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【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ「…ずっと考えてたんです」 それでもやはり、今も恐れるべきはあなたではなくて。 だから徐に、けれど迷わず死者の傍へと歩み寄って 手向けのような赤の中、ただ安らかに眠る表情に視線を落とす。 「あの時、あなたはもう、変われていたんじゃないかって」 悲鳴のような想いが書き連ねられたタブレットは、その傍らに。 血に汚れていない、まっさらなシーツを掛け直して そうしながらに、誰に届くかも知れない、身勝手な独白を零す。 「あなたにはもう、自分の抱えるものを誰かに打ち明けて」 文字だけの言葉の裏に何があったとしても、 あなたがあの時自らの背負うものを打ち明けたのは事実で。 「誰かを頼る勇気があったんですよ」 あんな形になってしまったとは言えど、 あなたがあの時、誰かの助けを求めた事も事実なのだから。 そうして変われたからある今が、きっとそれを証明してくれる。 (-18) 2022/06/16(Thu) 19:30:52 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ「…後悔が無いなんてとてもじゃないけど言えなくて」 結局、あんな形であなたを助ける事になってしまった。 「やらなきゃいけない事、終わってない事も沢山あって」 ここから無事に出たとしても、良い事ばかりではない。 「せっかくできた約束だって、 まだ全部は果たせていないんです」 それでも、まだこれからだったはずなのに。 もし無事に外に出られたら、なんて。 あの時は、口約束未満の皮算用だったかもしれないけれど。 それでも。 あなたがこれから先の事を話してくれたのは、 実は結構、嬉しかったんですよ。 (-19) 2022/06/16(Thu) 19:31:37 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ「……おれはやっぱり、神様が居るとは思いたくなくて」 また一つ、息をして。 重く停滞した空気を鼻腔に肺に感じながら。 「でも、わかったんです」 「助けてくれる人は、案外居るんだって」 眠り続ける少女の、冷たい腕をとって。 確かな一人の意思によって、向ける先をこの手に委ねられた希望。 戒めでも、断ち切る為でもないその針を皮下に潜り込ませた。 それが再び同じ結果を齎してくれるとは限らない。 けれど、深く昏い眠りの中に、ほんの少しだけでも。 あなたが導とできるような、光を落とす事ができればいい。 それを導として、暗い森を抜けた先が何処であったとしても。 叶 西路は、あなたの味方だ。 行き着く先が何処であったとしても、これからも、ずっと。 一人では沈み行くばかりの西日でも、 一度は砕け、罅割れの残るガラスでも。 誰かの光を受け、反射して、ほんの僅か。 あなたに光を届ける事は、できるのだと。 身勝手だとしても、今だけは。 誰の赦しが無くたって、そう信じる事だけは。 (-20) 2022/06/16(Thu) 19:33:22 |
カナイは、晴の路を歩く。 (a15) 2022/06/16(Thu) 19:38:16 |
カナイは、日向から暗い夜へ、その光を届けに行く為に。 (a16) 2022/06/16(Thu) 19:38:30 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイあなたの独白が、棺の中へ降り積もります。 もう噴き出すほどの血も残っていないのでしょう、 まっさらなシーツは微かにその白を赤に染めただけでした。 傍で見れば尚更、血の失われた青白い肌が目立つのです。 それでも、幾つも、幾つも言葉を零していけば。 その空っぽになった胸にある、半分以上潰れた少女の心に 幾らかは零れず残るのかもしれません。 あなたが、考えてくれたことが。 あなたが、守った約束のひとつが。 あなたが、人に少し近づけた事実が。 そして、西へ旅立ったあなたが、叶西路が、今ひとたび。 東から現れて、傍で味方をしてくれる。それが、 きっと、少女にとっては、なにより嬉しい事なのです。 (-21) 2022/06/16(Thu) 21:41:48 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイぶつり、冷たい身体に幾らかの抵抗をしながら針が刺さります。 流し込まれる薬液が、その腕の内部へと滲みていって。 そうして、全てがからっぽの身体に流し込まれました。 それだけでした。 血流の止まった体では、薬液が行きわたる事もありません。 神に弓を引いた少女は、 の を受け取れないのでしょうか? 変化のないまま、数十秒が経って、きっともう何も起きないのだろうと思った頃に。 「こぷっ」 と。小さな音が聞こえました。 (-22) 2022/06/16(Thu) 21:42:49 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイこぷ、ごぷ。 ……少女の微笑んだ顔は変わらないままに、 血が口から垂れ流されます。 それと時を同じくして、シーツの奥から音が鳴り始めました。 ぱき。ぱき。 ――目の前で、シーツが持ち上がっていきます。 抉れたような形だったそれは、音と共に膨らんで。 胸骨が再生しているのでしょうか、 ぱき、ぱきり。 そして、脈動の音が聞こえます。どくん。どくん――。 (-23) 2022/06/16(Thu) 21:45:02 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ心臓の稼働する音がする度、口から血が吐き出されます。 マットレスが血で赤くなり、シーツの赤がじわと広がりました。 ぱき、ぱき。 また、シーツが盛り上がります。ゆっくりと。それを以て、シーツの赤が広がるのは止まりました。 少し形の歪んだ二つの山が布一枚を隔てて、 すっかりと元のように現れるのがわかります。 針を刺した腕の血色は、気付けば随分と人のそれに近づいて、 未だどくん、どくんと響く音は力強く。 口から流れた血は枕を重くする頃に、やっと止まりました。 腕から肩にかけて空いていた丸く小さな幾つもの穴は きっと結晶を生やしていた痕でしょう。 それらもまた、安心して眠るように瞼を閉じて治っていきます。 そして、ひと際大きく。 どくん 、と響いて――。 (-24) 2022/06/16(Thu) 21:46:52 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ少女は、酷く混乱した様子でした。 開いたばかりの目を白黒させて、見えているのかいないのか、 手さぐりに胸元のシーツをぎゅうと掴んで、 その血で濡れた感触に肩を跳ねさせます。 未だぼたぼたと垂れる口元からの血に何度も何度も咳き込んで。 目元からは苦しさからか涙の粒が幾つも零れます。 その手が、ふらふらと辺りを探ります。 その指が、ふらふらと伸びていきます。 一番近くにいるのか、あるのか。 見覚えがある色な気がするそれに、すがるように。 はくはく、口が動きます。 「たすけて」 叶の方へ、苦しげに。助けを求めました。 あの時よりはずっと、普通に。 (-25) 2022/06/16(Thu) 21:49:19 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ針先は、蒼白な肌の僅かな抵抗だけをその手に伝えて。 そののち、ゆっくりと押子を進めていけば、 シリンジを満たす薬液はすっかりなくなってしまった。 そうして針は抜き去られ、空っぽの注射器はよそへと置かれ。 それが齎す結果を、自らの身勝手が行き着く先を。 どこか祈るような気持ちでただ見ていた。 自らが祈る神など居ないとしているのに、おかしな話だと思う。 それでも暫しの後に、そうおかしな話でもないのだと。 そう思ったのは、今この場に於いて、この祈りの先はきっと 神でもなく、運命でもなく あなた自身に、だったからだ。 (-26) 2022/06/16(Thu) 23:52:49 |
