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【人】 修理屋 一二三[ふと漏れ聞こえた声に、 絞めた螺子の具合を確認していた一二三は ほんの一瞬窓際へ視線を向ける。 ほんの十日前までは 足元からの照り返しで焼けるように熱かった石畳も、 蒸気の熱と陽光で熱を持っていた配管も、 梅雨のように途切れることのない長雨に冷え。 季節は早晩、残暑の残る夏から秋へと移りつつあった。] (1) 2022/09/28(Wed) 23:48:20 |
【人】 修理屋 一二三言っとくが、 下の句は詠まねぇぞ。 [勝手知ったる他人の工房ってぇのは こういう状況を言うんだろうな。 二十年来の友人は雨が降る中ふらりと訪ねて来るなり 土産の菓子を口実に人の工房で茶を沸かし、 ひとつを作業台の邪魔にならないところへ置くと 座布団を引っ張り出してすっかり窓辺に居ついちまった。 そんな背中が呟く無意識の声に、鉄色の後ろ髪に、 俺は聞かせるように溜息を吐いた。 愛想も礼儀もねぇ俺の返答に、 外から内へ視線を移して振り返った九朗の奴が 「おや、残念ですね」とほんの少し目を細めて笑う。 四十になってもおっとりとした仕草とその表情に 九朗自身も返歌を期待していたわけではないと確かめて、 普段は行儀よく座る男が、 ほんの少し姿勢を崩して窓辺に寄り添う姿から 馬鹿馬鹿しいと視線をそらした。] (2) 2022/09/28(Wed) 23:49:05 |
【人】 修理屋 一二三[窓の外は秋の長雨が降り続いているが、 細かな螺子や歯車も扱う男一人の工房に 飼い猫はおろか、餌を強請る野良猫の姿もない。 それとも九朗が眺める窓の外には、 軒下で雨宿りをする猫の姿でもいるのかと。 手元へそらした視線をもう一度九朗の方へ向ける。 だが目だけ向けたところで 見えるのは積み上げた機材や部品が見えるだけだ。 傭兵が修理に持ってきた魚竜狩りの銃槍、 中の歯車が欠けて部品交換待ちの置き時計、 発条仕掛けの絡繰り人形、 魚竜狩りの疑似餌から子供の玩具まで。 榛名で暮らす島民のほとんどが目にする日用品、 或いはこの島を拠点に活動する傭兵が 魚竜を狩るための装備品や道具の一部。] (3) 2022/09/28(Wed) 23:52:15 |
【人】 修理屋 一二三[修理のために買ったり注文した部品や、 自分で部品を削り出すために取り寄せた素材。 まぁ俺の工房には修理待ちの物、器具に部品が あっちにもこっちにも順番待ちで積みあがっている。 仕事が遅いとか片付けが苦手ってわけじゃねぇ。 どちらかと言えば仕事は選んでいる方だし、 特別工房が狭いというわけでもない。 修理を生業にする工房は手狭に感じるし、 大体どこもこんなもんだ。 そんな男ひとりの工房に機械油でも膠でもない ましてや砂の大海に浮かぶ孤島に振る雨でも、 島のあちこちで稼働する蒸気機関のにおいでもない。 砂糖で煮た甘い餡と茶のにおい。 それとおもむろに近づいてきた九朗から香る、 衣替えの時期に開けた長持ちの中のにおい。 気にもならないほど日常に馴染んだにおいと 慣れないにおいが混ざり合って鼻先がむず痒くなる。] (4) 2022/09/28(Wed) 23:54:07 |
