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【秘】 遊蕩 ディルク → 寡黙 エミール>>-1 エミール 帰りたい理由があった。それが些細だとしても。 だから、本来であれば今の状況を喜ぶべきで。 迷いなくひとつを選べばそれでいいはずなのに。 立ち止まって、俯いて、動かずにいる。 「……運がいいのか、悪いのか。分かんないな」 選択の話。詳細は語られずともなんとなく、 貴方が転生者であるのかもと、少し。 …だとすれば、今の境遇は必然的なものなのだろうか。 妙な縁で繋がり、こうして隣にいることは。 「………あー、」 「……どうしようかな、ほんと」 「結局、こうなっちゃうんだな」 いっそ、選択なしに帰してくれたなら。 考えなくてよかったし、楽でいられたのに。 心はここに残さないって決めたのに。 (-7) 2024/02/15(Thu) 20:54:47 |
【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ揺れる亜麻色の髪から漏れ出る痣の光が、舞い散る六花を照らしている。 振り返った柔らかい表情に、なにか一つ乗り越えたようなすっきりしているように思えて、ひとつほっと息をついた。 「え……と」 名前を呼ばないのには理由があった。 繋がりをできる限り、持ちたくなかった。 愛着も執着も、持ってしまうと離れがたくなるとそう思っていたからだ。 それをどう言ったものかと、言葉に詰まる。 視線を少し泳がせて、やっと、こくりと頷いて。 「そう……宿題、持ってきた」 懐かしい。 自分でない自分だった頃は、毎日のようにやっていた単語に口元を緩めた。 「俺……、聖女と話したよ。 随分自分勝手で、強引で……でも、すごく寂しがりやだ。 アンタはそれを、どう思う?」 (-8) 2024/02/16(Fri) 14:39:31 |
【秘】 寡黙 エミール → 遊蕩 ディルク>>-7 ディルク 「いいんだろ。一応」 選ぶことすら出来ないよりは、多分。 ……なんて、話してもないのに互いに自分たちが同じであることを断定しているかのよう。 心の置きどころがないのなら、置きどころを一つにしてやろうと思ったのだが。 ……何故か、自分との間に繋がりが出来てしまったがそこはそれだ。 「ひとつだけ……教えれることがある」 「もし……今を捨てたとして……そして得るものはない」 「全部元に戻るだけだ、元のところに……」 ルールがある以上直接的な言葉を用いることは出来ないが伝わるだろうか。 つまりは、元の世界に戻る場合。 ――死んだであろう時間に戻るということ。 「……アンタは、ここに残るものは何もないのか。 …………俺は、ある」 自覚してしまった、執着心。 (-9) 2024/02/16(Fri) 15:08:19 |
【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール「やっぱり。 お祭りも終わる頃だからそろそろかなって思っていました」 回り道をするような間をじっと待って、頷いたときに相槌を打つ。 その逡巡に込められた想いをまだ知らないけれど。 あなたのことだから脈絡もなく呼んだ訳ではないのだろうと踏んでいた。 ふっと浮かべた笑みはあの日張り付けた作り物ではない自然な笑み。 あなたが感じたように、憑き物が落ちたような様子は確かだった。 細めた瞳に舞う六花がそうさせるのかもしれない。 「……聖女様と?」 驚きに目をまんまるに開いて、明後日の方へちらり。 すぐに戻ってあなたを見た。 「どう思うと言われても、エミールがそう思ったなら間違っていないと思いますよ。 あなたって……ほら、よく人の事を見てるから。 こんなにたくさんの人の痣が光ったのもきっと寂しがりな所為だったのかもしれませんね」 否定も肯定もしない。 人差し指は口許で幾度か跳ねて、頬の横。 「私がどう思おうともう、何も変えられませんし。 だからやっぱり、どうとも言えません。 聖女様は聖女様。それだけ。そのままに思います」 「エミールは聖女様がそうだって思ったら、何か変わりましたか?」 (-10) 2024/02/16(Fri) 20:39:48 |
