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【赤】 従業員 ルミ……あ、お兄さん、吐きそう? 気分悪いかな。大丈夫……じゃないよね。 大丈夫、殺したりしないから。 …………そんなことしないよ。 [ 流石の自分にも、殺人には躊躇いがある。 夜の街では当たり前のように殺傷沙汰が起きているが、 刃を他人に向けるほど壊れてはいないつもりだ。 ──薬を飲ませるのはどうなんだと言われてしまえば、 言い返す余地もないけれども。 時計の針は逆向きに回らない。 砂時計の落ちた砂は元には戻らない。 犯した罪も愚行も、消えやしないのに。 ] (*23) 2024/05/08(Wed) 0:00:24 |
【赤】 従業員 ルミ[ 一般的な話に興味はない。 そんな物差しで関係性の普遍を決められたくないから。 世間がなんだというのだろう。 だから仕方ないことだとでも解かれるのだろうか。 くだらない、くだらない、くだらない。 歳を重ねたから? 話も遊び方も合わなくなったから? それじゃあ××はどうすれば良かったの。 片方の都合で、もう片方をないがしろにするのが、 ────それが一般的な世界なのか。 まるで女の両親さながらではないか。 ] (*24) 2024/05/08(Wed) 0:01:00 |
【赤】 従業員 ルミ[ これは確かに、紛うことのない、恋だ。 楽しくて声を上げて笑ったのも。 美味しいものを分け合う幸せを知ったのも。 彼と同じ名前の生き物を覚えたのも。 明日が来るのが、初めて待ち遠しいと感じたのも。 あの日々が恋じゃなかったというのなら、 わたしは二度と本当の恋なんて知らなくていい。 ] (*25) 2024/05/08(Wed) 0:01:12 |
【赤】 従業員 ルミ[ 言葉を交わす暇さえあったなら、 今何かが違ってくれていたのだろうか。 早々に話を切り上げてバイバイなんて、もう御免だ。 それならなにもかも封じてしまって ────加害者と被害者になるしかないのに。 ] もう! ひどい! ストーカー……むぅ、言われてみればそうかもね。 だって、お兄さんのこと、なんでも知りたいから ────大好きだから。 [ とはいえこれが犯罪だとは自分でも分かっている。 これは線引きだ。 わたしは加害者。 貴方はストーカーに好かれた可哀想な被害者で、 ────……。 ] (*26) 2024/05/08(Wed) 0:02:39 |
【赤】 従業員 ルミ[ 呟いて、目を閉じたお兄さんの顔を見つめる。 無理に開けさせることなんてしなかった。 それでいいと言ったのは自分なのに、 どうしようもなく胸が痛くて、唇を噛む。 でもここまで来れば戻れない。 優しい、牙のない肉食獣が、哀れな檻の中。 ] ────……嫌だよね。 だってこういうことは、好きな人とするんでしょう? お兄さんは、わたしのこと、嫌いだもんね? [ 呟いて、彼の芯へ布越しに触れる。 果たしてこんな状況下で反応するかも怪しいけれど 丁寧に、痛みなど与えないように、 やわく握って手で擦った。 ] (*28) 2024/05/08(Wed) 0:02:55 |
【赤】 従業員 ルミお兄さん、相変わらず優しいね。 無防備で。 悪い人の存在を人に説くのに、自分は無警戒で。 ────昔からずっと、優しいもんね、お兄さんは。 ごめんね。逆手に取るようなことしちゃって。 ……いくら謝っても無駄か。 うん、……頭のおかしいストーカーだと思っててよ。 [ 昔を懐かしむたびに、愛しさで手先が鈍るから。 わたしは布越しにカリ、と先端を甘く引っ掻いた。 そのままするりと下着を下げる。 悠長にしている時間もあまりない。 人体を害さないように、微量しか使えていないのだ。 じきに口の縺れが収まることから始まって、 四肢も動くようになってしまうはず。 そうなる前に、この執愛の蜘蛛の糸で彼を搦めて ──目的を成さねばならないから。** ] (*29) 2024/05/08(Wed) 0:03:04 |
