人狼物語 三日月国


45 【R18】雲を泳ぐラッコ

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[どんなに見つめても、影は影。
 うすぼんやりとした黒い輪郭が
 目の前で揺らいでいるだけ。
 触れたはずの唇が空を切って
 微かな空気の揺らぎだけが
 すう、と湿った唇を撫でた。

 唇を離すと、影の手が俺の手を取り
 心臓の辺りへと導いてくれた。

 どく、どく、と脈打つ肉の感触もなく
 俺の手はきっと、菜月の心に触れている。
 脆くて危うい其処はきっと、
 乱暴に暴けば傷が付いてしまう。
 けれど、それを躊躇う程度には
 柔らかくて、綺麗な形をしているのだろう。]

[俺は、ぐっと空を掻いて
 菜月の柔らかい部分に触れようとした。

 けれど、それはやっぱり虚空のまま。

 触れていたら伝えられたんだろうか。
 ありったけの「好き」の気持ちを
 菜月の中に撒き散らして……

 そこから奇跡でも芽吹いてくれていたろうか。]

──淡薄色の球体──

[これまでと違って辺りの景色はぼやけている。
夢の中の更に夢。
無愛想な男の見る空想の世界。

スポットライトの当たる綺羅びやかなステージ、
正面の客席に一人無愛想な男は腰掛けていると、
ステージ上にアオザイcosmを着た薄色の髪の男性が現れた。

彼はランウェイを歩いて先端まで来ればターン、
戻って裾に隠れては次はブーメランパンツcosmを着て現れる。
その繰り返し。
踊り子衣装cosmチアリーダー衣装cosmの姿で輝くライトを浴びる。

最後にセクシーランジェリーcosmを着た男性のウインクで、
ステージは幕を閉じ。]

……アジダル、色んな服着てたな。
あの姿は、可愛いのか?

[眉を顰めて唸り。
誰もいなくなったステージを見つめて、悩み続けた。]*

[露出の高い服装とアジダルが切り離せないようだ。
この中なら、アオザイが良かった様な気がするとは思っている。]*

 
[器用な手先とは裏腹に
 不器用な口が動くのをじっと見ていた。

 今度こそきっと、心からの言葉。
 想いはひとつだと思って良い筈だ。

 考えるより先に飛び出たみたいな台詞は
 まるで子供のようだった。


   ……ふふっ
   治人は、とっても可愛い人だったんだね



[また貴方のこと、ひとつ識れた。
 それが嬉しくて……、肩が揺れるほど笑っていた。]
 

 
[はにかむ様も、なんて愛らしいのだろう。

 貴方を中心に廻る世界は
 キラキラと輝いて、こんなにも美しい。]
 

 
[掌に温もりを残して
 愛おしい顔が離れていく。]



   都合の良い日に飛行機を手配するね
        ……、ありがとう



[スッと立ち上がった彼が
 傷の処置をしてくれるつもりだと気づけば
 身体を起こし、シャツを捲って、彼に任せた。
 

 
[針を抜いて貰うのも
 消毒液を掛けて貰うのも
 どうしたって痛みを感じて、息が詰まった。]


   ……っ、…………
はぁ



[だけど、苦しいだけじゃなくて――、
 身体に出来たごく小さな傷
 ほんの少し歪になった胸粒が、無性に愛おしかった。

        貴方が、刻んでくれた痕。]
 

 
[服まで着せて貰うのは
 ちょっと気恥ずかしかったけど
 やっぱり彼に任せた。

 大切に扱って貰えるのが、嬉しかったから。

 防火扉が開くまでには
 まだまだ時間が在るようだった。

 ベンチの上に並んで座り、手を繋ぎ
 ゆったりとした時間が流れる。

 ふと肩に重みを感じれば、彼の方を見た。
 

 
[無垢な寝顔が目の前に在って
 胸がきゅんとした。

 ……でも、じっと見ていれば
 目の下には隈が在ることに気づく。

 余り眠れていなかっただろうことが窺えて

 自分の罪を思い出した。]
 

 
[彼の頭にそっと自分のを載せて
 彼の体温、匂いを憶える。

 過去をなかったことには出来ない。

 だけどこの先は、極力、
 彼を傷つけることのないように。

 眠りに落ちても握られたままの手を
 少しだけ力を込めて握り返しながら

 胸中でだけ誓った。*]
 

[いつからか、落ち着いていると言われるようになった。
大人っぽくなりましたねと舞踏会に誘われることもあった。

曖昧に微笑んで、そうね、って答えるだけで、
世間からの反応が変わってしまった。
心を動かされることが少なくなっただけなのにね。
世間に慣れるのが大人っぽいことなのかしら。]


