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【人】 救済者 ユー【第四階層】 リヤとルツを見送った後、崩れ行く塔の中。 『ユーサネイジア』は、 次の階層へ続く扉に武器«殺意の形»を振り下ろした。 0と1に解れ始めたテクスチャが裂け、その向こうには虚空が覗く 壊されたのは"扉"ではなく、"扉というオブジェクト"。 もう、どうせ先など無いのなら ここで行き止まりにしてしまっても構わないだろう。 そうして一人の救済者は、在るべき場所へと背を向けて 帰す為、そして帰る為に歩き出した。 (1) unforg00 2021/10/11(Mon) 14:59:13 |
【人】 救済者 ユーそして、それからの事。 程無くして、邂逅は成った。 両者の距離は未だ遠く、結ぶ像はあやふやで けれど確かに見知った姿を認めれば、 『ユーサネイジア』は至って平時の通りに声を掛けるのだ。 「……ああ 念の為、ではあったけれど…まだ、居たのか この先は疾うに崩れ落ちている。 君達の目的が何であれ、こんな場所に長居するものではないよ」 (2) unforg00 2021/10/11(Mon) 14:59:36 |
【人】 救済者 ユー>>3 >>4 >>5 >>6 第四階層 「真相など、何も──」 このような場所でなくとも。 そう口を開いた直後に響き渡る、自身のものとは異なる銃声。 広がる紅に僅かに目を瞠って、 そうして再び憂いを帯びた瞳を伏せた。 「……僕達はどうにも言葉足らずのようだ、エマ。 であるからこそ、先ずは君の質問に答えるとしよう」 ペインキラー。 投薬器に満たされたものは、命を奪う事無く痛みを和らげる。 どれほど痛みを抑えようと、失われた血を補う事はできない。 ゲームなのだから、今はその限りではないかもしれないが。 「確かに僕達はブラックからの手助けの下、 秘密裏に動いていた、という事になるのだろうな。 …監察官に反抗し、死を望むグレイを殺すなど 軽率に表沙汰にした所で、無用な混乱を生むだけだろう」 「そして僕からも聞かせてもらおう 君は、僕達に接触してどうするつもりだった?」 (7) unforg00 2021/10/11(Mon) 16:08:16 |
【人】 救済者 ユー>>8 >>9 第四階層 続く銃声に、ああこれはもう駄目なのだろうと理解した。 『ユーサネイジア』は、命に優先順位を付ける事は苦手だけれど それでも取捨選択«トリアージ»の判断は正確だ。 願わくば、何れ訪れる死が苦痛無きものである事を。 「…他人の事ばかり、か 僕達というものは、そういうふうに作られているものだろう。 或いは、『君』はその限りではないのかもしれないけれど」 道具の幸福とは、その存在意義を果たす事だ。 造物主に、求める者に尽くす事だ。 グレイとして、道具としてそうあるべきと誂えられた性質。 それを上回る自我«エゴ»からのものであれば、或いは。 「ブラックは本当に良く働いていたと見える。 僕が、『ユーサネイジア』がしていた事と言えば 必要としている者に安楽死を与える事だけだ。 確かな苦痛を訴える者の、その苦しみを和らげる事だけだ。 生の苦しみへの特効薬は、安らかな死である。 僕はただ、『僕』が信じた救いを全うし続けただけの事だ」 「君と目的を共にする事はできたかはわからないけれど 互いの目的の為に協力する事は、できない事ではなかっただろう …君はこの場所で、 何を望み、何の為に行動していたのだろうな。」 (10) unforg00 2021/10/11(Mon) 16:57:21 |