【赤】 従業員 ルミ[ 恋にもっと理由は必要なのだろうか。 ただあの時わたしに優しくしてくれたから、 だから彼を好きになったでは足りないのか。 インプリンティングと言われればその通りで、 けれど女は確かに己の意思で恋をしている。 毒林檎からキスで目を覚ましてくれたから? 或いはガラスの靴を届けてくれたから? お姫様たちの恋だって、 始まりは皆思ったよりも大仰では無いのに ] (*36) 2024/05/08(Wed) 8:54:55 |
【赤】 従業員 ルミ[ 相手を傷付けないのが愛ならば 自分にはやっぱり人を愛する資格が無いのだ。 彼は今度は許してと甘えなかった。 過去すら容易く掘り起こすあの惨さはなく、 代わりに別の痛みが横たわっている。 ] (*37) 2024/05/08(Wed) 8:55:11 |
【赤】 従業員 ルミ………綺麗な思い出として忘れられるくらいなら 私みたいに、痛いってこと、覚えててよ ふふ、名前ばっかり呼んでどうしたの? ルミだよ。 …………嬉しいな 久しぶりに名前、いっぱい呼んでくれた。 [ 働き始めてからは源氏名でしか呼ばれず、 ルミという名前で呼ぶ存在もいなかった。 ひつじが良かった、と憧れた少女はそこにおらず いるのはボタンを掛け違えた亡霊だけ。 ──ああ、こんなことなら 正しく愛する方法を知っておけばよかった。 傷付け方なら、いくらだって分かるのに。 ] (*38) 2024/05/08(Wed) 8:55:26 |
【赤】 従業員 ルミ…………………雷恩お兄さん [ ライ、は他の人も呼んでいるから嫌だった。 けれど雷恩と呼ばれるのを厭われてしまえば 我儘だけで通せる呼び名でも無かった。 別れた理由なんてどんなものでも知っている ──そうなるように仕向けたんだから。 呼び方なんて小さいことに拘るのが不満だと そう言っていたのは何番目の女だったか。 わたしはただ、呼び出した場所で ブランドバッグを差し出してお願いしただけ。 ] (*39) 2024/05/08(Wed) 8:55:39 |
【赤】 従業員 ルミ[ 噛み締めるように名前を呟いた。 会話で意識を向けさせるためでも何でもない。 ただ、自分が呼びたいから、そう呼んだ。 再会した時は、幼い頃と違って 名前呼び自体を面と向かっては厭われず 表面上は許されたようにも聞こえたけれど ──自分ですらそれが本当に許されるなら 今までの、彼に近しい人たちは、? ] (*41) 2024/05/08(Wed) 8:56:06 |
【赤】 従業員 ルミ[ 私にとっての“らいおん”の響きは彼だけ。 そこに肉食獣の影なんてひとつもない。 彼だけ見つめて、彼だけを望んで、 なにもかも煮詰めた砂糖色の声。 まるでわたしはおとぎ話の魔女みたいだ。 甘く美味しく作り上げた死への道。 無警戒な存在に毒林檎を齧らせて、 最後には裁かれてしまう悪いひと。 ] (*42) 2024/05/08(Wed) 8:56:20 |
【赤】 従業員 ルミ[ 望まれない命は不幸だ。 今ですら正しく彼を愛せない自分ひとりで何が出来る。 命で縛り付ける気なんてない。 わたしの罪はわたしだけのもの。 ──アフターピル、って便利でしょう? ベッド横のデスクに幾つか予備を置いてある。 わたしは少しづつ兆し始めた熱に触れて、 嬉しさを隠しもせず顔を綻ばせた。 ] 好き、──大好きだよ、お兄さん [ 愛を囁かれても萎えちゃうだけかもね。 どうせ今夜限りの魔法の夜なら 喉すら焼けるような蜜も許してよ。 りんご飴、わたしとなら食べ切れるでしょう? ] (*43) 2024/05/08(Wed) 8:56:34 |
