45 【R18】雲を泳ぐラッコ
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[彼が盗賊出身だとは聴いたのだったか。
彼が上の者に敬語を使う様に違和感を覚えなかったし、
義手という、はいてくのろじーを手に着けているのだから、
訳あり貴族さんかしら、などと思っていたこともある。
働きたい
と言われたときだって、
人手は足りてます、と断りかけたくらいだ。
領地にいない仕事、
他国のスパイを頼むには信頼が足りていなかったし、
スパイは一度国を離れるとなかなか帰ってこないもの]
[ニンジャだって街道に菓子屋を開いて、
その土地の諜報をしていた、と習った。
黒ずくめの頭巾は髪の毛をまとめるキャップなのだと。
遠い土地のことを知って賢くなった気がした。
それはどうでもいいとして]
[彼の希望をいろいろ聞いてみて、
街の情報をもってきてもらうことになったのも、
いつでも連れ戻せること、
逃げられても損害が少ないこと、
他国の高貴な人なら人質に取れるという理由で説得した。
本音は、死なれては寝覚めが悪すぎるのだけだったけど。
その日は疲れてお酒を飲んだところまでしか覚えていない]
[最初のいきさつはともかく。
今はフランクに話すリフルという人を知っている。
平民なんだなとも分かる。
――だって猫を被るのに慣れていない様だもの。
シャーリエの庭に入ってきた侵入者さんだけど、
庭の席が空いていたものだから、座ってもらった。
怪我人として世話している間に捨てるのが忍びなくなった。
市民生活について話してみたら
知らないことばかりで楽しかった。
色んなことを教えてくれたお姉さまの代わり?
そういう関係なのだ。
運命とか偶然とか捨て猫とか、そんな縁の人]
―― 食堂 ――
[そうか私は元気だった。とリフル鏡で確認
したけど、
頭がぼんやりしているのは夢見のせいなのか。
目の前のリフルは男の人だそうだ。
それなら、あまりベタベタしてもいけないのだろう。
……彼が女の子だったらベタベタしたかったのだろうか。
後に聞かれれば
「一瞬、リフルがおねーさまに見えたんだ、っけな?」
とへんてこな考えの源を答えたかもしれない。
昨日からふわふわしたままの自分がよく分からない。
シャーリエの庭の住人と話したい、会いたいと、
彼を伺って約束を持ちかける。]
[噂されたら後でごめんなさいするから、許してって顔で]
では頼みます。
[って精一杯の主従関係を演じた。
「かしこまりました」って言ってもらえて、
ホッとしたのは周りにはバレなかった、と思う]
―― 昼食後 ――
[私しか把握していないことを最優先で済ませ、
残りのお仕事はお父様に任せてしまった。
……というのも、お父様が私に自由時間をくれたからである。
その代わりに重い宿題を持たされているので、
ありがたいというか当然というか……]
やっぱりお酒飲みたい気分……
[なのだった。]
[リフルを裏口で待たせて、
屋敷とは違う格好に着替えて待ち合わせ。
街にでたとたんに、お酒飲みたい、である。
日が高すぎてお酒を出す店はまだ寝ているかもしれない]
お酒飲みたいけど寝るには早いよね。
デートスポットを視察したいです。
お願いしていい?
[お酒と睡眠がイコールで結ばれてる思考は、
相談の前に飲んではいけないと考えたようだ。
外に出るときは街に詳しいリフルに希望を伝え、
道順も場所もお任せするのがいつものこと。
どこに連れて行かれたって身の危険は考えていない。
ここは私の国だもの。
連れは父の選んだ者じゃない、私の臣下だもの]
[纏めてアップにしていた髪は下ろして二つに結った。
ジャンパースカートの裾は緩く広がって、膝下で切れる。
ブラウスの襟元に萌黄のリボンを結んだけど
お目かししすぎかしらと首を傾げて、まあいいかと流した。
街着に着替えるということは、
この後仕事しません宣言なのだ。
昼から街着の方が罪悪感を感じている私に、
リフルのまともな市民感覚はわかっていなかった。
夜の方が気楽なくらいである。]
[食堂で聞こえた噂は彼の耳にも届いていただろう。
それを聞かれても、
レモンの皮を噛んだような苦い顔しかできなかった]
相談……というか、報告というか……
言いにくい……
[人が居る場所ではもごもごと言葉を濁し続けるだけだった]
[彼に連れられて目の前が開けたら、
勢いつけて作った笑顔でリフルに手を差し出した]
今日だけ恋人の真似をして欲しいの。
恋人ってどんな事をするの?
