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【赤】 在原 治人[なんだか、ものすごく 気持ちが急いて仕方なくなって] なら、帰り支度をしないとな [輪郭に添わされた掌に 名残りを惜しむように頬を擦り付けてから 立ち上がる。 傷を消毒できるエタノールなどを 鞄の中から取り出すと、 貴方の許可を得て 針を抜き、手当てを済ませ 衣服を身につける手伝いを積極的にした。] (*22) 2020/10/07(Wed) 19:14:23 |
【赤】 在原 治人[まだ、扉が開かないと知れば 張り詰めていた気が ぷつんと切れて 今度は俺の方が眠り込んでしまっただろう。 なにしろ、7週間もの間 浅い眠りの中で 貴方を捕まえようとして出来なくて 飛び起きてばかりだったから やっと、手に入れた存在を 離すまいと指を絡め、ぎゅっと握ったまま────…。]** (*23) 2020/10/07(Wed) 19:16:07 |
【人】 二年生 小林 友「どうしたの?!もう夜も遅いのよ?!」 [驚いた様子の母さんを押し退けるように 俺は家の外へと飛び出した。 青い蝶は一匹残らず、 大きな月へと旅立ってしまった。 泣いても、叫んでも、 ただ慣れた顔のご近所さんが 窓からひょっこり顔を出すだけ。 頬を伝う涙が口へと流れ込んで まるで、海に溺れたみたいに塩辛い。] なつきィィィィーっ!!! [どれだけ叫べば届くのだろう。 世界を隔てて、君のところまで。] (31) 2020/10/07(Wed) 19:21:09 |
【人】 二年生 小林 友[この俺の有り様を見た人は聞くんだ。 「ともちゃん、大丈夫?」 「死のうとしてない?」 「ダメだったらいつでもいいなさい」 結局、誰も何も問題解決になってない。 みんな、話して解決すると思ってる。 話せば100%受け入れてくれる? 気持ちを分かちあって「ひとりじゃないよ」? それはただの慰めで、解決じゃない。 「陰キャだから、ひとりでいるから なんだか死にそうに見える」? 問題はもっと奥深いぞ。 俺は、ただ俺自身が嫌いなだけ。] (32) 2020/10/07(Wed) 19:21:31 |
【人】 二年生 小林 友[俺は月を見上げて叫んだ。] 途中で奪うくらいなら、 なんで菜月にあわせたんだよ!! もううんざりだ、何もかも!! さびしくて、しかたがない! [青白い月が、まっすぐ俺を見ている気がして。 その時、母さんや近所の人たちが 何を言っていたかも、覚えていない。 ただ、俺は声を限りに、願った。] (34) 2020/10/07(Wed) 19:22:22 |
【人】 二年生 小林 友どうか、この俺を消してください。 菜月がいないのなら、 こんなところにいたくない! [それを聞いた月は、何を思ったのだろう。 ふわり、と掬うように俺の意識は途切れて 闇の中へと堕ちていった。]* (35) 2020/10/07(Wed) 19:23:42 |
【赤】 アクスル[針を抜いて貰うのも 消毒液を掛けて貰うのも どうしたって痛みを感じて、息が詰まった。] ……っ、………… はぁ [だけど、苦しいだけじゃなくて――、 身体に出来たごく小さな傷 ほんの少し歪になった胸粒が、無性に愛おしかった。 貴方が、刻んでくれた痕。] (*27) 2020/10/07(Wed) 21:43:24 |
【赤】 アクスル[無垢な寝顔が目の前に在って 胸がきゅんとした。 ……でも、じっと見ていれば 目の下には隈が在ることに気づく。 余り眠れていなかっただろうことが窺えて 自分の罪を思い出した。] (*29) 2020/10/07(Wed) 21:44:45 |
【赤】 アクスル[彼の頭にそっと自分のを載せて 彼の体温、匂いを憶える。 過去をなかったことには出来ない。 だけどこの先は、極力、 彼を傷つけることのないように。 眠りに落ちても握られたままの手を 少しだけ力を込めて握り返しながら 胸中でだけ誓った。*] (*30) 2020/10/07(Wed) 21:46:05 |
