203 三月うさぎの不思議なテーブル
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─ 溶けるアイス ─
……なるほど
そうだね、怒る……怒ろうか
[賄いに、料理に消極的になってしまった理由。
それは好きではなくなった、とか自信を無くした、ではなく、もう少し意図的なものだったらしい
心配していてくれたからこそではないのかと思うけれど。
ぽつりと滴を作って落下していく甘いキウイ。
それがとても大切なもののような気がして、咄嗟に手を出せば。
中指の先に落ちて、爪をグリーンに染めた]
他の人を誘わせようとしてたの?
そんな理由で
[たとえばゲイザーなら接客も料理も100点。そんな理由。
そうかもしれない。
援助が必要と思った時点では、漠然と、人手が足りない、としか考えていなかった。
職能的にチエが十分こちらの需要に応えると判断したけれど、もっと役に立つ人材は、確かに他にいたかもしれない。
フォンを引ける人。難易度の高い揚げ物をできる人。美しい盛り付けをできる人。同時に複数の品を作り上げられる人]
……他の人か
でも、無駄だったと思うよ
チエを誘ってはいけないと思ったら
もう
他の子に声をかける気がなくなっちゃったから
── 報告会 ──
[神田さんの返事は、やっぱり大人だなーって思う。
優しいし、頼りになるよなーって。]
…………うん。
でも俺あんまり悲観してない!
から。きっと大丈夫。
無理はしないって、約束するね。
ありがと。
ふふっ。神田さんやっぱお兄ちゃんみたい。
[そう言って笑うと神田さんにじゃれた。]
[お仕事の話しは色んなところから漏れ聞こえたんだと思う。
店員さんとの話題に上がることもあったし。
嫌でも聞こえてきたりするし。
現に高野さんの事も、話した事無くても名前知ってるし。
趣味が観察な話し
については……]
それじゃあ、趣味が活かせる仕事に就いたんだね。
天職だったりして。
[なんて笑った。
ところで何でどもってるんですか?
大咲さんも神田さん一筋でしょうし。
俺も玲羅一筋
ですよ???]
[ラム肉は子羊の肉らしい。
同士大咲さんもありがとう。
神田さんの話しぶりだと、マトンが成人した羊かな。
ふと、眠りの森の美女を思い出した。
王子様の母親怖すぎでしょ。でもお肉は美味しそうだった。]
…………???
[尊敬とまで呼ばれる事を、俺は何かしただろうか?
自分の良いところは、見え辛いものだね。]
まあ。それくらいすぐ失敗するから?……かな?
[首を傾げながら笑って。
俺はお兄ちゃんに大人しくご馳走されました。
自分も何か1品お肉頼んだけどね。
揚げ出汁大根も美味しいね。美味しい。
お出汁じゃなくてコンソメでも美味しいんじゃないかな。
思った俺は、また近いうち牛肉が黒板にかかれる事を知らない。]
[
惚気話しようぜ!!
]
大咲さん、ちょっと遠慮がちなとこあると思ってたけど。
神田さんにはそうなんだ。へぇ〜〜……。
さっき天然鈍感同盟断られたの。
神田さんの影響かも??
いいねぇ〜。影響し合ってるって。
俺も玲羅に何か影響を与えてたら良いなぁ〜。
俺はね〜。影響受けまくり。
俺は玲羅が初めての恋人なんだけどね?
恋がこんなに楽しくて幸せだなんて知らなかった!
玲羅も幸せ感じてくれてたら嬉しいなぁ〜。へへ〜。
[お肉と共にとろとろ幸せに融けた栗栖くん。
今度高野さんに紹介してもらう約束をして。
楽しい夜は過ぎて行くのでした。**]
[笑っていると軽く額を突かれる。
彼も何だかんだで目が笑っているし
言うほどの痛さはないけれど。
]
………む。
[揶揄うような台詞と顔を覗き込む仕草に
ささやかな仕返しめいたものを感じて。
一度拗ねたように唇を尖らせてすぐに表情を緩め。
甘えるようにきゅ、と腕の力を強めた。]
そ。いっしょだよ。
[だって私だって、負けないくらい君が大好きだからね。]
[余談ですが玲羅は決してお金持ちではありません。
アイドル時代の稼ぎは基本的に貯金しており
日々の生活は現在のお給料の中でやりくりしている。
これは「分相応な生活をしなさい」と言うママの教え。
オートロックのマンション、駅にもそこそこ近い分
築年数は古めにすることでバランスを取っている。
これは一人暮らしをするなら防犯がしっかりしてる所以外は
絶対に許してくれなかったパパの教えである。
まあそんな貝沢家の事情は置いておきまして。
家に入り、ラグの上にちょっと所在なさそうに座る彼に
ちょっとおかしそうに笑った。]
私が欲しかったのは、辛い時にそばに居てくれるチエなの
チエでいいんじゃなくて、チエが良かった
[言い切る声は、怒っているように聞こえただろうか。
うまく怒れているかわからない]
あはは、そんな気構えなくていいよ。座ってて。
珈琲はインスタントだし、他のはパックだし。
オッケー、紅茶ね。砂糖入れる?
