「…………、俺、別に耳がいいわけじゃないよ」

じっと見る。バカだから見ただけじゃ、動作じゃわからない。
揺れを察知する。音ならわかる。
ただの銃ならそんな揺れは起きない。

「……ンン、なんだろな。
　チャカくらいならドギーも持ってっし。
　カンシュサンならフツーなのかもしんないけど……」

ゆっくり、ゆっくり、足りてない頭で考えを言語化して。

「音からして、ただの身を守るための武器ー……
　にも感じないんだよ。それ、アンタにとっての何なんだ？」

「そうなの？……ううん、尚更わからないけど」

音がするなら分かる、の感覚が全く分からない。だから、耳がいいのだろうとしか思えない。
それが能力によるものなのだろうと察しはついても、実態は分からない。

「うん、普通だ。看守の中でもポピュラーな武器じゃないかな？」

本当にそうなら、わざわざ隠す必要もないのだ。
それは貴方に伝わる音が何よりの証拠。

「…………隠すこともはぐらかすこともできる。でも、そうだな、そこまで言われたのは初めてで、なんだろ、ちょっと嬉しいよ。
相棒みたいなもの、っていうのかな。恋人っていうほど甘くないけど、もうちょっと重たいかも」

淡々と、いつもの調子よりも少しばかり静かに言葉を紡ぎ。

　あなたの微笑みに嘘を見出すことができず、であれば好意も期待も真実であり、言葉にもまた偽りの色がないのだろうと確信づける。
　そうして素直にあなたの言葉と意思を受け止めれば受け止めるほど、言いようのないざわめきが胸中を揺らし、発しようとしては喉に溜まり蓄積された澱みが行き場を見つけて荒れ狂う。



　矛盾だらけの欲求。けれど、自分にとっては何ら矛盾のない、純粋な欲求。……少し前に　　　　　から投げかけられた言葉を思い出す。



　そうして与えられたのは、忘れていた目的の輪郭。



　繋がっていく言葉が、意味が、事象が、そうして、



　声を上げて笑った。先程までのぎらついた殺意はすっかりなりを潜め、潤んだ瞳は揺れている。潤む理由など知ったことではない。知るのはいつでもいい、今でも、後でも、死ぬ直前でも！だって今はそんなことどうだっていいのだ、胸中に押し寄せた歓喜に勝るものはないのだから！

「全くもってその通りだよ。ああ、本当に、
　は有能だなラサルハグ！こんな掃き溜めに来た甲斐があった！そうだ、俺の欲しかったものはこれだ！お前だよ！

　お前のようなやつをずっと――狂おしいほど求めていた！」

嬉しい。嬉しい、だから、……

「……だから？」

とある時間、あなたの部屋の前。

「こんにちは。」
あなたの部屋の前で少女が待っている。

「お話しても構いませんか」
もしあなたと接触できたのなら、そう切り出すだろう。答えるかは自由だ。