私したことないから、教えて。
……お願い。
[作った笑顔でも、笑っていれば楽しくなってくる。
それでも、今日何度目かのお願いには勇気が必要だった。
ドキドキしているのは
無茶なお願いをして答えを待つ緊張、のはずだ**]
─淡色の球体2──
[異国の人間達が野外で酒を囲う。
鍛えてる者達からまだ線の細い少年達までいるが、
酔い潰れたのか、体力が切れたのか、死屍累々と言えるような有様。
各々の腕に付いたボロい布が軍である事を辛うじて識別させる。
そんな一角で、栄養の足りてない少年が、
一回り以上年齢差のある男達を据わった目で見ていた。
普段の倍は目つきが悪い。]
未成年を押さえつけて酒瓶を口に突っ込むなんて、悪巫山戯が過ぎるだろう。アルコール中毒になったらどうするつもりだ。それにこの前、全裸にされたあいつが傷物にされたって泣いてたんだが。あ?男だから傷は勲章だ?あんたもひん剥いて軍曹の前に突き出してやろうか?
[普段はセーブして表情が変わらないように努めているが、
無理やり飲まされて許容オーバー。
くどくどと男達に説教を垂れる。
飲ませると面倒くさいと認定されて、
少年兵達が無理に飲まされる事はなくなったようだ。
傷物にされて泣いてたと噂の少年は、何の事かもわからない様子で
笑って友達を見ていた。]*
| [ 柔らかな拒絶を示しても縋る手はなかった。適切な距離に近まった二点の隙間を眺め、これで『人の気配があっても熟睡する』練習にはなるだろうと、薄く笑んで首肯する。 ]
それでいい。 おやすみ、……シグマ。
[ 認識に齟齬があるなど少しも考えないで、黒髪を乱すように手を滑らせた。そうして呼べない名の代わりにとなる就寝の挨拶を告げる。 ……告げられることは幸福なことだ。本当に。手を取って共に踊れるような日は当たり前にあるものじゃないのだから。
彼が来る前にはシャワーを済ませていた体は、冷えた空気に晒されても未だ熱持っていた。アルコールに浸った胸は距離感における喪失など一切合切感じ得ずに天井を向いて、 ]
(22) 2020/09/30(Wed) 6:07:13 |
| [ 次に眼を開いた時、その部屋の中は 静まり返ったダンスホールだった。 熊を追いかけて辿り着いた森の奥、 カスタネットを鳴らし合って踊り狂った彼らは やがて疲れ果てて朝露の中に伏せていた。 しとどに濡れた黒衣より したたり落ちる温い赤滴。 嗅ぎ慣れた硝煙の香りに眼を見開いて 強烈な既視感に襲われて、 背中を引いていた筈の重力が突然下に落ち、 強烈な眩暈に額を押さえて踏鞴を踏んだ。 ……その背中に声がかけられることを知っている気がする。 揶揄いの主は自分と違って汚れの一つもなく、 文句を言うはずだった唇を閉ざすしかないのだと、 知っている、気がした。 (23) 2020/09/30(Wed) 6:07:31 |
| cucciolo はいはい、どーせ僕はグズですっとろい仔犬ですよーだ。 ボスみたいに真っ白なまま帰るなんて夢のまた夢だぜ。 [ 不貞腐れた感情を隠しもせず歯を剝き出しにする。 銃創が散乱し穴だらけになった床を、倒れ伏した人間から 溢れる血が静かに覆い隠していった。 その溜まりを強かに踏みつけたというのに、ボスの靴は 少しも汚れることなく艶めいたままだった。 己にはその姿が穢れない救世主のようにも見えていたが、 彼女の手が血と罪で真っ黒に染まっているのを知っている。 疵 モ ノ の 小 悪 党 軽い笑い声を洩らしたブロンドのスカーフェイスは 獣道を進むかのように奥の小棚へ近づいたのだ。 よく覚えている。 覚えて、いる? ] (24) 2020/09/30(Wed) 6:09:47 |
| [ 20にも満たないような姿の青年は、その小屋の中で 困惑したように首を擦った。 ふと入口の方を、……観測者の姿を目にすれば、 手にした拳銃を躊躇いなく向けただろう。 ] 誰だお前。 どうしてこの場を知っている? [ ひどく情熱的な敵意に満ちた視線の先、 彼の背後の扉を潜る前は なにか、べつのことを考えていたような気がするが ───もう一度通り抜ければ思い出せそうな気がするが、 塗り替えた今はそんな思考に至らないまま、 長い金髪を括った女を庇い立てるように 血だまりで靴を汚した。 夢の中、靄の中で、 この奇妙な景色を目にした時の事、 夢を夢とも知る事なく、彼に背を向けたまま 寝惚け眼で迂闊に足を踏み入れたこと等は すっかり頭から抜けていた。 ]* (25) 2020/09/30(Wed) 6:13:18 |
| (a7) 2020/09/30(Wed) 6:20:59 |
人魚を気遣う人は、
街の中には、いなかったけどさ。
ユウ君はかわいそうって言ってあげたよね。
たぶん、この本を読んだ他の人たちも。
人魚は自分からああなりにいったんじゃない?