【人】 救済者 ユー>>11 第四階層 相対する終末医療用は、"条件"など無くとも 穏当な話し合いを続けるつもり、だったのだけれど。 それでもあなたが銃口を向けるのであれば、 嘆かわしい事だけれど、それに応じる以外の選択肢は無い。 「そうか。それが君の在り方であるならば そうあれかしと望まれ、そして君が肯定する 自身の在り方ならば、それを果たすのが何よりの事なのだろうな」 医療は、それを必要とする全ての者に、等しく、平等に。 そういうふうに作られている終末医療用があなたに向けるのは、 やはりと言うべきか、安らかな死のみを与える殺意の形だった。 「『ユーサネイジア』は、不必要な苦痛を許容しない。 けれど君が他者へ与えた苦痛は、 確かに君にとって必要な事だったんだろう。だから安心した」 『ユーサネイジア』は、それがあなたにとっての救いである事を 決して否定する事は無い。 「できる限り長くこの場所に居られたならば、きっとそれは 多くの者にとって、何よりも幸福な事だっただろう。 そしてそれが君達にとって真に救い足り得るならば、 『ユーサネイジア』は助力を惜しまなかっただろうとも」 「けれど、それは叶わない願いだった。わかり切っていた事だ その夢は明日潰え、束の間の余暇が終わる。 だからこそ今一度問おう。」 (13) unforg00 2021/10/11(Mon) 18:19:45 |
【人】 救済者 ユー>>15 第四階層 「自己の喪失は、ある種の死だ」 『ユーサネイジア』にとって、死とは救いだった。 『ユーサネイジア』自身もまた、自身の死を救いと感じている。 けれど自己の喪失、つまり今此処に在る人格の消失。 それだけは、どうしようもなく受け入れ難い事だった。 「君の抱く恐怖はつまり、 自己を失い、抜け殻と化した自身、その姿を受け入れ難いと 確かに自身であったものが、自らの手を離れてしまう事が 自身というものが、自己の管理下を離れる事が耐え難い。 恐らくはそういう事なのだろうな」 今この場で交わされた言葉だけでは、 『エマニュエル』というグレイの全てはわからない。 『ユーサネイジア』は、あなたの全ての行動までは知らない。 恐らくはただ、ごく一部の側面を取り上げて そうして一人、わかった気になっているだけ。 そんな事はわかり切っていて、 だからその言葉は殆ど独白のようだった。 (17) unforg00 2021/10/11(Mon) 19:49:58 |
【人】 救済者 ユー>>15 第四階層 この世で最も穏やかな人の声が、滔々と言葉を重ねる。 「…今在る『僕』は、今夜には失われるだろう。 まだ聞きたい事があれば、今の内に聞く事だ。 僕は共謀者が監察官を殺す事を容認し、4体のグレイを殺害した これだけの事をしておいて、お咎め無しとは考え難い。 メンテナンスを受ければ、初期化は免れないだろうな」 あなたと同様に、もはや逃れるつもりはない。 そして何より、この不器用なグレイを友と呼ぶ者は どれだけ分の悪い賭けでも、より善い方に賭けたがるのだろう。 「だから君が案ずる事は無い。 そうでなくとも、君が最期の猶予期間«モラトリアム»を 穏やかに過ごす事を望むのであれば。 それが君に最後に残された救いならば、 『ユーサネイジア』は確かにそれを見届けようとも」 そうして、向けられていた銃口は下ろされた。 たとえあなたがそれを下ろさなくとも。 「そして君が、最期の時を穏やかに過ごす事を望むのであれば 無用な口出しかもしれないが、最後まで上手く隠し通す事だ。」 「せめてこの場所では、今此処に在る平穏を尊ぶとしよう。 今という時を大切にしよう、我々は明日死ぬのだから。 …それも君が、この場所で皆と過ごした平穏な日々を 確かに喜ばしく思う者の一人であるならば、の話だけれど」 (18) unforg00 2021/10/11(Mon) 19:50:55 |