【秘】 遊蕩 ディルク → 寡黙 エミール>>-9 エミール 間違いなく、あの日に生きていた己にとってはいいことで。 この世界に反し幸福だと叫ぶ方が正しいのだろう…とは。 しかし、 しかし、それを迷いなしに吐き出すには、 ここでの生活が長すぎたのだろう、きっと。 元の世界の齢はとうに、超えてしまった。 「……なにそれ、」 「そんなの…、……当たり前の話だろ」 「得るかどうかじゃない。…元に戻れるかどうかだった」 それで、元に戻ってどうするか。 どの瞬間に始まって、終わるのか。続くのか。 知りはしないが、そうなることが本来は自然で。 分かっているのに、やはり迷うのは。 「…別に、少しだけだよ」 「……楽しい時間は確かに、あったし」 1人と長く交流が続いたり、 とある人間のこれからを見てみたかったり。 自分でも意外な感情が確かに、そこにあった。 …もっと、虚ろであれば楽でいられたろうに。 (-12) 2024/02/17(Sat) 0:28:18 |
【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ>>-10 ファリエ 「いや……何も変わらない。 会ったとはいっても、全部夢だったと言われてもおかしくないし……顔はどうしたって見えなかった」 あなたの問に、軽く首を振った。 顔は見ることは出来なかったが、それでいいと思ったのだ。 自分は聖女に力を与えられたし、願いを叶えてもらえる。 所謂お気に入りの一人といったところなんだろう。 あの時言葉をかわしたのが本当は聖女じゃなかったとしても、全てが只の作り話だと思われても構わない。 大事なのは、夢の出来事も全て含めて、答えを決めたということだけ。 その、答えは――― 「実は……俺、死んだかもしれない両親に会えるんだよ」 「その……資格がある」 「でも、それを受けちまったら……アンタにも、子どもたちにも、二度と会えない」 遠い遠い場所に、行ってしまうから。 言い方は少し抽象的になってしまったが、意図はきっと伝わるだろう。 あなたの反応を伺うように、じっとその瞳を見つめて返した。 (-13) 2024/02/17(Sat) 20:07:53 |
【秘】 寡黙 エミール → 遊蕩 ディルク>>-12 ディルク 「まぁ……流石に全部そのままってわけじゃないとは思うんだけどな」 死んだ体に戻りましたなんて言われてもお粗末な話しだ。 自分の場合、家族も皆一緒に乗っていた10歳の体にだ。 そこに24になった意識のまま戻って、天涯孤独になってしまったとしたら……。 そう考えるとゾッとするものがある。 彼らの無事を祈っているけれど、無事でない可能性が限りなく高い。 そんな事故だった。 「だけど、それだけじゃないんだ。 迷うのは、それだけじゃない……」 目に浮かぶのは、これまで関わってきた人たち。 あの日掴んだ物を、離したくないと思ってしまった。 「俺も楽しい時間が、あった。 ここに残して消えたくない……そう思う自分は、薄情なのかどうか……随分考えた」 何度もごめんなさいと、つぶやいた。 (-17) 2024/02/18(Sun) 1:46:50 |
【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール>>-13 「そうですか……」 聖女の事をどう思っているか。 痣を持つ者達はそれぞれに想いを抱えているだろう。 帰りたいと願う心と同じように、帰らないでと願う心もある。 それをあなたが知っているのかは分からないけれど。 帰れなくなった転生者は少なからず彼女を疎んでいるのではないだろうか、と。 己の経験に基づいて思ってしまったものだから、あなたが抱える元の気持ちがどうであるかに掛かっていた。 それはあなたの答えとして聞けるだろう。 「あなたが天秤にかけられなかったのはその二つだったんですね。 こういう時優しいって言うんでしょうか? だってエミールの両親は代わりが居ないでしょう。 孤児院の 子供達 はそうじゃない。一緒に遊んだあなたならよく知っているように、みんな何処にでもいる普通の人間ですよ」 そこには女自身も含まれていた。 しかし、ファリエにとっては数少ない知人であり、この祭りに際して関わった時間が無為だったと言いたいのではない。 単純な勘定。どちらがより特別かという、簡単な計算。 展示物には触れてはならないのと同じ。だから手を後ろに回して客観的に述べる。 「だから……だから、もったいぶらないで言っちゃってください。 あなたが何を手に入れて何を手放そうと恨んだりしませんから」 行かないで、なんて。特別でもないのに口にできない。 (-18) 2024/02/18(Sun) 10:05:47 |