【人】 修理屋 一二三なぁおい九朗、 お前今日みたいな日になんで俺んとこ来てんだ? 明日は姪っ子と月見の団子を作る約束 してるんだろう? 準備やらなんやらで忙しいんじゃねぇのかよ。 [これは話が終わるまで仕事にならねぇなと、 使っていた工具を置いて愛用の煙管に手を伸ばす。 明日は中秋の名月。 一年でもっとも月が美しい時期の満月に、 ここ榛名では島全体で『観月の宴』を開く。 特に御神木の『千年枝垂れ桜』で有名な薄墨神社じゃ 毎年春夏秋冬でひとつずつ、 神事のひとつである神楽が奉納される。 春の神楽が女児の舞うものなら、 秋の神楽は男衆が舞うもの。 春は丁度九朗の姪っ子が神楽の舞い手をするってんで 九朗の妹とはガキの時分から交流もあったんで 都合を合わせて男ふたり神社まで足を運んだが。] (5) 2022/09/28(Wed) 23:54:41 |
【人】 修理屋 一二三[今年の秋は舞い手も雅楽の奏者にも知り合いはいない。 そもそも前日に都合を聞きに来るような奴じゃなし。 なんで土産に粒餡をたっぷり乗せた団子を持って 俺の工房にまで来たんだか。 煙管に火をつけ吸い口から吸い、 味もそっけもない空気を鼻から吐く。 そうすると詰めた煙草が小さく燃えて煙を吐き始め そいつをもう一度吸い口から吸えば、 舌から肺へ馴染みの苦みが広がった。 煙を飲んで、吐いて。 俺の様子を見つつ、 茶を啜りながらのほほんと微笑んだ九朗は、 「その練習で久しぶりに餡を作ったので、 ひとつ味見をしてもらおうと思いまして。」 とのたまいやがった。] (6) 2022/09/28(Wed) 23:55:56 |
【人】 修理屋 一二三味見かよ… 昼間っからてめぇの店も開けずに熱心なこった。 [元々料理のうまい奴だ。 久しぶりと九朗は言うが、 紫煙の間につまんだ団子はそうと知らなければ 店で買った物だと言われても気づかないだろう。 だが小豆を砂糖で煮るなんて手間暇かかるもん、 商いの片手間にやるのは いかに料理が得意な九朗でも無理があるだろう。 ってぇことは九朗の奴、 今日は店を開けなかったか。 店が閉まってちゃ商売にならないだろうに。] (7) 2022/09/28(Wed) 23:56:52 |
【人】 修理屋 一二三んで? 明日はそのまま妹の家で月見か? それとも姪っ子連れて店でもひやかしに行くのか? [島をあげての観月祭となれば、 なんといっても稼ぎ時だ。 神社の出店に限らず、商業地区の店も、 職人街の工房もあれこれ夜に店を出す。 俺の方は昼間は工房で仕事を詰めて、 夜はどっかの店で飯を食ったら、 あとは月を肴に酒でも飲むつもりだった。 それがどうだ。 九朗の方は緩く首を振って俺の予想を否定し、 記憶を手繰るように視線を伏せて肩を落とす。 「作った団子を手土産に、 夜は友人の家へ呼ばれて月見をする」のだと。] (8) 2022/09/28(Wed) 23:57:21 |
【人】 修理屋 一二三なんだ。 去年までは妹家族にべったりだったくせに。 今年はついに追い出されたか? [ガキの成長は早いなと団子を摘まみながら笑う俺に、 大の男が眉まで下げて恨めし気な顔をする。 睨むな睨むな。 かわいい姪っ子が成長して ちっとばかし大人になっただけだろう。 袖にされたってんなら、酒でも飲んで忘れちまえ。 くつりと喉を鳴らして笑えば、 ふてくされた九朗は土産の饅頭を口に放り込んで ガキみたいにそっぽを向くもんで。 俺は今度こそ声を出して笑うことになった。*] (9) 2022/09/28(Wed) 23:58:01 |
修理屋 一二三は、メモを貼った。 (a0) 2022/09/29(Thu) 0:02:16 |
