【人】 魔王軍幹部 フォルクスクビの宣告でしたら、もう少し分かりやすく伝えて下さい。 ただでさえ手の足りない我らに、そのような余裕があればの話ですが。 [ 問われた月日の数にも、慣れきったからかいの色にも 間を開けずに、変わらない声色で答える。 静かな濃桃が眺めていたのは、覗いた一対の牙。 この方が幼い頃は腕に巻き付き、戯れのように噛まれたものだが。 今や美貌を少しも損なわせることなく、その一部分と化している。 400年、それは終戦だけを意味する数字ではない。 先代王が崩御してからの年月、今代の魔王の齢。 時折幼子の心を見せ、我々を親しみを持って言葉で弄ぶことこそが 生まれてから今迄、民のような穏やかな日々など与えられていない 多くを背負った王にとっての楽しみと知っていても。 成長を見守った記憶を思えば思う程に、 人類の集う式典に一人向かわせるくらいならば 死んだほうがマシであるとすら感じる。休暇など不要だ。 ……そういう性質だから「仕事人間」だと王は言いたいのだろう。 ] (33) 2020/10/18(Sun) 2:38:27 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス[ しかし、過剰な保護ではない筈だ。 やっと人型になり戴冠式を迎えて以降、未だ戦火の名残のある頃。 情勢が落ち着くまで何度王の命を狙う輩が現れたことか。 一部では何処から流れたのか肖像画の複製が取引され、 麗しの魔が君だなどと謳われているそうだが、 それは恋に恋して美男子に焦がれる娘達の話だ。 全ての人類が彼女らのように歴史や種族の差を気にせず、 現在と自身が目にするものだけを心に留めてくれたのなら──── 汚れた手の裏切り者が何の努力もせず願っていいことでは無い。 ] (34) 2020/10/18(Sun) 2:38:55 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス俺が人間だった頃のハロウィーンは、 楽しい祭りと呼べるものではありませんでした。 [ ハロウィーンは人類に古くから伝わる風習だ。 秋の実りの時期に農村を襲う魔物らから、力無い民が逃れる為に 獣の皮を被り臭いを誤魔化して過ごしたことが始まりとされる。 それが代を重ね勇者の力が強まり、豊かで魔の脅威から遠い村では 収穫祭の間子供が攫われないよう魔物の格好をさせるようになって、 今ではその姿で菓子を貰いに家々を回らせたり 都で大規模な祝祭と化していたりもするのだが。 何しろ、奇しくもこの日が終戦記念日となったのだから。] いえ、聖都に近い土地では既に収穫祭は行われていたらしいです。 生まれ育ったのは辺境の寒村でしたから…… [ この風習は各国に名を変えて、殆ど変わらない内容で存在する。 他にも多くの文化、祭りや宗教的思想などが 遠く離れ、肌の色も土地の気候も違う人々の間で共有されていた。 世界の中心に存在し、いずれの国にも属さない女神の教会。 彼らが実質的に人類を統べていたことも理由の一つだろう。 ] (35) 2020/10/18(Sun) 2:39:25 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクスでも、よく覚えておりますよ。 あれは、16の頃のハロウィーンだった。 街の教会の使徒が、俺の村にやって来まして。 皆の家を訪問した後、最後に孤児院に。 [ 各国各地に小さな教会が点在し、 使徒と呼ばれる聖職者が不定期に周辺の村々に足を運ぶ。 民の話を聞き、祈りを捧げ、魔物除けを施す。 常は怒りっぽく孤児に当たる老人も、 村を捨てることばかり口にする若い大人達も、皆涙して喜んでいた。 あの頃の教会への信仰は、どれだけ貧しい者にとっても最優先な程。 勇者だけではなく、人間に扱える魔法を創り上げたのも教会。 それが世界の常識とされていた世では、彼らは神にも等しかった。 ] (36) 2020/10/18(Sun) 2:39:43 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクスその翌日に……発現していました。 [ 右手甲に残り消えることのない痣が、強く熱を帯びた。 痛いほどの感覚はこの瞬間、我に返る作用を齎すこととなる。 「すみません、要らない話でしたね。」そう付け加え目を逸らす。 話を切り替えようと仕事に戻るように促した。 今や人なのか魔なのかも分からない身は、 あの頃思っていたよりもずっと長く生き続けて、終わりが見えない。 変わらない姿のまま、中身だけが老いてしまったのだろうか。 今だけは有難い、いつからか忌々しき跡に起こるようになった現象は ここ最近、目に見えて間隔が短くなっている。** ] (37) 2020/10/18(Sun) 2:40:01 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス[ 争いを知らない身、汚れなき両手。 平和を謳う唇と、かつての敵に歩み寄る様を民に示す足。 正統な魔王────真祖竜の血統と強大な力。 終戦後、「最後の勇者」により人口の半分以上を失っていた我々が 人類に根絶やし、或いは奴隷化されない為それらが必要だった。 陛下は魔族のみならず、新しい時代の象徴的存在。 例え噛み合わない時の流れに生きる両者であったとしても 好かれることは決して悪くはない、が。 ] (130) 2020/10/19(Mon) 21:01:30 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス皇帝から陛下に手紙? [ 退室し、呼び止められるまでにはあまり時間は掛からなかった。 部下に差し出されたその一通の封蝋は、見覚えのある印章を象る。 帝国の要望で決まった対談は、先日訪問することで為された。 周辺の強力な魔物の増加理由の研究と対策協力及び人員の派遣。 