74 五月うさぎのカーテンコール
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[長い髪を洗うのは慣れた。
ざあざあとシャワーの湯が、肌を、髪を、撫でていく。
少し熱い温度が、目覚めをどんどん促して、身体を切り替える。
時間にして15分ほど。
長くはないが、洗い物とコーヒーの準備にはきっと足りる。]
[髪はタオルドライして、あとはタオルを肩にかけるだけ。
下着をつけて、ゆるいシャツを着て、リビングに戻る。]
あー、ほんとにやってくれてる。
めっちゃ助かる。
[信じてなかったわけではないが、実際片付けが済んでいると嬉しいものだ。
濃いコーヒーを牛乳で割る。]
麦はどうする?
一旦家、帰るか?
[これを飲んだら着替えて出勤はするが、開店まではまだ間がある。
業者が運んできてくれる食材の受け取りなり整頓なりの、俺の仕事しかない時間がやってくるだけ。
それが終われば、ランチシフトのスタッフの出勤を待つ流れ*]
[紫亜を好きになって、知らない自分を幾つも見つけた。
限界を迎えた時に言葉にしてほしいとねだったのは何度目の性交の折か。
泣くほどの快感の渦の中にあって、それを実行してくれる彼女のいじらしさに胸がときめくと同時、どうしようもなく興奮して。
腕にぴりっとした痛みが走ったが、出所を確かめる余裕はなかった。
放った勢いで漏れた空気が二人の間で泡になって浮かんでくる。
ごぽぽ……と割れる音がそのまま彼女の中で自分が立てている音のように感じた。]
……っは、
大丈夫、か……?
[急激に遠ざかった場所からゆっくりゆっくり戻ってくる感覚がある。
いつの間にか閉じていた目を開いたら、くたりと倒れこむ彼女の頭が見えた。
そっと撫でて意識を確かめる。
浮き出て来た白が身体にまとわりつくのはいくら自分でも気持ちが悪いので、かけ流しに甘えて早く湯舟から出ようと思うけれど。
彼女が飛んでしまっているのなら、戻ってくるまで待とうと頭を撫で続けた。*]
[お湯が沸くまでに急いで着替え。
寝癖がついたままだった。キッチンの水で適当に手櫛。口を濯ぐ。
コーヒーを混ぜ溶かして、拭き上げた食器は片付けやすいように寄せておいて──
そんな一つ一つが胸に迫る。]
はい、濃いコーヒーです。
[マグを手渡しして、湯上がりのジンさんも綺麗ですねといつものをやって。]
帰ります。
今日は少し早めに行くと思い、マス。
あの、パジャマも朝ごはんも、ありがとうございました。
[ごめんなさいは、言っても躱されるだけだからありがとうを。]
……また、後で。*
[嵐は良く俺を睨む。
俺の事をいじわるだと言う。
ただ俺は。そう……]
可愛いなぁ。
[睨んで来る嵐の目元をそっと指の甲でなぞろう。
ただ俺は、そう思ってるだけなんだけれど。
受け入れてくれる事に甘えて、今も口付ける。]
[嵐の指が、自分の服を辿る。
服を脱がせてしまえば、身動ぎする嵐に。
足を、太腿を、指先で辿りながら、幾度も口付けを交わせば。
吐息の合間に、囁き声が聞こえてきて。
微笑んで、一度身体を離した。
一糸纏わぬ姿の嵐を見詰めながら、自分も服を脱ぐ。
脱いだ服をベッドの外に落として。
嵐の横に横たわった。]
……嵐。好きだよ。
[瞳を見詰めて、微笑んで。
恥ずかしいと言うなら、自分だって既に起立して痛い程だ。
そっと身体を抱き寄せて、肌を重ねる。
少し汗ばんだ肌が、しっとりと触れ合って。
口付けを交わしながら、指をそっと秘所に沿わせた。]
[潤んだ秘所を、そっとなぞって。指を埋める。
水音が恥ずかしいなら、キスの合間に愛を囁こう。]
好きだよ。嵐。愛してる。
[触れ合った俺の胸の。
鼓動が速い事も、伝わるだろうか?
