【人】 T『魔術師』 シン[ 洋館の職員同士の間に生まれた子どもは、 生まれてすぐに証持ちだと判明した。 だからぼくは、生まれてからずっと、 この洋館で暮らしている。 外の世界のことはよく知らない。 だけどここは、何不自由ない箱庭だ。 必要な衣食住は提供され、 欲しいものは望めば大体手に入る、 周りの大人たちは、証持ちを担当する政府職員だから、 証持ちに対して理解ある人も多い。 ぼくを嫌う人もあまりいない。 いや、そういう人も中にはいただろうけどね。 そうやって平穏に、ぼくは育った。 ――"証持ち"というのがどんな意味を持つのかも、 知らないまま。] (87) 2022/12/11(Sun) 13:10:28 |
【人】 T『魔術師』 シン[ 子どもの頃は、今の子たちの先代の証持ちが、 何人か居たかもしれないけれど、 気が付いたらここに居る証持ちは、 ぼくとヴェルト兄さんだけになっていた。 そのヴェル兄さんも、今は、もう。 遊びに来る証持ちの子はいたけど、 洋館に住み始めたのは、タナトスが最初だったかな。 それからだんだんと、 洋館には証持ちの子たちが集まってきた。 仲間が、家族が増えるのは、とても嬉しかった。 だけど外の世界から来た子たちは―― 大抵皆、傷付いているらしかった。 "証持ち"はひどい扱いを受けるのが、 この世界では普通であるのだと、知ってしまった。] (89) 2022/12/11(Sun) 13:12:14 |
【人】 T『魔術師』 シン[ 外の世界で一般的に信じられている宗教。 その中の証持ちは不吉とされている。 そうだ、ヴェル兄さんだって、 生まれてすぐに親に捨てられてるんだ。 知識としては知っていたけれど、 次々と現実を目の当たりにして、ぼくは、 ……ぼくは。 父さんも母さんも居て、 ]悪意や恐怖に晒されずに育ったぼくは、 とても幸せ、なんだろうな。 (90) 2022/12/11(Sun) 13:13:01 |
【人】 T『魔術師』 シン[ こんにちは! ぼくはシン! "シン"っていうのは、東の海の方では 『真実』とか『心』とか 『信じる』とか『新しい』って意味があるんだって! すてきな名前だよね! だからね、ぼくは『新』しいことをどんどん提案するよ! イベントとかも計画しちゃうよ! 皆に楽しく過ごしてほしいからね! 箱庭の『魔術師』も色々考えて、 新しいものを生み出してたんだって! ぼくもそんな風になれたらいいな! だからぼくは、いつも色々、考えてるんだ。] (92) 2022/12/11(Sun) 13:14:53 |
【人】 T『魔術師』 シン[ ぼくがこの洋館に生まれて来たのは、 きっとみんなを迎えるためだったんだ。 ぼくはずっと、ここでみんなを待っていたんだね。 ぼくはみんなと会うために、生まれてきたんだよ。 ] (94) 2022/12/11(Sun) 13:15:57 |
【人】 T『魔術師』 シン[ 頼もしかった、大好きなヴェル兄さん。 その役目、ヴェル兄さんはぼくに任せてくれたのかな。 ……そう思うことにしてるよ。*] (96) 2022/12/11(Sun) 13:17:13 |
【人】 T『魔術師』 シンアリスの誕生日はさ! どーん!とやりたいよねー 風船たくさん飛ばしたりしたら、アリス、喜ぶかなー? [ 洋館暮らしで、誕生日を祝おー!ってするのは 誰の誕生日でもそうなんだけど、 だって半年前に来たあの子は、 誕生日パーティーっていうのも知らないんでしょ? だから盛大にやりたいよね! って、提案したのもぼくだったかもしれない。 職員さんに言ったらたくさん風船飛ばせないかな? それともフォル兄さんに言った方が確実かな? 実現出来るかは分からない。 ぼくが口にすることは、アイデア倒れのことも多い。 だけど、口にしなきゃ 出来るかどうかも考えられないからね! だからまずは、言ってみるよ! みんなも色々と好きにやりたいことを持ち込んで、 パーティーのプログラムはどんどん膨らんでいたかな? 浮足立つ洋館、ちょっぴりの非日常。 きっとぼくも色々と、走り回ってる。** ] (97) 2022/12/11(Sun) 13:18:20 |
XIV『節制』 シトラは、メモを貼った。 (a16) 2022/12/11(Sun) 13:28:46 |