【赤】 従業員 ルミこれでもう、わたしを忘れないよね これでもう、綺麗な思い出として消えないよね ────なにかある度に痛む傷になって 忘れたくても忘れられないくらい、 痛くて熱い存在になれるよね? [ 本当にわたしが羊だったら、 本当に貴方が獅子だったら。 食べて貰って貴方の血肉になって そしたら、好きな人の一部として生きていけて ──なんてろくでもないたられば話。 ] (*44) 2024/05/08(Wed) 8:56:47 |
【赤】 従業員 ルミ[ 彼の熱芯をやさしく、柔く包み込む。 これは愛を交わす行為ではなくて、 わたしの一方通行で、彼を苦しめるだけ。 過度な愛撫も快楽も必要無い。 あくまで生理的反応で仕方なかった、って 彼が言い切れるように────なんて 加害者がせめてと与えるものなんか、 害を与えた時点で無意味か。 ] ……お兄さん、目、閉じててね [ 挿れる、だけなら不都合ないようになるまで 熱を甘く柔く触れて、擦って、刺激を与えれば わたしは彼の反応も見ずに己の下着をそっとズラした ] (*45) 2024/05/08(Wed) 8:57:02 |
【赤】 従業員 ルミ────ッ、 [ ろくに慣らしてもいない中へ熱を入れれば さすがに痛みが訪い、すこし眉を顰めた。 それでも人体とは不思議なもので 防衛本能で分泌される愛液が刺激を緩和し、 膣肉も広がって、熱を難なく飲み込んでいく。 ───これがわたしの、望んだ形。 欲しくて欲しくて仕方なかった熱も やっと手に入れた彼の傷も。 ] (*46) 2024/05/08(Wed) 8:57:28 |
【赤】 従業員 ルミ[ 叶っていくのに。叶っているのに。 どうしてこんなに虚しいばかりなのだろう。 ────どうして。 わたしは、 ] ………………っふ、あは、は お兄さん、……だいすき ……あいしてるんだよ、本当に…… [ 目から流れたものはただの汗で、 きっと目を閉じていれば彼は気付かない。 誤魔化すように笑って、身体を動かした。 中に彼の熱を吐き出させるためだけに、 それだけを目的にした虚しい動きで。** ] (*47) 2024/05/08(Wed) 8:57:47 |
【赤】 従業員 ルミ[ 恋は万有引力なのだと誰かが言っていた。 ツバキの花が落ちるように音もなく、 りんごの実で堕ちたように先もない。 原初の罪というものがある。 禁断の果実を齧って神に背いた二人の話。 彼らには口にせず共に在り続ける未来があったのに 罪を犯してでも手にしたい何かがあった。 それならば、この恋は。 わたしと貴方、原初の罪の ──その対価は。 ] (*55) 2024/05/08(Wed) 20:01:58 |
【赤】 従業員 ルミ[ 初めて食べたアイスの甘さも。 焼き芋の舌を焦がすような熱も。 名前を呼ばれることの嬉しさも。 誰かに花をあげることの情動も。 貴方と同じ名前の生き物がいることも。 痛みも苦しみも愛しさもなにもかも。 貴方が与えて、貴方は消えた。 ────忘れようとするたびに、あなたを思い出す。 ] …………なぁに? これでもまだ名前で呼んでくれるんだ。 そうすれば逃げられるとでも思ってる? [ 力も抜けて上手く喋れない状況なら、 いっそわたしに絆された振りをして 隙を突いて逃げる方が現実的かもしれないものね? ] (*56) 2024/05/08(Wed) 20:02:33 |
【赤】 従業員 ルミ[ 今更男と女として知り合うなんて出来やしない。 もう一度最初からの幻想は夢のまま。 出会い方が選べないなら、 手離し方は選べるのが人間だよね? ────今度はわたしがそうする番。 一緒に同じ傷を負って。 何を見ても、なにに触れても、どんな日常でも わたしを思い出して、──死ぬまで傷の中で会おうよ。 制止の言葉は聞いてあげない。 かさぶたを剥がして傷口を抉って貴方を手にする。 夢すら果てる程に焦がれたこの結末が、 ──きっと何よりも喜べるはず、だった のに、 ] (*57) 2024/05/08(Wed) 20:02:38 |
