196 【身内】迷子の貴方と帰り道の行方
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わたくしがここに来る
原因となった家に帰りにくい理由は、
不可解な縁談への不安でした。
この話をした時に、良い人かどうか判断する
材料さえないと言いましたね。
相手がどういう人間か、わたくしはまだ知りません。
知りもしないで答えを出そうとするから、
未知に対しての恐怖が生まれるのです。
99日後、留学から帰ってきた婚約者と、
顔を合わせることになっています。
ですが、顔を合わせてすぐに
結婚するという訳ではないのです。
ですから、顔を合わせてしっかり相手を見定めようと、
今はそう思っています。
噂を辿って、知人をあたって、本当にその人のことを、
理解することなど出来るでしょうか?
直接本人と相対して初めて、答えの出ることだと思います。
噂なんていくらでも揉み消せますし、
同じ人間の印象と言えど、人によって感じ取る物は様々。
実際会ってみて
この方と一生添い遂げることは無理だと分かりましたら、
その時は周りを頼りますし、
わたくしも自分の気持ちに正直になることにします。
最悪、修道院に逃げ込むという力技も、
あるにはありますからね。
確かにここに居れば、
不幸になることはそうそうないと思います。
その反面わたくしが、
ここに居て幸せになることもないでしょう。
自分の目で見る前から、
現実から逃げ出した負い目は消えませんもの。
でもこのように、現実に目を向ける気になったのは、
間違いなくここへ来たお陰です。
だから、お話を聞いてくれたお二人には、
とても感謝していますよ。
[これがわたくしの出した結論です。
ご納得いただけるかどうかは自信がありませんが、
納得しなくても帰ると決めたら帰すと、
言質は取りましたものね。
**]
そうだね。僕は自分の魔法を疑ってない
[その言葉で推測は確信になった。
やっぱり、という思いしかわいてこない。
門に向かう前に遮断の魔法はといておいた。
ネリリの不機嫌さがなんとなく空気で伝わってくる
けどそっちだって二人で話したんだから
そこはお互い様だよ。]
うん、聞こえてるよ。エルメスお姉ちゃん
二人してそうしてるって……
答えが出たの?
[呼びかけに対して不安そうな声が響く。
そうして響いた言葉。
それにネリリの方はえっ! と
泣き出しそうな声を出した。]
[僕の方は推測通りとしか言いようがない。
ここに残る人は他に道がない人や
現実を放り投げれる人等々。
彼女が残る理由は僕視点見当たらなかったからね。
告げる言葉を静かに聞く。
成程。人づてに何かを聞くじゃなくて自分の目と耳を使うか
それは、思っていた以上にいい答えだった。]
ここに迷った事が何かの糧になったならよかったよ。
え〜〜〜〜!!!
やだやだやだやだお姉ちゃん帰っちゃうの
やだ〜〜〜
なんで、どうして!?
何が足りなかったの? ねえねえ
こっちの方がい〜〜っぱい楽しいのにっ!
取り込まれるのが嫌? なら考えるよ!?
[ネリリの言葉はもうただの駄々っ子でしかない。
僕は苦笑いした。]
ネリリ。
それがこの子の選択だ。
さて、じゃあ約束だ。帰してあげる。
その前にお土産を渡さないとね。
ええと、まずは……家族への手紙と詫びの品と……
[魔法で手紙をどこからともなく生み出し
そこに光が文字を書いていく。]
この手紙には、誕生日に娘さんを此方の都合に
巻き込んだ詫びと、口外出来ない実験に付き合って貰った
そう書いてあるから。適当に口裏合わせてね。
実験については極秘で口外出来ないよう魔法をかけた
って書いておいたからそう追及はされないと思う。
魔法使いの印を押してあるから保証になる。
あと、ここにいた魔法使いは女性という事にしておきな
異性と一晩いたというのは嫁入り前によくないし
ネリリが魔法使いの役割なのは嘘じゃないからね
[物は言いようだ。
補足するなら魔法使いの印は魔法がかかっていて
そうじゃない人が真似するのは決して不可能だ。
あと捜索されてたかもしれないから
売ればかなりの額になるであろう
魔法で作った美しい石をいくつか。
魔法で作り出したそれは持っているだけで
ある程度のステータスになるはずだ。
そんな解説をしながら袋に土産をつめていく。]
あとこれはエルメス嬢へのお土産。
[手を開けばそこには珊瑚のような石がはまったブローチ
所有者は彼女一人。他の人の手には絶対渡らない。]
何もないに越したことは無いけど
身の危険から守ってくれるから。
君にケガさせるような攻撃は絶対に当たらない
そんな魔法だよ。
[因みに
受け取り拒否を認める気はない。
貴族令嬢のお嬢様を手ぶらで帰すわけがない。]
じゃあ準備が出来たら言って。
秘匿事項を言えなくする魔法をかけて
それから 迷子の君の帰り道を示そう
迷わず行って
もう二度と会わないけど
君の幸せを願うよ─────
お、おねえちゃん……うううぅぅぅ……
─────……
[まだ話があるなら気がするまで付き合うけど
そうじゃないなら道を開こう。
門から出れば、君の家がすぐそばに見える事になる。
今度は長く歩かないですぐ、たどりつけるよ。
君が振り向くなら、白いワンピースを着た緑の短い髪
そしてどこか全体的に透けている小さな少女が
僕の背中にいるのが見えたかもね。]**
- 回想 -
[ぼくは許せなくなっていったんだ。
ここに招かれて、最初から帰るという人はいい。
いいけど、残ると決めたくせに帰る人
そして魔法使いさんを恐れて逃げる人を
ここは幸せなのに。
魔法使いさんは優しいのに。
満ち足りた生活の何が不満なんだろう。
許せなくなった。どうしても。]
[我慢が限界を超えたある時。
ぼくは帰らない人を逃げれなくしてあげた。
体をとりこんだ。
もう飢える事もない、寒さに凍える事もない
家がなくて迷う事もないんだ。
[僕はネリリの行為を止めることが出来なかった。
最初はあまりに唐突で、信じられなかったから。
幼いまま体を失った彼女にはそれが正しんだ。
間違っていると教えるのが大人の
保護者の役割だというのに。
これで、ずっと一緒
その誘惑に、負けてしまったんだ───── ]
[せめて、せめて。
この弱い心を抱えながらでも
帰りたい人は絶対に帰す。それは約束にした。
取り込むこともせめて説明をするよう言ったけど
それはなかなか聞いて貰えない。
権限を取り上げることも考えた。
でも、彼女はそれがあるから今も精神を保ってる。
それを実行すると存在がどうなるか分からなかった。
彼女を殺す選択肢だけは僕には取れなかったんだ。]**
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