203 三月うさぎの不思議なテーブル
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[ 特大のため息を付き、画面を
セールスランキングの情報へ変える。
売上は未だ、増加傾向にある。 ]
連休は魅力的だけど、
年末は恋人とゆっくり過ごしたいんだよね
[ 渋い顔の理由はそれ。である。
つい先日、卒業する、と宣言したというのに。
と。もう一度、大きなため息をついたのだった。* ]
気合い入れないとき〜?
こんなのとか?
[スマホから服買ったときの写真を探し出す。
学校制服風のワンピースにニット、ネクタイのセットアップ。
一転、ユニセックスな黒のストラップ付きシャツにワイドパンツ。
気合い入れるのもカジュアルダウンもどちらも好きなので、それぞれ着回しも考えつつ取り揃えている。]
普段、どういうの着てるの?
[さっきのパジャマ発言を考えると、聞いていいのか迷ったけど。
うさぎ穴に行き来するときの服しか、見ないものだから。
……あ、いや、こないだマキシのスカート見たな。あれもかわいかった。]
っ、
……すき、だよ?
だめ?
[
うさぎに託すくらいじゃ諦められないほど、好きなんだ。誰にも渡したくないんだ。嘘はつけない。
言うときはあっさり言えたのに、立ち戻ると途端に恥ずかしくなってくる。
顔が熱くなるのを自覚して、口元を覆うように手で隠す。]
急いで隣に立てるなら、急ぎたいけど。
多分そんなに早く行けないから、安心して。
3年経ってもお茶すらひとりじゃ難しいくらいだし。
[バッグの中、何を探していたのか気付けば、ふ、と小さく息を吐く。
欲しい場所を手に入れたから、もう嫉妬はしない。
むしろボクがもうひとりシャミさんの力になれてると思えば、嬉しさすら。]
――そしてプリクラを撮る――
あは。カルチャーショック?
でもわかるかも。
ボクですら新作もうついてけてないとこあるもん。
[いわんやシャミさんをや。
それほど頻繁にこういうところに来る人ではないだろうし。
昨今のプリクラは全身も撮れるしフィルターもかけられるしAIで肌ツヤをよくしてくれるし目も大きくなるし背景はなんだか雰囲気のいいビル街や森や海やランタンの灯る路地になったりする。]
[ 確かに自分は彼より二年、遅く生まれて。
世間一般が想像するような"交際"の何たるかは知らないし
平凡とはとても呼べない家で育ってきた。
お互いが好き。愛している。
そんな確かな気持ちの中に、基準、は必要だろうか。
平凡と非凡の物差しで彼を測って好きになった訳ではなく
そもそも自分は、彼が自称するように
彼のことを「平凡」とは思いもしていない。
────だって。
"貴方としか作れないものがある"のだから。
その時点で、自分にとって彼は、やっぱり特別だ。 ]
[ 慎重に進めた方が安心するなら、自分もそれでいい。
最初で最後にしてほしいと。
母より貴方を選んだのだと。
作れない、作りたくないと思っていたデザートを
他の誰でもない貴方に、一番に食べて欲しいって。
その気持ちは、恋の熱に浮かされているだけじゃ、
決してほどけない、雁字搦めの糸だった。
──だから。
意味合いが通じなければ電車に飛び乗る覚悟でも
通じた上で、慎重に、と言われるのなら
それだけは伝えて頷ける未来も、あっただろう。
笑顔になることがない平凡な人生。
カメラを向けなくても 美味しいご飯が一緒でなくても
自然で平穏な「なんでもない日」の道中で、
後悔なんてしないことを示すために。 ]
[ ────幸せにしたいと言い切る言葉の迷い無さと
自分を慮るその気持ちは、嬉しいけれど。
もしその思考を知ってしまったら、きっと
頷くと同時に、寂しい気持ちにもなっただろう。
"私を"幸せにと言ってくれたくせに
"貴方とだから"幸せになりたいこと、
実は伝わり切ってなかったんですね? とか。
与えたい愛。受け取りたい愛。
ぴったり当てはまる器をお互いテーブルへ置いて
"食事"の支度をしたいんですよ、貴方と。 ]
[ 触れた赤い頬は、色に反して冬のように冷たい。
雪みたいな熱の引いた肌へ、春風を届けるように
伸ばした腕と 手向けた言葉は、無事に花開いた。
掌へ預けるように、少し寄せられた頬が愛おしい。
出来ない約束はしない主義と言っていた貴方の、
明確な未来への誓いを耳に。 ]
────……ふふ。
私のこと、お嫁さんにしてくださいね。
約束ですよ。
ちなみに私は、夜綿さんのこと、愛してます。
[ 格好つけたりしないところが、格好いいと思います。
好き、に愛を返して、
……それから それ、から ]
[ 食欲と恋人への欲は類するか。
──そんな説は知らずとも、真白は
散々食らわせた"待て"と"おあずけ"への反応を
些か …いや、大分と甘く見ていたのかもしれない。
沈黙も起きない代わり
言葉を紡ぎ返す暇もなく肩を抱かれ、
服に隠れて見えない肌まで伸びた指が、自分を掴む。 ]
────……っ、
[ こわくないし、いやじゃ、ない。寧ろうれしい。
そんな風に思っていた時点で
心の準備は多分、出来ていて。
ああでもやっぱり緊張はするし恥ずかしい。
繰り返されるキスも分け合う熱も、未知のもの。 ]
( ──… ぁ、これ、
もしかして 食べら れ、る )
……だいじょぶ?