【赤】 従業員 ルミ…………? ……あぁ お兄さん、薬切れ始めちゃった……? [ 先程よりも明確な音になった言葉を耳に入れ、 わたしは問いに答えず小さく呟いた。 視界の端で彼の手がすこしずつ動いている。 身体でも押すか、力に任せて暴れるか。 薬剤の追加投与なんて危うい真似は出来っこない。 ならばと抑えつけるために、彼の肩へ そっと手を伸ばそうとして── ] (*58) 2024/05/08(Wed) 20:03:08 |
【赤】 従業員 ルミ[ 真意が読めなくて、わたしは目を細めて動きを止めた。 滲んだ視界を晴らすように眦を拭ってから、 途切れ途切れに紡がれる言葉へ耳を傾ける。 ] 嘘つき。 そうやって、またわたしから逃げるくせに。 ストーカーにそんなこと言ってまで逃げたいの? ──殺さないって最初から言ってるじゃない。 ああもう、どいつもこいつも、そうやって……!! [ 唇を噛み締めて、自分の腕に爪を立てた。 傷付いてくれと願った以上大差はないだろうけれど、 物理的に傷を負わせたいなんて思ってはいない。 行き場のない激情を彷徨わせながら、 わたしはもう一度、彼の顔を じ、と見下ろして。 ] (*59) 2024/05/08(Wed) 20:03:42 |
【赤】 従業員 ルミ………………………。 …………逃げたら死んでやるから。 [ 目論見通りにはいかないと続けることは出来ただろう。 けれど同時に、彼の幻影を、貴方へ見ていた。 撫でられたかったわけじゃない。 そんな夢はもう小人たちの家に置いてきた。 ただ、もしかすれば、と微かな蜘蛛の糸を手繰ったの。 わたしから逃げないお兄さん。 わたしを、忘れないでいてくれる、お兄さん。 ] (*60) 2024/05/08(Wed) 20:03:52 |
【赤】 従業員 ルミ[ 熱を引き抜き、けれど警戒するように跨ったままで わたしは動向を見守った。 撫でられたかったわけじゃない。 だって、この恋が実らないのと同じで 撫でて貰えるわけがないって理解してるから。 撫でて欲しいなんて望めない。 * ]それだけのことをしてるって、分かってるから。 (*61) 2024/05/08(Wed) 20:07:27 |
【赤】 従業員 ルミ[ あの時間を忘れて、過去の貴方を記憶に埋めて。 きっとそうするのが一番良い道だったかもしれない。 わたしは貴方を傷付けないし、 貴方も忘れた過去を思い出すこともない。 諦めるのは生きていくだけならとても楽で、 ]けれど選べたのは無様でも縋りつくいばらの道。 思い出すたびに惨めで痛くて腕を切った。 血を流すたびに生きている実感があって でも、そこにはいつも、貴方はいない。 (*68) 2024/05/08(Wed) 22:48:31 |
【赤】 従業員 ルミ[ 彼の声は震えながらも、言葉の輪郭を形作る。 持ち上げられた手を見やり、動向を注視しながら うそではないと紡ぐ声へ目を細めた。 ] そう思わせて逃げる算段かもしれないじゃない。 [ 理性では彼の言うことが正しいと分かっている。 感情が、一度消えた相手のことを信用できないだけだ。 ちがう。 信用できないという言葉すらも正しくはない。 これ以上、期待して傷付きたくないと 自己防衛に徹しているだけ。 ] (*70) 2024/05/08(Wed) 22:48:41 |
【赤】 従業員 ルミ……諦めさせたのはお兄さんなのに、 なんでそんなこと言うの? わたしから離れて、勝手に消えて、逃げて 新しく女まで作って幸せそうで── 忘れてしまえるような昔の子どもひとりが、 …………ッお兄さんには他にたくさんの人がいても わたしには、わたしにはずっと、 昔のお兄さんしかいないのに!! [ どうして勝手に大人になったの。 どうしてわたしの知らない顔を他の女に見せてるの。 今からの貴方を諦めなかったとして、 貴方はわたしのモノになってくれるの? ] (*71) 2024/05/08(Wed) 22:48:47 |
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