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【人】 学生 涼風>>+35 >>61 目の前の貴方 「ねえ、教えて」 からん、ころん。 下駄が鳴る。誘うように、手招くように。 「こんな私は、格好悪いかな? 医者を目指して、物書きもして。両手にいっぱい抱えるから、私はきっと沢山転ぶ。 そんな私は、格好悪いかな?」 からん、ころん。 夕凪よりも少しだけ高い目線からそっと優しく見下ろして。 「大人って、どういう人のことを言うの?」 からん、ころん。 出来る限り距離を詰めて。貴方と離れるのは嫌だと言うように。 「──ねえ、お願い。 答えが出ないのなら、出るまで一緒に考えよう?勇気が無いのなら、出るまで一緒にいてあげる。 会えないなんて、寂しいよ。大好きな夕凪姉ちゃんと夜凪兄ちゃんが苦しむのは、悲しいよ。 私に出来ることはない? ねえ── ■凪さん」 からん、ころん。 貴方に寄り添う、夏の音。涼やかな囁き。 (62) 2021/08/16(Mon) 3:48:49 |
【人】 君ぞ来まさぬ 百千鳥>>59 鬼走 【四日目/夏祭り】 「………あれっ、」 不意に名前を呼ばれて、下駄を鳴らして振り向いた。 その声と呼び方には覚えがあったけれど、 自分に声を掛けるような用事があっただろうか、そんな疑問。 「鬼走さん! ううん、約束はしてるよ。 先に行っててって言われたから適当にぶらついてただけ!」 涼風と、一緒に行こうと約束したのは事実で 先に行っていてほしいと言われたのも事実だ。 独り歩きの違和感、その理由にはならないかもしれないけど。 (63) 2021/08/16(Mon) 5:13:14 |
【人】 学生 涼風>>+36 >>+37 目の前の貴方、夜凪兄ちゃん 「じゃあきっとまだ大人じゃない。大丈夫。 だから、まだわからないままでいいんだ。はっきりした夢が見つからなくてもいい。 だから、君は格好悪くなんてないよ」 それは単なる子供の屁理屈かもしれない。でも、それが当然であるかのように少年は涼しい顔で言ってのける。 「うん。勿論。 全部聞かせて。私も全部話すから。 そうして一緒に会いに行くんだ。皆で会いに行こう。きっと皆も会いたがってる。皆、二人を必要としてるもの」 ここに来て夕凪が色んな人と助け、助けられをしていたのをこの目で見ている。 貴方たち姉弟を、皆好いていることを知っている。 「約束だよ。──夜凪兄ちゃん」 絵が得意な年上のお兄ちゃん。夏を楽しんでほしいと願う姉思いのお兄ちゃん。 貴方は遠慮しているけれど、自分にとっては自慢の兄貴分なのだ。 少年は笑って手を伸ばす。 大丈夫だよと伝える為に、抱きしめる為に。 (65) 2021/08/16(Mon) 7:23:37 |
【置】 少年 編笠ある日家に帰ったら母親がいなくなっていた。 誰もその理由を教えてくれなかったし 俺宛の手紙や言葉も何一つ残されてなかった。 だから想像するしかなかったんだが どうやらどう考えても子供の俺には 悪者が世界のどこかに連れ去ったんだって そんな想像しかできなかった。 でもどうせそうやっていつか皆んな 黙って俺の元からいなくなるんだって思ったら いつからか上手く笑えなくなってた だってそうだろ… 母親がいなくなって泣けないやつに 誰が笑うことを許してくれるんだよ。 例え誰がいなくなっても泣けないかもしれないやつに 誰が手を差し伸べてくれるってんだ。 あの時独りで見上げた空と同じ空が 今ここには広がっている。 (L13) 2021/08/16(Mon) 10:23:20 公開: 2021/08/16(Mon) 12:00:00 |
