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【秘】 不運 フカワ → の名残 カミクズ (-14) 2022/03/08(Tue) 17:43:59 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ『無理ですって』 『人前に出られる見た目じゃないですし』 『渡したいものって言われても、 僕もう触れないんですよ 代わりに行ってきてくれませんか』 『あと叫べば来るってどういうことですか』 いったい何がどうなってそうなったんだ。 返信。 息をしなくていいからこっちの方が楽かもしれない。 今のこの死に損ないにとっては。 (-15) 2022/03/08(Tue) 17:52:02 |
【秘】 不運 フカワ → の名残 カミクズ『声が届かないと、君はいかないでしょう』 『見た目ぐらいいじってください VRですよ、ここ』 死人に無茶をいう。 死人だと思っていないのかもしれないが。 『じゃあ声だけでも聞かせてあげたらどうですか 隠れながら、扉越しに あなたと話したいんだと思います』 (-17) 2022/03/08(Tue) 18:00:02 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ『ああ言えばこう言う』 『呼ばれてもないのに行く理由 ないですし』 自分から会いに行く理由はない。 一部を除いて、この場所でやり残した事の無い死人にとっては。 裏を返せば、呼ばれたらまあ、そうなんだけど。 『しょうがないから 応対はしますけど きみのせいで待ちぼうけはかわいそうですから でも』 『体よく追い払おうとしてません?僕のこと』 『なんてね』 (-20) 2022/03/08(Tue) 18:16:42 |
カミクズは、応対するとは言ったけど、その場を動くつもりはない。 (a15) 2022/03/08(Tue) 18:20:00 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユスメガホンでのお呼び出しの後、何件かのメッセージ。 『すみません』 差出人は、普通であれば有り得ないはずの。 『ちょっと今 人前に出られる状態じゃなくて 渡したいもの、も多分受け取れそうにないんですけど』 呼べば来る、という話になった時点で 死に損なっている事は薄々察されているんだろうな、と思って。 その辺りは説明を省くことにした。 『あと、なんか あの人は行きたくないみたいです』 (-21) 2022/03/08(Tue) 18:30:11 |
【秘】 不運 フカワ → の名残 カミクズなんか呼ばれてるんですよ各地で、なんて。 適当な言い訳をあたまにうかべながら、 なぜ二人で会いたくなかったのかを考えた。 カミクズに用があったユスの話に興味がなかった。 ……それだけ、だよな? 『追い払うって』 『何かわからないけれど』 俺は、君の命と身体を手放した。 『君はどこにいても俺のそばにいるよ』 それでも俺は、君を手に入れた。 ずっと、ずっと。 (-22) 2022/03/08(Tue) 18:35:14 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ『目を逸らそうとしていませんか』 何からかはわからないけれど、何となくそんなふうに思った。 どれだけ傍に居たって認識されていなければ無いのと同じ。 どれだけ言葉を投げ掛けたって届かなければ無いのと同じ。 きみが埋めるだとか火葬だとか、そんな事を言った時もそう。 『思えばあの時もただそれがいやだった 僕がきみにとって見たくないものになったようで』 目の前の人が、こちらを見ているのに見ていないような孤独感。 『それでもずっと付き纏うから』 それがどんな形であっても。 『きみの言う通り 目蓋を閉じても、耳を塞いでも、そこに居ますからね』 もう気付いてしまった。 記憶の片隅で、綺麗なまま一人埃を被っていたくはないのだと。 自分がそう思っている事に。 (-23) 2022/03/08(Tue) 19:27:25 |
