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![]() | 【人】 人形技師 サレナ・アントワーヌーー人形技師レオ・オベールと、人形サレナの物語ーー 「サレナ、世の中は、とても綺麗だろう」 硬そうにギギギと首を、レオの方へ向ける。 「お前の名前は、サレナ。サレナ・アントワーヌ。これから、人形技師として生きていくんだ」 レオは、続ける。 「おれは、レオ・オベール。人形技師だ。お前の父親であり、師でもある。これから、お前に教えなきゃいけねえことがたくさんあるんだ。」 (31) 2025/07/04(Fri) 20:36:58 |
![]() | 【人】 人形技師 サレナ・アントワーヌサレナは、何かを伝えたいが、どのようにしたらいいのか分からない。 「サレナ、ものを人に伝えたいときは、口を使うんだ。そら、ここだよ。」 レオは、自身の口を大きく開けてみせる。サレナは楽しくなり、ふふっと吹き出した。 「そうだ、喋れたじゃないか。」 レオは、感極まってサレナを抱きしめた。そうして、サレナとレオの生活は幕を開けたのだ。* (32) 2025/07/04(Fri) 20:42:19 |
![]() | 【人】 今宮 水芭虚を衝かれました。 欧羅巴式のカーテシーなど、今まで受けたことなどなかったからです。 技師、というと専門の職業服を着た男達がする仕事のように聞こえますが、西洋では優雅なドレス姿の、一見工芸とは縁遠そうな人間でも技師になれるようです。 いえ、そも彼女は絡繰人形なのですが。 彼女の所作は人と見紛うほど滑らかで、それどころか人以上に完璧で、気品に満ち溢れているのでした。 (33) 2025/07/04(Fri) 22:47:15 |
![]() | 【人】 今宮 水芭彼女が自分を憎からず思ってくれていると分かり、一度さざめいた心は徐々に凪いできました。 「……今宮……水芭 。 その人形は君がつくったのですか。昨日の踊る人形達も」 私の名はよからぬ噂の元になるので名乗りの方は小声で済ませ、続けて聞きたかった事を問いました。 ポケットから覗く人形とサレナを交互に見、彼女が昨日、人形を「子供達」と言っていたのを思い出します。 一体彼らはどれほど精巧な絡繰なのでしょう。 気になりつつも、たとえその真相が、子供の頃に児童雑誌で読んだ"森の魔法"のせいと言われても、不思議でないように思えました。* (34) 2025/07/04(Fri) 22:58:51 |
![]() | 【人】 人形技師 サレナ・アントワーヌ少年は、今宮水芭と名乗った。 水芭は、サレナの胸ポケットの人形を見つつ、尋ねた。 「水芭さんですね。素敵な名前。 『作った』…、そうですね、『生み出した』が正しいでしょうか、なんて」 サレナは、悪戯に瞳を光らせて答えた後、ふと気付いたように、目線を上に向ける。 「水芭さん、倒れてたせいかしら、砂利がついておりますわ」 サレナは水芭の髪を払う仕草をした。ひんやりとしたサレナの手が、水芭の髪にさらりと触れた。 (35) 2025/07/05(Sat) 9:53:52 |
![]() | 【人】 人形技師 サレナ・アントワーヌ「それでは、水芭さん、お会いできて光栄でした。」 サレナは背筋を正し、水芭に向き合い敬意を示す。 「私は、子供達、いえ人形たちが皆んな新たな生活に旅立ってしまったので、明日、母国へ帰国しますわ。 また定期的に日本で行商に参る予定ですの。お見かけしたら、ぜひ、寄ってくださいな」 「それでは、ごきげんよう」 手を顔のあたりに上げて、サレナはその場を後にした。* (36) 2025/07/05(Sat) 9:54:38 |
