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【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ曲がり角を三度曲がったその先の扉の向こう。 もう、すっかり慣れてしまったでしょうか。 開け放てば、むっとするような濃厚な死臭が漂います。 他の……つまり、開放されている廊下だとか、 そういう場所と比べると、この部屋は随分静かで、 閉じられたままで、それこそ遺品を取りに来られた時以外は、 一切の光もなく、音もなく、ただ暗闇が蟠り。 ここは、大きく肉が裂けた胸元を淀んだ空気に晒しながら、 満足気な微笑みを浮かべて眠る、納められた死者の為の部屋。 ……随分短い間で、部屋は大きな棺に変わっていたようでした。 電気をつければ、血が和装を染め、ベッドから滴った血が 周囲に赤く広がっているのがよく、わかります。 ともすれば、それは赤い花を亡骸の周囲に敷き詰めたよう。 棺に納められた死者は、言葉を持ちません。返事も、しません。 あなたを責めもしなければ、許しもしません。 だからこそ悪夢のような光景は、あの時のまま。 ――あなたのしてくれた事への感謝を顔に浮かべて、 ただそこにあります。まるで、待っていた、というように。 (-16) 2022/06/16(Thu) 10:42:43 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイあなたの独白が、棺の中へ降り積もります。 もう噴き出すほどの血も残っていないのでしょう、 まっさらなシーツは微かにその白を赤に染めただけでした。 傍で見れば尚更、血の失われた青白い肌が目立つのです。 それでも、幾つも、幾つも言葉を零していけば。 その空っぽになった胸にある、半分以上潰れた少女の心に 幾らかは零れず残るのかもしれません。 あなたが、考えてくれたことが。 あなたが、守った約束のひとつが。 あなたが、人に少し近づけた事実が。 そして、西へ旅立ったあなたが、叶西路が、今ひとたび。 東から現れて、傍で味方をしてくれる。それが、 きっと、少女にとっては、なにより嬉しい事なのです。 (-21) 2022/06/16(Thu) 21:41:48 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイぶつり、冷たい身体に幾らかの抵抗をしながら針が刺さります。 流し込まれる薬液が、その腕の内部へと滲みていって。 そうして、全てがからっぽの身体に流し込まれました。 それだけでした。 血流の止まった体では、薬液が行きわたる事もありません。 神に弓を引いた少女は、 の を受け取れないのでしょうか? 変化のないまま、数十秒が経って、きっともう何も起きないのだろうと思った頃に。 「こぷっ」 と。小さな音が聞こえました。 (-22) 2022/06/16(Thu) 21:42:49 |
マユミは、その固まった微笑みの口から、血を流しています。 (a17) 2022/06/16(Thu) 21:43:09 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイこぷ、ごぷ。 ……少女の微笑んだ顔は変わらないままに、 血が口から垂れ流されます。 それと時を同じくして、シーツの奥から音が鳴り始めました。 ぱき。ぱき。 ――目の前で、シーツが持ち上がっていきます。 抉れたような形だったそれは、音と共に膨らんで。 胸骨が再生しているのでしょうか、 ぱき、ぱきり。 そして、脈動の音が聞こえます。どくん。どくん――。 (-23) 2022/06/16(Thu) 21:45:02 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ心臓の稼働する音がする度、口から血が吐き出されます。 マットレスが血で赤くなり、シーツの赤がじわと広がりました。 ぱき、ぱき。 また、シーツが盛り上がります。ゆっくりと。それを以て、シーツの赤が広がるのは止まりました。 少し形の歪んだ二つの山が布一枚を隔てて、 すっかりと元のように現れるのがわかります。 針を刺した腕の血色は、気付けば随分と人のそれに近づいて、 未だどくん、どくんと響く音は力強く。 口から流れた血は枕を重くする頃に、やっと止まりました。 腕から肩にかけて空いていた丸く小さな幾つもの穴は きっと結晶を生やしていた痕でしょう。 それらもまた、安心して眠るように瞼を閉じて治っていきます。 そして、ひと際大きく。 どくん 、と響いて――。 (-24) 2022/06/16(Thu) 21:46:52 |
