【人】 四角形の記憶 卯波>>168 涼風 「ましてやまた解散したら、 次はいつ会えるかわかんないですからね。 尚更、今のうちに色々撮っておかなきゃです」 辺りを見渡して、集まってる人を一人一人見る。 やがて会えなくなる人を写真に残しておくのが、どれだけ寂しさへの紛らわせになるものか、とふと頭を過ぎる。思った、だけ。 そんなの、撮り始めた時から答えが出ていないのだから。 いつまでもただ、綺麗だと思ったものを、ずっと形に残したいだけ。 「もちろんですよ。誰かに見てもらわなきゃ、 写真の意味がありませんから。 あと、十年前より俺はずーっと、写真撮るの上手くなったしね」 四角形の中は永遠だが、写る人たちはそうではない。 すこし目を離したすきにずっと遠くにいってしまう。 だから俺はレンズ越しでもその背中を追いたいのだ。 本当は肩を並べたかったけど。 それは、どうしても叶いそうにないから。 (170) 2021/08/12(Thu) 15:11:18 |
【置】 四角形の記憶 卯波男らしくなりたかった。 添木兄さんや清和兄さんと悪いことをしたり、1歳上の兄さんたちと肩を並べて遊んだりしたくて。 レンズ越しに見るだけじゃなくて、 自分もその思い出の一つになりたくて。 でも、幼い顔立ちで、体格もひとまわり小さくて、歳が一つ違って。 些細な差でも、距離が一歩ずつ遠ざかって、その全てが積み重なっていくと、もう四角形の向こうにしか皆が居なくなってしまう。 追いかけようと身体を鍛えても、 何をしても、生まれつきのものは覆せないものだ。 反対に、女の子らしくしてたらどうだったのだろう。肩を並べずとも、もっと違った関係で、側にいることはできたんじゃないか。全てはもう遅い話だったが。 一ノ瀬卯波は、中途半端だ。 田舎を出てからは、鏡や自身の写真を前にすると、四角形に切り取られた現在を見つめたくなくて、思わず顔を背けてしまう。 写真に映る、変わってゆくひと、変わらないひとが美しいのは、それが迷いなく成長して、人生を積み重ねてきた裏付けだからだ。 俺には何もない。 道半ばで心が折れて、反対のことをしていたらだのとありもしない妄想に浸って、それでも明るい未来を想像できずにいる。 それでも。自分の写すものだけは、 何もかもが綺麗で。それだけは救いだった。 (L4) 2021/08/12(Thu) 15:12:20 公開: 2021/08/12(Thu) 17:00:00 |
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