カナイは、だからただ、あなたに祈るだけ。 (a19) 2022/06/16(Thu) 23:52:55 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ実際はきっと、そんな思考の間は短くて。 その間に、何らかの変化を見受けられるはずもなく。 これは忽ちに全てが良くなるような、そんなものではないと。 そう理解してはいても、一抹の不安を覚え始めた頃。 「────、」 少しずつ、水が溢れ出すような、小さな音。 再び流れる血。死の停滞が、その均衡が崩れていく証左。 それが少女にとって、或いは自分にとって、善いものであるのか そうでないのかは、今はわからない。 シーツの下、液体が立てるものではない、やや硬質な音。 幾度か聞き覚えのあるそれは、少し不穏なものを感じさせた。 けれど、それでも、いつかの時に聞いた、 まるであなたの心が軋むような、凄絶な音ではないものだから。 そして、何よりも。 あなたの表情が、穏やかなもののままでそこにあるから。 だからただ、黙ってその光景を見守っていた。 再び巡り始めた血が未だ残る傷から溢れ出し、 毀された人体が独りでに形を変え、元の形を取り戻していく。 おおよそ奇跡などと呼べはしないであろうその光景を、 その行く末がどうなろうとも、事実として向き合う為に、ただ。 (-27) 2022/06/16(Thu) 23:53:29 |
カナイは、後悔している事が無いとは言えない人間だ。 (a20) 2022/06/16(Thu) 23:53:37 |
カナイは、けれど、今にして思えば、後悔ばかりでもなくて。 (a21) 2022/06/16(Thu) 23:53:45 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミそうして、それら急速な変容に区切りをつけるように。 一度鼓動が大きく脈打って、閉じていた瞼が開かれる。 また一つ、少女の口からは多量の血液が溢れ出て。 混乱も顕に咳き込み涙を流し、けれど確かに、生きている。 そうして死者を安らかな死の眠りから引き摺り出す事が、 どれだけ残酷な事なのだとしても。 また罪を重ねる事になっても、それさえ承知の上でした事だ。 「大丈夫」 彷徨う手指を柔く、けれど確かに捕まえて。 この手が、暗く冷たい眠りから覚めたばかりのあなたを 安心させられるほど温かなものであるかはわからないけれど。 「ちゃんと傍に居ます。」 何処かしら血で汚れるなんて今更な事。 あなたは今、ひとりぼっちではない。 それさえ確かに伝わるなら、それで。 「落ち着いたら、ゆっくり息をして…… ちゃんと待ってますから、焦らないでいいんです」 あなたを待たせてしまった分、今度は自分が待つ番だ。 そうしたら、改めて『おはよう』を言おう。 (-28) 2022/06/16(Thu) 23:54:51 |
カナイは、何より今は、しなかった事で後悔をしたくはなくて。 (a22) 2022/06/16(Thu) 23:54:59 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイただ一度。 捕まえられた手は、びくりと大きく跳ねました。 インザダーク きっと、少女の目はまだ見えていなかったのでしょう。 少女のその手はずいぶん、冷たくて。 冬のあいだじゅう、ずっと外に出していたような冷たさでした。 だからでしょうか、少女は……一度跳ねさせただけで、 その後はあなたの手を指で慎重になぞっています。 形を、そして熱を確かめているのです。 きっと、そのせいであなたの手は赤黒く汚れてしまいます。 まるで、少女があなたによって殺された事を、 改めて示すかのようでした。それでも、少女は続けます。 そうして震える指は、少しずつ、落ち着いていくでしょう。 それは、氷が溶けるように。 そこに居るのが誰か、分かったように。 だから、『大丈夫』のあと。 咳き込む自分の音を聞く事すら惜しんで、 酷い耳鳴りの中で、確かにその声を拾ったのです。 (-29) 2022/06/17(Fri) 0:41:46 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ……はじめは。少女はそれを、夢かと。 それもとびきり、幸せな夢かと、思ったのです。 地獄以外に行く場所などありはしない自分が、 そこへ行く前に持たせてもらえた最後の幻なのかと、 冷え切った身体を抱えて思ったのです。 だけど、違いました。 それは、夢なんかじゃありませんでした。 それは、幻なんかじゃありませんでした。 そこには、温もりがありました。 嫌悪を呼び起こすような、自分を穢す 熱 ではなくて。いつか、ずっとまえに、他愛ない会話で得たような。 それこそ、お散歩をしていた時の。 ……ただ、じんわりと暖かい―― (-30) 2022/06/17(Fri) 0:42:35 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイ――おひさまのような、あたたかさ。 マユミは、今、生きています。 in the sunshine. あなたと一緒の場所で。 (-31) 2022/06/17(Fri) 0:45:20 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日向の再会 マユミ──日は沈めばまた昇る。 暗く、寒く、寂しい死の夜は終わり、 少し眩しいけれど、暖かな日の差す時間がやって来る。 夢も悪夢も一様に、覚めても消えて無くなりはせず 一度夢から覚めた人間の歩む路の名は現実だ。 「────あ わ、 〜〜ッ 」いつかの時と、似ているけど違う。 なんとも格好の付かない声を上げて、それでもちゃんと。 若干バランスは崩しかけたかもしれないけれど、 ぐっと踏ん張って、今度こそ、確かにあなたを受け止めて、 (-32) 2022/06/17(Fri) 4:46:43 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日向の再会 マユミ「………おはようございます、弓日向さん。」 一つ息を吐いて、へにゃりと笑った。 紛れもなく、現実だ。 今ここにある、明るさも、あたたかさも。 確かにあの時、自らの意思であなたを手に掛けた事も そして、確かに今こうして互いに生きて居る事も。 (-33) 2022/06/17(Fri) 4:47:20 |
カナイは、きっと良い事ばかりではないけど、それでいい。 (a28) 2022/06/17(Fri) 4:47:28 |
カナイは、今ここにある安堵もまた、現実なのだから。 (a29) 2022/06/17(Fri) 4:47:36 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日向の再会 マユミ比喩ではなく自分が血に塗れている事もまた、現実で。 血に塗れた手も袖も、あなたの涙を拭うには憚られた。 だからその頬を伝うあたたかさは暫し流れるままにしておこう。 殺して、殺して、殺して、殺して、死んで。 その後に、一度は潰えた路の先へ、手を引かれて。 だから今こうして、その続きを歩んではいるけれど。 じっとりと血を吸った服をどうにかする間も無く来たものだから、 こちらも殺人現場から抜け出た惨殺死体宛らといった有様で。 近付いた分きっとひどく血の臭いを感じるだろうけれど、 これはお互い様という事で許されないかな、なんて現実逃避。 そんな詮無い事を考えながら。 あなたが落ち着くまで、言葉通り、ただ傍に居た。 触れようとする事に拒絶を示されなければ、 そっとその背を撫でる事は、あったかもしれないし。 そうでなければ、もう一度その手を取るだけで。 (-34) 2022/06/17(Fri) 4:49:59 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日向の再会 マユミそうしてあなたが幾許か落ち着きを取り戻した頃に。 ぽつりぽつりと切り出したのは、この後の事。 暗い夜を越え、朝に目覚めた者が、再び現実を歩む為に必要な事。 「…脱出経路は既に確保されていて、 おれが見た時は、無事な人の大半は資料室に居たはずだけど そろそろ出口に向かってる人も居る、かもしれません……?」 エマの帰還と、それが齎したもの。 それから他の生存者達の様子だとか、 自分が把握している範囲の事を整理する傍らに。 仮眠室に置き去りにされていた誰かの上着と、 それから傍らに置いていたタブレットをあなたに差し出した。 「それから……おれと同じなら、多分。 薬の影響で使えるようになっていた力は…… …もう使えない、みたいです」 それはつまり、あなたの望みは再び困難なものになったという事。 視線は一度、空っぽの注射器へ向けられて。 それから、自身の疵だらけの右手へと落とされた。 聞いた分には、そもそも力の抑制が主な用途のようで。 自分達に齎された作用は飽くまで副次的なものなんだろう。 「……でも…もう、一人ではなくて。 だから……どうすればいいか、これから一緒に考えましょう。 おれにできる事は、手伝いますから」 (-35) 2022/06/17(Fri) 5:21:04 |