[心が動かないからピアノ譜はさっぱり進まない。
王国の友人にどうやって曲を書くのか訊いてみたら、
「他の国の音楽を聴いたり、旅行に行ったり。
 恋人と破局したり、ピアニストを諦めたり」だそうで。
そっか、音楽家も大変ねって
心ばかりのクッキー詰め合わせを贈った。
チョコチップおいしいのよって多めに詰めてもらったやつを。

久しぶりに楽譜をだし、曲のタイトルのところに
 Je te veux とだけ書いた]

[眠る前に窓から月の光が差し込んでいるのに気が付いた。
小さく音を立てて鍵を外せば、
吹き込む風にリコリスが揺れた。

あなたは今どこでこの月を見ているのだろう。
それとも月よりお酒って飲んでるだろうか。

胸の痛みは時間と共に
じんわりとしたものに変わっていた。
でも、結婚をと言われると困った顔で笑う。
誓えないわ、って繰り返し断っていれば、
そんな話も聞こえてこなくなった。

次期当主として私が指名されてからは
さらになくなった。
私と結婚しても、当主にはなれずに夫止まりになる。
それ狙いの人居たんだなあって、
困り顔で笑うしかなかった。
苦労の方が多いと思うんだけどねって、
側近護衛になったユーディトと顔を見合わせた。

今は安らかな夜を眠れている。
大国の陰で平和な夜を過ごせているのだから、
いつかの王子の話を断って縁を切るような国じゃなくて
本当にありがたいことです。]

[窓を閉めて天蓋のクイーンベッドに沈む]

 おやすみなさい。
 いい夢を。

[ここにいない人の眠りが幸せでありますように。
祈る時間は少しずつ短くなっている。
私はいつか祈る相手を忘れてしまうんだろうか。

お姉さまの顔が思い出せなくなったみたいに、
彼の顔の代わりに誰かを想うんだろうか]

[そうして日々を過ごして、年が積もっていった。

芝生に寝ているといろいろ思い出していけない。
まぶたの向こうでは、日差しで遊ぶ小鳥が
木漏れ日みたいに太陽を遮っている。

お昼寝日和ね。
お姉さまが笑うようなお天気は、
不安をゆっくり溶かしてくれる。

すこしだけここで休憩しようって、
なにも知らない頃の私に戻って横向に寝返りをうった。

母なる大地は1人で庭に来た私も包んでくれる。
あったかい……**]

──淡薄色の球体──

[淡い光の水面に浮かぶ屋形船が1隻。
中では冷酒を酌み交わしながら、
紺地に白の親子縞の浴衣を唐草帯で締めた男が
藍色網代柄の浴衣に灰茶の羽織を羽織った男に話しかける。]

寝る練習も悪くないが、今度、祭りにも行ってみたい。
射的とか型抜き…が面白そうに見えてな。
あんたは、祭り嫌いか?

[嫌じゃなければ一緒に行きたいと素直に語る。
視界の端には黄色地のツツジ模様や
白地に青と緑の差す撫子柄の浴衣が揺れ動き。
それは1つの幸福な願望夢。]*

[離れる事になって、己にとっても少し特別な場所になった彼女の庭。ピアノの音が聴こえなかったのは防音のされている部屋だからか。
そこに居たのはたった数瞬だったから、
彼女とすれ違う事もなく。


──そして旅立ちの日、
朝早くに一人庭を眺めた。
あれから時間が経っていたし、あの夜と同じ様に立ち入りは控えたから、一人彼女に連れられたリコリスの花の跡など見付けられる筈もなく。

ユージーンのいる部屋に一度戻って最後の荷物をまとめると、「餞別」と言ってクッキーやら飴やらを渡してくれた。
ぎこちないながらも動かせる左手で受け取ったら
「本当に大丈夫なのか」と心配されたから、
「ユーディト様が途中迄一緒に居てくれるからな」「そりゃ安心だ。手出すなよ」「まだ死にたくないわ」「お前も騎士だろへなちょこだけどなハッハッハ」などと少々悪ふざけをしながら、
彼の淹れてくれる最後のコーヒーを飲み干した]

[それから諸々の挨拶を済ませた後、
最後にピアノの部屋を訪れた。

己の願い…というより強請りを、彼女は叶えてくれた。

好きなところに座ってと促されたが、
えーとえーとと勝手がわからずもたもたして、
彼女に座る場所を決めてもらっただろう。

席に着くと、演奏する側でもないのに少し緊張した。
風が優しく部屋と庭を混ぜて、
いつもより一段と綺麗な彼女のドレスを揺らして、
もう音楽が始まっている様な錯覚に陥る。