【人】 おかえり 御山洗>>66 宵闇 「行く、つもりは……ないわけじゃ、ない、けど」 すぐ間近に見下ろした顔を見てまた怯えたように顎を引いた。これ以上逃げる場所がない。後ずさろうとした肘が壁にぶつかって擦れる。痛みを感じない。 夏の盛りだというのにやけに冷えて感じる空気が喉を凍りつかせていくばかりだ。 「俺は、別に。後からでも、みんなで、行けば、」 うまく言葉が出てこなかった。自分は何を言い訳したいのだろうか。何を申し訳なく思って、何に後ろめたさを感じているのか。思考がごちゃ混ぜになる。 怯えている。恐れている。全部が全部壊れそうな思いだ。 見下ろした目の中に鏡のように映り込んだ背の高い男の表情は、罪の重さに耐えられないような顔だ。 「来なければよかった、帰ってれば」 そのまま踵を返してどこかに行ってしまうことを願っていたのに。じっと黙り込んでいれば、そのまま別のところに行くだろうとそう思っていたのに。夢の中の景色と重なって息を呑む。苦しさで瞼の裏の景色が滲んできた。 「俺は、」 思い出を壊したくなかった。壊すのは自分自身だ。 思い出を汚したくなかった。忘れ去るままでいたかった。 「俺は、」 息ができないほど焼き付いた胸が、楽になろうと自白しかける。 ずっと隠していた罪悪は、紐解くつもりなんて一度もなかった。 10年も昔から。子供だった時分から。 どうして今、思い出してしまったのか、帰ってこなければよかった。 → (68) 2021/08/16(Mon) 11:30:11 |
御山洗は、恐れている。怯えている。思い出を壊す自分自身の心に。 (a23) 2021/08/16(Mon) 11:31:03 |
【人】 さよなら 御山洗>>66 宵闇 掠れるような声でそう吐き出して。伸ばしてたが肩を押して遠ざけた。 苦痛を堪えるように目を伏せる。焼けた髪の色より幾分濃い色の睫毛が視界を閉ざした。 首を横に振る。力は強かった。そのまま、腕を伸ばしても届かないくらいに距離を空ける。 「……ごめん。祭りには、一人で行ってくれ。 瑠夏とか百千鳥とか、みんな待ってるだろ。 俺は一緒に行かない。行けない。だから、一人で行ってくれ」 言うつもりはなかった。言うべきことではなかった。 ずっと、いつだったか、子供の自分が口を閉ざして隠していたものを、自分が壊してしまった。 御山洗は恐れていた、怯えていた。自分にとって大事な思い出を壊すこと。 御山洗はこの場所に帰ってくるまで思い出の中にしまっていられた、焦がれるほどそばに置かずにいられた。 なのに、帰ってきてしまったから。思い出のままにしておきたかった全てを掘り起こしてしまった。 口にすれば全てを終わらせてしまうのをわかっていた。 いつかの三人組ではいられなくなることを、わかっていた。 「……今までありがとう」 だから、これは、決別だ。 (70) 2021/08/16(Mon) 11:32:23 |
【置】 警部補 添木添木には何もない。 両親の写真は、一枚もなかった。 一枚だけ祖母がとっておいたものを、見もせずにキッチンで焼いた幼いころ。 自分を捨てた大人なんかと、自分が繋がっている由縁を、一つたりともこの世に残したくなくて。 あんたは優しいけど。 ずっと前にいるのに、時折振り返って笑ってくれた。 ずっと一緒に過ごせるんじゃないかって、そう思わせてくれた。 嘘つきだ。 あんたは嘘つきだ。 本当にひどい。 でも、今度はその嘘を俺が引き継いで、誰かに背中を見せてやる。 こうしないと、きっと救われない”誰か”がいる気がすんだよ。 これでいいよな。 これでいいんだ。 きっと。 (L15) 2021/08/16(Mon) 13:22:55 公開: 2021/08/16(Mon) 13:25:00 |
添木は、寝たフリをした。少しだけ、泣いた痕が残っても、多分気付かれないだろうから。 (a24) 2021/08/16(Mon) 13:24:06 |
【見】 天狼の子 夜長【祭り、どこかのベンチ】 夜長は祭りの中、藍鼠の甚平姿。食べ終わった飴の棒を、行儀が悪いなと思いながらかじっている。つまようじみたいな味と、しみ込んだ飴の味。嫌いじゃなかった。 雅也さんに、もう母さんを探さないでいいと言われた。母さん、ここに来ていないんだな、と思った。雅也さんも言い切れない何かはあるみたいで、ちゃんとは言われていないが……そうだと思えば、本当なんだろうなと。 母さんが約束をなかったことにするなら、ちゃんとした理由があると思うから。 探して探して、俺でない他の人も、本当に誰も見ていなかったから。 いくらかくれんぼが上手でも、日が暮れたらみんな出てくるものだから。 父さんに怒る理由が増えたかもしれない。母さんがここに来ていないのなら、父さんの方が嘘をついていたことになる。雪子さんはこの村に来ていない。ああ、晴くんの方が先に来てしまった。モモチと同じで、母さんは気にしないだろうが。 (@2) 2021/08/16(Mon) 16:04:24 |