[手伝いと言ってもケトルでお湯沸かしてカップに注ぐだけだ。
そうしながら好みを聞いて、両手にカップを持って
ローテーブルの方にいこう。
テーブルにカップを置いて隣に座り。]
――。
[そうしてじゃーん、と言う声と共に
長方形の見慣れたパッケージが取り出される。
それを見て、ぱちぱちと瞬きして。]
それと……確かに、私と同じようにはまだ作れないけど
もし
最初から料理がすごく上手だったら
私、きっと君に片想いしなかった
[初めて、お客様ではなくなった日のことを覚えている
沙弥は店を愛し過ぎていて、抜け出すことの出来ない深みに既にいた。
厨房という私の世界と、私の世界に共に立つ人たちと、私の料理を私の代わりに食べてくれる人たちと。
“救い”に満ちていて、とても狭いうさぎの穴。
お客様ではなくなったピンクのうさぎは、調理担当ではなかった。
フリルのブラウス。襟の飾り。
私の世界の端っこを通り過ぎ、ひらりとホールを舞う]
私には料理しかないけど
チエの心には、他にも好きなものがあって
自由に愛しているように見えたから
ふっ、あはははは。
[思わず噴き出してしまった。
いや、何故かと言うとだね。]
……実は、私もこれ。
[笑みを堪えつつ。
置いたままだったビニール袋の中から
もうひとつ、ポッキーの箱を取り出してテーブルに乗せる。
適当にさっきコンビニで買ったお菓子…って
これだったりするんだなあ。]
いやあ、考えることは一緒だね。
[あははは、とけらけら笑い転げながら。
まあ別に被って困るものじゃないし、いいか?]
[目で追う。可愛らしい服装を。
好きなもので詰まった買い物袋を。
賄いに出てくる肉料理。
私の世界を出入りして、掠めて、外の匂いを運んでくる。ひらり。
この子の好きなものはどういうものだろう。
私もそういうものを知りたい。
ぬいぐるみを作り出したいなら、見てみたい。
お茶に心を込めたいなら、教えたい。
可愛いものを好きな君に、可愛いと言われてみたい]
…それじゃあ、
[ぱり、と自分の買ったポッキーの箱を開けて。]
せっかくだし、します?
ポッキーゲーム。
[に、と悪戯に笑って首を傾ける。**]
そのままの君がいい
料理、上達したいならして欲しい
しなくてもいいなら、そんなにできなくていい
今のチエの作る食べ物、私、好き
君が好きなことを愛していてほしい
[だから傍に来て欲しいけど、いなくても良いと思った。
愛されたいと思っているけど、 **]
[そうだよ?仕返しです。
俺は玲羅に何かされたら、必ずやり返してる気がする。
こう見えて相当な負けず嫌いです。
だからなんだろうか……
君との会話が楽しくてたまらないのは。
『いっしょ』だと。
言葉にしてくれる君に、胸が満たされる。
君は俺を不安にもさせて。そうして俺を満たしてくれる。]
[所在無げにラグに座ってたら、笑われた。
パックもインスタントも十分ご馳走だと思う。]
お砂糖2杯?
……あ、甘い物あるから、1杯にしとく。
[実はちょっと自信ない。
それくらい飲み慣れて無いけど、お願いした。
紅茶が目の前のローテーブルに置かれて。
ポッキーを取り出したら、瞬く玲羅。]
[しばしの間。それから彼女が吹き出して
。
そして取り出されたのはもう一つのポッキー。]
あっははははは。あはは。何それ!!
[俺も可笑しくて吹き出して。
2人で思いっきり笑い合った。
涙出るかと思った。同じ事考えてるなんて。]
ほんとっ……くふふっ……、通じ合ってますなぁ。
[笑いの発作に見舞われながらも、返事をして。]
[玲羅がポッキーの封を切って。
さあ。ゲームの始まりです。]
俺。ゲームのルール良く知らない。
[あの時は、玲羅が実演してくれたんだっけ。
俺は玲羅の手元の袋から一本ポッキーを抜き取って。]
だから玲羅が俺に教えて?