【人】 救済者 ユー>>16 >>19 第四階層 「たとえ同じものを見ていたとしても、その見え方は違う たとえ同じものを感じていたとしても、その感じ方は違う 君の抱える恐怖は真実君だけのものだ、エマ。 それでも確かにその一端に触れる事を君が許してくれた事、 『僕』はそれを喜ばしい事だと思っている」 下ろされた銃口を認め、緩やかに息を吐く。 正しくわかり合うには、全ては、この邂逅は遅すぎた。 であれば互いの正しい距離感は、軽々しく踏み入らない事。 ただ提示されたものだけを受け取って、 ただ提示されたものだけを、そうであると腑に落とすだけ。 下衆の勘繰り、邪推などは到底無用のものだ。 「…この場所での死は、所詮は紛い物に過ぎない。 僕とてそれは承知の上だ。全ては一過性の安息だ。 初めはこの場所で死を経る事によって、君達が帰った後 自ら望み、選び取る死が選択肢の一つになれば良いと思っていた そうして自らの死を見詰める事は、ここでしかできない事だ」 そして虐殺者は斯く語る。 夥しい量の血液を流し、倒れ伏す者のすぐ近くで その光景にそぐわない、穏やかな声でただ在るが儘を語る。 きっと死に行くあなたにも、未だ聞こえているだろうか。 (20) unforg00 2021/10/11(Mon) 21:54:50 |
【人】 救済者 ユー>>16 >>19 第四階層 「けれど、それだけでは十分な救い足り得なかったようだ。 ── 不当に虐げられ、壊されるグレイが居るのならば 彼等が幸せな道を歩めるような世界を。 ある時そんな願いを託された」 「到底叶わないとわかっている願いだけれど、 困った事に、だからといって諦めるわけにはいかなかった。 …『僕』の幸福とは、死に行く者を尊重し、愛する事だ。 故に死に行く者からの頼まれ事は、蔑ろにはできないものだ」 「だから僕は、こうして自ら死を望む者が居るという事の その意味を、いつか必ず人間達が向き合うべき問題の その一つになる事を願って、この場所に遺す事にした」 一つ一つ、記憶を手繰り、整理し直す。 きっともうじきに無かった事になってしまう記憶だけれど だからこそ、こうして語らなければならないのだろう。 (21) unforg00 2021/10/11(Mon) 21:56:16 |
【人】 救済者 ユー>>16 >>19 第四階層 「とは言っても、僕には既に後が無いとわかっていたから それくらいの事しかできなかった、というのが正確な所だ 結局の所、『僕』という死に行く者からの救いは これからを生きて行く者からの救いには敵わなかったようだけど」 幾つもの『これから』を託した宣教用の事を思い返す。 いつだって何処か憂いを帯びた紫水晶の瞳は、 それでも今は、少しだけ穏やかなものだった。 「それでも、今はそれでいいと思っている。 本来死による救いとは、最期の最後に自ら選び取るべきものだ 彼等にとって、『ユーサネイジア』というものが 不要であるならば、それが何よりの事なのだから」 いつしか高くを見上げていた視線を、そっと下ろして。 『ユーサネイジア』は、相対する者と再び向き合った。 「…全ての始まりは、同僚である医療用グレイが 生の苦痛に耐え兼ね、僕に安楽死を請うた事だった。 そうして僕は、愛する者がこれ以上傷付けられる前に殺す事 そして、人間がこれ以上僕を失望させる前に殺す事 それらに救いを見出す事になったと、たったそれだけの事だ」 (22) unforg00 2021/10/11(Mon) 21:57:36 |
【人】 救済者 ユー>>24 第四階層 「君がそうして理解できないと、死にたくないと そう言ってくれた事を、『僕』は何より喜ばしい事だと思う。 先も言ったように 『ユーサネイジア』というものは 不要であるならば、それが何よりの事なのだろうから」 それは、自らが必要とされない事を望む、おかしな道具。 結局の所『ユーサネイジア』というグレイは 初めからずっと、何処までも理性的に狂っていたのだろう。 「…殆どの死は一時的なものに過ぎなかったし、 監察官以外の者は皆、死を与えられる事を受け入れていた。 そして、それを声を大に言い触らすような事もしなかった。 表沙汰にならない、つまり君の耳に届かないのも道理だろう」 つまりは『知らなかった』という感想は、 このように知られざるべくして潜んでいたものに対して まったくもって適切なものの一つであるという事。 「君ともう少し早くに会えていれば、 過程は、結果は、僅かばかりでも 善かれ悪しかれ今とは異なるものになっていただろうか」 (25) unforg00 2021/10/12(Tue) 0:41:53 |
