情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
【人】 医者 ノーヴァ[神も仏も信じたことはない。 ただの一度も祈りを込めたことなどない。 ……けれど、彼等はどんな人でも受け入れられると聞いたから。 この行き場のない感情を、どう持ち歩けばいいのかを。 羽根をもがれた鳥に、自由を手にする手段を。 どうか───どうか、示してほしくて。 彼女の抱えた信仰が、清らかなものであるならば。] (55) 2022/11/16(Wed) 22:10:44 |
【人】 医者 ノーヴァ[門が開いた途端、ジェインはすぐさま別室へと連れていかれた。 重傷者への対応として適切なことはわかっている。今は唯、自分の体に伸し掛かっていた負担の大半が覗かれたことに安堵していたのだ。 無残な蹴り跡の残る腹部を見た小僧の目を言葉に表すことはできない。未だ外の奇々怪々とした様相を知らぬ相手に──例えそうでなかったとしても、「自分がやった」ということはおくびにも出さないつもりだった。 全てを見ている神の姿を、この目で見ていない限りは。 ( 果たしてどんな姿をしているんだろう? ) 疲労の残る自分は休息を許されただけの身であった。 十二分な結界が張り巡らされた難攻不落の要塞は、ほとぼりが冷めるまで息を顰めるのにはぴったりの空間だった。 ……けれど、今の自分の目的は、命が可愛いだけの一般市民の持つ其れではないから。探しているのはたったひとつだけ。] (56) 2022/11/16(Wed) 22:10:47 |
【人】 医者 ノーヴァ[経年劣化は免れなくとも、日々の清掃によって清められた寺院の中は、線香と木の香が混ざり合った空気が漂っている。 腐臭よりも断然居心地のいいそこを、床を軋ませ暫く行けば、本堂に人の気配を感じ取る。小僧の開門の手つきが手慣れていた理由は、老尼の言いつけ以外にもあったのだと悟った。] 「全く、災難だったぜ……」 「どこを見ても、臭くてかなわないったらありゃしない!」 「……おい、あの布はちゃんと持ってんのか?」 「今は必要ねぇだろ、少し位寛がさせろよ!」 「なあ、なんも落っことしてないよな?金貨の枚数は1、2、3、4……」 「然し、こんな安地があるなんてな……」 「あのクソ狼、どんなコネだってんだ!」 [障子の隙間から垣間見てみれば、泥塗れの衣服を身に纏った見覚えのない男たちが広間を陣取り、会話をしている様子があった。 違和感を覚えるのは、狂騒に浸されたこの街の雰囲気に反し、彼らが“冷静すぎている”といったところだろうか。] (57) 2022/11/16(Wed) 22:10:51 |
【人】 医者 ノーヴァ[この悲劇のきっかけともいえる───今は正気を失った人狼のこと。彼に連れ立って島内に侵入した者たちがいることを、男は知らない。 ……今は油断した彼等の口元から取り去られている呪布の正体でさえも。 その手の中にあるのは、美術館に保管されている筈の特級重要機密作品だったのではないかと思い出す。 他所から来訪した彼等では持ち出すことは愚か、閲覧することも難しくなる代物だった筈だ───微かに顔を顰めたのは一瞬の事。 暫く観察を続けていれば、彼等は束の間の休息と宝の確認を終え、信じられない行動を起こした。 本堂内にある数多の経典を漁り始めたのである。] (58) 2022/11/16(Wed) 22:10:53 |
【人】 医者 ノーヴァ[信徒にとっては何にも代えがたい宝の山であるのだろう、それを。価値がないモノだと見定めた瞬間、ゴミのように放り投げていた。 唯の偶像でしかない神はものを言わない。“言えない”。 誰にでも救いはあるのだと受け入れ、手を差し伸べる存在だから。自らが保護した者たちだから。銅や鉛で造られただけのがらくただから。 其処に横たわる数多の理由たちが、腐臭に狂わずとも物欲に溺れる盗賊たちを唯見つめている。 そのさまは、この世に蔓延る執着全てを認めでもしているように思える光景だった。] [今の状況は、起こるべくして起きた事。 その信仰を穢し、踏み入り、崩れ落してしまってもおかしくはないもの。 人はいつまでも過ちを犯し続ける生き物であると。] (59) 2022/11/16(Wed) 22:12:30 |
【人】 医者 ノーヴァ[“誰かの大切なものは、壊しちゃいけない”。 嗜められても、何がおかしいのかわからなかった。 否定され続けるだけでは、真に理解する事等できなくて。 …………いつの日か、叱る相手もいなくなったまま、大きくなってしまっている。] (60) 2022/11/16(Wed) 22:12:45 |
【人】 医者 ノーヴァ[例え雨が降ったとしても、火の手が回る木造建築。 木材と肉の灼ける臭いが、壊れた結界の穴から流れ込む腐臭と混ざり合う。悲鳴、残響、断末魔。 きっと誰もが逃げられない。 誰かに穢されるのであれば、自身の手で。己の思う“大切”のやり方を以てして。 それがせめてもの、彼女への応え方。 燃え落ちる寺院の澄み切った窓硝子には、最早何も捉えることのなくなった彼の虚ろな笑顔がいつまでも映りこんでいた。*] (63) 2022/11/16(Wed) 22:23:02 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新