![人狼物語 三日月国](./img/mptitle_prov_v0.jpg)
45 【R18】雲を泳ぐラッコ
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
[リボンは別に、と通り過ぎたが、
彼女の入りたがった店にはじっと視線を向けた。
ピアノ。
彼女の得意なそれは、何度か耳にしている。
音楽がよくわからない己でも、
聴けば落ち着く曲もいくつかあっただろうか]
勿論。
一つと言わず、気が済む迄。
[言った後、
ピアノをまさか買う訳ではないかとちょっと過ったが、
彼女のお目当ては楽譜の様でほっとする。
興味が薄いものでも、
恋人と一緒なら楽しめるところもあるかもしれない、とか意見を述べるタイミングは逃して、荷物も大したものじゃないだろう、お願いっておおげさだなぁと笑った後、
二人きりになると、
彼女がどこか屋敷のシャーリエの顔で話し出した]
[それは例えば寝癖で一束だけ跳ねた髪を
見つかってしまったときや
声を上げて笑ってしまったときに
吐き出された溜め息とは
質が異なるものだ。
温かい吐息と彼の言葉が
開かれたワイシャツの間の肌を撫ぜ
熱を持つ二粒とその奥の心を震わせる。]
……、……
[脂汗を噴き出させる痛みは
相変わらずあった。
けれど、味わったことのない幸福感が
次から次に溢れてもいて
痛みによる辛さと綯い交ぜになる。]
[新しい自分に変わっていく。
けれど、不思議と怖くはない。
────かの男も、復活を遂げる前には
手足を貫かれて磔られ、痛みを伴ったものだ。
生まれて初めて吸った空気は彼の――、
在原治人の、匂いがした。]
[濡れる顔を包むように触れられれば
混ざり合ったそれらはいよいよ
結合してしまったのだろう
嬉しい、正の感情だけが残り
とろりと蕩けた瞳で
彼の左目、……右目、…また左、と見つめ
頬は血色を取り戻し淡く色づいていった。
同じ色の唇を、ゆっくりと動かす。]
……、……
[けれど、饒舌になった彼とは裏腹に
僕の口からは言葉が出てこない。
貴方のことをもっと知りたい。
僕のことを知って欲しい。
そんな欲が確かにあるのだけれど
音に換えることが出来ない。
頬に伝わる温もりに、声を奪われてしまって。]
[七週の間、
何度焦がれ、何度妬んだことだろうか。
あの標本を作り上げたこの掌に。]
(あったかい……)
[安くはない代償を払って
危険な海の外に出て
最期には泡になって消えてしまうだなんて
馬鹿のすることだと思っていたけれど
W声を犠牲にしてでも逢いに行きたいW
その気持ちが少しは理解出来た気がする。]
[言葉で教えて貰うのではなくて
この世界一の職人の掌を通じて
教えられたい。
贅沢にも、そう願ってしまう。]
……。
[唇を結び直せば、緩く弧を描かせて
ふ……、とただ微笑みを浮かべた。
貴方に仕上げられることを
望むだけの作品だ。**]
![](./img/saijisyou/06.png) | [うんと甘いコーヒーを片手に、本を取り出す。 便箋を開くのは、ミルクを注ぐのに似ている。 スマートフォンに見向きもしないで、マドラーを回す時間が好きだ。] (58) 2020/10/02(Fri) 6:32:58 |
![](./img/saijisyou/06b.png) | [本を返しに行かなくても返事が返ってくるのは、正直言って驚かない。 もちろん変だけど。 それよりも、端々から滲む、人と人との距離の近さ。 それは失われてしまった一年前の日常で。
── カラオケ行ったの? まあ、禁止まではされてないけど。 失恋を励ますにしては、勇気のある場所チョイスだね。
── おじいさんに、来いって言われる? 周りのお年寄りは、電車も怖がってたのに。
ユウ君との会話が、少しずつ、ずれていく。] (59) 2020/10/02(Fri) 6:34:29 |
![](./img/saijisyou/06b.png) | [明日の放課後、童話の書架の前で。 図書室に行って、またあの空間に行けるだろうか。] (60) 2020/10/02(Fri) 6:35:48 |
![](./img/saijisyou/06.png) |
──── あ、
[ぴ、と紙の隅が破けた。 何度もやりとりして、消しゴムをかけるうちに、少しずつ痛んだ紙は、とっても書きにくい。 ところどころ毛羽だった紙面をそっと撫でて、裏側からセロハンテープを貼る。 あとどれぐらい、ユウ君とこうやって話ができるんだろう。]
(61) 2020/10/02(Fri) 6:37:20 |
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