【人】 修理屋 一二三拗ねるなよ九朗。 ガキも猫もこっちの都合で構いすぎりゃ 嫌われるだけだってわかってんだろ? [俺たちにだって十かそこらのガキだった頃があるんだ。 九朗にだって覚えがあるだろう。 いや、俺はともかく九朗の方は なにをどれだけ構われてもどこ吹く風だったか。 思い返せば愛嬌がある分、 ガキの頃は猫の方が可愛げがあったかもしれん。>>48 九朗は妹と並べば姉妹にも見える顔立ちだったから 見た目だけなら…。 いや。どうだろうな。 九朗は見た目の儚さを ことごとく裏切る中身をしている奴だし。 いっそのこと愛猫と孫に囲まれた 好々爺のご隠居にでも聞いてみるかと>>51 ガキの頃から知るご隠居の顔が脳裏をよぎったが、 そん時はもれなく俺の方にもなにがしかが 飛び火すると思い至って静かに茶を啜った。] (53) 2022/09/30(Fri) 22:56:22 |
【人】 修理屋 一二三「そう言う一二三だって。 道場に通う子供の頭を撫でて 不興を買っていたじゃありませんか。」 [そう言う九朗は二つ目の饅頭に手を伸ばしていた。 おいお前、それ俺への土産じゃなかったのか? まぁお前が持ってきたもんだから いくつ食おうとかまわねぇんだけど。] (54) 2022/09/30(Fri) 22:56:49 |
【人】 修理屋 一二三[いややっぱ構うな。] ありゃあ撫でてたんじゃねぇよ。 ちょうどいい所に坊主の頭があったから 足を休めるついでに挨拶しただけだ。 [苦し紛れの言い訳にもなっていねぇが、 こっちも負けじと土産の饅頭に手を伸ばす。 つきたてのように柔らかい餅はしっとりとして、 子供が好きそうな甘さ加減の餡は 濃い目に淹れた熱い茶によく合った。*] (55) 2022/09/30(Fri) 22:58:03 |
【人】 修理屋 一二三それよりお前だ、お前。 お前の姪っ子、 今年の春に神楽やったところだろう? もう七つになったんだから、 あとは十になるのも十五になるのも あっという間だろぉが。 [例の坊主も聞けば十五の歳らしい。 俺らが十五といえば、 学校そっちのけで師匠のところへ押しかけて 道具をバラしたり図面を引いたりしていた頃だ。 友達が増えりゃ、外へ遊びに行く機会も増える。 なんなら俺と九朗は 二十かそこらで榛名の外まで飛び出しちまったしな。] (62) 2022/10/01(Sat) 0:19:11 |
【人】 修理屋 一二三大体なぁ、妹離れはあっさり済ませたくせに 姪っ子離れだけなんでそんなにできねぇんだよ。 [九朗の妹が初めての失恋で泣いた後も。 友達の家に泊まりで遊びに行った時も。 大人になって今の旦那を連れてきて、 挨拶だ結納だって家族ぐるみで話をしていた時も、 九朗の奴はけろりとしていた。 近所に住んでたお兄ちゃんで、 兄貴の友達で、 筆不精な兄の代わりに九朗の近況を報告する俺は、 家族でも友人でもない微妙な位置でそれを見たいた。 祝言の時なんて俺の方が泣いてたくらいだ。] (63) 2022/10/01(Sat) 0:19:32 |
【人】 修理屋 一二三[九朗の方はにこにこにこにこ。 「いい人ですね」 「幸せになるんですよ」 「妹をよろしくお願いします」 涙を誤魔化して酒で赤くなってた親父さんの分まで 新郎や向こうの家族に挨拶してたくらいだ。 あぁ、お袋さんが二人いる…。 酔った頭で俺もひそかにそう思った。 それがどうだ。 姪っ子が生まれたとたんにこの変わりよう。 九朗とはガキの頃からの長い付き合いだが、 相手にしてもらえなくてむくれる九朗なんぞ 早々見た覚えはねぇぞ?] 今からそれじゃ、 将来男連れてきた時どうするんだよ。 [娘ならいつかは嫁に行くだろう。 今度は伯父の身分で父親の分まで泣くつもりか?**] (64) 2022/10/01(Sat) 0:20:35 |
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