【人】 Y『恋人』 クリスタベル[ 昔々なんて遡る程のことのない昔。 とある屋敷で女の赤子が生まれました。 両親は誕生の瞬間も嬉しさ半分悲しさ半分。 だって一緒に生を寿ぐべきもう一人は、 産声上げることなくお腹の中で消えてしまったから。 けれど、そんな半分ずつすら消し飛ばす事実に気付きます。 胸の中央の痣。 魂にまで刻まれた箱庭の住人の烙印。 赤子の親は地位も権力もあり、 その地位ゆえに周囲には赤子の痣を隠さねばならず、 深窓にひそり咲く花として生きねばならなくなりました。 ] (98) 2022/12/11(Sun) 13:31:07 |
【人】 Y『恋人』 クリスタベル[ それからクリスタベル、 ────クリスとベル、そう名付けられる筈の双子でした。 ベルは生まれることのなかった片割れの分も生きて欲しいと 祈るように二つの名を背負わされ、秘されつつも大事に大事 に育てられます。 ベル、と愛称としてその名を呼ばれ、花の様に笑う愛らしい 少女に育ち、証持ちで将来を望めなくともせめて幸せであれ と、優しい願いを込めて育てられるのです。 いいえ、 ………いいえ。 その筈でした。 ] (99) 2022/12/11(Sun) 13:31:30 |
【人】 Y『恋人』 クリスタベル[ ベルはとりわけよく泣く赤子でした。 どれだけ抱いてもあやしても、泣き疲れて眠るまで、 火がついたように泣くのでした。 気難しい子、あるい片割れを求めて泣いているのかと、 生まれる前に別れを経験した赤子を不憫に思いながら、 母は「私がクリスをちゃんと産めていれば」と己を責め、 父は「男が、兄が生まれていれば」と我が不運を嘆きます。 愚かにもそれが己に降りかかる呪いになるとも知らず。 ] (100) 2022/12/11(Sun) 13:31:49 |
【人】 Y『恋人』 クリスタベル[ 1歳になる頃、ベル大きさのぬいぐるみを クリスと、 知らぬ筈の名で辿々しく呼ぶようになりました。 稚く手を伸ばし片時も離れまいとするベルの姿に、 いじらしさよりも先に恐怖が芽生えるのです。 ────死んだ赤子も『恋人』だったのか? 確かめようのない もしも は人の心を巣喰います。 証持ちを死なせた罪、痣持ちの片割れを奪った罪。 悪魔の証明によって法で裁かれることなき罪、 その断罪者は愛するべきだった娘になるかも知れず。 それでもベルに合わせて、ぬいぐるみを 「クリス」然と扱うのは罪悪感でしょうか。 ……それともただ逃避だったでしょうか。 ] (101) 2022/12/11(Sun) 13:33:05 |
【人】 Y『恋人』 クリスタベル[ 欺瞞は刹那。決して長くは続かないのです。 ベルは2歳頃からはぬいぐるみの「クリス」すら拒絶し、 年頃の自己主張では説明の付かない尋常ならざる狂乱に、 嵐が過ぎ去るのを待つように祈ることしか出来ません。 証持ちと知られずとも、名家の令嬢の奇行として、 漣のように噂が広がったのもちょうどこの頃でした。 ] (102) 2022/12/11(Sun) 13:33:23 |
【人】 Y『恋人』 クリスタベル[ クリス おにいちゃん ここ なんでいないの? 貴女がクリスと呼び、貴方が兄と呼んだ人が、 私が探しているその人なんでしょう? パパやママなどよりも早く ようやく伝えられたベルの 疑問に全てが付合し、それらは絶望を形作りました。 片割れを求めるのは真に半身であったから。 やはり死んだあの子も『恋人』だったのだ。 ……この子は今狂うかいずれ狂うかするだろうか。 ああ、それなのに後を追わせてやることすら出来ない。 証持ちを殺すことは許されていないのだから。 ] (103) 2022/12/11(Sun) 13:34:00 |
【人】 Y『恋人』 クリスタベル[ 答えを求める僅か3歳の子供に、真実と信じるものを全て 伝えるのでした。繰り返し繰り返し、ベルが理解するまで。 それはベルにとって長い長い迷路の入口でした。 ] (104) 2022/12/11(Sun) 13:34:19 |
【人】 Y『恋人』 クリスタベル[ 夢を抱き始めさえする年の頃で、 生まれる前から完璧ではないという事実を突きつけられる のは絶望の始まりでしかなくて。 不完全なまま生きることを強いられて。せめて生きる意味 さえあればと探しても見つからなくて。段々と死ぬことで しか救われないんじゃないかと思うけれど、それは生きたく ても生きられなかった半身に対する冒涜であったし、だからと いって安穏と生きるのはそれはそれで責められる気がする。誰に? わからない。考える。わからない でもそれじゃ駄目で大事なのに必要なのに愛してるのにどうしてここにいないのいてくれないの完璧じゃなきゃいけない完璧ってかんぺきは識ってるそういう風に作られたそうやって生きたことがあるって本で読んだ同じがいいっておなじが完璧だってそうなんだね分かれてたらいつか別れてしまうから生きるのも死ぬのも一緒にしたくてじゃあひとつがいいねってだからそうじゃなきゃいけないから置いてかれてなんてない独りぼっちにもしてなくてだから ああ、 全部嘘だったんだ この苦しみも“私”も嘘だったんだ ] (105) 2022/12/11(Sun) 13:34:46 |
