【人】 黒眼鏡>>98 ダニエラ 「言いましたとも。 男たるもの、口にした言葉をたがえることはないぞお」 今日の海風は静かで、するとすれば古びた空調の響きくらい。 それはやる気なく放られたゴムボールのように てんてんと軽く、気軽に弾む会話の音に遮られて、さほどの邪魔にもなりはしない。 サイフォンを片づけるかちゃりという音がときたま、 心地よい雑音として混じり込む。 「はははは。 上手になろうとここ10年、ずっと頑張っているからな!」 あまり実を結んではい無さそうな努力を埃ながら、 無精にしているわりにひげが生えた様子のない顎に指をあてた。 「いいや? かわいらしいお嬢さんにだけさ。 みんなじゃないとも」 …これはなんとも、信頼のおける言葉なことだ。 「あ。忘れてた。おしぼりドーゾ」 今更取り出したそれを、カウンターの上にとん、と置いた。 (100) gt 2023/09/09(Sat) 20:50:33 |