悲劇のヒロインぶりたいっていうか。
ひどい扱いを受けて、私平気ですっていい子ぶるのって、
ある意味、楽だもんね。
絶対に悪者にならずにすむし、
だから、人魚は報われてるんじゃないかな。
[なんだか棘を含んでしまった言葉は、数分眺めて、消した。
ユウ君の言葉
から感じた「もんにょり」も、数日後に名前を知った。
私きっと、この人魚に嫉妬したんだ。]
[一度収まったかに見えた彼の怒りが
また爆発したようだった。
理由の解らぬ暴力に嗚咽を漏らせば
彼もまた顔を顰める。
自分でしたことに納得していない――、
そんな表情に見えた。]
(……解らないよ)
[いったいなぜ、そんな顔をするのか。
どうして、僕の胸が締め付けられるのか。
訳がわからずに居ると、
彼の唇から想いが奔流のように溢れ出す。
それは鼓膜を叩き、凝り固まった思考を砕いていった。]
[こんな僕のことを
彼はまた、美しいと言ったのだ。]
……っ、……、……
[今度こそ、聞き間違いではない。
心の揺らぎを示すように瞳が大きく揺れる。]
[血液を零す左胸の激痛が
これは夢ではなく現実だと教えてくれた。]
[ごくりと唾を飲み込んだ。
胸がずきずきと痛む。
これは、内側からの痛みだ。
彼が感じているだろう憤りの片鱗が
僕に伝播した痛み。]
……っ、……ほんとう、に……?
[淡い色の唇が動き、訊ね返す声は震えていた。
否定されてしまえば
簡単に崩壊してしまいそうな弱々しさを
隠すことも忘れた無防備な心で
彼の言葉を望んでいる。]
こんな僕でも、良いの……?
[相変わらず潤んだ両の瞳
けれど在原治人というひとを確と捉えた。**]
[逢ったこともないくせに、
彼女の一部を共有させてもらっているだけのくせに、
俺は彼女と手を繋いだり、キスしたり、
もしかするとせっ…までしたかもしれない男に
ほんの少し、勝ったつもりでいる。
それに気付いた瞬間、恥ずかしくて、惨めで
またこの世界から消えたくなった。]
[盗賊団に身を置いていた事は話していない。
ここの誰にも。
シャーリエたちには「そろそろ腰を落ち着けようとしていた旅人」だと名乗った。実際色んなところで暴れていたから、あまり遠くない嘘だ。
両親が盗賊団だったからずっとそこで、その背中を見て育った。
逃げ出すなんて考えは浮かばなかった。
けれどずっと嫌だったしやめたいと思っていた。
だから追い出される様にボコボコにされて、
辿り着いた先、この館で雇ってもらえるのなら僥倖でもあった。
わざわざ盗賊出身なんて言って、雇ってもらえると思わなかった。
そんな奴を雇おうとするなら、ここの領主もまともじゃないとも、思ったし。
……貴族の中には盗賊団と繋がってる奴もいるとかいないとか、聞いた事もあったけれど。
できれば真っ当に働きたかった。
義手だったのも、少しは己がまともだと見てもらえるのに役立ったのかもしれない。
これは数年前にヘマをして機械に持っていかれた腕の代わり。
誰譲りなのか、己は生まれつき手先が器用で、
鍵やら何やら作れる者を失う訳にいかない、と、
団が金を出して与えてくれたものだった。
……こっちには何の恩も感じていない]
[館で今の仕事を与えられる迄のいきさつは知る由もなかったが、まぁ窮屈な点もあるとは言え、団に居た頃の仕事に比べれば遥かにいいものだ。
人の苦しむ顔を見なくて済む。
それだけで何て毎日生きやすいんだろう。
まぁ、何かとちょっかいをかけてくるお嬢様の存在が、己の庭に咲く一輪の花の様でいて、小さな棘の様でもあるのだけれど。
食堂で、整った顔が微細に変化してゆく。
間近で見ていた己だけがそれに気付けばいいんだけれど、
朝食中は声を掛けられなかったが、
食後、噂好きな奴らが「ねえねえ」と声を掛けて来たので、
「忙しいんで」と巻くのに無駄に気疲れした]
[さて、その元凶とは裏口で顔を合わせる事になった。
文句のひとつでも言ってやろうかと思ったけれど、
少し時間が経っていた事もあり、普通に迎えた。
ラフめな深い緑のジャケットを羽織って、髪を結ぶリボンは薄い色のただの紐に変えれば、肩幅はそう広くなくとも女には間違えられない。