「あなたに捧げる曲」なんて言われて、
まだ聴いてもないのに目頭が熱くなりそうだ。

嬉しそうにうん、と頷いてからは、
これから聴こえる音を聴き漏らさない様、
身動きひとつせずに大人しく座っていた]

[何度か聴いていた、彼女のピアノ。
今日はすごく、すごく優しい。
いつだって可憐で品のある音だったけれど、今日はもっと自分に寄り添って、包み込んでくれる様な音楽だった。

この屋敷に来てからの出来事が思い出される。
この曲と共に在りたいと思った。
この曲の事を覚えていて、
聴く度にこれ迄の事と、今日この時間を思い出したいと思った。

彼女の音を一つたりとも邪魔したくなかったのに、
終わるとわかる、わかってしまう音が奏でられると、あぁ……と思わず声が漏れた。

鍵盤が沈黙しても、まだ曲が流れている様でぼうっとする。彼女の声で我に返る。
正気なのに、どこか恍惚とした表情で呟いた]


  あぁ…… きれいだ。


[それは、拍手も出来ない代わりだったかもしれない。
彼女に訝しまれる前に、すくっと立ち上がって、]


  こちらこそ、ありがとう、お嬢様。

  あんたも、どうか元気で。


[お辞儀をした彼女に相対して頭を下げた後、
振り切る様に背を向けたが……ちらと肩越しに振り返った]


  
  オレの事は……忘れてくれ。

  でも、
  あんたの事をいつでも想ってる、
  そんな奴がいるって事だけ、

  ……覚えててやってくれ。


[言うだけ言って、「じゃあ」と
左手で少しもたつきながら扉を開ける。

頭の中をさっきの音色でいっぱいにしながら、
堂々とした足取りで屋敷を後にした]

[療養中に、義手を扱っている国を徹底的に調べた。
己の義手を作った国を特定したが、
それよりも進んだ技術を持っている国もあり、又、医療も発達していたのでまずはそこへ向かった。
ユーディトをなるべく早く解放してやらないといけないと思ったから、両手の回復が最優先だった。

貯めていた給料や、受勲からの援助も多少あったかもしれないが、義手を直すのには金が足りなかった。
足しにしようと髪を切った。
お屋敷の高品質な洗髪剤のおかげか髪質が良かったらしく、高く売れた。それでも流石最新技術。全然足りなかったから夜の街から朝帰りすると、ユーディトに不審がられたか]


  お嬢様には内緒にしてて……


[今手段は選べないんだ、と真剣なまなざしで訴えれば、
己を置いて帰る事はなかったか。
辛い時には、あのピアノ曲を思い出した。

何とか積んだ金でこしらえてもらった義手は、
以前よりずっと使い勝手が良かった。
けれど右手は結局完治には程遠く、
何か埋め込んだり外に色々着けたりで様子を見る事になった。
それでも一向に良くはならなかったが、
その分左手がうまく使える様になった]

[雇ってもらった教会で何とか生きていけそうだと思った時、
ユーディトに感謝を告げて、屋敷に戻ってもらった。
お嬢様への贈り物に押し花でも持たせようとしたが、
忘れろって言ったくせ何やってんだ、と自戒して、
ユーディトに一枚贈った。
彼女はそれを見せびらかしたりしないタイプだと思う。
それでよかった。
この国に咲く美しい花が、こっそりとあの人のいる屋敷に咲いているなんて、ちょっと風情がある。
……何だかロマンチックな事を考えてしまった。

一枚作ったら何となく勝手がわかって、教会でも作った。
教会のみんなで作って、街の人に配って……
街にも馴染んで来た。
街の人達ともたくさん話す様になった。
情報を集める様になった。
あの盗賊団の情報を]

[この街にも寄っていただろうと予想した通り、
被害者が居た。
その頃には教会の人間として信用されていたのもあって、
正直に己があの盗賊団の一味だったと話した。
彼らは己を見た記憶がないから咎めないと言った。
それでも罪滅ぼしがしたいと食い下がれば、
雑用を任せてくれた。

本当にこんな事で彼らの傷が癒えるのだろうかとか、
こんなの己の自己満足なのではないかとか、
もやもやとした気持ちを抱えながら、
献身的に働いた。

やがて他にも被害者がこの近辺に大勢いる事を知って、
自分のしようとしている事の無謀さを知る。
生きている内に被害者全員に会って、
全員に毎日尽くすなんて物理的に不可能だ。