【見】 天狼の子 夜長【祭り、どこかのベンチ】 自分ひとりで考えて、自分ひとりで決めて、ここに来た。大人になったら、全部じゃなくても、そうやって自分で決めることが増えると思って。大人になったら、出来ないことがたくさん出来るようになるとも思っていた。 でも、けっこう出来ないことは出来なかったな。怒っているからあまり考えなかったが、父さんだったら上手く出来たのだろうということはいくつもある。 あの人も晴くんみたいに、誰かに迷惑をかけてごめんなさいをして、助けてもらってありがとうをしていたことはあるんだろうか? 今度話してみようと思う。怒るのが先だが。 (@3) 2021/08/16(Mon) 16:04:45 |
夜長は、人を見ているのが好きだ。話を聞くのが好きだ。思い出に触れるのが好きだ。だから、 (t9) 2021/08/16(Mon) 16:04:55 |
夜長は、ひとりでもけっこう、この祭りをたのしんでいる。でも、 (t10) 2021/08/16(Mon) 16:05:04 |
夜長は、誰かと一緒の方がもっとたのしいだろうなと思った。 (t11) 2021/08/16(Mon) 16:05:11 |
【見】 天狼の子 夜長【祭り、どこかのベンチ】 「みんなでいて、たのしくないこともないと思う」 だからみんなのいる所に来ていたつもりだが、みんなはそうでもないのだろうか? 今日見ていない人は、俺が見ていないだけならいいと思う。 かくれんぼじゃないが、隠れている人はいるかもしれない。なんとなくそんな気がした。動かないでじっとしているだけじゃなくて、ひとりで歩いて鬼 -誰か- から隠れている人も、たぶん。隠れている人も、隠れていない人も見つけに行こう。鬼は得意でないが、そうしたいので。それが今の俺の、祭りをたのしんでみるだと思う。 (@4) 2021/08/16(Mon) 16:05:56 |
夜長は、ベンチを離れて歩き出した。見つけられるだろうか。 (t12) 2021/08/16(Mon) 16:06:08 |
夜長は、慈姑に手を振った。 (t13) 2021/08/16(Mon) 16:09:09 |
夜長は、ばあちゃんは祭りをたのしんでいるのだと思った。振り返ってどこかに行く後ろ姿が、ご機嫌そうだったから。 (t14) 2021/08/16(Mon) 16:09:26 |
【人】 君ぞ来まさぬ 百千鳥>>67 鬼走 【四日目/夏祭り】 「……あー、うん」 頬を掻いて一度、返答のなりそこないのような声を発した。 とはいえ何か言葉に詰まるような事があるでもなく、ただ そんなふうに見えているのか、という思いがあるだけで。 「うん、つまんないよ。 …てよりは、寂しいかなあ。 一人でご飯食べるのって味気ないじゃない? 多分、そういうことなんだと思う」 それが本来どんなに楽しい時間でも、一人では味気ない。 それがあなたにとって共感に足る心情かはわからないけど 一般論としては理解の及ぶものではあるはずだ。 そんな例題を一つ挙げて、だから大丈夫と笑って見せた。 だってもうすぐ、一人ではなくなるから。 (71) 2021/08/16(Mon) 16:10:43 |
【人】 影法師 宵闇>>68 >>L14 >>69 >>70 御山洗 ──瞬き。 嗚呼、軽率だったな、と男は悔いた。 目の前の友人は、海で手を引いてくれた時と同じ目をしていた。 宵闇 翔にとっての御山洗 彰良は、幼い頃からの友人だ。 清和とぶつかり合っている中に無理やり引っ張り込んで 自慢していつも困らせているような。 けれどそれでも付き合ってくれて、影で頑張ってくれるような。 ──今でも、そうだ。 御山洗の言う好き、とは違っても。 ただ、大事な友人であることは確かだった。 何年経っても、再会できて過ごせたことは この夏のひと時は、安らぎだった。 今の宵闇 翔は今にも夢に縫い付けられそうな "かえりたくない" "このままでいたい" そういう思いでいっぱいの、だめな大人だった。 その夢が崩れていく音がして、ほんの一瞬、迷子のような妙な顔をしてしまった。 いつもの余裕で取り繕うことが、できなかった。 耳に届いた掠れた音が、苦痛を堪えるように目を伏せる姿が いつまでも焼きついていて、 気付いた時には、距離が離されていた。 男は、ただ無表情でその場に立ち尽くしている。 → (72) 2021/08/16(Mon) 17:54:17 |