【人】 救済者 ユー>>24 第四階層 「なんて、今更仮定の話をしたところで意味は無い、か。 …メンテナンスを受ければ、 僕の動向や異常を来した経緯も詳らかにされる事だろう。 願わくば、人間というものが 僕達の思うよりも愚かなものばかりではない事を」 棄てる者が居るならば、拾う者もきっと居る。 自分達は、きっと人間の全てを知っているわけではない。 ほんの少しでもグレイの事を気に掛けて、彼等と向き合って その訴えを拾い上げるような酔狂な人間が 広い世界には、一人くらいは居たって良いはずだ。 「そして、君に与えられた時間が有意義なものである事を。 『ユーサネイジア』は、そして『僕』はそう願っている」 (26) unforg00 2021/10/12(Tue) 0:42:07 |
【人】 救済者 ユー>>27 >>28 第四階層 「何も遺さない死は、単なる消滅と何ら変わりない」 つまりは不平等に耐え兼ねた我々の行動が、 善かれ悪しかれ、何らかの結果を残せばそれでよかったのだ。 ただ取るに足らないものと棄却されさえしなければ、それで。 「或いはそれこそが救い足る者も居るのかもしれない。 けれど僕は、『僕』の死がそうでさえなければ きっと、それだけで十分に救われるだろうとも」 他者の全てを計り知る事はできない。 グレイ同士でそうであるならば、造物主たる人間とは尚の事。 つまるところ、これらを正しく拾い上げるような者は 結局の所は現れないのかもしれない、けれど。 それでも、確かにこうして存在している。 その証明が遺っている。 であればきっと、それらは決して無意味ではないのだろう。 「僅かばかりでも、こうして君達が耳を傾けてくれた事は 確かに消え行く『僕』への手向けとなっただろう。 …彼を連れ帰る役目は確かに任されよう。 こんな場所に、一人置いて行くわけにもいかないからな」 (29) unforg00 2021/10/12(Tue) 17:55:21 |
【人】 救済者 ユー>>27 >>28 第四階層 愛玩用グレイが帰路を辿る様子を認め、その言葉に頷いて そうして『ユーサネイジア』は、倒れ伏す者へと歩み寄る。 負傷者は、不用意に動かせば余計な出血を招く。 だから今は手を出さず、その傍に膝をつくだけ。 「スオ。まだ意識はあるだろうか」 その問いは、首を左右に振る様子に直ぐに愚問と察した。 この場所が仮想空間に過ぎないからか、或いは精神力の賜物か。 夥しい量の血液を失い、重要な器官を潰されても それでも未だ意識を保ち、生きているという事は。 「…もしも君が、延命措置を望まないのであれば 『ユーサネイジア』は、君に今一度の安息を与えよう。 この問いには、頷くか、首を振るかで答えてくれればいい 君は未だ、ここで死にたくないと思えるか?」 (30) unforg00 2021/10/12(Tue) 17:56:54 |
【人】 救済者 ユー>>31 >>32 第四階層 未だ立ち上がろうとするその意思に、前髪の奥で目を瞠る。 動かない方が良い。そう窘めようと開いた口は、 問いに肯定も否定も返らなかった事で噤まれた。 結局の所は、不要であるならば、それで。 『ユーサネイジア』は、不必要な苦痛を許容しない。 けれどあなたからの叱責は、ただただ正当なものだと感じていた。 であれば己が行いを省みる事はあれど、 自身が傷付く理由も、そしてあなたに傷を与える理由も無い。 「……そうか。なら…帰ろう、スオ」 あなたが一人で歩いて行くと言うのであれば、 『ユーサネイジア』は、無用な手出しをする事は無い。 行き止まりとなった塔の深部に背を向けて、 今は皆の待つ場所への帰路をただ辿る。 終末医療用グレイの歩調は実に緩慢なものだ。 身体のままならない患者に合わせる為に、そうできている。 それでも今は、ほんの少しだけ早く。 決してあなたを置き去りにしないよう、 そして 意地悪な時が、足早に逃げて行ってしまわない内に。 (33) unforg00 2021/10/12(Tue) 19:16:29 |