【置】 サティ家次期当主 シャーリエ私の騎士 リフル へずいぶんと経ってしまいましたがお元気ですか。 あなたがいない間に庭はすっかり変わりましたよ。 背の高いシイの木に小鳥が巣を作りました。 小鳥の家族はいつも歌っています。 朝がにぎやかになりました。 うらやましくなります 料理人の彼はお屋敷から出て家を買ったそうですよ。 1人部屋が寂しくなったのでしょうか? 隣にいる人って大切ですね 私は去年の収穫祭でサーカスを見ました。 彼らも旅から旅へ行く身だそうです。 どこかであなたと同じ街にいることもあるのでしょうか。 私もあなたと同じ場所に この国にも技師が増えました。 私たちはいつでもあなたを歓迎します。 どうかお元気で旅路を歩まれますように。 私はあの日に戻りたい あいた い ―― 数年しまわれたままの手紙より ―― (L1) 2020/10/07(Wed) 22:51:53 公開: 2020/10/08(Thu) 1:00:00 |
【人】 アクスル[外へ出て、 別れを惜しみながら帰国して……、 それから何日後のことだったか。 何日であれ、この日が来ることを 今日か今日かと心待ちにしていた。] (36) 2020/10/08(Thu) 0:06:01 |
【人】 アクスル治人! [空港の到着ロビーでその姿を見つければ 軽く手を振りながら 長い脚を動かして寄っていく。 袖口から微かに覗くのは彼から貰った枷。] ……治人。元気にしてたかな? [仮にもセレブ。屋内でもつけていた 変装用を兼ねるサングラスを外しながら 顔が緩んでいくのを自覚する。 到着予定時刻の二時間も前から ここで待っていた……、ことは、 SNSでの目撃情報でも見られてしまわない限り わからないだろう。きっと。] (37) 2020/10/08(Thu) 0:06:15 |
【人】 アクスル[大切な彼を座らせる席だ、 当然、ファーストクラスを手配した。 サービスは充実していた筈だが 12時間ものフライトを終えたばかりの彼。 お腹が空いてないか訊ね 空腹なようならレストランで食事をしてから 不要なようならそのまま 自宅である古城へと連れて行こうとするだろう。 ……運転手付きの車で。**] (38) 2020/10/08(Thu) 0:06:43 |
【人】 花の名 リフル― 彼の人の旅立ちの日のあと ― [私は、庭で彼女に手招きをした。 おいでおいで、と猫なで声で彼女を誘って、 彼女が来たらその場に座って 「膝枕をしてあげる」と上目に笑った] いいこ、いいこね、メグ。 [優しく髪をふわふわと撫でながら、 思い切り甘やかす様な声と手付きで彼女を可愛がる。 けれど、 その感覚も、声も、存在も、徐々に薄くなってゆく。 彼女に認知されなくなってゆく] ………メグ、 私の事、 忘れないで ね…… [声が消え行く。 私、本当はあの日>>18、 「もう私の事は忘れてね」って言おうと思ってたんだ。 私の声が、消え行く。 彼女はやがて目を覚ますだろう] (39) 2020/10/08(Thu) 5:20:14 |
【人】 花の名 リフル― 帰国者のあった日の朝 ― [私は、きっと久々に彼女の前に現れた。 にっこりと、上品ながらも満面の笑みだった。 彼女はもうすごくしっかりしてきたのに、 私の方が昔に戻った様に「ねえねえ」と子供っぽく手を振った] また逢えたね。 [手を伸ばして、彼女が取ってくれるのを待った。**] (40) 2020/10/08(Thu) 5:33:37 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[ 「せーの!」「あ、い、う、え、お!」「せーの!」「か、き、く、け、こ!」…… [グラウンドに響く声は大きい。 ちなみに体育館では発声練習禁止です。つば飛んじゃうから屋内はちょっと。 肺一杯に空気を詰め込んで、おなかの底から声を出していると、頭がぼうっとかすんでくる。華やかさとは裏腹に、チアは地味な反復練習が多い。頭で考えなくても動けるように、ひたすら体に覚え込ませる。何十分も同じ動きをしていると、頭が白く溶けていく。 そういう時間が、今の私には必要だった。] 「菜月、笑顔! みんなを元気にするのがチアなんだから!」 [指摘されて、にっと口角を上げる。 笑ったんじゃなくて、口角を、上げた。 皆を元気に、なんて、私にできるはずがない。 友君に勇気づけられてばっかりだったんだから。 細くなった筋肉に、必要以上に負荷をかける。 生まれたての小鹿みたいに、歩くたびに膝が折れる。] (41) 2020/10/08(Thu) 5:58:07 |