【秘】 遊蕩 ディルク → 寡黙 エミール>>-17 エミール 「…全部そのままの方が幸せかもね」 独りになるくらいなら、いっそ…と。 そう願わずにはいられない状況の人間もいるのかも。 それこそ、貴方のような。 貴方の告白を黙って聞きながら、 街の喧騒をどこか遠くのもののように感じて。 「…別に、薄情とは言えないでしょ。 ここで育んできたものがあった。それだけの話」 それを罪だと呼ぶ人間はきっといない。 だから、苦しむ必要はない…のだと思う。 それでも本人からすれば考えることをやめられないだろうが。 「……それで、結局どうするの」 「選択、決められそう?」 「後悔少なめで、さ」 (-23) 2024/02/18(Sun) 14:53:13 |
【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ>>-18 ファリエ 「……俺は別に優しくない。 ずっと自分勝手に生きてきたからな。何にも固執しないようにして、いつでも今を捨てれるように」 けれどもう。 ここで過ごした年月は、元の世界で生きていた10年を優に超えてしまった。 どんなに無関心でいようとしても、出来てしまった執着を簡単に捨てることはもうできなくて。 自重するように嘲笑う。 何かを捨ててしまう時、胸は痛むけれど。 自分にとって、いま大事なのは。 産んで愛してくれた両親よりも、これからも手を伸ばしてやりたいと思う人たちのこと。 「聖女も、聖女の祝福も関係ない。 祝われようが残念がられようがどうでもいい」 また会う事があるならば、その時はもう少し穏やかな会話をしてみたいとは思う。 別に、あの聖女のことが嫌いではなかった。 それよりも特別なものが、あるだけの話し。 ▼ (-26) 2024/02/18(Sun) 20:55:32 |
【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ>>-18>>-26 ファリエ いつも、何も口にしないまま生きていた。 だけど大事なことは、言葉にしなければ伝わらない。 そうやって失敗したことは、確かにあって。 その度に感じたこの胸の苦しさを、どう言葉にすれば、貴方に伝わるだろう。 視線を落として、降り注ぐ六花の奥にある済んだ瞳を見つめた。 はく、と息を吸って、吐いて、もう一度。 「ただ俺は……ここが好きだ」 「……一緒に居るなら、……アンタが良い」 少し声のトーンが落ちてしまったが、これが答え。 自分自身で考えて決めたこと。 男が選び取れるのは、ひとつだけ。 ▼ (-27) 2024/02/18(Sun) 20:59:30 |
【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ (-28) 2024/02/18(Sun) 21:01:27 |
【秘】 寡黙 エミール → 遊蕩 ディルク>>-23 ディルク 「あぁ……どっちをとっても後悔するなら」 「今俺が、何に手を伸ばしたいのかで考えることにした」 執着しないようにしてても、過ごしたこの14年で積み重ねてきた愛着を捨てることはもう出来ない。 両親も、妹も大事だけれど。 今、手を伸ばしたいと思える人が、ここに居るから……。 「……考えた結果、……帰らないことにした」 「俺に選べるのは、どちらか一つだけだから……」 この答えが、貴方の判断の助けになるかはわからないけれど。 繋がった魂の色が伝わると良いかなと思うのだ。 (-29) 2024/02/18(Sun) 21:17:21 |
【秘】 遊蕩 ディルク → 寡黙 エミール>>-29 エミール 「……そっか、」 結局、答えに迷うのは自分のみかもしれない。 決意の色が見えたから、眩しくてつい目を逸らした。 「…うん、いいと思うよ」 「少なくとも僕は、その決断を否定しない」 貴方が少し、羨ましく思えるくらいだ。 手を伸ばしたいと思えるほどの誰かが、傍にいる。 それはきっと生きていく中で素敵なこと。 己が、得ようとはしなかったもの。 「…同じ境遇の人間の話が聞けて良かったよ。 それじゃ僕は、時間めいっぱい悩むとするかな」 そういって、貴方の隣から身を翻し、 いつかのように街の喧騒から離れていこうとする。 この別れが一時となるか、永遠となるか。 それを知るのは未来の話となるだろう。 (-30) 2024/02/18(Sun) 21:52:19 |