[楽しかったとは言うけれど、ふらついてる。
手を出して、叶うなら支えよう。]
どきどき、してくれてる? 楽しい?
[ちょっとだけ、無理させたかもと思ったから。
それでも息が弾んで、笑顔が深まるなら、安心もする。]
[ 調理する側だったうさぎはいつぞや据え膳の皿に乗り、
堂々すやすや眠る始末だったけれど。
穏やかな草食動物のようにも見えていた恋人の、
獲物を捕食する寸前めいた、肉食動物みたいな荒い吐息。
砂糖菓子のような甘い声が自分を呼んだ。
────……だから私も、名前を声にする。 ]
夜綿さん、
……おいしくたべてください。
[ できれば、その、やさしく。
舌足らずに紡いだお願いの結果は、さて。 ]
[ 独り占め出来るなら、そうさせてください。
今までの恋人に見せなかった顔。
今までの人達にはしなかった事。
お行儀なんて気にしなくていいから、
煮詰めたコンポートよりも甘い欲だけ見せていて。
そうして二人で一緒に、
幸せになりましょう 夜綿さん。** ]
どうしよっか。休憩する?
お茶するでも、公園で座ってるでもいいけど。
さっきのボクの行きたいとこは、なるべく万全モードで行きたいからさ。
シャミさんが絶対ここ、がなかったら、ちょっと休憩しよ。
[ここまで連れ回しちゃったしね。
とはいいつつ、ファストファッションのアパレルショップを覗いたら、見てみる?とか言っちゃうんだけど*]
かしこまりました。
[オーダーには畏まった返事を。
店の中ではお客様と従業員を続けている。
同僚にはまだ話せていない。大咲にもまだ。
彼の口から語られた反応は、
今は己の知るところではないけれど。
鍋に水を張りながら、
スマホと睨めっこしている様子を見ていれば、
声に少し遅れて気づいた彼が顔を上げた。
零れた溜息から、あまりいい知らせでは
ないのだろうかと予測しながら。]
年末……?
[年末と出たキーワード。
年度末と聞き間違いではなく?
というように、ぱち、と瞬いて見つめ合わせ。]
[画面を此方側に向けられて、カウンター越し。
少し身を乗り出すように液晶を覗いて、
文字の羅列に、ああ……と察した。
年末の歌合戦でピン、とくる。
この前のMVに関することだろう。
あまり流行に詳しくない俺でも耳にする、
どこでも流れているイマドキらしい流行歌。
MVの再生数もまた増えているだろう。
あの年末の番組は確か、生放送なんだったっけ。
身体を戻しながら、困り事の理由に納得して。]
連休取り放題は確かに、魅力的ですね。
[くすりと、悩む姿を横目に仕事に戻る。]
[キッチンまで聞こえる溜息は、盛大なもの。
身を引くと聞いた後だから、余計に。
でも、断れない性格であることも、
また知っているから困っているだろうな、と。
くすくすと笑いを漏らしながら、
沸騰した湯に塩を入れて、そら豆を煮たしていく。
恋人と聞こえたから、顔を上げれば。
既に気持ちは年末にあるのか。
過ごし方の悩み事。]
高野さんの恋人だったら、
年末を一緒に過ごせないくらいで、
不満を言うような人ではないと思いますよ。
連休取れるんなら、温泉とか。
連れて行ってあげたらどうですか?
[店での彼の呼び方は変えていない。
でも、彼には意思が伝わるように軽い目配せを。*]
ああ、楽そうだけど可愛い
気合いのオンオフでこうなるんだ、なるほど
[スマホの画面を一緒に覗き込むのも楽しい]
普段は、いつものかな
ワイシャツに厨房パンツ、ベルトよりはブレイシーズ
Hareでは使わないけど場所によってはコックコートも着るよ
あと女性中心の会で、スカートで来て欲しいって言われ──
[そこまで言って、普段ってそういうことじゃないと思い直す]
……パーカーとか……?
