87 【身内】時数えの田舎村【R18G】
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青嵐
「いやいや、流石に水着に着替えますよ。
でもこーいう何にも気にしないで遊ぶの、すっごい楽しいね。今までも、もっとやればよかったかもです!」
髪を結び直し、上着を絞って、
笑いを零しながら振り向いて言う。
「晶兄も誘わないとね。
ちょっとつまらなさそうな顔してたから、
目いっぱい遊んで忘れさせてあげないといけません」
青嵐
「だって川も海もあるんだよ〜?
そりゃ用意してくるに決まってるじゃないですか。
田舎くらいでしか好き勝手出来ないよー。向こうだと気を遣わないとあんまりいい目で見られないし……いつもみんなと暮らせてたらよかったんですがね」
水を含んで重くなり、張り付く服が、
気色悪くも、楽しさの証でもあり。
大人ぶることから羽根を伸ばせるのが、何よりも心地よかった。
「そーですよ、行こ行こ。
晶兄こそちょっと大人になって、一歩引いちゃう感じになったんでしょうかね」
涼風
「───そう、だな。田舎の外にいる間に忘れちゃってたんだけれど。俺は何よりも、自分が撮りたいと思ったものを、最高の角度、時間で切り取って、それをみんなに観てもらうのが好きだから」
散々遊んで、水に艶めく髪を手櫛で纏めながら。
片手間に傍に戻ってきて、話の続きをする。
「昔からずうっと俺は、人の思い出の一部になろうとしてたけど、違った。
俺が、みんなを、どこにでもある綺麗なものを、何度も、何度も何度も思い出にする。写真と変わらない。田舎に帰って、それに気づけたんです」
その背中を押してくれたのは、薫兄も含めた、
田舎の人たちだっていうことが、何より嬉しい。
「みんなを、俺の記憶の、その枠の中に。
昨日は写真がみんなの下へ届いたらいい、って言ったけど、俺は……自分の足で皆を撮りに行きたい。
将来は、そんな仕事を選ぼうかなって思いました」
田舎に永遠に残りたいと思う。それができたら素敵だと思う。
それが叶わないのだとしても。出来ることがある、とも思った。
御山洗
「……私がくっつきすぎるせいで、あの子が鬱陶しがっていたのね。
ちゃんと話したから、当てずっぽうじゃないわ。
もう大人だしそれぞれ自立をしないといけないのは確かじゃないですか。
だからね、仕方ないのよ」
漠然とした不安は田舎の思い出で薄れはするが埋めるものにはならなくて、ただ、今だけは何も怖くないような満たされた気持ちになっている。
また一瞬で、恐ろしいほどに消えてしまう。
思い出さなくてはいけないことが、話さなければいけないことがあるのに。
「弱音を吐いてごめんね。
しんどかったけど、今はなんだか、清々しい。
兄さんのおかげかも?」
まるで別人になったのように、迷子になっていた姉の様子は見えなくなり、凪いだ心にあなたのことばがふり続けた。
「……なかなおり、できるようにする」
言い聞かせるように緩く手のひらを握りしめて海の静かな波を見つめていた。
なんだか、あなたのまえでは偽りの姿を見せてばかりのような気がした。
青嵐
「今更気付いた?瞬兄のそういう、
細かいとこ気にしなかったり、
気楽に構えてるところは美徳だけど、
たま〜に苦言言われてるの、俺は知ってますから」
時任の姉さんがちょっとね〜と、
聞きようによっては思わせぶりなことを言う。
それでも見習うとこは見習うべきではあるが。
「あはは、そうだね。こんなに揃って会えるんだし、
会えないことはない。でもちょっと寂しいけど。
色んなとこ飛び回って、みんなに会いに行くって目標を立てたから本当に『会おうと思って会いに行く』ようにしますよ、俺は!」
無遠慮な手に頭を掻き撫でられ、
あ!折角髪結び直したのに!と文句ひとつ。
それでも心地よさそうに目を細めて。
「え、かけっこってそれは俺に勝ち目ないけど!