カナイは、自分のそれは、どこまでも一方的な感謝だったのだと思う。 (a30) 2022/06/17(Fri) 5:48:45 |
カナイは、だからあなたが言葉を受けて、それに言葉を返してくれた事。 (a31) 2022/06/17(Fri) 5:48:56 |
カナイは、その重さや価値の如何を問わず、ただその事だけで十分だった。 (a32) 2022/06/17(Fri) 5:49:05 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイ目を覚ました少女は、おはようの言葉を確かに受け取ります。 ほろりほろり、幾つもの生きている証を零しながら、 同じ分だけ頷いて、声のないおはようを返します。 背中に手が伸びれば、やはり一度小さく震えますが、 しかしあなたの手を受け入れるでしょう。 代わりに、より強くあなたを腕に抱いて。 骨が突き破った和装はぼろぼろで、 指先はその背に直接触れる事になるかもしれません。 もしそうなら、その指には幾つもの深い溝…… 鞭で刻まれた大きな傷跡の感触が伝わります。 落ち着くまでは……きっと、血を吸った服を握りながら。 涙で血を洗い流す事は出来ませんが、零した分だけ―― あなたと共有した分だけ、薄まっていくはずです。 (-36) 2022/06/17(Fri) 11:13:54 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイ随分長くそうしていた気がします。 やっと落ち着いて、目元をごしごし。 自分が夜に居た間のあれやこれやを聞き取って頷いて、 上着を差し出されて初めて自分の格好に驚いて、顔を赤くして。 そして……使えなくなった力には、ほんの少し俯いて。 タブレットをゆっくりとなぞりました。 『わかったのです。 ありがとうございます、叶様。 とても心強く、そして嬉しいのです』 と全てを纏め、飲み込んでそう見せて微笑んでみせました。 あなたの視線を追って、……そしてそこでまた目を丸くして、 あなたの身体を慌ててぺたぺたとまさぐります。 上着を着るのもそこそこに、 タブレットを大慌てで叩いて、画面を見せて。 『血怪我大丈夫』 と、大変分かりやすい6文字の表示。 つまり、心配していました。とても。それはもう、すごく。 目前の少女は不安げに、視線をあなたの全身に注いでいます。 (-37) 2022/06/17(Fri) 11:14:33 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日向の再会 マユミそうして、あなたからの言葉もまた、確かに受け取られる。 声は無くとも、その息遣いが伝わって。 こんなに近くに──同じ場所で、傍に居るのだから、きっと。 ぎゅうと抱かれた腕の中。 指の先に触れた傷には、ほんの少し目を伏せて。 それでもただそっと、その背を撫ぜるだけ。 あなたを理不尽に傷付けるものは、もう無いのだと。 少なくとも、今この時だけは、そう思えるように。 (-42) 2022/06/17(Fri) 22:46:32 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日向の再会 マユミそんな、一時の静かで暖かな時間の後。 あなたが顔を赤くすれば、 流石に一度、そっと気まずそうに目を逸らして。 タブレットをこちらへ向ける、見慣れた動作が 視界の隅に映れば、またそろりと視線を向けた。 「……今はまだ、何ができるか… どうすれば、少しでも良い方向に進んで行けるのか。 おれにもわからない事ばかりですけど……でも、」 「神様は、おれ達の事を助けてはくれなくて。 人も、……皆が皆、信用できはしないけど。 それでも、助けてくれる人は、確かに居るみたいなので」 暗い死の闇は晴れて、日向の路は続いていく。 それでも進むべき路が何処かは今はまだわからなくて、 それでも、手を引いて、同じ路を歩いてくれる人は居て。 それでいいんだろう。結局はそれが現時点の結論だった。 「だから……、 エッ待っ ど、」 (-43) 2022/06/17(Fri) 22:46:59 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日向の再会 マユミどうしたんですか、だとか言う間も無く。 