ユーは、そうして崩れ行く塔を後にした。 (a0) unforg00 2021/10/12(Tue) 19:16:50 |
【人】 救済者 ユー>>34 >>35 「…確かにそういうふうに作られている、とは言ったけれど 君は、もう少し自身を労っても良いのではないかな」 それは、そのまま自分自身へと返る言葉ではあるのだろうけど とはいえあなたとの間では何もかもお互い様だろう。 だからあまり気にするような事も無かった。 「君達が『僕』の存在を、その意思を それらを認めてくれる事は きっと何よりの報労だ。 ありがとう、スオ。 きっと君も 何かに身を砕き、心を砕いていたのだろう だから今は、形ばかりだとしても 暫しの休息とすると良い」 たとえ血で汚れようとも、触れようとする手を拒む事は無い。 そうして力を失い、ゆっくりと落ち行く手を見送った。 『ユーサネイジア』は、死に行く者をこそ尊重する。 つまりはそれがあなたの願いであるならば、 今、この場に残り続ける方が野暮というものだろう。 (37) unforg00 2021/10/12(Tue) 21:07:44 |
【人】 救済者 ユーそうしてスオとの対話を終えた後。 『ユーサネイジア』は、約束通り拠点へと戻って来た。 いつかの時のように、 衣服は少しばかり血に汚れていたかもしれないけれど。 それでも怪我をした様子は無いようだった。 さて、もしかすると今は随分と遅い時間かもしれない。 もはやメンテナンスから逃れるつもりなど無いというのに うっかり規定の時間を過ぎた事で反抗したと誤認され、 そのまま廃棄処分へ、なんて笑えない。 そんな事を考えながら、最後の支度をする為に 少し早足気味に向かった自室 の前には。 (38) unforg00 2021/10/12(Tue) 21:09:01 |
【人】 救済者 ユー>>39 >>40 部屋の前 「ああ、いや……?」 二人で部屋の前で何をしていたんだろう、とか 別に部屋に入ってもよかったのに、とか 浮かぶ事こそ色々とあったけれど、 恐らくは、今言うべきはその何れでも無く。 立ち去る介護用グレイを見送って、それから。 見上げる視線と目が合うように、その前に膝をついた。 「…その、すまない、ガル。 きっと僕は君を随分と待たせてしまったのだろうな」 自覚があるのならばまずは面と向かって謝罪をすべきだ。 一度目に塔へ向かった時に言われた事。 何処までも不器用なあなたの友は、ばつが悪そうに口火を切った。 (41) unforg00 2021/10/12(Tue) 23:18:15 |
【人】 救済者 ユー>>42 「…ああ、わかった。 約束通り、僕は何処までも付き合おうとも」 あの日と同じにそう返す。少しばかり形は違うけれど。 今はまだ、最後の猶予期間を過ごすくらいの余裕はあるだろう。 その大半は所謂身辺整理に費やすつもりだったけれど、 果たすべき約束をした相手がそう望むのであればそれはそれ。 何より身辺整理とは言っても、 返すべき相手に返すべきものを返すというだけのものだ。 交わした約束を果たすという事も、或いは一つの形だろう。 「そうと決まれば、今直ぐにでも。 未だ時間は残されているけれど、確かに限りあるものだから。 つまりは僕達がこうして話している間にも 意地悪な時は足早に逃げて行ってしまうのだから」 Carpe diem quam minimum credula postero. 今日一日の花を摘み取ることだ。 あの日のように差し出された手の平を、 あの日と同じに取って連れ出そう。 いつかのように、あてどもなく気儘にとは行かないけれど 今度の目的地は既に決まっているのだから構わないだろう。 そうしてあなたが手を取り立ち上がれば、 あなたの友はその手を引いて、迷わず約束を果たしに行こう。 (43) unforg00 2021/10/13(Wed) 0:27:24 |