やるせない。
それでも何とかしたいと唸る己に、
色んな人が知恵を貸してくれた。

盗賊団の向かった先や構成等の情報が己のもとに集まり、
又、盗賊団の被害者を救う為の団体の様なものが発足された]

[それから、一人では成し得なかった事をいくつか成し遂げた。
年月はかかったけれど、盗賊団を結果的に根絶やしにした。
両親は数年前に事故で亡くなっていたらしい事も知った。
涙も出なかったけれど、
存在しなかった墓をひっそりと立てた。

時に荒事に巻き込まれた。
ナイフを人に向けた時はあの記憶が蘇ったけれど、
今度は殺さずにおさめられた。
これもあの経験と、仲間のおかげだろう。
右目に傷を負って死にそうになった時、]


  オレは、こんなところで死ねねぇんだよ!


[そんな事を言っていたらしい。
後で仲間から聞いて驚いた。
心臓に同化した彼女の言葉が、
今も己を騎士にしてくれていた]

[行く先々で、その街の絵葉書を買って屋敷に送った。
こちらは住所を転々とし始めていたから、送り主はリフルとしか書けなかったけれど。
近況も書かなかった。
忘れてくれと言ったのは己だし、
生きていると知ってくれれば十分過ぎた。

ナントカ王国のクロードという人物にも会う事ができたか。
また随分年月が経ってしまっていたけれど、
あの曲が今でも好きだ、でもそろそろ忘れてしまいそうで怖い、と話せば、弾いて聴かせてくれただろうか。
あぁ、ああそうだった、と唇を噛み締めて、
彼女の音色のかけらを取り戻した。

その日の夜の月は、一際明るかった]

[その次に向かったのは、昔盗賊団のアジトがあった国で、
いわゆる極寒の地だった。
ここは物資の運搬で精一杯で、
私的な手紙を送る余裕のない国だったものだから、この国に入ってから、屋敷へ手紙を送る事が出来なくなってしまった。

距離だって随分あって、
あの国の噂だって近況だってなかなか知る事が叶わなくなる。
それでもきっと、
無事に、元気に過ごしています様に。
教会で働く内、祈りを覚える様になっていた]


  お嬢様もこんなの飲むのかな……


[ここはあたたかいココアが美味しい。
彼女には紅茶のイメージがあったから、
マシュマロの浮かんだこの黒い飲み物に首を傾げつつ、
ヒュボッ!と吸い込んでしまってむせた]

[アジトの残骸の整理と、
周辺で被害に遭った人への支援を行った。
この地でも小さいながら、支援団体も出来た。

己はツテでまた教会で働くのち、
役職を与えられる様になった。

この教会では、およそ三年ほど勤める事になる──]

― 町の入り口 ―

[そこはすっかり様変わりしていただろうか、
それとも殆ど変わっていなかっただろうか。
どちらにせよ、懐かしさと、帰って来た、と静かに高揚する気持ちが身の内を震わせる。
道中にサーカスの一行を見る機会があり、同行者も機嫌が良い]


 (……でも、思ったより早く帰って来たな……)


[屋敷を出てから色んな事があって、
もう十年か二十年くらい経っている様な気分だけれど、
実際は六年くらいだった。
それでも流石にどこ行ったかわからなくて三年も音沙汰なければ死んだと思われている様な──]


 「リフル!? お前生きてたのか!」


  ユージーン……!


[随分久し振りなのに、聞けば誰の声か瞬時に思い出した。
顔は……ちょっと老けたか?
しかし、「うわあ誰かと思った」とか言ってるけれど、
すぐにわかってくれた事にこっちは今驚いている。

小綺麗な祭服を着ているし、髪はリボンでまとめているのは昔と同じでも大分短いし、右目にはモノクルもしているってのに]

[ユージーンが顔を覗き込んで来る。
モノクルをしている方の目の色がおかしい事に気付いたらしい。
「また無茶をしたのか?」と睨んで来るから、
トン、と相変わらず具合の良い左手の義手で彼の肩を押した。
近ぇんだよ]


  生きてるんだから良いだろ。


[ふふんと笑ってやると、彼も笑った。
それから、己の後ろに隠れている人物に気付いたらしい]


 「あれ?!子供?!!!」


[声がデカい。
歩きながら、人見知りをしている六歳の少女を紹介した。
名前はルミ。茶色がかっているけれど金の髪が己に少し近い。
あの北の国の孤児院で引き取った子だった。
別の盗賊団で生まれ捨てられた子の様で、
自分と重なるところがあったのだった。
まぁそのへんは彼には伏せたが]

 




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