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【人】 聖杯のジン ナディル■>>2:9の前段として --- ───微かな歌声が聴こえる。 腕に刻まれた鎖を通して届くのか 砂漠を渡る乾いた風に乗って届くのか それはたとえ知らない旋律であっても 祈りの歌であることだけはわかって ナディルの耳にはよく慣れたものだった。 泣きたくなるほど穏やかな 遠い日々の記憶がナディルを揺り起こす。 (1) kintoto 2021/09/23(Thu) 17:56:00 |
【人】 聖杯のジン ナディル母が亡くなる日、 ナディルは 姿を失いかけた 。少女のような若く美しい容姿を保っていた ナディルの母であったが、 既に寿命が近く床に伏せっていた。 いまにもその生命を終えようとする母の傍らで まだ少年の背丈しか得ていなかったナディルは 母の手を握ったまま泣きじゃくっていた。 これまで何度も何度もしたように 指を鳴らして試みるが、 ナディルの『願い』は叶わない。 母は薄らと瞼を持ち上げ、 赤く擦れて皮が剥けたナディルの指を 優しく撫でてその所作を止めた。 『神の思し召しに従うのです……、 ナディル──私の愛しい宝物。 私は貴方を得て幸福でした。 どうか、多くの人を導く尊きジンに……』 ゆっくりと告げながら、 母の魂がその身体から抜け出ようとする。 その瞳に最期の『願い』を映すべく、 ──ナディルの姿は淡い光に包まれた。 (2) kintoto 2021/09/23(Thu) 18:01:59 |
【人】 聖杯のジン ナディル母は最期のときに神を想ったのだ。 その時、父たる神が舞い降りなければ ナディルの姿は父を映していただろう。 ナディルを包む淡い光はすぐに治まり、 愛する神に抱かれるようにして 母の命は幕を閉じた。 父は母の魂を腕に抱き、 これまで幾度となく繰り返されたように ナディルにその使命を告げた。 『──我が子『願望の器』よ。 人間を幸福に導きなさい。 さすればお前の魂も天へと迎えよう。』 母を連れ去る父のまえで、 ナディルはただ……哀しみのなかで頭を垂れた。 父たる神は、一度も彼を 『ナディル』とは呼ばなかった。 (3) kintoto 2021/09/23(Thu) 18:07:35 |
【人】 聖杯のジン ナディル───微かな歌声が聴こえる。 砂埃に巻かれながら、 少し崩れたバランスを保とうと不器用な足取りで 彼はナディルの後ろを歩く。 振り返ると、何が嬉しいのか満面に笑む。 その背に残された白い片翼は ナディルには枷にしか見えなかった。 [〆] (4) kintoto 2021/09/23(Thu) 18:09:01 |
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