【秘】 寡黙 エミール → 遊蕩 ディルク>>-30 ディルク 「……あのさ」 今この瞬間、ふと。 名前を呼ぶ勇気を、持ちたいと思った。 この世界に留まる決意が、出来たから。 「……沢山、後悔しよう。 俺達には、その権利がある」 去ろうとする者に手を伸ばすことを、貴方はあまり望まないかもしれないけれど。 でも、また会えるなら。 「……また会おう」 理解っている。 選択によっては、二度と会えない可能性があることを。 それでも、貴方が変わっていくその様を見られたらと願うのだ。 男は見つめ続けた。 貴方の背が喧騒を抜けて、見えなくなるまで。 (-31) 2024/02/18(Sun) 22:05:46 |
【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール>>-26>>-27>>-28 じっと、あなたを見たまま答えを聞き届け。 「────」 また目をまんまるにした。 外の世界を見に行こうと話をしたのは覚えている。 けれど、まさかこんな風に選ばれるなんて思ってもみなかったから。 「え、ええと」 「あの……えっと…………」 あの、とか。えっと、とか。場繋ぎの声ばかりで考えが言葉にならない。 あなたからこうもはっきり告げられた答え。 それは、今まで奥底に秘められていたこその純真さもあった。 積み上げられた時間は目には見えなくとも、滲みだして女を逃がしてくれない。 きっとそれはポジティブな想いだけで連ねられていない。 真っ直ぐに伝わってしまった証拠に、薄墨の瞳はあなたを映したまま揺れ続けている。 ▼ (-37) 2024/02/18(Sun) 23:31:16 |
【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール>>-32 「エミールは本当は、そういう人なんですね。 今までは我慢していて深入りしないところで足を止めていただけで」 言葉に詰まる。 思い出すのは祭りの前のこと。それから追いかけてくれた時のこと。 「 うー…… だから、はあ……私のこと気にかけてくれたのも、ですよね」「真面目だなあ。それを優しいって言うんですよ。 あなたくらいなら、自分勝手には入りませんよ」 少なくとも、全部を切って捨てようとした我儘で薄情な女よりはずっと人情があった。 そんな私もひっくるめてファリエだから、こんなのが選ばれて良いのかなと思わないと言えば嘘になる。 けれど口に出してしまえば、あなたの誠意に泥を塗るような心地がした。 ▼ (-38) 2024/02/18(Sun) 23:32:49 |
【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール「──じゃあお言葉に甘えて」 だから、私も変わりたい。 この世界を愛せるように。 この世界に居させてくれるものを受け入れられるように。 そうして女はこの世界に生きていると言えるようになるため。 一度も逸らさなかった瞳を細めてはにかんだ。 「私を この世界に 連れ出してください。エミール」──祭りの前と後できっと致命的に変わったりなんてしない世界。 幾星霜の未来が待つ、聖女の作り上げた世界。 私を傍に置いてくれる人の傍で息をできたら。 私は幸せになれるかな、なんて。 これもエゴだろうか。 ううん。これは痛くないしあわせのかたち。 これからはこんな思い出を積み重ねていけるよね? (-39) 2024/02/18(Sun) 23:36:10 |
【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ>>-37>>-38>>-39 「……うん。 ずっと、我慢してた……んだろうな、俺は」 10代の少年が、何にも心を捕らわれないようにするなんて、相当心を押し殺してないと出来はしない。 そうして出来上がったのが、寡黙な青年という代名詞を得た人間だった。 それをやめてでも何かに手を伸ばしたいと思えたこと。 ずっと大事にしていきたいと思う。 幾つもの星が昇り、幾つもの霜が降りても、ずっと。 自分たちはきっと、まだまだこの世界で生きていくには未成熟だから。 この世界の色んなところに触れていくのが必要なんだろう。 ▼ (-41) 2024/02/19(Mon) 0:32:32 |