彼女と触れ合う時、何時も溢れる気持ちは。
少しでも、伝わるだろうか。
指を増やして、中を解して行く合間に。
何度でも愛を囁いて、キスをしよう。*]
[肩口に身を預けて、乱れた呼吸を整える。
しばらくは打ち震える身体にぼうっとして動けなかった。
頭を撫ぜる手に気づいたら、こくりと頷いて。]
ぅん、……
へい、き……
[小さく身じろいでゆっくりと身体を起こしてへにゃりと笑う。
自身から彼を引き抜く際には、ふるりと瞼が震えてあえかな声が零れたけれど、そこは聞かなかったことにして欲しい。
身体を交えた名残が、泡と白濁となって湯船を汚した。]
[これ以上湯船に沈んでいたらのぼせてしまいそうだし、
早くお湯も流してしまわないといけない。
それでも、濡れた髪を撫ぜる手が優しいから。
片時も離れがたく思ってしまう。
喘ぎに渇いた唇が、口寂しさを思い出して。
身体を離す前に、もう一度と、キスをねだった。*]
そか。
んじゃ、また後でね。
…………あのさ。
[いつもの綺麗ですねを半分聞き流して、マグカップに牛乳。
ぬるいカフェオレは、湯上がりの身体に染み込んでいく。
帰ると聞いて、うなずいて。
たっぷり間をあけて、口を開く。]
失望したりしてなきゃ、気長に付き合って。
俺は最低でも君のことは嫌いじゃない。
し、スタッフたちはみんなみんなかわいいと思ってたけど、そうじゃない『好き』を聞いたら、君のことがもっといじらしくて気にかかってる。
単純だろ?
想像以上に流されやすくて軽い男じゃないかと思うよ。
けど、6年を、埋めたいなと思ったのは、ほんとだから。
[何をすれば埋まるのか、わからない。
こうしてプライベートな時間を明け渡すことくらいしか思いつかない。
ただ、そのために次を約束したのは間違いないから。
ここから先に進むのは、『次』のときの役目*]
[意識が確認できたので、彼女をそっと持ち上げて自身を抜く。
そんな声をして聞かなかったことができると思いますか?
名残惜しむように反応した自身が彼女の入り口をつんとつついてしまったのは不可抗力だ。
水中では水圧が邪魔をしてすべては排出されないだろうが、それでも湯に白の凝りが舞う。
それでももう少しだけ余韻に浸りたいと思っていた心を見透かされたのか、それとも彼女も同じ気持ちだったのか。
尖る唇にキスを。
もうグロスは跡形もない。]
ん……
すんげー気持ち悦かった、けど……
はぁ……ナカで出すの、癖になったらどうしよう……
[しみじみ言いながら、紫亜の下腹を撫でた。
そこにたっぷり注いだ白濁は、押すと少し零れてしまうだろうか。
掻き出すのは出てからの方が良いから、それ以上は悪戯をしなかった。]
……
失望できるトコ、ちょっとでもありました?
[長い沈黙。言葉。
真っ直ぐに、正直に返してくれる。
きっと重たすぎる思いなのに。
流されてくれる可能性があるなら、どこまでも押して押し倒したい。]
この6年よりも昨日、昨日よりも今日、もっと貴方が好きです。
だから時間が埋められなくても、
今の俺を受け入れてくれるだけで、嬉しいんです。
……ありがとうございます。
[謝罪は躱されてしまうから、ただ感謝だけ*]
[自分たちの動きで起きた波でそこらじゅうの石床がびしょ濡れだ。
これは抱き上げると滑りそうだと、先に自分が出て彼女に手を貸すことにした。
もう一度身体を洗ったら、選んで貰った浴衣を着よう。
腕は少し彼女の爪の後が残っているが、男湯で男に見られるのはむしろ勲章みたいなものなので見せつけたい。**]
食い気があるの、ありがたい。
余ってもいいようにいろいろ準備したけど、残んないほうが気持ちいいしさ。
[部屋に入れながら、必要なら冷蔵庫を開けよう。
ついでにハムとチーズを適当に取り出す。]
飲むの、何が好き?
ワインでも日本酒でも、ウイスキーもあるよ。
あと甘いものの用意はあんまり無いんで、ごめんね。
[フルーツくらいしかない。それもいくつかはマリネにしてしまった。]
ひぁ、……もう、だめっ……!