行くぞて、も〜〜、待ってってば〜〜〜」
そんなこんなでもう一人の先輩の下へ改めて向かうのだろう。
卯波だけの四角形を作り続ける。一つに固執するあなたには負けない。
受け取ったカメラを一旦手荷物に戻し、
水着へ着替えることに。人も寄ることもないだろうと、
近くの物陰で思い切って衣服に手をかける。
上着をしっかり、細腕で絞り、
肌に纏わりついて離れないシャツを、両手をクロスさせて無理矢理引っぺがした──ところで。
ふと、自分の両胸に手を当てる。
筋肉の僅かな硬さ。なだらかな、
未だ成長を感じさせるような感触。
まだ解消されてない違和感が一つだけある。
何かしっくりこないような。現実味の薄いような。
カメラによって切りとられた顔を、
勇気を出して、なんとか、見つめようとする。
(──ああ)
自分が、今まで自分のことを見つめられなかったから。
『今の自分』の外見を、他人に委ねてしまっているんだ。
少年が、段々と元の形へ戻っていく──。
ゆったりとしたラッシュガードを着た。そしてもう一度「海だ〜〜〜!!!!」
反射的に腕をあげると、ナマコをキャ〜〜〜ッチ!!!
「油断も隙もないなあホント!」
ナマコさんが可哀想でしょ!(委員長)
「あ、茜ちゃん」
そして、透けてる様子に気付いたようで、
小走りで荷物を漁り、大き目のタオルを取り出してみせつつ、自分の胸元をとんとんと叩く。
「さっきも水かけまわってたでしょ、
一旦休憩にしようよ。両手のナマコは引き受けるから」
ほんのわずかに頬を染め顔を背けて、
気付いてくれ〜と気遣いをしてみて。
「こ〜らからかうんじゃありません」
だから見ないようにしてたんでしょ〜なんて言う。
ああ、そういう方法もあるんだ、とちょっとだけ感心したりして。
「茜ちゃんは着替えちゃんと……あるよね、茜ちゃんのことだもの。いや、安心した。
十年越しに女らしさを磨いたところを目の当たりにするとは思わなかったよ〜」
御山洗
「子供、のままの関係だったら?」
どういう意味だろう、と頭で思考を巡らせている間に水が飛びかけられる。
ぱちくりと目を瞬かせて見つめれば、覗くのは無防備な脇腹。いたずら心が芽生えてその腹に手を伸ばした。
「御山兄さん余所見してると危ないよ」
くすぐってみたい衝動が起きてしまったから。
遊んでみたくなったから。
そんな無邪気な理由でいつまでもここに要られたらどれほどいいか。
しばらくしてから皆の輪に戻ろうと声をかけた。
その時一体自分は誰を見ていて。
あなたは誰を見ていたのだろう。
「お兄さんも、溜まったものがあるなら海にでもなんでも吐き出してしまってください。
田舎に忘れ物をするのは、夕凪たちだ絵で十分です。
あと、風邪は引かないように!」
そう、笑って。
一歩海に向かって飛び込む構えを見せた。
卯波
「ああ〜次々女の子らしい単語。
メイク、……そっか、その年ごろくらいになるとするんだね」
何か思うことがあるのかうんうんと頷きながら。
大半は後輩がこんなに大人になって……という感情からくるものなのだろうが。
「俺は写真撮るひとだから、撮られる側の努力とかにも凄い興味があるんだよね。時間があったらちょっとだけでも教えてもらっちゃおうかな……俺がするわけじゃないんだけど」
宵闇に笑顔を返したとき
思い出したのは
双子でみんなのことを思い出していた数年前。
『お兄ちゃんは忙しいんだから僕たちに構ってばかりいられないさ。
だけどとっても大事にしてくれてる、夕凪もわかっているだろ』
わかっているわ。優しくて真面目な人だもの。
『涼風? 何してんだろうなぁ、まだ僕たちみたいに文章を書いてればいいけど。
それか新しい夢見つけていたりしているかもな』
それもいいと思う、もう何年も経ったんだから。
『編笠元気かなぁ〜、あいつと話すの大好きなんだ、なんか面白い仕事についたりしないかな。みんなが思いつかないような』
どんなことを好きになったのかな、とても気になるね。
『青嵐はさぁ、落ち着きが出たのか気になるよな。夕凪もあの時のこと……え、もういいって?僕が変わりに聞いてやるよ』
何をしているのか、二人で想像して。
会える日を夢見て、一緒に笑った。
『モモチは背ぇ伸びたのかな、まだまだ成長期だろうけど流石に夕凪の服はもう嫌がる歳だろ』
まだまだ可愛いわよきっと。
私の服も入るんじゃないかな。
いつまでもいつまでも夢を見るように話は続いていた。
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