【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエそれでも自分が抱いている想いが伝わったことが嬉しくて、めったに緩まない目元が緩む。 連れていきたい、どこまででも。 胸を張って、自分たちはこの世界に生きる人間なのだと聖女に、この世界に示せるように。 「あぁ、……一緒に行こう、この世界に」 ゆっくりと手を伸ばして、あなたの手をそっと握った。 あの時と同じだけど、あの時より温かい小さな手。 「……アンタが思うよりずっと、俺はアンタが好きだから……よろしく、これから」 初めて、強くなろうと思った。 大切な人を守り切るくらいの力を。 この世界で生き抜く強さを。 共に過ごせる時を大切にしていくために。 そうして自分たちは色んな場所を巡って、 いろんな物を見て、何かを感じ取ってこの世界を生きていく。 思い出を心のアルバムに飾って何冊も、二人で共有していけたらいい。 (-42) 2024/02/19(Mon) 0:33:55 |
エミールは、近くに居た猫が、にゃおんと鳴いたのを聞いた。 (a7) 2024/02/19(Mon) 0:35:15 |
エミールは、それはまるで、答えと門出を祝ってくれているように感じていた。 (a8) 2024/02/19(Mon) 0:35:45 |
【秘】 寡黙 エミール → 聖女 リッカ聖女に宣言するなら、教会で。 あの人同じように聖女像の前で、その顔を見上げた。 この像の聖女の顔がそのままなのかどうかは自分にはわからない。 けれども纏う雰囲気は、きっと同じもので―― 「答えを持ってきた」 俺は―― 「俺は帰らない。この世界で生きていく」 すぅ、と息を吸って、大きく吐いて深呼吸。 あなたの反応があるはずだと信じて、静かに目を閉じた。 (-43) 2024/02/19(Mon) 1:38:51 |
【秘】 聖女 リッカ → 寡黙 エミール>>-43 エミール 静謐な教会。ステンドグラスの外は雪が降る。 そんな天気だから、いつもより薄暗い教会にあなた以外の気配はない。 ―――気配はなくとも、そこに聖女は確かにいた。 聖女はいつだってどこにだっている。 それが、この世界の、創造者。 でも。 ―――どうして、と。 音もなきまま、聖女のその瞳だけが瞬きを繰り返す。 だって、その選択は、 有り得ない とすら思えるもので。 (-44) 2024/02/19(Mon) 12:47:30 |
【秘】 聖女 リッカ → 寡黙 エミール>>-43>>-44 エミール ふわりと。 だから、音もなく。 本来ならば有り得ないことがそこで起こった。 あなたの前に降り立ったのは、目の前の像と変わらぬ見目の小さな子ども。 雪のような白銀の髪を冷たい空気に揺らし、冬空と同じ色の瞳であなたを見上げている。 「 …… ほんとうに いいの ? 」 もう機会はないかもしれないよ、と暗にその声は告げている。 その表情や声音全てから、困惑のいろが見て取れることだろう。 (-45) 2024/02/19(Mon) 12:48:24 |
【秘】 寡黙 エミール → 聖女 リッカ>>-44>>-45 聖女 ぱちり。 目を瞬かせた。 だって、像と見た目は変わらないとは言え……先日話したときよりもずっとイメージが幼くて。 「……良いも何も、そう決めた」 「俺がここで過ごした時間は、元の世界での時間よりも……もうずいぶん長い」 だって、わかるだろ。 男が前の世界で生を閉じたのはわずか10歳。 あなたと変わらぬ小さな子供だった。 家族への想いがなくなったわけではない。 ただ……元の世界に帰って、一人にはなりたくなかった。 この世界で、一緒にこの世界を見て愛せたらと思えた人がいる。 その人をここに一人残して消えることが、何より嫌だったから。 「もう、チャンスなんてなくていい」 あなたの前でしゃがみこんで、目線を合わせた。 困惑を隠せないその顔に、目尻を下げ。 その頭をぽんぽんと撫でた。 まるで、小さな子供への対応のそれだ。 姿を見てしまったから仕方ない。 ▼ (-52) 2024/02/19(Mon) 14:36:02 |
【秘】 寡黙 エミール → 聖女 リッカ>>-52 「俺はこの世界で生きると決めたからな」 「だから願いも考えた」 本気だから、そんなに困らなくて良いという意味を込めて言う。 「ひとつめは……俺とファリエに守護の加護を」 それは万能のものではないだろう。 それでも、この世界での旅には危険が伴うことを俺は知っている。 自分の力で守り切るのは前提だけれど、加護があれば安心というものだ。 まぁもしかしたら、痣が光ったファリエには必要ないのかもしれないが、そこはそれ。 「ふたつめは……」 「俺みたいにここに連れてこられて、帰れなくなった人たちに。 前の世界の事を忘れてしまいたいやつがいたなら、忘れさせてやってくれ」 帰れないなら、未練を残していてはうまくこの世界に順応できない。 絶対に忘れたくない人もいるだろうから、希望制だ。 「俺は……心のアルバムに仕舞っておくことにする」 それは思い出そうとしなければ考えもしないもののように。 ふっと、時々懐かしむくらいで丁度いいと、そう思えたのだ。 (-53) 2024/02/19(Mon) 14:37:29 |