まさか、だめなわけない
[好き
美味しい賄いを生み出した時に聞くセリフと同じなのに、照れがその場を支配する]
私も
恋かもしれない好きだし……恋じゃなくても愛している
[緊張する。
もちもちふかふかのぬいぐるみを高速なでなでした。
呼べなかったこの子の名前を、今日からは呼べるかもしれない。
その前に製作者に断りを得た方がいいのか]
[ゲームセンターを出て。
賑やかだった大きな音が遠ざかり、華やいだ街の空気の中へ]
ん、休憩すこししようかな
足腰は強いんだけど、若い子たちの熱気にあてられたね
少し落ち着いたら平気
[アイスは胃の中で静かに溶けている。
シェアの大方をチエが引き受けてくれたのもあるけれど。
アパレルショップを見て、ちょっと冷やかし。
無地の黒のハイネックを手に取ってみて戻し、ゆったりしたシルエットのスプリングニットに触る]
ふふ、だめだね
グリーンが気になっちゃう
チエが選んでくれた色が一番よく思えてしまう
[お茶は、コーヒーショップで買って、公園で飲んでから行くのはどう。
せっかくの陽気だから。
腰を下ろせば、視線の高さが変わる。ちょっとチエを見上げた*]
仕事着じゃん。
や、いーんだけど。こないだのスカートきれいだったよ。
[ブレイシーズ。サスペンダーか。
確かにすらっとした印象になって、かっこいい。似合いそう。
それはそれで、その方向を突き詰めてもいいけど――]
パーカー。
いーね、じゃあ今度かわいいパーカー探そ。
これからあったかくなっちゃうけど。
それとも、夏服探す?
シフォンとかのさらっと透け感あるやつとか、見てみたい。
[薄手のスプリングパーカーを探してもいいけど、この先着られるやつを見繕うのもいい。
おいでませ、かわいい服の沼。]
……あ、あいしてる、のほうが、うえじゃん?
[まだ感情を探っている最中みたいなシャミさんの真っ直ぐな言葉を聞くと、途端に照れる。
こっちには撫でるうさぎがいない。自分の手の甲を、揉むように撫で。]
なんか、その、ほんとに……ほんとにすき、でいてくれてるんだなって、実感した……
[遅い?
ずっと夢見てるみたいな気分なんだよ、ボクは。]
[休憩しよっか、と公園に向けて歩き出す。
その途中で止まるのも、楽しい。]
そんなこと言われると、いろんな色選びたくなるな。
今度ネイビーとかどう? ナギさんとおそろ。
[グリーンが気になっちゃうのは、嬉しいけど。
それよりもっと、いろんな姿を見たい。
今日のワンピースは、本当に本当にクリティカルヒットにかわいいけど。
この世には、かわいいはまだまだあるからね。]
[そら豆を煮る間に、玉ねぎはみじん切り。
目に染みるという長年の悩みには
電子レンジで温めることで回避できるようになった。
目にも染みなくなる上に皮も剥きやすくなる。
みじん切りにした後は、
バターで熱して透き通るまで火を通す。
玉ねぎの甘味が十分に引き立つまで。
フライパンを置いて煮立ったそら豆は
冷水に晒して皮を剥いていく。
スープのベースは牛乳と生クリーム。
そしてメインのそら豆。数粒だけ残して、
ザルで丁寧に濾した後、なめらかになるまで
ミキサーにかける。
ベースができれば炒めた玉ねぎと合わせて
火にかけコトコトと煮込んでいく。
店のほぼ常備品となっているコンソメを加え、
塩と胡椒で味を整え。
そら豆の緑の色が引き立つようにシンプルな
白の器を選んで彩りも楽しんでもらえるように。]
[コーヒー片手に公園へ。
ミモザって咲いてるのかなと何となく上の方見上げてたけど、隣のシャミさんの視線が下がって、こっちを見上げてて
]
っ!
……、
[その視線の高さ、弱い。
一気に全身痺れるみたいに好きと可愛いが駆け抜けて、頭の中が真っ白になる。]
あ、あのさぁ!
……その、行ってみたい場所、ってとこ。
フレグランスショップ、行きたくて。
体質的にダメ、とかじゃなかったら、このあと、どう。
[あんまり気が動転したせいか、サプライズで隠してた行き先が、口から勝手にまろび出た。]
[形を残したままのそら豆を中央に飾って。
少しだけパセリを散らしたら、完成。
そら豆を食べたことはあると言ってたけれど、
スープにしたものは初めてだという。
彼の身体に入っていくものの『初めて』を、
自身の手で作れることに、
密やかに楽しみを覚えていく。
血液は120日。
細胞は遅くとも200日。
骨は成人なら二年半で入れ替わるという。
彼の身体を俺の料理で作り変えていくにはまだ日が浅い。
さて、先程のメッセージへの返信は
まだ悩んでいただろうか。]
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