カジュアルダウンした格好のお嬢様の隣に立って、おかしくはないだろうと思う。
彼女は平民の女にしてはめかしこんだ格好だったが、
普段の豪華なドレスで目が肥えたのか、
彼女には野暮ったい格好は似合わないと思うからなのか、
突っ込むという選択肢は無い。
多分年下なのに自分より大人びて見えていた彼女が
髪をふたつのお下げにしている様なんかは、
年相応に見えて、何だか少し安心する気さえする]
デートスポット…… はい。
[酒=寝る、の式は思い浮かばなかったが、
こういう時突っ込んだって彼女との差を知るだけだから、
わかるところに頷けばいいのだ。
頷いたけれど……
そういう目線で街をあまり歩かなかったから、すぐに候補が出て来なくて、歩きながらめちゃくちゃ脳内で「この街 デートスポット」を検索している。
お嬢様がデート?と迄、今は思考が回らない]
[この場で言いにくそうな事は無理に聞き出さなかった。
人が減ったのが鍵だったのか、隣から白魚の手が伸ばされて驚いた。更に続けられた言葉に、口がぱかんと開いた]
へ、ぇ?
[間抜けな声が勝手に出て、彼女の顔へきちんと向き合えば、作られた様なきれいな笑顔にどきっとする。
何だ?何かの芝居か?又は何かの劇の影響か?と、締まりなかった唇を結んで、まじまじと彼女を見降ろす。
だってこんな俗っぽい事言い出すとは信じ難い。
彼女の心臓も脈打ってるとは思いもよらず、
理由が聞きたい、と思った。
けれど先に、
自分の中で決まっている答えをくれてやる事にした]
かしこまりました。
[少し硬い微笑みを湛えて、はっきりと頷いた。
それから「どうぞ」と、義手である左手を差し出して、握らせようとする。
彼女が握ってくれるなら、こちらからも握り返す。
硬い金属の手を嫌がられても、]
……いざという時の為に、
利き手は空けさせてやって下さい。
[と譲らなかった。
さて、かしこまりましたとか言ったけれど、
とりあえず手を繋いでみたけれど、
改めて問われると恋人ってどんな事をするんだろうなぁ。
手を繋いで街をぶらりして一緒にご飯?と、
そんな大雑把なプランになったのは、
デートスポットの検索で忙しかったからだろう]
えーと、おじょ…… んん、
[「お嬢様」はまずい。
今迄も何度か彼女を連れて街を歩いた事はあったが、
呼ばなくても済む程度の時間だったり用事だったろう。
でも恋人の真似をするなら、名は必要だった。
──メグ。
彼女からその名を聞いたのは、
いつ、どんな場面だったか]
…………
[その名を、呼ぶ気にはならなかった。
呼べば……きっと彼女は喜ぶ……と思う。
けれど真似でいいのだし、
その名を呼ぶ特別な人間に、自分はなるべきではない。
そう思ったから、あたりを見回して、
店先に並んだ熟れた黄色い果物が目に入る]
……レモン、でいいか? あんたの名前。
[ついでに口調も砕けさせて、許しを請うた。
代わりに、今回のお願いの理由を聞かない事にした]
[まずは通りに面した小さなクッキー屋へ案内した。
デートスポットではないけれど、自分のお気に入りの店だと説明した]
自分や相手の好きな物を売ってる店、
特に身近なものだとお互い楽しめると思うぜ。
[バターの香りに包まれた店内をぐるぐる回って、
ビン詰めされたチョコチップクッキーを指してオレはこれが好き、とか、飾ってあるレシピを見てよくわからんと笑ったりした。
それから彼女にもどれが好きかと聞いたり、
新作のレモンクッキーを試食させてもらって「すっぱい」と店員さんに言って笑われたりした。
量り売りでいくつか包んでもらって店を出て、]
……最初に荷物増やすのは良くない……
[と、ハッとした様に反省&彼女へアドバイスをした]
食べ歩くか。
メシが入らないかもしれないけど。
[眉間にシワを寄せて提案したが、
閉めてもらったばかりの袋を開いて、二人でクッキーを分ければ、また笑みが戻るだろう]
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