【秘】 聖女 リッカ → 寡黙 エミール>>-53 エミール 伸びたその手は、本当ならば聖女に触れることはない。 聖女にとって、転生者はみな手を伸ばしたところですり抜けてしまう流れ星。 触れる温度は、惜しむ気持ちを生むだけだから。 だけどあなたは、権利を得てなおここを離れないのだという。 なら、惜しむ必要も、怯える必要も、どこにもないのではなんて。 そう思った聖女がいたから。その手は、聖女の柔らかな髪に触れている。 静かに、それでいて少し面映ゆそうに、聖女の瞳は伏せていて。 (-55) 2024/02/19(Mon) 16:03:30 |
【秘】 聖女 リッカ → 寡黙 エミール>>-53>>-55 エミール 次のとき。 そうして、聖女は、くすりと微笑んだ。 同時に、あなたのその手は、するりと聖女の身体をすり抜ける。 そのままひらりと翻して、聖女の身体は宙に浮かぶ。 微笑みのまま、聖女は、 聖女 として。「 ――― たしかに 聞き届けたわ。 エミール 」 「 あなたの 願い … 叶えてあげる 」 しん、と静かな教会に。 けれどその声は、響き渡ることもなくただ静かに。 「 …… ファリエのこと たいせつにしてね でないと わたしが さらってしまうわ 」 (-56) 2024/02/19(Mon) 16:06:35 |
【秘】 聖女 リッカ → 寡黙 エミール>>-53>>-55>>-56 エミール そんな声が聞こえたかと思うと、 聖女の姿はもうそこにはない。 まるで、夢かなにかだったかみたいに。 ただひとひらの雪片が、 聖女がいた場所から舞い降りてゆく。 その雪片に触れたなら、それはあなたの手の中で。 触れなければそのまま教会の床に舞い降りて、 その上で溶けて消えていった。 曇天の薄暗い光がステンドグラスを透かしている。 聖女の像だけは、変わらずに そこであなたのことを見下ろしていた。 (-57) 2024/02/19(Mon) 16:08:02 |
【秘】 寡黙 エミール → 聖女 リッカ「違う……って」 なんでだよ、と独り言のように呟く。 聖女像を見上げながらも、なんだか腑に落ちない顔つきだ。 そういえば、ファリエも聖女についてはなんだか色々思うところも、心境の変化もあったようで、それを確かに見せてくれていた。 聖女にも人と同じような感情があるようだから、もしかしたら二人の間には何か交流のようなものがあったのかもしれないと考えた。 だからといって、それをどうこうするつもりはないのだけど。 「当たり前だろ。……大事にするさ」 色濃い方面には大分無知できてしまった男だが、感情は死滅してはいない。 全ては、これからだ。 ひとひらの雪辺を手のひらで受け取れば、じわっと溶けて水になってしまった。 聖女は、もう居ない。 これからの人生は、自分だけが紡いでいく物語。 (-58) 2024/02/19(Mon) 20:38:09 |
【独】 寡黙 エミール祭が終わって、様々を整理して。 男は育ててくれた師匠と別れて旅に出た。 傍らには、亜麻色の髪を持つ女が一人。 この世界のキレイなものを沢山見に行きたい。 そうしてこの世界を愛して行きたい。 だから二人で一歩ずつ、この世界を歩いていく。 孤児院を訪れた際には、驚かれたり、子供に泣かれたりと大変だった。 なんでこの子が良かったのと聞かれても、この人が良かったとしか言いようがなく閉口した。 詰め寄ってくる女は怖いと、初めて知った。 そういえば、時折 モジョ という単語を聞いたけれど、あれは一体何だったのだろう。10年しか向こうの世界で生きられなかった少年には預かり知らぬ単語であったし、孤児院だけで通用する単語だったのだろうと納得して、確かに彼女を貰い受けた。 そこにはもう、喪女などという女は存在しない。 しあわせのかたちを手にした女が居るだけだ。 (-59) 2024/02/19(Mon) 20:47:48 |
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