マユミは、目を開いて、大きな血の塊を吐き出しました。 (a18) 2022/06/16(Thu) 21:47:07 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ少女は、酷く混乱した様子でした。 開いたばかりの目を白黒させて、見えているのかいないのか、 手さぐりに胸元のシーツをぎゅうと掴んで、 その血で濡れた感触に肩を跳ねさせます。 未だぼたぼたと垂れる口元からの血に何度も何度も咳き込んで。 目元からは苦しさからか涙の粒が幾つも零れます。 その手が、ふらふらと辺りを探ります。 その指が、ふらふらと伸びていきます。 一番近くにいるのか、あるのか。 見覚えがある色な気がするそれに、すがるように。 はくはく、口が動きます。 「たすけて」 叶の方へ、苦しげに。助けを求めました。 あの時よりはずっと、普通に。 (-25) 2022/06/16(Thu) 21:49:19 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイただ一度。 捕まえられた手は、びくりと大きく跳ねました。 インザダーク きっと、少女の目はまだ見えていなかったのでしょう。 少女のその手はずいぶん、冷たくて。 冬のあいだじゅう、ずっと外に出していたような冷たさでした。 だからでしょうか、少女は……一度跳ねさせただけで、 その後はあなたの手を指で慎重になぞっています。 形を、そして熱を確かめているのです。 きっと、そのせいであなたの手は赤黒く汚れてしまいます。 まるで、少女があなたによって殺された事を、 改めて示すかのようでした。それでも、少女は続けます。 そうして震える指は、少しずつ、落ち着いていくでしょう。 それは、氷が溶けるように。 そこに居るのが誰か、分かったように。 だから、『大丈夫』のあと。 咳き込む自分の音を聞く事すら惜しんで、 酷い耳鳴りの中で、確かにその声を拾ったのです。 (-29) 2022/06/17(Fri) 0:41:46 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ……はじめは。少女はそれを、夢かと。 それもとびきり、幸せな夢かと、思ったのです。 地獄以外に行く場所などありはしない自分が、 そこへ行く前に持たせてもらえた最後の幻なのかと、 冷え切った身体を抱えて思ったのです。 だけど、違いました。 それは、夢なんかじゃありませんでした。 それは、幻なんかじゃありませんでした。 そこには、温もりがありました。 嫌悪を呼び起こすような、自分を穢す 熱 ではなくて。いつか、ずっとまえに、他愛ない会話で得たような。 それこそ、お散歩をしていた時の。 ……ただ、じんわりと暖かい―― (-30) 2022/06/17(Fri) 0:42:35 |
マユミは、咳がやっと落ち着きました。 (a23) 2022/06/17(Fri) 0:42:47 |
マユミは、深呼吸を二回、三回。 (a24) 2022/06/17(Fri) 0:42:56 |
マユミは、ぼやけた視界が、はっきりとしてきます。そして、 (a25) 2022/06/17(Fri) 0:43:10 |
マユミは、あなたをみつけました。 (a26) 2022/06/17(Fri) 0:43:19 |
マユミは、ぼろぼろと涙をこぼして、飛び込みます。 (a27) 2022/06/17(Fri) 0:43:27 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイ――おひさまのような、あたたかさ。 マユミは、今、生きています。 in the sunshine. あなたと一緒の場所で。 (-31) 2022/06/17(Fri) 0:45:20 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイ目を覚ました少女は、おはようの言葉を確かに受け取ります。 ほろりほろり、幾つもの生きている証を零しながら、 同じ分だけ頷いて、声のないおはようを返します。 背中に手が伸びれば、やはり一度小さく震えますが、 しかしあなたの手を受け入れるでしょう。 代わりに、より強くあなたを腕に抱いて。 骨が突き破った和装はぼろぼろで、 指先はその背に直接触れる事になるかもしれません。 もしそうなら、その指には幾つもの深い溝…… 鞭で刻まれた大きな傷跡の感触が伝わります。 落ち着くまでは……きっと、血を吸った服を握りながら。 涙で血を洗い流す事は出来ませんが、零した分だけ―― あなたと共有した分だけ、薄まっていくはずです。 (-36) 2022/06/17(Fri) 11:13:54 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイ随分長くそうしていた気がします。 やっと落ち着いて、目元をごしごし。 自分が夜に居た間のあれやこれやを聞き取って頷いて、 上着を差し出されて初めて自分の格好に驚いて、顔を赤くして。 