【人】 Y『恋人』 クリスタベル────そうだね、やっとわかったよ。 ごめんね、 ずっとここにいたんだね? [ そう、ここにいたんだよ。 なんて返事も必要ないのでした。 だって応えるべきも自分──いいえ、わたしたちなのだから。 確かめようのない もしも は人の心を救います。 片割れの胸に同じ証があったかなんてどうでもよくて、 誰が生き方を認めてくれなくてもそれで構わなかったのです。 わたしたち が信じることこそ真実なのですから。 ] (106) 2022/12/11(Sun) 13:35:19 |
【人】 Y『恋人』 クリスタベル[ それから両親へ、 愛称のベルではなく本名であるクリスタベルと。 わたしたち の名で呼んで欲しいと、 それまでが嘘の様に穏やかに告げるのでした。 長い髪やリボンやドレスをやんわりと拒み、 シャツにベストとスラックスといった衣装を好んで 着るようになりました。 話す言葉も所作も少年のようで、事実を知らなければ まるでクリスではなくベルが死んだのではと思うほどに。 ですがそうではないのです。 クリスもベルもここにいて、本当は二人でひとつの双子 の兄妹だったのだと言うのです。 妄言でも虚勢でもなく、真実と信じて語るのです。 それでも漸く、ようやく訪れた安寧を享受すれば、 父母は奇異でしかないそれを受け入れるしかないのでした。 クリスタベルが5歳の出来事でした。 **] (107) 2022/12/11(Sun) 13:35:57 |
Y『恋人』 クリスタベルは、メモを貼った。 (a17) 2022/12/11(Sun) 13:46:40 |
T『魔術師』 シンは、メモを貼った。 (a18) 2022/12/11(Sun) 14:02:18 |
【人】 X『教皇』 カルクドラ[ カルクドラ・ヨッド・クリフ。 『教皇』の証持ちは聖職者の一族に宿ることが多く 南地域スティド教会司教の息子であった少年もまた 例に漏れない家系出身だった。 幼い頃から立派な聖職者になるべく邁進し、 齢十の頃から三年間、宗教総本山の在る西地域への 留学を経て立派に成長し、聖職者への輝かしい道を 丁重に敷き詰め、関係者やは皆、少年の成長を 心待ちにしていた。 少年本人と、両親以外は。 二十三年前、南地域にて生を享けた 赤子の心臓付近の胸元には、見落とす位に小さい 薄い斑点のような痣が存在していた。 両親は、初めて痣を発見した際に 不吉な感覚を覚えるも、必死に払い除けようとする。 気のせいであって欲しい、間違いであって欲しい、と。 しかし、幼子の成長と共に痣の面積は増え鮮明に色付き 五つになる頃には、両親は我が子が “証持ち”であることを確信する。] (108) 2022/12/11(Sun) 14:15:27 |
【人】 X『教皇』 カルクドラ[ 痣は咎の証であり、世間から迫害されることも少なく無い。 生家である教会には過去、証持ちが生まれた際の 先祖の日記が現存していたが、記録によれば 或る時代には 捨てられ 、消息は不明のまままた或る時代には、 不自然な病死 を遂げていた。 苦渋の決断の末、過去の事例と同様 両親は少年を手放そうと決心した。 ──────その時。] ぼく、すてられちゃうの? なにか、わるいこと、した? ……ごめん、なさい。 [ 気難しい表情の両親の元に、涙を浮かべた少年が訪れた。 晩婚の末漸く授かった、跡継ぎにして最愛の一人息子が。 両親は少年を抱き締め、子供のように大粒の涙を流し この時から少年と共に、苦難の道を歩むことを決意した。] (109) 2022/12/11(Sun) 14:16:10 |
【人】 X『教皇』 カルクドラ[ 心臓部付近に刻まれた証は、歳月と共に成長し 齢十の頃には、黄金色の波紋型の痣は 一目で判別可能なまでに成長していた。 同時に、少年が絶望に打ちひしがれ、 荒れ始めた頃でもある。 この頃には、少年自身も既に痣の色、柄、出自、 教育により、自らの運命を悟っていた。*] (110) 2022/12/11(Sun) 14:17:29 |
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