【人】 影法師 宵闇>>68 >>L14 >>69 >>70 御山洗 「なあ、アキラ」 「……俺が、好きだって言ったな」 確かめるように、呟く声は夜の海みたいに、静かだった。 大きな体で小動物のように震える男を前にして まるで怯えさえないように、静かに言葉を紡いでいる。 「そりゃあ、さすがに驚いたよ。 けど、"今までありがとう"?別れの言葉に聞こえるなー…… だから俺と付き合いたいとかじゃないのかい」 わざとらしい、いつものような調子を作る。 「俺は、切り替えのできる大人ではあるが。 "はいそうですかさよなら"って今のやりとりで 友人捨てられるほど、薄情でもなかったらしい……」 「来なければよかった? なぜだ? 俺が好きなのに?」 「……どうして、逃げる? 俺が好きなのにかい?」 「なんで、そんなに怖がってるんだ」 「教えてくれないのかい、俺は聞きたい」 「話がしたい」 無責任なことを言っている自覚はあった。 → (73) 2021/08/16(Mon) 17:57:24 |
【人】 影法師 宵闇>>68 >>L14 >>69 >>70 御山洗 「──本音を言うとお前とこのまま別れたくないだけさ。 ……さよならするなら、納得がいってからがいい」 男は、まるで昔の諦めの悪い少年のような目をしていた。 「俺、この田舎にずっといれたらいいなって思ってるんだ。 ここにいたら忘れてしまった大事なことを取り戻せそうで。 ……帰りたくない、お前は、そうは思わないか?」 ──そんなことは無理とは、どこかでわかっているのに。 今の宵闇 翔は今にも夢に縫い付けられそうな "かえりたくない" "このままでいたい" そういう思いでいっぱいの、だめな大人だった。 男はあなたが本音を言ったのと同じように、本音を返してやった。 「……祭りには一人で行くよ、それは言う通りにする。 けど、──急に、いなくならないでくれよ。 俺がまた海に落っこちたら、そのまま沈んじまうかも」 笑顔を作る。 「"またな"」 男は一方的にそう言い放って、背中越しに手を振った。 (74) 2021/08/16(Mon) 17:59:29 |
【置】 学生 涼風拝啓 夕涼みにほっと一息つく、晩夏のきょうこの頃、いかがお過ごしでしょうか。 (中略) 今の私は沢山の欠片を持っています。 例えば、こうして便箋を手に取ってペンを持った時。 例えば、どこかの街で賑わう夏の祭りを目にした時。 やはり私は昔を思い出すのです。皆と会ったあの頃を。 いなくなってしまった人を思う度、美しい思い出たちはガラスの破片となり、振り返ろうとする私の足に噛みついて鋭い痛みを与えてこようとする。 痛みに泣いて、蹲って、砕けてしまった思い出をかき集めて抱きその場から動けなくなってしまったら、きっとどれほど楽だったことでしょう。 でも、優しい夢に囚われ続けるのであれば。 完璧な形でないといけない、そう思いませんか? いてほしい人がいない甘い夢では、いない人の事ばかり考えてしまうもの。弾き出されたその人が寂しい思いをしてしまわないかと、私は気になってしまうのです。 だから私はここにいる。こうして貴方に手紙を出す。寂しさが少しでも埋まるように、お裾分けできるような思い出の欠片を沢山拾いながら。 生者のエゴだと思いますか?ええ、きっとそうでしょう。葬儀とは、弔いとは、死者のために行うものは、生者が己の心の整理をする為にあると言われるほどですから。 じゃあこの手紙も送るのをやめましょうか?なんてね。 エゴかどうかは、生ききって私も死んだ先、貴方と合流してから答え合わせをしましょうね。 それまでに土産話を沢山用意しておきますから。 (中略) 敬具 20××年 8月××日 涼風薫 (L16) 2021/08/16(Mon) 18:42:39 公開: 2021/08/16(Mon) 19:00:00 |