【秘】 規律 ユス → の名残 カミクズ 『何故本当に応じたんですか?』 あんまりな言い草である。とはいえ傷付けるための発言ではなく、死んだと思っている者から実際に返事が来てしまったが故の驚きから出たものだった。端的に言えば混乱している。 『人前に出られる状態じゃない、受け取れそうにない』 『成る程』 メッセージを送ってからマップを確認する。 やはり、参加者を示すマーカーの数は変わっていない。ヒメノと、誰かが欠けたまま。 きっとそういうこともあるのだろうと、深く考えないことにした。ここは限りなく本物に近くて、けれど決して全てが本物ではない世界だから。電子空間が齎した夢のようなものなのだろう。 『フカワさん、俺と連絡した時もW俺のことは気にせずWなんて言ってましたね。誰か殺したからでしょうか。カミクズさんとか』 感慨もなく物的証拠や状況から安直に出した推測を述べる。きっと、それだけでは無いだろうけど。 『お渡ししたかったのは貴方の帽子です。水族館に残されていましたので。 不要であるならばこちらで処分しておきます。名残、綺麗に片付けておきますよ』 (-27) 2022/03/09(Wed) 16:24:54 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス『え』 『ま』 『まちぼうけはかわいそうだから』 あれ……?これ、返事しない方がよかった……? そんな事を思ってももう遅いのだ。 実際たったそれだけの理由で死人から返事が来るなんて そうそうあってたまるかという話なわけで。 それだけの理由、ではないのだけど。 『ええと』 『お気遣い、ありがとうございます。 でも、自分にはもう必要のないものなので 適当に処分してしまうか、それか』 タイムスタンプに若干の間。可視化された少しの逡巡。 でも、やっぱりあなたは気にしないんだろうな、と思って。 『部屋に置いておいてください』 清掃員の部屋は、今も散らかった部屋のまま。 自分の名残を残すのは、あの場所だけでいいな。 (-35) 2022/03/09(Wed) 19:28:22 |
【独】 の名残 カミクズ──鍵の掛かっていない部屋。 ベッドの上には脱ぎ散らかした衣類が散らばって、 テーブルの上にはいい加減に纏められた郵便物、 それから、下手でも上手くもないような一枚の絵。 床だけは一見何もないようで、 よく見れば隅にはごちゃごちゃとケーブル類が纏められている。 ごみはきちんと処分されているけれど、 とにかくあちこちものが出しっぱなし。 不衛生でこそないけれど、ただただ雑然としている。 そんな、控えめに言っても人を呼べないような部屋。 曲がりなりにも清掃員、のイメージにはそぐわない荒れた部屋。 上葛の自宅である、安アパートの一室が再現された部屋。 それは今もなおそのままだった。 名残を残さないように、迷惑を掛けないように。 現実での自宅は、もう綺麗に片付けてしまったから。 最初から、あの場所にはもう帰るつもりが無かったから。 それでもせめて、ここでくらいはこのままにしたかった。 この場所なら、時が来れば勝手に消えてしまうからな。 (-34) 2022/03/09(Wed) 19:29:42 |
【秘】 規律 ユス → の名残 カミクズ『』 入力中。一旦端末から目を離して眉間を数度揉んだ。 青年は死者に特別な感情を持たない。何も生み出さない肉塊でしかないと、目の前に横たわる事実以外何も見出さない。 死者が思い出の中で生きることも、臓器となって他人の体の中で生きることも、酷く嫌悪し否定する数少ない事柄だった。 ……筈なんですけどお……目の前の死者、ばりばり言葉返すじゃん……生み出しまくってるじゃん、思い出になり得るこの会話とか……。 『……お気遣いありがとうございます。 ではこの帽子は部屋に置いておきますね』 その返信で貴方の存在が色濃く染み付いた個室という名残を綺麗に片付けなくていいのだと理解する。 それならこの置いてけぼりにされた名残もそちらへ戻していいだろう、と青年は彼の部屋を目指し始めた。 ▼ (-61) 2022/03/11(Fri) 5:15:42 |
【秘】 規律 ユス → の名残 カミクズ『ところでカミクズさん』 向かいながら端末に入力を続ける。 『まさか本当に俺に言葉を返す為だけに起き上がったわけではありませんよね』 フカワの言葉を振り返る。 『そもそも、返事をしてもらえるかもしれないと教えてくれたのはフカワさんだ。 フカワさんが既に知っているということは、彼には死んでもなお起き上がって会話をしたということでしょうか』 W隣につかれていますWという言葉を思い出した。 『……死者が生き返るなどのオカルト話ではたいてい強い未練や怨念がこの世に死者を留めるアンカーとなっている。 ……貴方はどうですか?フカワさんに関して、或いは他のものにたいして何か未練でも?』 『帽子のあった現場に争った形跡がなかったところを見るに、死を受け入れたように見えます。 そもそもまず貴方はまず自ら死のうともしていた。死ぬのは怖いと思いこそすれ、やめようとしなかった』 『そんな貴方が、人前に出られない姿になってまで起きているのは』 カリ、とボールペンに力が込められる。 