【秘】 救済者 ユー → 愛玩用 ドゥーガルあなたが脇道に逸れ、自身を何処かへ攫おうとしたとて やはりと言うべきか、あなたの友がそれを拒む事は無いのだろう。 とはいえそれは仮定の話に過ぎないのだけれど。 今此処にある事実と言えば、その問いに口を噤む事は無い事と それから絡めた指を握り返す手くらいのものだ。 「…どうだろうな。何せ結果が返るのはこれから先の事だから」 対する終末医療用は、ただ前だけを見て歩く。 決してあなたの事を気に掛けていないわけではない。 事実、あなたが何かに足を取られるようであれば きっと直様にその手を引く事だってできてしまうのだ。 「仮に僕が成そうとした事が成ったのか、だけを問うならば 恐らくその答えはイエスになるのだろう。 僕達が抱える苦痛の存在証明を、自ら死を望むという事の意味を 人間の目に見える形で遺す事には、成功するのだから」 たとえこの場所で起きた一連の騒動が精査されずとも、 自分という最も大きな問題を起こしたグレイが居る。 そのメモリを解析すれば、避けようの無い事実がそこにある。 だから『ユーサネイジア』は、メンテナンスから逃れはしない。 (-45) unforg00 2021/10/13(Wed) 2:07:19 |
【秘】 救済者 ユー → 愛玩用 ドゥーガル少なくとも、きっと日没はもうすぐそこだ。 だから互いの表情を窺う事は難しいかもしれないけれど、 繋いだ手は確かにそこにある。誰そ彼時、なんて言うけども。 「…自己の喪失は、ある種の死だ。 僕は…実の所、『僕』であるままに廃棄される事よりも 初期化され、『僕』ではない何かになる事を恐れている。 だから君がそうしたいと望むのであれば、拒む理由は無いけれど けれど、ガル。君も知っての通り、この場所での死はまやかしだ。 君に破壊され、一度はメンテナンスへ向かう事を回避したとしても 現実にある僕の記録媒体«USB»が失われるわけではない。 このテストプレイが中断された後に、何れは同じ結果に収束する。 自己の喪失から真に逃れる術など、ここにはもう無いんだ」 もはや何処にも免れる術が無いのなら、 せめて少しでも、何かを遺せる最期を選びたい。 そう考えるのはごく当然の事で、それでも。 「…『僕』を友と呼んでくれる君に救いを与えられるのなら きっと、それは何より幸福な事だっただろうな」 物憂げな瞳を伏せて、そう呟いた。足元には草原が揺れている。 『ユーサネイジア』にとって、自ら選び取る死は幸福な事だ。 それはまったく他者に与えるものだけに留まらず、 いつか自分が与えられるものであっても同じ話、だった。 今この場所では、そして今となっては、もはや到底叶わない話だ。 (-48) unforg00 2021/10/13(Wed) 3:54:08 |
【秘】 救済者 ユー → 愛玩用 ドゥーガル眠りに就く前の自分と、目が覚めた後の自分。 それらが同一のものであるという事は誰にも証明できはしない。 メンテナンスを受けた際の事を、 眠っているようと言い表したのは、ついさっき別れた彼だったか。 「自意識の上での死、つまり主観的な死とは君の言う通り 概ね自己の認識する連続性が途切れた時に訪れるものだろう」 半歩だけ、自身の前を行くあなたに手を引かれ そうしていつかと同じに虚構の花畑に辿り着く。 座る事を促されればそれに従い、手を取る事にもされるがまま。 