そもそもの話どうしたもこうしたも理由は明白なもの。 それは不安げな様子と、表示された文章もまた物語っていて。 「………えーと……」 どうしようかな、なんて心の内では呟くけれど。 それは言い逃れを考えたわけでは、なくて。 はぐらかすのは、違う気がする、というか。 自分の行いが招いた結果には向き合うべきで、 つまり当たり前に怒られるべき事は、怒られるべきで。 たとえ気遣いからであっても、誤魔化しを雑えるべきではなくて。 「その……ちょっと死……にかけました、けど。 あっいや、誰かにやられたとかじゃなくて、その… 殆ど自業自得というか……そんな感じで……」 「…でも、……助けられちゃった、ので。 元気って言ったら嘘になります、けど、大丈夫です。」 「もう大丈夫。 だから、一緒に帰りましょう」 既に起きてしまった事実と、それから。 今はもう、心配するような事は無いという事実。 その二つを伝えるのが、きっと今の自分にできる一番の事。 (-44) 2022/06/17(Fri) 22:47:32 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイぢっ…………と、視線を送ります。 それからふっ、と短く息を吐いて笑いました。 『生きていてくれたのです。 その上、僕を何度も助けてくれました。 ここは信じておくのです、叶様を。 はい、一緒に帰りましょう』 タブレットを見せながら、微笑んで。 シーツから脱し……ようとして、 袴もまたボロボロになっている事に気付き。 『自爆とはいえ、一張羅が完全におしまいなのです。 今後の路上生活に完全に支障をきたすのです。 流石の僕も半裸で公園のベンチやら 植込みの茂みやらで寝る勇気はないのです』 そんな文字を表示して、ひとまずしかたなしと シーツを腰にぎゅうと結びました。 破れてしまったサラシのせいで豊満な肉体も露わでしたが、 今は無理矢理閉じた上着のお陰でなんとか隠せています。 (-45) 2022/06/18(Sat) 3:10:57 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイ『後は僕の弓だけは回収したいのですが、 流石に望み薄な気がするのです。 服もない、弓もない、住居もない、ないない尽くし。 ですがまあ。命はありますのでよしとするのです?』 見せながら、あなたの血に濡れた袖を指先でつまみます。 『叶様もいてくれますし?』 なんて文字も躍らせて、甘く微笑んで。 ひとまず、本人的には脱出準備は完了のようです。 服装は非常に怪しいですが。 後はあなたに何かやりのこしたことがあれば、 少女はそれに付き合うつもりのようです。 他の面々が残っているなら、挨拶してもいいでしょう。 本来の持ち物が資料室にあるならそれもよし。 何もなければ、揃って帰っていくのでしょう。 放たれた矢のように。本当の太陽が待つ、日向へと。 (-46) 2022/06/18(Sat) 3:14:17 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日向の再会 マユミ穴が開くほど見詰めるとはこの事か。 自業自得とはいえ、ほんの少しばつの悪い気持ちで居たけれど。 暫しの後、ふ、と零されたあなたの吐息と、その笑みに。 やや気が抜けたようにこちらもゆるゆると息を吐いた。 「…そうですね、ちゃんと……生きてます。 正直、これで良かったのかもわからない、ですけど… ……ろ、路上生活」 きっと表沙汰にはならないとはいえ、犯した罪は消えはしない。 自身の抱える歪なものもまた消えて無くなったわけではなく、 何より法や社会はきっと自分を許さないだろう。それでも。 生きる事を望んだ人達が居るから、今こうして生きている。 その事だって確かな事実だから、それは言わずにおいて。 そうして、再び液晶に表示された文章には流石に面食らった。 理不尽に家から追い出された、という事は聞いていたけれど。 この場所で再び会う以前、街中で会った時は、確か。 知り合いの家を転々としている、と聞いていたものだから。 オブラートの下、現実は思ったよりも逼迫しているようで。 (-47) 2022/06/18(Sat) 5:40:04 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日向の再会 マユミ「……見付からなかったら、新しいものを。 