『少しの興味と驚きがあります。 カミクズさん、名残は凄く大切にしているように見えますが』 『自分だとか、人の輪に入ろうとすることだとか、そういうのはあまり大切にしていないように見えましたから』 (-62) 2022/03/11(Fri) 5:29:19 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス──死人に口なし。 確かに死者は何も語らない。何かを新たに生み出す事はしない。 生者がそれに対して感じるのはどこまでも生者の感傷でしかない。 けれどそれは果たしてまったく無意味なものなのだろうか? 生者はただ死者の死を認め、弔い、送り出す事だけをすべきか? 葬儀を終えた瞬間、故人の存在性はそこで途切れるのか? であれば墓石とは、何のために存在する? 『生き返る、っていうのは少し 違うのかも』 『これは多分、夢の続き、みたいなもので』 『目が覚めたら 現実へ帰ったら、死者に戻るんです』 『なんとなく、そう思ってるだけですけどね』 死んだ人間から言葉が返るなんてパラダイムシフト。 他人の名残に、死者の痕跡に、過ぎ去っていったものたちに。 決して必要以上の感傷を抱かないあなたなら。 非科学的な、或いはVRのバグとして処理してくれるだろうか。 なんて、話半分に聞いてくれるかな、今はそんな気持ち。 死んでいなかった、なんてことはきっとないのだと思う。 そんな奇跡は存在しない。そんな希望は信じていない。 けれどメッセージログには確かに残されている、死者の言葉。 どこまでも曖昧な死と生の狭間、そんな夢の中よりのもの。 (-63) 2022/03/11(Fri) 7:19:52 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス『そんな少しの夢の続きを選んだのは』 無意味な引き延ばしは毒だと既に知っている。 ただ死への恐怖から惰性で生き続けた結果、後悔をした。 そんな失敗を経てなお自分がそれを選んだのは。 『あの人が、ずっと一人で泣いていたから』 誰が、とは言わずとも、それが誰かは文脈から明白で。 たったそれだけの、それでも十分過ぎる理由。 『あそこで死ぬ事は、事実受け入れていたんです それに 死んだらそこで終わり。死んだ人が遺すのは、名残だけ。 それもここでは本来片付ける必要なんてありません。 だから僕のことなんか放っておいて、 すぐにでも、誰かと、どこへなりと行けばよかったのに』 泣くほど悲しいなら、寂しいなら、辛いなら。 誰かの傍で泣けばいいのに。誰か一緒に泣いてくれるだろうに。 また意地を張っていたのか、そうでないかはわからないけど。 『ずっとすぐ近くで泣かれたら、寝ていられないでしょう』 人からすれば、そんな理由で、と思われてしまいそうな。 どこまでも、ただそれだけの理由が全てだった。 (-64) 2022/03/11(Fri) 7:20:50 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス『自分でも おかしな話だと思うんですけどね』 一度だけ、乾いて濁った呼吸音。 溜息とも、不意に零れた笑みともつかない音。 きっと誰も聞かない、曖昧な死者のノイズ。 『死んでいると、 生きている人には何もしてあげられない もう手が届かないんだな ってそんなわかりきっていたことが、死んで初めて実感になって』 『それが すごくいやだったんです』 だから一緒に死にたいのだとわかってしまった。 『あの人が僕の手の届かない所に行くの、いやでした 僕の手の届かない所で泣くのも、悲しい思いをするのも 一人で居るのも、思ったよりも我慢ならないことでした』 多分、これはよくない感情なのだと思う。 死者から生者に向けるには、あまりにも。 『死んでも傍に居るなんて綺麗事じゃどうにもならなかった。 そんな当たり前のことに、死んで初めて気付いて 今更諦めがたいような未練ができるなんて』 『本当に、おかしな話ですよね』 それでももう、良いも悪いもないじゃないか。 (-65) 2022/03/11(Fri) 7:23:04 |
【秘】 規律 ユス → の名残 カミクズ 電子が見せる仮初の夢。全てが水に溶けて混じりゆくまでの、泡のようなほんのわずかなモラトリアム。 墓石は死者の為に在るわけじゃない。生者の為のもの。 それは、遺された者の整理をつけるためのもの。それは、死者を、死者の残したものを、忘却の彼方に流されないようにするもの。それは──。 『夢の続き。 ……ふむ。それならば、受け入れられます』 夢自体曖昧なものなんて決して何か強く思うところはないけれど。 人間なんて不完全な生き物がはっきりと断定できる物事など、大して多くないのだ。 柔らかな空白が生み出す死者の痕跡を青年は静かに拾い上げていく。紛い物の世界の中でも感情は本物であると知っているから。 ▼ (-72) 2022/03/11(Fri) 16:45:36 |