【人】 二年生 早乙女 菜月「ナツキ……戻ってきたのは良いけど、正直、怖いよ。 前はもっと、休憩時間も騒いでたのに。 今のナツキは、練習だけしに来てるみたい」 [ 心配してくれるのはわかるけど……ってこと 俺もよくあるよ。 友君の言葉がいつも、頭をよぎる。 なにそれー私すんごい熱心じゃん! なんてはやし立てる。 笑い飛ばして、無かったことにしようとする。] 「ろくに食べてないよね。 いくらトレーニングしても、食べなきゃ意味ないでしょう。本当にやる気あるの?」 [そう言ってきた先輩もいた。さすが上級生、よく見ている。 ウス、先輩ご馳走してくれるんスか? ありがとうございます、なんてへらへら笑ったら、もっと怒られた。 あーあ、失敗しちゃった。] (42) 2020/10/08(Thu) 6:00:17 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[柔軟体操をしていると、アキナと目が合った。 アキナは一瞬、なんとも言えない表情を浮かべると、何かを言いかける。 けど、その言葉が出てくる前に、他の部員に話しかけて、結局何も話さなかった。 復帰しても結局、こんな感じだ。 あれからうまく話せていない。 ペアも外されてしまった。 もしかしたら自分の中に 汚い気持ちがあるかもしれない、って 菜月は言うけれどもさ 少なくとも「今」の菜月は そんなことしないだろ。 「今」の私はどうだろう。 優しい老夫婦が人魚を売ったように、表と裏はくるくる変わる。 きっと私もたやすく、良くも悪くも転ぶ。 チアリーディングはスポーツだ。 グラウンドの外の花じゃない。技を競う真剣勝負。 勝利の証は、会場に溢れる笑顔。 誰かを応援するために、競い、高め合う。 だから、応援したい人を失ったら、強くなれないのは当然のことで。] (43) 2020/10/08(Thu) 6:01:13 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[そんなことは分かっていても、私は必死にチアに打ち込む。 そうしていないと、友君のことを思い出してしまうから。 線路や、紅葉や、月や。 何気ない風景を見るたびに、友君の言葉が思い浮かぶ。 俺も、絵があるのも好き。 けど、この本は写実的っていうか…… 読んでるうちに頭の中に風景が浮かぶんだ。 そうだね、友君。 世界にはこんなにも、友君と拾い集めた風景が散らばっていて。 何もしないでいると、空を眺めるだけで泣いてしまう。 自分の体を苛め抜いて、泥のように眠る。 だけど夢の中では、いつもあの図書室にいて。 目を覚ませば、友君ともう会えないことを思い出して、べそべそと泣いた。] (44) 2020/10/08(Thu) 6:02:06 |
【人】 二年生 早乙女 菜月「また延長ですか」 [司書の先生が呆れたように言う。 あれから、図書室と友君の世界は断ち切れてしまった。それでも二週間に一度は足を運ぶ。 小川未明童話集、「赤いろうそくと人魚」。私が唯一借りた本を、何度も延長する。 「何か月借りるつもりですか」「卒業する時に買います」「これ備品だから高いよ。アマゾンの本が安いですよ」「この本が良いんです」「もう読み飽きたでしょう」「まだ読み終わってません」 そう、まだ私はこの本を読み終えていない。 友君と一緒に読もうと思っていたから。 きっと、この本を読み終えることは、無い。]** (45) 2020/10/08(Thu) 6:03:03 |
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