[口に咥えて、小首を傾げてみせた。**]
[眠そうだという声に、
項垂れるように、こくんと首を揺らす。
朝の眠気を追い払うには、
夜にやってくる微睡みよりもしつこい。
テーブルにはまだ片付けきれていない
昨日の名残りがあっただろうか。
もう一度目を擦ってから、
目の中の異物感にようやく気づく。
目の奥の乾いた感触。
そうだ、昨夜はコンタクトを外す暇もなく――、]
[スプリングを軋ませて二人分の重みを受けたベッド。
シーツの上で投げかけられた質問に。
癖になっていた
手の甲で口元を覆う仕草がまた出てしまった。
熱が引かない頬を腕で隠して。
答えにくい質問に、息を呑んで。]
いや、……じゃない、
[そう応えたのは俺も、同じ。
その時の彼の反応はあまりにも羞恥が酷くて、
顔を見ることすら出来なかったけれど。
続けられた言葉に、
盗み見るように移した視線の先。
悪びれることもない笑顔を見てしまったら、
もう、断ることも出来ない。]
[進められていた酒を呑んで、
理性を少し、忘れた後なら良かったのに。
コーラに入った炭酸じゃ、酔えなくて。]
…………、
[目を擦っていた手を下ろして、
渡されたカップを無言で受け取る。
しっかりと記憶に残っている昨夜のこと。
思春期でもあるまいし。
こんな朝を何度か迎えたことはあったはずなのに。
跳ねた寝癖の下で、また耳朶が赤く染まった。
言葉を返さないのは、寝起きのせいだと思われたい。
乾いた喉に、熱々のコーヒーを一口含ませる。
苦味があっても、ホットの場合は
熱さで、苦さを忘れてしまうから。]
[ベッドの上で足を畳んだまま、カップを傾ける。
隣に腰を下ろした彼が、指先で首筋をつつく。]
……ん?
[横目に小さく反応を返したら。
指摘の声に
、今の姿を鑑みる。
シーツ以外には必要最低限のものしか
身に着けていない現状。鎖骨に残る――……、
引きかけた熱がまたぶり返しそうになって。]
ッ、 …………だめ、
です
[もう一口飲んだら、熱を悟られないように
カップをテーブルへ置いて洗面所へ逃げ込んだ。*]
[ビニール袋からポッキーを出した瞬間
彼が盛大に笑い始める。
いやここで被るとは思わなかったよねほんとにね。]
あははははは。
まーじで以心伝心じゃん。
はははっ、おっかし〜〜………ふっ、 くく……!!
[なんだか変なツボに入ってしまい
二人して一頻りげらげら笑い転げる。
ようやく笑いの波が収まって、目尻に滲んだ涙を軽く拭い。
さあゲーム開始だ、と言わんばかりに封を切った。]
ルールはねえ、シンプルに
二人で両端から食べ進めて行って、
先に口を離した方が負け。簡単でしょ?
……ン、いーよ。
[誘うように小首を傾げる彼ににんまり笑い、
向き合うと床に手をついて距離をつめ。
ぱくり、と躊躇なく片方の端を咥える。
なお君が負けず嫌いなのは何となく察しております。
何故なら私も負けず嫌いなので。
カリカリとポッキーを食べ進めていく間
じいっと彼の方を見つめたまま
その表情を窺っていたけれど、
向こうの反応はどうだったかな?**]
[2人でゲラった
後。
戦いの火蓋は切って落とされた。
ねえ。玲羅。俺思ったんだけど…………
これ。ポッキーゲームじゃなくて、にらめっこじゃない?
それくらい互いの視線が逸れないし。
君は距離を詰めてくるのに。
俺も距離を離そうとしないし。
ポッキーが短くなるにつれ、俺は可笑しくて。
吹き出したくなるのを堪える始末だった。]
[
カリッ
と。音がして、最後のポッキーが齧られて。
互いの唇が触れたけど。
君はその時どんな顔をしてたかな?
俺はもう笑いを堪える事が出来なくて。
声をあげて笑いながら、君を抱き締めた。]
あっはははははは。玲羅。君、負けず嫌いでしょ?!
[笑いながら。身を乗り出していた君を抱き締める。
少しだけ腕を引いて、抱き寄せたなら。
肩口に顔を寄せて、抱き締めた。]
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