【秘】 規律 ユス → の名残 カミクズ『そうでしたか』 『いいと思います。カミクズさんがそうしたいのなら』 『月並みの言葉ですが、したいことをするのが一番だと思います』 人からすれば、そんな理由で、と思われてしまいそうなもの。 けれどそれでいいのだと青年は思う。あらゆるものの価値は人によってがらりと変わるものだから。 ただ、少し考えて言葉を続ける。 『自分を放っておいてどこかに行けと言いますが』 『貴方を強く想っているから、そう出来なかったんじゃないですか?』 本当のところはどうか分からないけれど。 『だから、何処にも行けず貴方の傍らで泣いていたんじゃないでしょうか。 俺は貴方のこともWあの人Wのことも、何も知らないので安直な予想しか出来ませんが』 ▼ (-73) 2022/03/11(Fri) 16:45:57 |
【秘】 規律 ユス → の名残 カミクズ『…………成る程』 『成る程』 噛み締めるような反応。次のメッセージが送信されるまでに少し時間がかかった。自分の中にある考えをまとめるのに手間取ったからだ。 『俺は今までずっと心中する気持ち、理解できませんでした。 死ねばそこで終わりだと思ったから。死んだら何もない。自分には関係のないことだと』 何もなく、何も感じないのならば、生き続けることになった相手が何をしようと相手の勝手ではないかと。 『……自分のものが自分の手の届かないところで、自分の知らないところで珍しい景色を晒し続けるのは確かに嫌だ』 人間なんて不完全な生き物がはっきりと断定できる物事など、大して多くない。 だから元の世界で死んだ時、今の清掃員のように死者のまま現世に留まる可能性だって否定しきれないのだ。 そんなことになった時を考えると、自分が何より大切にしている者を置いて行った時を考えると…… ……ああ、確かに嫌だな。 あいつの死だって、俺のものにしたい。 ▼ (-74) 2022/03/11(Fri) 16:46:26 |
【秘】 規律 ユス → の名残 カミクズ『……ありがとうございます、カミクズさん』 つらつらとお礼の言葉を入力する。 『貴方には何度もお世話になっていますね。頭が上がりません』 『……こう言うのもあれですが』 生前見た姿を脳裏に呼び出しながら、比較する。 『今のカミクズさんの方が、素直に自分のことを話せているようで、晒せているようで』 曖昧な笑み。誤魔化すような、弱々しい笑み。 取り繕うのが決して上手くないくせに、辞められない物病みの仮面。 『俺はそちらの方が、気に入っています』 それよりも、このメッセージだけで綴られた貴方のほうが、 人前に出られない姿になってしまった貴方のほうが、 余程、 『 人らしくて 、ね』 (-75) 2022/03/11(Fri) 16:49:39 |
【秘】 不運 フカワ → の名残 カミクズVR空間からもう時期出なければいけない時間。 奏でられる音楽に耳を傾けて目を閉じたり。 未来を望む会話を思い出したり、ああ、そういえば、と。 埋めも、燃やせもしなかったその死んだヒトを見やる。 居ることを疑っておらず、居ることを信用しきっていない君を。 「……掃守さん。 45メートル以上の高さがある建物 って。どこが思い浮かびますか」 (-80) 2022/03/11(Fri) 19:17:35 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス墓石は、弔いは生者の為のもの。 過ぎ去っていったものが確かに"そこにいた"事を証明する為の碑。 生者が時折遠い情景を懐かしむ為のきっかけとなり得るもの。 時に踏み躙られはすれど、その起源は決して邪なものではなく。 それでも、忘れたいのなら、忘れればいいのだと思う。 生者が目を瞑ってしまえば、死者の存在は存外容易く曖昧になる。 自らの手に余る重荷をその場へ置いていく自由は、 きっと誰にだってあるのだから。 ただ、置いていかないで、と叫ぶ自由もあるというだけで。 『死んでからしたいことができるなんて』 自分がそんな事をしたいだなんて思ってもみなかった。 この場所に来た時、自分にとってやりたい事は一つもなかった。 強いて言うのであれば理想的な形で死ぬ事くらいのものだった。 だというのに、今は蛇足にも等しい時間を自ら望んで繋いでいる。 