![]() | 【人】 今宮 水芭「生み出した……? 」 含むような言い回しにひそめた眉は、相手の思うつぼだったかも知れません。 石膏かブリキか歯車か、詳しいことは分かりませんが、人と異なる素材でつくられたその胸中も、抱えた腹の内も、どこか捉えがたく不可思議なのでした。 西洋式に刈り込んだ小庭で、サレナと子供達が、瀟洒な家具のミニチュアに囲まれながら飯事遊びをしている──そんな様子が胸に浮かんだのも束の間、彼女は一歩近づき私の髪に触れてきます。 (37) 2025/07/05(Sat) 13:49:13 |
![]() | 【人】 今宮 水芭確かに私は先ほどまで地面にめり込んではいましたが、大の字に伸びていたわけでもありませんし、頭髪に砂利というのは腑に落ちません。 或いは風に捲き上げられた砂がついてしまったのでしょうか。 思案するうちに彼女の顔が近づきます。 上向いて日の差した双眸が、眼前に大写しになりました。 異国の海のようなエメラルドに、星々の散った虹彩です。 それは初めて見た時と変わらず惹きこむような求心力に満ちていましたが、 昏い誘引めいたものはなく、 それ自身が外界への興味に湧き立っているような、澄んだ煌きがあるばかりでした。 サレナが身を引くと、ふたつの翠玉はふたたび遠く離れ、 厚く揃えた前髪の庇の下に収まってゆきました。 (38) 2025/07/05(Sat) 14:19:58 |
![]() | 【人】 今宮 水芭彼女はもう帰ってしまうようでした。 しかし、またこの国に人形を売りに来ると言います。 仏蘭西よりこの極東にはるばるやって来るのに、船に揺られる時間はかなりのものでしょう。ですが彼女は、そのような旅路など物ともしないようでした。 「ええ、この街の人らは西洋の新しいものが大好きですから、また存分に楽しませてやってください」 といって、こういう時は自分自身の感想を述べるのが先ではないか、と思いなおします。 (39) 2025/07/05(Sat) 14:41:15 |
![]() | 【人】 今宮 水芭「またお会いしとうございます、サレナさん……貴方の人形を見に」 繕うかのように付け加えた最後の一言に、わずかながら失笑が零れました。 あとに続けた、そういえばポケットの一人は売らずに連れて帰るのですね……という問いは、厚手のドレスの煽る風に攫われ、届いたか分かりません。 「では、さようなら」 サレナは軽やかに身をこなし、男のように手を挙げて去ってゆきました。 私は彼女の雑踏に消えゆく後姿を見送った後、 人いきれに背を向け、来た道を戻ってゆきました。* (40) 2025/07/05(Sat) 14:52:54 |
![]() | 【人】 人形技師 サレナ・アントワーヌサレナは、数日の航海を経て、我が工房に帰ってきた。 厚いカーペットをめくり、現れたのは、地下への隠し扉。 両手で、ギイィ…と開く。 カツン…、カツン…、と、鉄製の階段を踏み締めるブーツの足音が闇に響く。 そこは、岩盤を荒削りに掘った、まるで洞窟のような場所だ。 (41) 2025/07/05(Sat) 19:47:03 |
![]() | 【人】 人形技師 サレナ・アントワーヌ広い空間に出た。 暗闇にポツンと作業台が置いてあり、仄かに青白いランプが光っている。 サレナは、人形のベースとなるベージュの素体を、優しく作業台に置く。 そして、シルクのハンカチを壊れ物を扱うように開く。中には、濃紺の髪の毛が数本出てきた。 サレナが目を閉じて祈りを捧げると、パァァっと洞窟全体に閃光が走った。 光が落ち着くと、作業台には、ちょこんと大人しく座っているブルーヘアーが特徴的な人形が出来上がっていた。 (42) 2025/07/05(Sat) 19:47:21 |
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![]() | 【人】 今宮 水芭きょうは地久節の翌日です。 錦鯉の群れとばかりに掲げられていた日章旗は、今朝には大方片づけられていましたが、道ゆく中では幾つかひらめく日の丸に出会いました。 一人になると、サレナに遭う少し前から背後に感じていた気配が一段と濃くなりました。 素知らぬ振りをして歩いていると、目の端でとらえていた姿が時機を測るようにして徐々に近づいて来ます。 そのうちあたかも元々そうであったかのような自然さで、私たちは横並びに歩いていました。 (44) 2025/07/05(Sat) 19:55:29 |