対して魔王領への食糧輸出の強化がこちらへの対価だ。 ここ数百年変わらず、最大の領地を誇る軍事大国。 周辺諸国と続く冷戦状態が、その力を問題に充分に注げない理由。 女神の名の元、結託し魔族という敵を見据える。 3000年間、数え切れぬ墓標と引き換えに世界は一つに纏まっていた。 今や張り巡らされる国境は、文字通りの境界と化している。 人類間の戦争に魔族の介入を禁ずる条約が生まれて久しいが、 かつての共通の敵へ筆を執る王はいつの時代も多い。 ] (132) 2020/10/19(Mon) 21:01:57 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス随分とお早い連絡だ。使者は?はあ、謁見も無くこれだけをお前に。 …………ああ、いつものパターンか。 [ 怪訝に顰めた眉をそのままに、ため息をつく。 対談から間もないこと、手紙だけを残して使者が早々に帰ったこと。 現在の不可解は、未だ新しい記憶で解消された。 文に記せば簡潔な対価は、極寒に住まう魔族にとって何よりのもの。 高潔な血に相応しい尊大な態度を崩さない中に、 確かにあったしきりにこちらの情勢を気遣う様子。 城内を案内する姫が陛下を見る微笑の温度。 細々とした小さな問題を除くのなら、 禁じられているのは、戦争への介入のみ。 人魔双方、相手国の問題への協力は長年試行錯誤と共に重ね だからこそ少しづつ、新たな関係を築いてくることが出来た。 ] (133) 2020/10/19(Mon) 21:02:53 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス分からないのか?陛下と姫の縁談だ、縁談。 全く……帝国からは以前もお断りした筈だが。 あれは四代くらい前だったかな。 [ 生まれも定めも飛び越えて、異種族で情を交わす恋人達は かつての時代から、禁忌ながら密やかに存在してはいたらしい。 差別の声は無くならないながら、近代では婚姻も許されている。 故に、あの方に話が来てしまうのも仕方なかった。 何も戦場に立ってくれずとも、異能の兵隊が手に入らなくても。 条約のグレーゾーンを掻い潜れたのならば、 魔族との密接な関係は他国への牽制と文明の進歩に繋がるだろう。 そうした思惑で姫を差し出す国も現れた。 当人も満更ではないのなら、親としての罪悪感も生まれないわけだ。 未だ成体ではないことを理由に断り続けていたが、 今や陛下もすっかり青年と呼ぶべきお姿になられ、 公務で各国を飛び回る機会も年々増えている。 しかし、我々の考えは変わることはない。 ] (135) 2020/10/19(Mon) 21:03:21 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス今回は、面倒なことになるかもしれないな。 これだから女は苦手なんだ。 [ 手放したくない食糧輸入の未来、人類の大国との友好関係。 姫に想いがある以上無碍に扱えば、面子を潰したことにもなる。 刃を振るう機会の減少と共に増えたため息を、もう一度。 手紙を受け取り────その下のメモ書きを懐にしまい込んで。 脳裏に過ぎる彼女の姿は、たった一度会っただけだというのに。 あれから五百年以上経過した今でも、明確な輪郭と色彩を保つ。 **] (139) 2020/10/19(Mon) 21:06:35 |
【人】 「 」 フォルクス「そう、フォルクスというの。素敵な名前ね。 あら、どうしてそんなことを言うのですか?」 「その名前は民衆という意味。 これは亡くなられたご両親が遺してくれた 人々との繋がりだと私は思いますよ。」 [ 木のテーブルは粗末で小さくて、 対面する人の白い掌が容易に俺の手に重ねられる。 長く艶のある金髪の使徒の微笑は、慈愛に満ちて美しい。 ] 「フォルクス、あなたもまた女神の愛し子。 自分の価値を貶めるのは良くないことです 始まりの勇者様が特別な血筋だったという逸話はありません。 しかしかの方は人々の祈りを受け、希望となったのです。」 [ 子供が産まれた年に魔物に襲われて死んでしまった両親 顔も知らない二人の心なんて、分かる筈も無かったけれど。 この人に言われると、なんだか信じてみたいって思えてしまった。 柔らかく温かな感触が、優しく右手の甲を撫でた。 ] (230) 2020/10/20(Tue) 22:07:31 |
【人】 「 」 フォルクス[ 翌朝村を発つ前、御印の発現を知った彼女も 連絡を受けて聖都から迎えに来たもう一人の使徒だって。 戦いの術に、尊き方々に謁見する時の為の教養 神託の日まで教育してくれた大教会の方々も皆。 女神に仕え聖木を仰ぐに相応しい、優しく清廉とした大人達。 そう思っていた。勇者になってからも、ずっと 信じ込む努力は、自分自身に洗脳を施す程に。 ] (231) 2020/10/20(Tue) 22:07:47 |
【人】 「 」 フォルクス使徒様、この部屋は……? これから聖木の元に向かうのでは無かったのですか? なっ、何を……やめて下さい! 俺は罪人じゃない!俺は女神様に選ばれて……! (232) 2020/10/20(Tue) 22:08:01 |
【人】 「 」 フォルクス「ちゃんと分かっている。 お前は、新しい勇者に相応しい人材だ。 大人しくしなさい────これが神託の実なのだよ。」 (233) 2020/10/20(Tue) 22:08:45 |
【人】 「 」 フォルクス[ 旧き時代の人類が、土上に造った石の大地に生きたように。 丹念に塗り込められた嘘は真実に成り代わる。 悍ましき歴史は闇の中に葬られる。 人類 無知なる狂信者達は永きに渡り、────** ] (234) 2020/10/20(Tue) 22:09:29 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新