きれいごとを求める人々にとって、不都合でしかない蛇足を。 『やっぱりおかしな話ですよ』 気付かなければ、"善い人"のまま死ねたんだろうな。 独善と自己満足に満ちた終わりの中、誰にも迷惑を掛けずに死ぬ。 そんなお利口な結末を描けていたのだろうな。 今はそれが、自分にとって 満足の行くものだなんて到底思えやしないけど。 (-93) 2022/03/11(Fri) 21:20:27 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス『死んだらそこで終わり、でも』 死んだらそこで終わり。死んだ人が遺すのは、名残だけ。 それに対して生者が抱くものはどこまでも生者の感傷でしかなく。 『死んだ人の時間は、そこで止まってしまうけれど』 死者ができる事は、思い出として傍らに寄り添う事だけ。 『生きている人は その先を歩き続けるんですよね』 振り返ればいつだってそこに居るけれど、それだけ。 『死んだ人の手の届かない所で、ずっと』 手を伸ばそうとしたって、どちらも一方的にしかならない。 『それでどこにも行けなくなって、一人で泣くくらいなら』 『一緒に来てくれればよかったのに、なんて思うのは 身勝手な結果論だって、わかってるんですけどね』 そんな、すぐ傍に居るのに触れられないあの距離が。 自分は、いやで仕方なかったんだろうな。 (-94) 2022/03/11(Fri) 21:21:00 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス『僕は』 『ここで人らしくいるつもりなんて、ありませんでした』 どうせ人らしく死ぬ事なんて許されないのだから。 自分という個人の人間性、人生を垣間見せる事に意味なんて無い。 だからこれら全ては本来口を噤み秘すべき事で、それでも。 『でも それできみ達が知らずに後悔をする事が減るなら』 『これでよかった、のかな』 『ねえ、ユスさん』 『この場所は、ここで誰かと過ごした時間は』 『きみにとって少しでも、納得とか、満足の行くものでしたか』 いつか98uの海できみに投げ掛けた言葉を、ふと思い出した。 一人では何の感慨もなくとも、誰かと一緒なら少しは違うはず。 そんな実にささやかな希望的観測。 願わくば、それが単なる願望でなければいいな、と思うし これから先の時間もそうであって欲しいな、と思う。 きっときみにとって限りなく他人に等しい人間からの、 実に一方的で無責任な願い、ではあるのだけど。 (-95) 2022/03/11(Fri) 21:21:44 |
【独】 の名残 カミクズ思えば最初に一緒に死のうと言ったのは何故だっただろう。 ただ一人で死ぬのは寂しかったのかもしれない。 一人でもいいやと諦めてはいたけれど、できたら二人の方が良かったのかも。 或いはただ単純に別々に死ぬのは二度手間と感じただけ、そんな事もある? 今となってはよくわからない事だった。 その次は、確か。 きみを置いていきたくないと思って、これは今とそう変わらない。 一人で苦しんで欲しくはなかった。それから、少しの痛み分け。 互いに互いを失った苦しみを知らないままに死ぬ、そんな対等性。 あの時は多分、そうだ、死というものを分かち合いたかったんだな。 それで、それから、今は。 ただ、きみが自分の手の届かない所に行ってしまうのがいやだった。 自分の手の届かない所で、悲しい思いをして、寂しい思いをして、 辛い思いをして、自分以外の何かに傷付けられていくのが。 ただただひたすらに、我慢ならないな、と思った。 そんな我儘で身勝手でどうしようもない理由だ。 それが間違っているか否か、その分類や定義に大きな意味は無い。 もはや正しさなんかで救われやしないのだから。 出会うのが遅すぎて、出会ったのがこんな場所だった時点で、もう。 きっと僕達の間で重要なのは、互いに満足がいくかどうかだけ。 ねえ、こうも愚かである事は、僕達に責任があるのですか? 誰か教えられるなら教えてください。 ああ、でも、できることなら、もっと早くに教えて欲しかったよ。 (-98) 2022/03/11(Fri) 22:10:29 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ「────、……」 ただ静かで安穏としていて、特有の物寂しさに満ちた空気の中。 乾いて、濁った音。 いと深き眠りを拒んだ、夢見る死者が言葉を紡ぐ為の一呼吸。 「……45メートル…マンション…? ああえっと、10階建て以上の…15階以上?…」 唐突な問い掛けに、寝起きじみてもたくさと答えを返すのは 今や存在を疑う事は難しく、けれど居るとも証明できないもの。 微睡みの中にしか確たる形を保てない、夢の名残のようなもの。 「…もういくんですか?」 自らも問いを一つ投げ返し、死者は緩慢に身体を起こした。 (-99) 2022/03/11(Fri) 22:11:10 |