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![]() | 【人】 今宮 水芭背広姿をした上背のある男です。 肩肘の張った、自我の削ぎ落とされたような機械的な足運びから、相手がどのような種類の者かは知らずとも察せられます。 私が無言でいると、男は幼子に語り掛けるような声色で「しばらく歩かないかい」と言いました。 その物腰が作りものであることを隠す気はないようで、有無を言わさず私の袂をくっと掴みます。 (46) 2025/07/05(Sat) 19:59:44 |
![]() | 【人】 今宮 水芭二人連れ立って向かったのは、人足繫ゆく商店街。 途中に、季節外れの鍋屋が仕込みをしていました。もこもこと長閑に立ち上る飛魚出汁の香気に、私の胃は悲しげに鳴きます。 鍋屋の前には古びた掲示板があり、地域新聞の号外が貼り出されていました。 深夜に散る血飛沫 ザックリ帶迄真ッ二つ 年刺殺か斬殺か 幽靈侍の辻斬りか? (47) 2025/07/05(Sat) 20:16:33 |
![]() | 【人】 今宮 水芭男はくぐもるようにして、一方的に口を動かします。 『ともに民を救おうといった事は覚えているかい』 『あれを実現できる手筈が整った』 『君にしか出来ぬことだ。三日後に来給え』 私の袂が、すとんと重くなりました。 三日後の場所とやらを書いた紙にしては、厚ぼったく沈むような重みです。おそらく札束でしょう。少し会話するだけでも、この男は律儀にこのような物を差し入れてくるのでした。 (48) 2025/07/05(Sat) 20:30:39 |
![]() | 【人】 今宮 水芭男は、まるで人が人を追い越すときにそうするような足の早め方で、またたく間に消えてゆきました。 男が去った後でも、あの者のもつ灰塵色の空気がしつこく纏わりついてくるようで、早くそれを掃いたい思いに駆られました。 普段は足の向かない雑然とした繁華街に、自然と爪先が向きました。 赴くままに人混みの方へ踏み入り、相変わらずの暑気も今ばかりはさほど気になりませんでした。* (49) 2025/07/05(Sat) 20:41:40 |
![]() | 【人】 今宮 水芭三日後の昼下がり、私は狭くくらい会議室に居ました。 窓のない部屋は古びており、吊り下げられた裸電球がまたたく度に、蒸した室内の熱を増長してゆきます。 室内には男らが数名おりました。彼らのその誰もが私を興味深げに、されどどこか敬遠するように、無遠慮な視線を送って来ます。 会議室の中央には、大きな新しい机が他のものを退けるようにして幅をきかせています。 私はその机に、一人で座らされていました。 (50) 2025/07/05(Sat) 21:05:31 |
![]() | 【人】 今宮 水芭『三日前の事件……そこで君の 視た 者を教えてくれ。焦る必要はない、ゆっくり思い出してくれていい』 青年の刺殺現場に私がかけつけたことの意味を察知し、接触してきた存在は、既に一年ほど前より少なくない頻度で私のもとに姿を現しているのでした。 とはいえ、こんなにも仰々しい場で証言を促されたことはかつてありません。 目の前の大机には、大量の写真がちりばめられています。 どれも人の写真です。記念写真のような、被写体が正面を向いたものはごく一部で、多くは物陰から密かに撮影したような、遠目で分かりにくいものばかりでした。 (51) 2025/07/05(Sat) 21:10:24 |