[隠し事は許されなかった。
情事の名残が尾を引いているから、そんなことをされてしまえばすぐにまた火が着いてしまう。
慌ててそれ以上悪戯されないように制したのは言うまでもない。
代わりにと落とされたキスを受けて、とろりと蕩けた眼が細くなる。]
……ン、
[ちゅ、と音を立てて、食んで、啄んで。味わうようにして。]
[幾度も戯れるようなキスをして。
彼の口から出た言葉
に、かあ……、と頬を染めたら俯いて、下腹を撫でる手に手を重ねる。
まだ胎内にある彼の名残を感じながら、ほつりと]
……私も、癖になりそう……
[瞳は伏したまま、そう呟いた。]
[湯船から上がる時には彼の手を取って、シャワーで身体を洗い流す。
中に残された彼の名残は、恥ずかしいから自分で処理したいと言ったら、またそこで彼と押し問答になっただろうか。
仕方なくこれ以上触れられたら、また身体が火照ってしまいそうだからと羞恥心を堪えて伝えたら、理解してもらえるだろうか。*]
その中なら、なんでも。
飲み会だと酎ハイとかハイボールばっかりだけど俺、もっと強めのをじっくり飲む方が好きかも。
あ、持ち寄りにってワイン持ってきたんです。赤と白。安いけど家飲みするならこれって、さやくんお勧め。
[2本で2000円しないワインボトルを置いて、それから色々少しずつ持ってきた食材達を冷蔵庫に宿借りさせてもらう。]
甘いもの。あっ、チョコ持ってきました。大丈夫。
えとですね、パイ生地だけ作ってきたんです。
それをこう、穴のとこにはめて、好きなもの中に入れて焼きます。パイパーティー。
[家庭用たこ焼き機のコードをコンセントに刺して。
シュウマイの皮くらいに成形したたくさんのパイ生地を保冷バッグの底から見せた。]
とりあえず…一つはハムチーズパイ?
あと、別のとこでプチトマト入れてみます。
焼けるまでに……乾杯させてくれるなら、別のものつまんで、デス?
[睨んでるのに、そんな嬉しそうな顔をしないでほしい。
いつだって、その言葉ひとつ。
触れる指先ひとつで、簡単に絆されてしまうんだから。]
…………ン、
[それをねだったのは私なのに。
離れてく唇と温もりに、名残惜しげな声がこぼれてしまう。
さっきまで触れられていた太腿が、そわそわして
落ち着かなさ気に視線を彷徨わせていれば。
同じように裸になった蓮司さんが戻ってきて。]
はい…… 私も、っ……
[抱き寄せられて重なる肌。
脚にあたった蓮司さんのものが硬くなってるのを知れば、
同じように期待してくれてるのが嬉しくて
目を細めながら口付けを受け入れ。]
………、っぁ
[脚の付け根をたどる指に、おずおずと脚を開いた。]
ぁ、……んんっ
[ほとんど抵抗なく指を受け入れ、
奥から溢れだしては指に絡む淫猥な水音に、頬が染まり。
はずみで、きゅうっと指を締めつけてしまう。
顔を見られるのが恥ずかしくて、首に腕を回し
重なる互いの胸の鼓動の速さに、少しだけ驚きながら
深くキスを交わす、その合間。]
あっ、ぁ……わたしも、すき……
れんじ、が……好き、だいすき。
[増えていく骨ばったやさしい指に
ゆっくり内側から撫でられるのが気持ちよくて。
繰り返されるキスと囁かれる声に頭がふわふわして
だんだんと水音が気にならなくなっていく。]
[指の動きは、ほぐすためなのはわかっているけれど。
次第に蜜を溢れさせるもっと深くまで誘うように、
腰が揺れてしまい。]
は、ぁ もっと……おく、 が……
[たりないです、と切なげに呟いた。*]
あー、炭酸。
用意しときゃよかったね。あんま考えてなかった。
じっくり飲むのが好きなら、僥倖。
[酒、水、氷。あとはアテ。それだけで充分な飲兵衛だ。
相手への配慮がすっかり欠けていた。]
あ、ほんと?
じゃあそれから開けよ。
有村の勧めなら外れないし。
[あれも若いが、知識が深い。
俺はあれくらいの歳の頃は酒なんてたいして差がわかってなかったのに
安ワインでもうまいものはうまい。それを知ってるのは強いなと思う。]
ハムチーズいーねぇ。
生ハムも入れる?
[火が通れば本当に普通のハムになるけど。]
乾杯しよしよ。
チーズに蜂蜜ならすぐ出せる。
[カマンベール、シュロプシャーブルー、クリーミーウォッシュ、パルミジャーノ。
並べるのは完全に個人の趣味で選ばれたチーズたち。
小皿にやや結晶化した、花の蜜。]
フィコ・デ・インディアっていって、サボテンの花の蜂蜜。
クセがなくってさっぱりした甘さだから、どのチーズにも合うよ。
アカシアとかの蜂蜜ってちょっと引っかかるみたいな甘さない?
これ、そういうのないから好き。
[あとはチェイサーを入れるのにカラフェとクリスタルグラスをふたつ。ワイングラスもふたつ。
せっかくのチーズだから赤を開けたいなと、いそいそと手を伸ばす*]
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