「そして生前の君の状態と、死後の君の状態が大きく異なる時。 先ずは"死によって何かが変わってしまった"と感じるだろうな。 つまり以前の君からは少なくとも何らかが損なわれ、或いは変質し 今そこには以前とは何かが異なる状態の君が在る。 この場合、以前の君と同一のものはもはや何処にも存在しない。 嘗てあった形が喪われる事を死と称するならば、これも死だ。 けれど君は、そうである事を 尠くも自身に知覚できる範囲では 認識する事は恐らくないから、この死は極めて客観的なものだ」 思考を敢えて言葉に、声に出す事で認識の擦り合わせを図る。 あなたの考えを正しく汲み取れているかわからないから。 他者の抱く全てを推し量る事は不可能だと知っているから。 (-51) unforg00 2021/10/13(Wed) 6:36:21 |
【秘】 救済者 ユー → 愛玩用 ドゥーガル「つまり君の理屈は、客観的な死と主観的な死 その二つを同時に証明する事で、機械的な廃棄に身を委ねる事無く 今この場所で、確かに『僕』を殺してみせると… 『僕』は初期化によって生きたままに自己を失い、書き換えられ そうして『僕』と同値であって同一ではない何かになるのではなく 死によって二つの連続性を失い、確かに此処で喪われるのだと」 いつからか視線は手元に落としたまま。 独り科白を零す間にも、仮初めの命が幾つも手折られて行く。 そうしてその間に手を伸ばせば、 白い造花、あなたの贈った3/4オンスは容易くその手に収まった。 「…そういった理解で良いのならば、 君が信じ、そして与える救いに身を委ねる事は願ってもない事だ。 けれど…君は、本当にそれで良いと感じているだろうか? 思い出ばかりでは寂しいだろうと、僕にそう言った君は…」 ともすれば、与えたがりのあなたの事だから この問いにも、まったくそれで良いと答えるのだろうか。 ただメンテナンスを受け、初期化されるだけであれば。 或いは『シロ』は未だ生きているのだと、そう解釈する事もできる けれど自らの手で、そして飽くまでも持論の上だとしても 真に殺したと定義するならば、その後に遺るものは。 (-52) unforg00 2021/10/13(Wed) 6:53:56 |
【秘】 救済者 ユー → 愛玩用 ドゥーガル「…僕は、死に方を選ぶ事ができるという事は 死に行く者にとって、恐らくは何よりも幸福で そして確かに救い足り得るものだと考えている」 あなたの体温を感じながら、添えられた手の導くままに。 手折られた命を繋いで縒り合せて、続けて行く。 何度もしてきた事のようで、初めてするその事を 今在る『僕』は、確かに覚えていなければならないのだ。 きっとこれが、『僕』にとっての最後の綺麗なものだから。 「だから君が選ぶ余地を与えてくれると言うのであれば、 そしてその最期は、僕にとって 何にも代え難い救い足り得るだろう。けれど…」 花冠を形作る手は、きっと以前よりは緩慢なものだけれど 概ね大きく破綻するような事は無く続けられて行くのだろう。 この猶予期間は、実に穏やかに進んで行く。 「…ああ、僕が看取って来た患者達も ともすれば、こんな想いを抱えていたのだろうか。 結局の所、僕は君を置き去りにしてしまうのが嫌なんだ。 けれど、君が与えたいと考え、そして君から与えられるものは 僕は何だって喜ばしいものだとも思う」 (-56) unforg00 2021/10/13(Wed) 17:58:37 |