そして……使えなくなった力には、ほんの少し俯いて。 タブレットをゆっくりとなぞりました。 『わかったのです。 ありがとうございます、叶様。 とても心強く、そして嬉しいのです』 と全てを纏め、飲み込んでそう見せて微笑んでみせました。 あなたの視線を追って、……そしてそこでまた目を丸くして、 あなたの身体を慌ててぺたぺたとまさぐります。 上着を着るのもそこそこに、 タブレットを大慌てで叩いて、画面を見せて。 『血怪我大丈夫』 と、大変分かりやすい6文字の表示。 つまり、心配していました。とても。それはもう、すごく。 目前の少女は不安げに、視線をあなたの全身に注いでいます。 (-37) 2022/06/17(Fri) 11:14:33 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイぢっ…………と、視線を送ります。 それからふっ、と短く息を吐いて笑いました。 『生きていてくれたのです。 その上、僕を何度も助けてくれました。 ここは信じておくのです、叶様を。 はい、一緒に帰りましょう』 タブレットを見せながら、微笑んで。 シーツから脱し……ようとして、 袴もまたボロボロになっている事に気付き。 『自爆とはいえ、一張羅が完全におしまいなのです。 今後の路上生活に完全に支障をきたすのです。 流石の僕も半裸で公園のベンチやら 植込みの茂みやらで寝る勇気はないのです』 そんな文字を表示して、ひとまずしかたなしと シーツを腰にぎゅうと結びました。 破れてしまったサラシのせいで豊満な肉体も露わでしたが、 今は無理矢理閉じた上着のお陰でなんとか隠せています。 (-45) 2022/06/18(Sat) 3:10:57 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイ『後は僕の弓だけは回収したいのですが、 流石に望み薄な気がするのです。 服もない、弓もない、住居もない、ないない尽くし。 ですがまあ。命はありますのでよしとするのです?』 見せながら、あなたの血に濡れた袖を指先でつまみます。 『叶様もいてくれますし?』 なんて文字も躍らせて、甘く微笑んで。 ひとまず、本人的には脱出準備は完了のようです。 服装は非常に怪しいですが。 後はあなたに何かやりのこしたことがあれば、 少女はそれに付き合うつもりのようです。 他の面々が残っているなら、挨拶してもいいでしょう。 本来の持ち物が資料室にあるならそれもよし。 何もなければ、揃って帰っていくのでしょう。 放たれた矢のように。本当の太陽が待つ、日向へと。 (-46) 2022/06/18(Sat) 3:14:17 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイ『即今、当処、自己。 禅に曰く、変えられるのはその3つだけなのです。 今、ここ、自分、その3つ。僕は』 弓禅一如。弓道を修めていた時に習ったのでしょう。 そんな言葉を見せながらそこで一度区切ります。 再び見せた画面には、ほんの少しの血と、少しのヒビが ここで起きた出来事のように、残っています。けれど―― 『少し、急ぎ過ぎていたのかもしれません。 叶様の言う通り、ゆっくりでも。 探して行こうと思うのです。 やるべき事とは別に、僕が変わっていける道を』 その顔は、とても穏やかで、そして晴れやかでした。 それから僅かの間を空けてタブレットをなぞります。 『叶様が、居てもいいと言ってくれるのなら、 御厄介になるのです。 その分荷物持ちでも家事手伝いでも その他なんでもさせて頂くのです。 ですから 不束者ですがこれから、宜しくお願いします。』 深々、頭を下げました。 ポニーテールが零れ落ちて、上がった顔に笑顔をひとつ。 引かれる手を、きちんと握って。 共に、夜明けの道をいくのでしょう。 (-49) 2022/06/18(Sat) 11:25:30 |
マユミは、願いは届き、日は巡り、夜を越えて、また朝が来る。 (a43) 2022/06/18(Sat) 11:26:28 |
マユミは、いつか日が沈むまで、いつか月が昇るまで。 (a44) 2022/06/18(Sat) 11:27:41 |
マユミは、矢のように走るのではなく、人のように歩く。 (a45) 2022/06/18(Sat) 11:29:38 |
マユミは、いつか日が沈む時、いつか月が昇る時も―― (a46) 2022/06/18(Sat) 11:30:38 |
マユミは、あなたを、隣で照らしていたいのです。 (a47) 2022/06/18(Sat) 11:31:38 |
マユミは、いつか月が沈むまで、いつか日が昇るまで。 (a48) 2022/06/18(Sat) 11:32:11 |
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