ここから出た後に、ゆっくり探せばいいんです。 生きているから……これからが、あるんですから。 …弓日向さんが嫌でなければ、家に来ても良いです、し」 ちょっとぎこちなく笑みを返し、そこまで言って、ふと。 帰った後の事を少し考えて、真っ先に思う事と言えば。 「次の仕事、探さないとなあ……」 あの場所では、もう働きたくはない。 確かに恩義はあるけれど、後ろめたい仕事を続けたくはない。 とはいえ逃げ場はそう多くない事は想像に難くなく、 今後も後ろめたい仕事を続けなければならないのであれば。 毒を食らわば皿までとはよく言うもので。 いっその事、この会社の翼下に入ってしまおうか。 そんな詮無い事を考えながら。 血濡れた白衣を放って、もはやどす黒く染まった上着も捨てて。 仮眠室に置き去りにされていた適当な衣服を拝借して、 惨殺死体宛らの見て呉れを少しばかりましにした後に。 あなたを連れて、あなたの手を引いて、戻って行く。 信じてくれた人の所へ、待っている人の所へ。 これまで通りの、とはいかないだろうけれど。 それでも、きっと悪い事ばかりでもない、そんな日常へ。 (-48) 2022/06/18(Sat) 5:44:16 |
カナイは、望みは叶い、日は巡り、夜を越えて、また朝が来る。 (a39) 2022/06/18(Sat) 5:44:37 |
カナイは、いつか日が沈むまで、いつか月が昇るまで。 (a40) 2022/06/18(Sat) 5:44:46 |
カナイは、ただ日向を目指して、晴の路を歩く。 (a41) 2022/06/18(Sat) 5:44:52 |
カナイは、人がいつかは行き着く西方は、けれど今は未だ遠くの彼方に。 (a42) 2022/06/18(Sat) 5:45:48 |
【秘】 日向の再会 マユミ → 晴の再路 カナイ『即今、当処、自己。 禅に曰く、変えられるのはその3つだけなのです。 今、ここ、自分、その3つ。僕は』 弓禅一如。弓道を修めていた時に習ったのでしょう。 そんな言葉を見せながらそこで一度区切ります。 再び見せた画面には、ほんの少しの血と、少しのヒビが ここで起きた出来事のように、残っています。けれど―― 『少し、急ぎ過ぎていたのかもしれません。 叶様の言う通り、ゆっくりでも。 探して行こうと思うのです。 やるべき事とは別に、僕が変わっていける道を』 その顔は、とても穏やかで、そして晴れやかでした。 それから僅かの間を空けてタブレットをなぞります。 『叶様が、居てもいいと言ってくれるのなら、 御厄介になるのです。 その分荷物持ちでも家事手伝いでも その他なんでもさせて頂くのです。 ですから 不束者ですがこれから、宜しくお願いします。』 深々、頭を下げました。 ポニーテールが零れ落ちて、上がった顔に笑顔をひとつ。 引かれる手を、きちんと握って。 共に、夜明けの道をいくのでしょう。 (-49) 2022/06/18(Sat) 11:25:30 |
【置】 晴の再路 カナイ斯くして悪夢は覚め、けれどその記憶は消えはしない。 癒えた傷も、その傷痕は残り続けるように。 この数日間に起きた事の全ては、たとえいつか記憶は薄れても それはきっと、人の一生を構成する要素の一つとして 自身の一部となり、内に溶け、馴染んでいったのであって。 良くも悪くも、消えて無くなりはしないだろう。 (L3) 2022/06/18(Sat) 20:58:11 公開: 2022/06/18(Sat) 21:00:00 |
【置】 晴の再路 カナイだから、そう。 自分がこの場所でしてしまった事も。 自分がこの場所で誰かに貰ったものも。 自分もそうなっていたかもしれない、誰かの行く末も。 いつの間にか届いていたメッセージも。 何もかも、過ぎた事として、この場所に置いて行きたくはなくて。 だから忘れはしないだろう。向き合い続けるだろう。 いつか自分の一部として、記憶の内に溶けて行くその時まで。 きっと外は、朝日が昇る頃。 斯くして悪夢は覚め、けれど時折それを思い返す者が居る。 傍で歩む誰かと共に、現実という路を歩きながら。 (L4) 2022/06/18(Sat) 20:58:41 公開: 2022/06/18(Sat) 21:00:00 |
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