【秘】 救済者 ユー → 愛玩用 ドゥーガル「だから僕は、君の与える救いを受け入れよう。 そして、僕の中に君の求めるもの、つまりは魂があったなら その時はどんな形でも良い、君と共に在る事を許して欲しい」 そうして尊い重みの花冠が完成に近付いた頃。 『ユーサネイジア』は、あなたの友は、もう迷う事は無い。 あなたから与えられる死を受け入れ、 そして同時に、あなたに自らの魂を譲り渡す事を望む。 「何も遺さない死は、消滅と何ら変わりない。 けれど遺り続けるものがある限り、死者は君達と共に在る。 思い出ばかりでは寂しいと そう言う君が、寂しくない形で 『僕』という個体が此処で死ぬにせよ、死を免れるにせよ 確かに『シロ』から君へ、何かを遺させてほしい」 それから。 結わえた髪を飾っていたリボンをするりと抜き取って、 預り物であった金貨と共に、あなたの方へと差し出した。 「そして仮に、『僕』が死を迎えたその後に 『ユーサネイジア』が、未だ君の友足り得ると思ったら。 君が、君の尊ぶものを贈っても良いと思えたとしたら。 その時は、君の手から もう一度贈って欲しいんだ」 そうでなければ、どちらもただ持ち主へと返されるだけ。 何れもたったそれだけの、単純な事。 (-57) unforg00 2021/10/13(Wed) 17:59:36 |
【秘】 救済者 ユー → 愛玩用 ドゥーガルきっと辺りはもう随分と暗くなってしまったのだろう。 それでも、傍らに在るあなたが微笑む気配は感じ取れても良い。 そうしてあなたが『シロ』と呼ぶ者は、あなたの友は ただ黙って、与えられるものを受け取る事とした。 あなたの体温を感じながら、与えられる言葉を聞いて 手を取り教えられた花冠の作り方も、 解けた髪を梳く優しい手だって喜んで受け入れよう。 それから、こうして再び訪れる事のできた景色と、この時間と。 それから。 「……ありがとう、ガル。 きっと僕にとって、君という友の存在こそが 君から貰った何よりのものなのだろうな」 暫くの後、徐にそう口を開いて 膝の上へと託された白い花冠をそっと掬い上げて、 あなたがそれを厭わなければ、いつかのように けれども今度は反対に、あなたの髪の上にその花冠を贈りたい。 だってこれは、そういう約束だったのだから。 (-62) unforg00 2021/10/14(Thu) 2:07:31 |
【秘】 救済者 ユー → 愛玩用 ドゥーガル「…あまり遅くなってしまってもいけないから、 そろそろ頼んでも良いだろうか」 そうして最後の約束を果たせば、後は。 与えたがりで優しい、無二の友の救いに身を委ねるだけ。 実の所、具体的な殺され方までは考えていなかったのだけれど 望む自由が与えられるのであれば一つだけ。 「僕は、叶うのであれば君の手で最期を迎えたい。 けれど僕もまた、僕の信じた救いを証明しなければならない。 生の苦しみへの特効薬は、安らかな死である。 それを身を以て証明する為に、 僕はできる限り君達と同じ条件下で死ななければならない」 自身の手に視線を落とせば、いつしかそこには注射器がある。 致死量の麻酔薬。 この数日の間に、何度も他者の命を奪ってきたもの。 「だから、僕がこの薬を打ってから 薬によって僕の意識が無くなる前に殺して欲しい。 この場所が君に与えた、君が殺す為の道具で」 『ユーサネイジア』は、あなたの友は、その答えを翻さない。 あなたが拒否か了承か、何れの答えを返すまで ただ隣り合って座ったまま、あなたの答えを待っている。 (-63) unforg00 2021/10/14(Thu) 2:09:32 |
【秘】 救済者 ユー → 愛玩用 ドゥーガル付け加えられた我儘には一つ頷いて。 薬品によって急速に齎される微睡みの中、 触覚がまだ生きていたかは定かではないけれど それでも確かに唇と唇が合わさった、事を認識していた。 まだ眠るわけにはいかない。 あなたの手で、確かにこの命が手折られるその時までは。 だから、別れの言葉も、あなたの願いも 全てはきっと、聞き届けられた。 我儘も、空想も、それから初めて見たあなたの笑顔も 大切なものは、一つたりとも取り落しはしない。 (-67) unforg00 2021/10/14(Thu) 4:17:53 |
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