪の艶やかさ。 未だに痛む身体中の火傷の残響が示しているのは、“元の姿に戻るのはこれが最後である”という証。 鋭利な牙が生えそろった顎が、何にも穢れぬ短剣を振りかぶった両腕に代わり────獲物に喰い掛かる代わりに、その左胸を貫き通そうとした。*] (42) 2020/12/12(Sat) 2:52:41 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム砕けた彗星の欠片と纏う残り火、 飛び散った血痕が大理石の上に散る。 これ迄辿った血塗りの路を示唆する様に。 薄闇の最中で僅かに煌めいた短剣の誓いは、 女が姿を変えつつあっても決して身から離れず。 白銀の残影を、その身体ごとだって両断してしまいたい。 命に届くか紙一重の斬撃が捉えたのは ────僅かに血が付着した石畳でしかなかった。 空を仰ぎ…… (43) 2020/12/12(Sat) 4:29:38 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム月明かりの消えた舞台に舞ったのは、 ヒトの四肢と貌を取り戻した女の姿。 撥ね付けられた瓦礫と塵埃が其れを隠せば 最後の抵抗として振るった腕が形を捕らえる事はなく。 霧中を跳躍する漆黒の旗めき。 其れが悪魔の視た最期の光景となる。 (44) 2020/12/12(Sat) 4:29:57 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム胸を穿った聖なる刃の痛みを享受する前に、 突き刺さった箇所から錬成された肉体が解けていく。 黒い煙へと変わり、空気に混じって消失する。 藻掻けど足掻けど終焉の針が止まる事はなく、 本分を得る前に全ては拡散して行った。 十余年を経て成就する筈だった悪魔の目論見は、 此処で終わりを迎える。実体を完全に無くして。 其の最中をゆっくりと落ちて行く身体、 制御を奪われ、悪しき存在に覆われていたヒトの身は 今は未だ、見付けだす事は叶わない。 (45) 2020/12/12(Sat) 4:30:16 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム────…… [ 重力に引かれて往くのとは裏腹に、 緩やかに意識が浮上する。 燃える様な痛みと共に目覚めれば、 此処が死後の世界で無い事くらい理解出来た。 ] ( 嗚呼、終わったのだと。 同時に……免れない死を感じる。 ) [ 激痛に漏れ出そうとする叫びを流動体と共に抑え込む。 空になった瓶が落ち、足許で粉々に砕け散った。 懐剣が同様に叩き付けられる音に混じって、 きっとその存在を誰も気に止めることはない。 ] (46) 2020/12/12(Sat) 4:31:23 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム[ 床に足が着くと共に霧と驚異は去ったが、 体重を支える事も当然叶わずに崩れ落ちる。 生まれて初めて膝を折ったのが宮中だとは、 歴史書でさえ語る事のない、一人だけが知る事実。 視覚を取り戻していけば、追い縋る様にして腕を伸ばした。 幕を閉じる場所は其の腕の中でありたいから。 ] [ 死に物狂いで血の海を這い、 よく知った温度に辿り着く頃には 既に足の先が感覚を失くしている。 燃える様な痛みは寒さへと変わり、 平等で残酷で耐え難いものが 背後に迫る恐怖に襲われる。 ] ( 終わりが、来る────……其の前に。 ) (47) 2020/12/12(Sat) 4:31:50 |
【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム[ 温もりを頼りに破れた衣服の上を掌で辿り、 震える指先で首筋と垂れ落ちた髪に触れる。 最期の力はこの為だけに使う。 その顱が引かれる儘に下がり、距離が零になれば。 ────噛み付く様に、渇いた唇を奪った。 [ からん、からんと音を立て、 黄金の冠が血濡れた階段を転がり落ちていった。 ] (48) 2020/12/12(Sat) 4:34:31 |
【人】 ヴィルヘルム[ 柔らかな肉を貪ると同時に、舌を突き入れて。 上から覆い被さる様にして首を伸ばした。 甘い、何処までも甘い蜜を口端から零しながら 血と唾液の混ざり合った其れを咥内へ注ぎ込む。 快楽等ある筈もないが、逃がす積もりもない。 喉が上下する迄、確実な死を飲み下す迄。 引き寄せた小さな頭を抱き込んだ儘、 嚥下する音が耳許を撫ぜるまで決して離さない。 込み上げる喀血の味を、呼吸を共有すれば 安らかな死など鮮血と酸素を求め喘ぐ苦しみに塗れる。 合わさった唇から漏れ出すのはどうあっても苦悩の声。 ] [ 其れはサロメの狂気にも勝る、破滅のくちづけ。 彼女自身が作り出した『罰』を今この場で、 自らの命と臨終の時を以て返す。 ] (49) 2020/12/12(Sat) 4:35:16 |
【人】 ヴィルヘルム( 身を灼く熱情の炎が執着に依るものと知ってしまえば、 抱く願いなど唯一つ。 遺言を放棄し、死の運命を秘密として守り通し、 剰え醜く足掻き、苦痛を増やす道を選ぶ程度には こい ────如何しようもない程に 愛 (50) 2020/12/12(Sat) 4:43:00 |
【人】 ヴィルヘルム( 死を目前にしてやっと気付いたのは、 おまえを何処にだってやってしまいたくないという事。 ずっと満たされなかった奇妙な心地の正体は、 同じ死の苦しみを味わう事になったとしても 共に在り続けたいと叫ぶ秘めた想いだった。 蓋をし続けたのは己だったのだ。 だから、どうか…………どうか。 ) (51) 2020/12/12(Sat) 4:51:29 |
【人】 ヴィルヘルム────……傍に居てくれ、リヴ。 ( Egal was kommt, ich werde dich nie verlassen ) [ 凍える身体が全身で紡いだ、たった九文字の願い。 ずっと痛んでいた、空白ばかりが胸を占めた、 <利己>に限らぬ想いの応えを導き出した。 ] (52) 2020/12/12(Sat) 4:55:23 |
【人】 ヴィルヘルム[ 互いの唇を結んだのは泡を含んだ赤い糸。 伏せていた瞳が揺らぎながら愛しい貌を見詰めては、 散々血に穢した口許を歪めて、弱々しく笑った。 其れを最後に、とうとう全身の膂力を失い 首元に回した両腕さえ零れ落ちて、躰は沈んで行く。 抱き留めてくれると言うのなら、其の温もりの傍で。 唯独り、死後でさえ離れたくはないと望んだ者の元にて。 空気を喘ぎ求める事もなく、痛みに喚く事もせず、 死を受け入れる支度が調えばいっそ穏やかに、 かんばせを見上げ続けていた瞳を閉じた。 ] (53) 2020/12/12(Sat) 4:55:43 |
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