![]() | 【人】 今宮 水芭私は目を閉じました。 月夜を背に腕を振りかぶった人影を、瞼の裏に映し出します。 背は五尺足らず、やせ型、派手な小袖、高帯……あの顔つきは確か……。 ふと、目に入る写真がありました。 と同時に扉の向こうで、ささめきあう声が聞こえます。 『そんな大それた……人の道……』 『亜米利加……西洋……女が……都合が良い……』 (52) 2025/07/05(Sat) 21:25:10 |
![]() | 【人】 今宮 水芭会議室にいた男が一人、カツカツと外へ駆けていき、廊下の者らに怒声を浴びせました。 机を挟んだ正面には、三日前に逢ったあの灰塵のような空気を纏う男が、小動もせずに此方を凝視しています。 私は、顔を上げました。 目を二、三しばたき、男の方を見、首を振りました。 男は表情を変えぬまま此方をジッと見つめていました。 十秒ほどにらみ合ったのち、視線を外したのは私の方でした。 (53) 2025/07/05(Sat) 21:41:47 |
![]() | 【人】 今宮 水芭『よかろう。また君に助力を請うことがあるだろう。 世の為人の為だ、今後とも協力を願う』 そして、三日前よりもまして厚い封筒を手渡されます。 また、自室の抽斗の肥やしが増えてしまう……などと思いながら、押し付けるように渡されたそれを袂にしまい、席を立ちます。 帰り際は男のうちの一人から、やはりどこか隔てのある態度で見送りを受けました。 自分とさほど変わらぬ歳の男は、用を終えるとすぐさまそっぽを向き、舎内に引っ込んでゆきました。 まるで触らぬ神に祟りなし、とでも言いたげに見えました。* (54) 2025/07/05(Sat) 21:43:38 |
![]() | 【人】 今宮 水芭帰り際、五年間通った中学の横を通りががりました。 敷地内には、砂ぼこりを捲き上げながら、堅苦しい号令とともに一挙一投足をそろえる集団がありました。最近は、中学校でも隊列や行進の授業があると聞きます。 進学が叶わなかったことで、私は壮丁となれば兵隊に取られることとなるでしょう。 自分の諦めた高校で今日も机を並べているであろう級友らのことを考え、私はわだかまる思いで、とはいえ目を逸らす力もなく、ぼんやりと運動場を眺めていました。 (55) 2025/07/05(Sat) 21:48:08 |
![]() | 【人】 今宮 水芭吹き上がる土埃と、灼けつく劫火の気配── ここ数か月の夢について、その意味を考えたことはあります。 彼岸花の群生は死……それも大量の人死の表象でしょうか。 赤い空は二年前に見た空に通ずるものがあります。 しかし揺れる木々と空を泳ぐ鮫が引っかかり、想像はそこで打ち止めとなってしまうのでした。 (56) 2025/07/05(Sat) 21:56:04 |
![]() | 【人】 今宮 水芭前回見た絵画のような絵図は二年前。あの夢は長きにわたって現れ、その時になって初めて実体を以てわが身に迫りました。 あそこまで抽象的な光景を見るのは、これで二度目です。 青年の刺殺も、その他も、もとより写真のように現実的で、そして現実とほど連動するかのようにの未来の様子なのでした。 (57) 2025/07/05(Sat) 21:56:34 |
![]() | 【人】 今宮 水芭夢を見る期間と、抽象度。 それが、意味するもの凄惨さに比例するとしたら、今の夢は……? 頭上で、間の抜けたエンジン音が鳴りました。 郵便飛行機が、広がる空をひらくように泳いでいます。最近は航空便が空を行き交うことも珍しくなくなりました。 (58) 2025/07/05(Sat) 21:56:58 |
![]() | 【人】 今宮 水芭鶯色の体躯。赤く燃える腹。 鮫はより大きく下の者を制するような気迫がありました。 あれの出現には耳を圧するような恐怖が伴うことは、よく覚えています。 その意味するところを理解するには、空はのどかで、人いきれはさざめいていて……。 (59) 2025/07/05(Sat) 21:58:56 |
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