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【人】 控井[一人で出かけると、結局何も買わなくなってしまうな。 必要なもの以外には、中々目がいかない自分に気づかされる。 喜ぶ顔が見たい相手の気を引くことばかり、 私は考えてしまうのかもしれないな。 とは言え夜も徐々に更けてきて、流石にお腹が空いてきた。 いくつか食べ物の屋台を見て、 一番上に目玉焼きを乗せた、モダン焼きを購入した。 半熟の黄身を、月に見立てているのだろう。 長椅子の置いてある場所を見つけて、 そこに腰掛け舌鼓を打つ。 焼きそばも入っているので、食べ応えがある。 卵黄とマヨネーズが、ソースの味をまろやかに纏めていた。 一人で手短に夕食を済ませると、 また薄墨神社を目的に、歩き始める。] (10) 2022/10/03(Mon) 22:20:17 |
【人】 控井[途中、気になる露店を見つけた。 所狭しと並んでいるのは、凝った作りの絡繰り人形。 私も玩具を作る会社に勤めているから一目見て判る。 あれらは全て、拘って作られた一点物だ。 ゴーグルをつけた売り子と思しき女性に声をかける。 話を聞いてみるとやはり全て一点物で、 何と売り子だと思っていた女性が手掛けたものなのだそう。 私の持っている"じゃっく"にも気が付き、 いつ頃作られて、 どんな絡繰りの仕込まれたものなのかを言い当てた。 実は彼には、首元のボタンを押すと、 ぺこりとお辞儀をして手を振る絡繰りが仕込まれている。 別のお祭の際に観光で来て、この島を甚く気に入ったそうで、 生まれも育ちも榛名の私には、とても嬉しく感じられた。 「この島は一見武骨に見えるかもしれないけれど、 温かい心を持った人の多い、とてもいい島ですよ」 既に知ってくれているのに、私もつい弁が熱くなった。 途中でふと我に返って、 キリの良い所で「いいお月見を」と言って別れた。] (11) 2022/10/03(Mon) 22:22:21 |
【人】 控井何 死 我 涙 逢 に な が に ふ か ぬ 身 浮 事 は 薬 に か も [悲嘆にくれた私の毎日が、 せ も は ぶ こんなにも温かかったのは、 ん 偏に私を取り巻く優しい縁のお陰だ。] (12) 2022/10/03(Mon) 22:22:50 |
【人】 控井― 回想:君と過ごした観月祭 ― [夫婦は屋台を見て回り、焼きそばを買って一休み。 手巾で軽く長椅子を拭い、男は女に座るよう促した。] 「こういった外での食事は、格別ですね」 [女の言葉を聞いて、 毎日食事を用意するのはさぞ大変な事だろうと、 男は「いつも美味しいご飯を有難う」と返した。 そういう発言を引き出そうという魂胆ではなかったけれど、 女は素直に感謝の意を好ましく受け取った。 蜜色の月が、互いの顔を照らしている。] 来年も再来年も、こうして一緒に月を見に来よう。 [「死が二人を別つまで」などという、 楽しい祭に水を差すような余計な一言は飲み込んで、 男は小指を差し出した。約束は交わされ、そして果たされた。 想定以上に、約束の有効期限が短かっただけのことだ。*] (14) 2022/10/03(Mon) 22:24:57 |
【人】 控井― 回想:彼女と過ごした観月祭 ― [娘はお祭りの食べ物では特に、たこ焼きを好んでいたから、 娘の好みに合わせて男は毎年たこ焼きを買って二人で食べた。 時には変わった物をタコの代わりに 入れていたりする店もあった。] 熱いから、気をつけて食べなさい。 [どちらかというと、娘は食べるのに時間がかかる方だったが、 それでも心配は口を衝いて出てくるもの。 空は既に暗かったが、 それでも月光が柔らかく差し込んでおり、 父娘の時間を優しく包んでいた。] 「お父様、来年も再来年も、一緒にお祭に連れてって」 [差し出された細い小指に、ほろ苦い思い出が去来したが、 何も言わずに指を切った。ほんの、数年前の事。**] (15) 2022/10/03(Mon) 22:25:47 |
控井は、メモを貼った。 (a1) 2022/10/03(Mon) 22:28:11 |
【人】 控井[あちこち道草を食っては少しずつ前進し、 漸く目的の薄墨神社へと辿り着いた。 まずは拝殿でお参りをしていこう。 何度こうして、ここで祈願しただろうか。 手を合わせて、目を閉じる。] (どうか大切な人達が、 健康で幸せに暮らせますように) [社務所に寄ることも少し考えたが、 特に必要なものが思い浮かばず、 そのまま神楽を見に行こうと神楽殿へ。 距離が縮まるごとに、大きくなっていく音楽と期待。 もたもたしていたせいか、既に神楽舞は始まっていたけれど、 遠巻きにも舞台はよく見ることが出来た。] (37) 2022/10/04(Tue) 22:36:19 |
【人】 控井[毎年こうして足を運び、見てきた舞ではあるけれど、 やはりいつ見ても、何度見ても、迫力に圧倒される。>>2:n1 君や彼女は、姫櫻の神楽の方が好きだと言っていたね。 確かに可愛らしいし華があるけれど、 私はこちらも渋くて良いと思うけどな。 まぁ、彼女が舞姫に選ばれ、 無事大役を果たした年は格別だったけれど。 一頻り神楽を見れば、のんびり月を見ようと、 人熱れを避け静かな場所へと移る。 じゃっくを脇に侍らせ、 午前中に買っておいた月見団子に手を付ける。 もちもちとした弾力のある食感に、程よい甘さの餡子。 変わらない、いつもの美味しさ。] (38) 2022/10/04(Tue) 22:37:21 |
【人】 控井[観月祭に一人で来るのは初めてだけれど、存外悪くない。 でもそれは決して悲しみや、想いが薄れたからではない。 一人でもこうして歩いて、美味しいものを食べて、 露店の商品に目を輝かせたり、神楽を見たり。 そんな時に必ず、月光のように淡く優しく差し込む 光 。それは全て、幸福な思い出であった。 失った時の悲しみの強さと、想いの強さは比例する。 だから何れ失って悲しむくらいなら、 最初から持たなければ良かった。 そんな風に言えてしまうのではないかと、私は恐れていた。 確かに喪失から暫くの間は、酷く心が痛んだものだけれど、 それ程失いたくない大切なものが何もない人生の方が、 余程哀れではないだろうか。 それにまだ、温かい思い出を作る機会は いくらもあるのだろう。] (39) 2022/10/04(Tue) 22:38:55 |
【人】 控井[一人と一羽で見上げる 月 遥か彼方で君が見守ってくれていると、 そのように思わせる神秘を感じた。 夜は更けていく、名残惜しいけれどまた来年に。 死が世界と私を別つまで、約束は果たされるだろう。**] (40) 2022/10/04(Tue) 22:39:44 |
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