【秘】 不運 フカワ → の名残 カミクズ「俺と同じ答え出しますね。 規定通りの建築であればそうらしいです」 「……、マンションの屋上でいいか」 独り言を呟きながら目を閉じて思い浮かべる。 正しく、精密に、部屋のなかは空っぽのまま。 中には誰も存在していない、空虚な建物。 それが目の前にゆっくり建設されていく。 「飽きまし……あー……飽きた? 勝手に待っていたから、謝らないけど。 話しかけてあげなかったのはごめん」 敬語は、他人にはそうするべきと学んだから。 親にも、家族にも、みんなこうで。 ただ自分一人のときは、"仲の好い人"の前では、 崩そうと意識をしようとしていた。 「掃守さんは、俺がこのままログアウトするのを見送ってくれる?」 (-103) 2022/03/11(Fri) 22:49:20 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワきっとこれは、住居としての役目は果たさないのだろうな、と。 がらんどうの建物を、一度見上げて。 「ひどい人」 それから、あなたの方を見て笑った。 物憂げで、陰鬱で、淋しげで、でもそれだけではないような。 「僕がいやだって言っても、きみがログアウトすれば勝ち逃げ。 わかってて言ってるでしょ」 複雑な笑みで、複雑な声色で、でも気心知れた仲のように。 わかっていなかったら、それはなんか、もっとひどいな。 なんとなくそんなふうに思う。 「一人勝ちなんてされたら、僕はきっとがっかりするよ」 「きみがいつか、僕が勝手に死んだら悲しくなるって そう言ったのと、多分だいたい同じ感じの気持ちなのかも」 まったく同一なんて思ってはいないからそんな言い方をする。 自分の気持ちは自分の気持ちで、きみの気持ちはきみの気持ちだ。 本人以外にできるのは、それを最大限汲み取ろうとする努力だけ。 「待っていたのも、きみと一緒に死にたいって言ったのも。 僕が勝手に期待していただけだから、いいけど。 きみが悪いわけじゃないってわかってるけど、でも」 「それでもやっぱり、僕はがっかりするんだよな」 (-105) 2022/03/11(Fri) 23:54:21 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ「うん、だから言うよ、身勝手な我儘でも」 不意に、すとん、と重たい笑みは抜け落ちて。 「一人で救われるなんて、羨ましい」 きみにいつか言われた言葉。 そっくりそのままの、意趣返し。 「やめてくれないかな、そういうの」 あるかもしれない未来へと手を引いて行くような。 今よりほんの少しでも明るい明日を夢見させるような。 そんな都合の良い言葉をくれる生者達とは対極の存在。 同じ夢ならば、覚めない夢だっていいでしょう。 「やっとわかったところなんだよ。 僕はただ、きみが自分の手の届かない所へいくのが嫌だった。 僕の手の届かない所で、僕にはどうする事もできないものに これ以上きみが傷付けられるのは我慢ならなかった。 優しくない世界にこれ以上きみをくれてやるのがいやだった。 それは物質的なものじゃなくて、謂わば精神的な意味で」 「だからもう、ここで終わりにしよう」 「一緒に死のう、邦幸さん。 誰の手も届かない所で、今度こそ、一緒に。」 誰にも頁が捲られないなら、幸福にも不幸にもならないでしょう。 (-106) 2022/03/11(Fri) 23:56:35 |
【秘】 不運 フカワ → の名残 カミクズ「はい、わかってて、言いました」 似つかわしくない笑みを浮かべて建物へと入っていく。 影は一つで、足音も一つ。 少し高級なイメージをしたエレベーターのボタンを押して、 外の景色を眺めながら上がっていく。 「がっかり、か。そっか。 同じ気持ちになってくれた、変な気分だな。 俺は、同じ気持ちになってくれる人……欲しく、なかったし」 「でも今は、……あの時の、閉じ込めたくなった気持ち。 少しでもわかってくれたのかなって、感じて。] 嬉しく、なってる」 「幻滅されてもいい、って思ってる。 こんな口説き文句ありますか……? 覚めない夢をみようだなんて」 (-109) 2022/03/12(Sat) 1:39:47 |
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